私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第8話

 船上試験1日目の夕方。

 羊グループにおける、その日最後の話し合いを終えたCクラスの生徒3人は、龍園翔の元を訪れていた。

 嬉野ひまりの働きかけによって龍園の態度には徐々に変化が現れているとは言え、こうして直接相対するとなると、彼女たちは緊張を隠せない。

 

「それで? 嬉野の奴は何を言っていた?」

「は、はいっ。嬉野さんは―――」

 

 代表して1人の女子生徒が、先ほどの話し合いで嬉野から説明を受けたことをそのまま龍園翔に伝える。

 今後より厳しい試験が想定されること。

 そのために結果1を狙うべきだということ。

 それを聞く龍園は薄ら笑いを彼女に向ける。

 

「それだけか?」

「……そ、それ以外は……特には……」

「ハッ、そうかよ。明日の朝の話し合いで嬉野には前向きに検討すると伝えておけ。分かったならもう行け」

「わ、分かりました! 失礼します……!」

 

 逃げるように去っていくクラスメイト。

 その背中を龍園は追わない。

 彼の注意はすでに嬉野ひまりに注がれていた。

 

「あれで良かったのですか? 龍園氏」

「ああ? 検討すると言うだけならタダだからな。これであいつが油断でもしてくれりゃ儲け物ってもンだ」

 

 だがその可能性はほとんどないだろう。

 それは龍園も承知の上。

 

(……あいつの目的はなんだ?)

 

 龍園は顎に手を添えながら思考に沈む。

 結果1を目指すと宣言することで彼自身や葛城の油断を誘っているのか。だが安いやり方だと龍園は思う。

 もしそうでないとすれば、まさか本気で、全グループ―――いや、もう残っているのは11グループだが、その全てを結果1に導けると考えているか。

 

 しかし明かすまでもなく、龍園翔が狙うは結果3の優待者当てのみ。またAクラスはもう後がない状況。

 龍園は自分ならどのように結果1を導くだろうか考え、それは不可能だという結論にすぐに至る。強いて言えばリーダーの弱みを握って脅すかだが、生憎と、龍園にはそのような弱点が無いのが現実だ。

 

(クク、この試験が発表された時はつまんねぇと思っていたが、なかなかどうして楽しませてくれる―――)

 

 嬉野と同グループに配属されなかった時点で、龍園はすでに、この試験への興味をほとんど失っていた。

 だがその心に今、再び火が灯り始める。

 そんな龍園の脳裏に昼過ぎの電話が微かによぎる。

 

 それが勝利への近道だと、彼の直感が吠えていた。

 

 

 

 

 

 

 船上試験1日目。その夜中。

 私―――堀北鈴音は、嬉野ひまりさんに連れられ、今回もBクラスと組むためにとある一室を訪れていた。

 

「こんばんは、嬉野さん。それに堀北さんも」

 

 声の主は一之瀬帆波さん。

 言わずと知れたBクラスのリーダーね。

 ここは彼女の部屋だけれど、同室の女子生徒が3人の他に、側には男子生徒の神崎くんも控えている。

 私が挨拶を返すと、にこやかに頷く一之瀬さん。

 

「今日は来てくれてありがとう。ただごめんね、網倉さんたちも今は一緒なんだけど良かったかな?」

「全然大丈夫だよ。Bクラスの人たちなら信頼できるし、私たちのためにわざわざ移動してもらうのも悪いしね。それに、複数人の移動は目立つから」

「そう言ってもらえると助かる。それで、早速で悪いが今日の用件について教えてもらってもいいか?」

 

 嬉野さんに話を促す神崎くん。

 私自身はBクラスとの交流を持っていないし、単刀直入に本題を切り出せるというのはありがたいわね。

 

「そのことだけれど、私からでもいいかしら?」

「堀北、だったか。もちろんそれでも構わない。すまないな、嬉野が話すものとばかり勘違いしていた」

「仕方ないわ。今まではそうだったもの」

 

 けれど今回からはそうはいかない。

 嬉野さんに期待されているのもあるけれど、何より私自身のために、今は場数を踏む必要に迫られている。

 

「それで―――用件だけれど、あなたたちBクラスと協力すれば、この試験を優位に運べると思っているの。ただその前に、今回の試験におけるBクラスのスタンスについて私に教えてもらえないかしら?」

「私たちはクラスとしてこの結果を目指す、みたいなことまではまだ考えてないよ。ただ私や神崎くんもそうだけど、結果1を目指す子が多い感じかな」

 

 それはグループ内の話し合いで得た情報通り。

 私は相槌をうちながら話を進める。

 

「私たちDクラスと同じ方針のようね」

「そうみたいだね。ちなみに堀北さんはどういう考えなのかな? 神崎くんから、嬉野さんは結果1を目指したいっていう話の共有を受けたんだよね」

「私は―――当然、結果3を目指すつもりよ」

 

 その宣言に、誰も驚きを見せない。

 一之瀬さんは真剣な表情のまま私に問いかける。

 

「それだと、申し訳ないんだけど協力は難しい部分があるんじゃないかな。お互い結果1を目指すならそのために協力できる部分はあると思うけど……」

「それについてだけれど、私はあなたたちも嬉野さんも、本気で結果1を目指しているように思えないの」

「どういうことだ?」

 

 私を見極めるように、目を細める神崎くん。

 私は大きく息を吸って緊張を紛らわす。

 

「簡単な話よ。クラスメイトを顧みない龍園くんが結果1を狙うとは思えないし、葛城くんにはもう後がないもの。いくら今後のためにcpとrpが必要だと言ったところで説得は難しいんじゃないかしら」

 

 目の前の3人にそれが分からないはずがない。

 

「その上で理想を追い求めたい気持ちがあるのかもしれないけれど、それでも転ばぬ先の杖は必要だと思うの」

「にゃはは、けっこうはっきり言われちゃったね」

「……気を悪くさせたなら謝るわ」

「いいや、その必要はない。実際、堀北の指摘通りだ。少なくとも俺や一之瀬は表向き結果1を目指しているが、それが理想論だとも重々承知している」

 

 その返答に、私はひとまずの安堵を得る。

 嬉野さんも即座に頷いた。

 

「私もおんなじ考えだよ。結果1で終わらせたい気持ちはあるけど、AクラスかCクラス、どっちか一方は必ず裏切ってくる。そんな展開は避けたいな」

「やっぱりそうよね。ここで最初の話に戻るけれど、ここからが本題よ。私は、DクラスとあなたたちBクラスとでクラス内の優待者を共有したいの」

「優待者の共有?」

「ええ、順を追って説明していくわ」

 

 学校側から送られてきたメール。

 優待者が無差別ではなく規則的に選ばれている可能性。

 ただしクラス毎に優待者の法則が違う可能性も捨てきれず、そのためにBクラスと協力したいという思惑。

 その全てを私は自分の言葉で説明していく。

 

「もしこれでBDクラスの法則が一致していれば、ACクラスの優待者にも自ずと辿り着けるわ」

「……なるほどね。法則があるかも、なんて全然思いつかなかったよ。言われたら確かにって思ったけど、初見でその違和感に気付くのは難しいな」

「ええ、思い込みの怖いところね」

 

 私も嬉野さんに指摘されるまで気付かなかった。

 大真面目にルールの通りに戦おうとしていた。

 無人島試験のからくりを嬉野さんから聞かされて、試験の抜け穴の存在は頭の片隅に残しておいたはずだけれど、ルールを疑うというのは難しいこと。

 

「調べてみる価値はありそうだな」

「それともし法則が見つかったら、確実に勝てるプランがあるわ。BクラスとDクラスで分担してAクラスとCクラスの優待者を当てるの。その上で、BクラスとDクラスでお互いの優待者を当て合うのよ」

 

 高円寺くんが当てた優待者の所属クラスはまだ分かっていないから、それは一旦、考えないものとする。

 その場合の最終結果は、私たちBDクラスがそれぞれ−30cpと150万pp、そして更に150万rp。一方でACクラスはそれぞれ-150cpとなる計算。

 

 嬉野さんが言っていたのはこういうことね。

 ACクラスの優待者が分からない段階なら、優待者を当て合うことでACクラスから優待者を当てられるリスクは回避できるけれど-90cpを負う。

 けれどACクラスの優待者が分かっているなら損失は-30cpに抑えられ、またリスクは同様に回避しながらACクラスとの距離を縮められる。

 

 無人島試験を経てAクラスは1074cp、Bクラスは869cp、Cクラス556cpに私たちDクラスは367cp。つまりBクラスはAクラスに、DクラスはCクラスに肉薄した状況まで持っていくことができる。

 恐らくそれと同様の結論に辿り着いた一之瀬さんと神崎くんは、驚き半分、感心した様子で何度も頷いた。

 

「気付いた者勝ちって感じだね」

「そうね。だからこそすぐに動く必要があるわ」

 

 龍園くんが同じ発想に至らないとも限らない。

 

「分かったよ。じゃあまずは優待者を共有し合おっか」

「ええ、話が早くて助かるわ」

 

 まずは私からDクラスの優待者を伝える。

 提案した側が先に自己開示をすることで真摯な気持ちを見せることが大切だと、これは嬉野さんの言葉。

 その効果があったのかどうかは分からないけれど一之瀬さんからもすかさずBクラスの優待者3名の名前が共有され、私たちは整理の段階に移る。

 

「これで何か分かりそうかな?」

「……そうね、ひとまず考える時間をちょうだい」

 

 私は用意してきた各グループの名簿をここで広げ、BDクラスの優待者の名前にマーカーで色をつける。

 分かっているのは6人だけ。

 法則に辿り着くことは容易ではなくて、私は一之瀬さんや神崎くんたちと協力しながら名簿と睨み合う。

 

「男女比は関係なさそうね」

「うん、それに干支……動物の漢字が名前の中に入ってるとか、そんな感じでもなさそうだよね……」

 

 次々と仮説を打ち立てては消していく。

 けれどいずれも決定打にはならない。

 そんな中、神崎くんがぽつりと呟きを漏らす。

 

「あまり難しく考えない方がいいかもしれないな。俺は最初、干支が何かの比喩なんじゃないかと思っていたが、普通に数字として見るのはどうだ?」

「なら出席番号順、とか? ……ううん、他クラスの出席番号までは私もちょっと把握してないなあ……」

 

 つまりもっと簡単なこと。

 誰でも一目で分かることは―――。

 

「……名前順、とかどうかしら?」

「いいアイデアだね。じゃあ数字を振ってみようか」

 

 私の思いつきに嬉野さんが微笑む。

 その手でBまたはDクラスの優待者がいるグループごとに、名前の上に割り振られる順番。私は干支の順番を頭の中で数え、ようやく答えに辿り着く。

 

「―――やっぱり、法則はあったようね」

「干支の順番……例えば牛だったら前から2番目だから、名前順で2番目の人が優待者になるんだ……!」

 

 途中から法則を見つけるのに混ざっていた網倉さんが、ついに見つけた法則を前にして歓声をあげた。

 

「これで証明はできたか」

「そうだね。ひとまずBクラスとDクラスの優待者の法則は共通してるみたい。たださっきは思い至ってなかったけど、ACクラスとBDクラスとじゃ法則が違う可能性がまだ残されているんじゃないかな」

「ええ。例えば、BDクラスは昇順でACクラスは降順―――そんな具合に分けられてる可能性は十分あるわ。リスクを取らない方向性でいくなら、葛城くんを協力関係に引き入れるのはどうかしら?」

 

 残念なことに、高円寺くんが所属する申グループの優待者はBクラスの生徒だった。法則性を確実なものにするためにはそうするしかないでしょうね。

 

「待ってね、ちょっと考えるから」

「ABDの3クラスで優待者を当て合う前提に立てば、ABDはそれぞれ−70cpとCクラスが-150cpだな」

「さっすが神崎くん! 計算が早いね」

「リスクを無くす分、当然、メリットは減っちゃうね。だけど堀北さんがさっき言った通り、龍園くんがこの法則に気付かないとも限らない。ここで私たちが避けるべきは、リスクをとりながらもACクラスが協力して私たちBDクラスに先んじる展開だよね」

 

 そうなれば今度は私たちBDクラスが−150cp。

 嬉野さんの的確な指摘に、私たちの意見は固まる。

 まずは葛城くんを説得に向かう必要がありそうね。

 

 

 

 

 

 

 

 




以外補足の計算過程です
本文で分かるように心がけたつもりですが、分かりにくい部分がございましたら是非ご指摘いただければと思います。
感想等も楽しみにお待ちしております。


【結果3】
優待者以外の者が試験終了の最終日を待たず答えを学校に告げ正解していた場合、正解者に25万ppが支給される。また同時に正解者に25万rpが支給され、正解者の所属クラスは20cpを得る。
優待者の所属クラスは50cpを失うことになる。

BDクラスでお互いの優待者を当て合った場合
Bクラス:20×3−50×3=−90cp
Dクラス:同上
ACクラス:BDクラスの優待者は当てられないが、勝ち目は十分ある

更にBDクラスでACクラスを分担して当てた場合
Bクラス:20×3+20×3−50×3=−30cp
Dクラス:同上
ACクラス:どちらも−50×3=−150cpで負けが確定する

ABDクラスで優待者を当て合い、Cを狙い撃ちした場合
Aクラス:20×3+20×1−50×3=−70cp
Bクラス:同上
Dクラス:同上
Cクラス:-50×3=-150cpで負けが確定する
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