私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第9話

 翌朝になっても、申グループを除く全11グループはそのまま試験が続行された。

 起きて早々、ベッドの上でメールを確認した私は、学校から新たなメールが届いてないことにほっとする。

 

「まずはひと安心って感じかな」

 

 無人島よりは狭い船内とは言え、龍園くんや葛城くんたちの動向を常に把握するのは不可能だ。

 ただでさえ木々や薮といった遮蔽物が存在せず、尾行するのは難しい。また密会を電話越しに行われてしまっては、事前に察知などできるはずもない。

 

 もっとも、通話で他クラスの生徒と交渉するというのは、それはそれで難しい。特に龍園くんは信用ならない相手。いくら焦っているとは言え、葛城くんは最低限、直接会うことを求めてくるだろう。

 だけどそんな葛城くんを龍園くんが説き伏せる可能性もゼロじゃない。だからそうならないよう祈っていたわけだけど、第一関門はクリアしたみたいだ。

 

 私はまだ眠っているここちゃんたちを起こさないようにこっそりベッドを降り、洗面所で顔を洗う。

 まだ船上試験自体は2日目だけど、今日が正念場になる。うまく事を運べている自信はありつつも、それでも拭えない緊張感に全身が包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 それからいつも通りの時間になり、朝の話し合いが始まる。私が所属する未グループはまず橋本くんと、それに続く形でCクラスの報告で始まった。

 

「ひまりにお願いされたことだが、葛城には伝えといたぜ。だがすぐには承諾できない話らしい」

「私たちも……、あの後すぐに龍園くんに連絡して、言いに行きました。一応前向きに検討するって言ってましたけど、本当かどうかは、すみません……」

「報告ありがとう。分かっていたことだけど、葛城くんも龍園くんもそう簡単に納得してくれはしないか」

「仕方のないことだ。だがここ、羊グループとしては結果1を目指す方向性で良かったかどうか、また改めて確認させてくれ。それが終わり次第、またカードゲームに興じるというのも良いと俺は考える」

 

 神崎くんの提案に、私や櫛田さんをはじめとして、戸塚くんを除く未グループの面々は賛同の声をあげる。

 だけどどのように確認するかが問題だ。

 当然、お互いの心のうちは分からない。表情で察せられるものはあるとは言え100%確実にとはいかない。

 

 その懸念を抱いているのは当然私だけじゃない。

 

「神崎には賛成だが、どうやって確認する?」

「単に手を挙げるだけじゃだめなのか?」

「服部くんのやり方はいちばん簡単だと思うけど、あんまり確認にはならないんじゃないかな。それにまだ迷ってる子を萎縮させちゃうかもしれない」

 

 確かに、話の流れ的には結界1を目指す生徒が多数だという認識はあるけれど、戸塚くんをはじめとしてそうじゃない子が数人はいてもおかしくない。

 そこを尊重するというのもまた大切なこと。

 だけどこれは一応、他クラスとの試験でもある。

 

「これがクラス内の話し合いだったら私も櫛田さんと同じで慎重に話を進めてたけど、試験でさ、私にはこういう意見がありますっていうのを言えないで、だけど慮って欲しいは通らないような気がするな」

「俺も嬉野の意見に同意だ。言葉を選ばずに言えば、主張の弱い生徒のことを気遣う必要はそうないだろ」

「可能なら気遣ってやりたいが、確かに限界はあるか。ならばまだ結果1以外を目指したい者がいれば、速やかにこの場で名乗り出て貰えるとありがたい」

 

 静まる室内。

 少しの間、お互いの顔色を伺う時間が続く。

 そんな中、鬼塚くんが恐る恐る手を挙げた。

 

「鬼塚は反対、ということか?」

「ぼ、僕は嬉野さんの意見に賛成だよ。ただ……」

 

 試験説明を受けた時とは打って変わって、ここには他クラス含めた13名が集っている。これまであまり発言してこなかった鬼塚くんは少し緊張した面持ちで、だけど何か覚悟した表情を戸塚くんに向けた。

 

「と、戸塚くんはどうなのかな? もうずっと喋ってないけど、最初はあんなに嬉野さんに反発してたよね」

「確かにそうだな。どうなんだ戸塚?」

 

 服部くんの追撃に、たじろぐ戸塚くん。

 だけどすぐにポーカーフェイスを取り繕い呟く。

 

「……別に、好きにしたらいいだろ」

「それは結果1を目指すということでいいのか?」

「それでいいと言ってるだろ」

「なら安心だね。これで私たち未グループは、全員、結果1を目指す方向性で考えが固まった。裏切りが決して起こらないように契約書でも作ろっか?」

 

 もし本当に結果1を目指すなら異論はないはず。

 だけど私の提案に、戸塚くんは焦りを浮かべる。

 

「あ、戸塚くんやっぱり嘘だったんだ」

「う、嘘じゃない! ただ……け、契約書ってなんだよ、そんなの学校側が許してくれると思うのか!」

「うーん? 契約書を作るのを咎めるルールはないよ。私自身、生徒会役員だから知ってるんだけど、過去に先生方や生徒会が間に入って契約を交わした事例もあるし。もちろんその過程で、例えば暴力とかで無理矢理って感じだったら、それはダメだけどね」

 

 だけどここにも監視カメラは設置されている。

 暴力を振るったわけじゃないのは明らかだし、ちゃんと反対意見がないか聞いたのは全員が証言できる。

 

「っ、そんなの、でたらめだろ……!」

「おいおい、そろそろいい加減にしてくれよ戸塚。お前のせいで俺たちまで風評被害を受けたくないからな」

 

 橋本くんがやれやれとため息を吐く。

 その仕草に神経を逆撫でされた戸塚くんは、橋本くんの襟元を掴みながら、唾混じりに必死に訴えかける。

 ここにはそれを止められる葛城くんはいない。

 

「な―――なんだよそれ。お前ら勝つ気あんのかよ?! 確かに葛城さんは結果3を目指すって強制はしてないけど、クラスメイトなら協力しろよ!」

「結果1で十分だと考えて欲しいね。冷静になって考えてみろよ。確かに俺たちAクラスは前回の試験で失態を犯したさ。だがそれでも、まだBクラス以下との差も大きいだろ。結果3を狙って失敗するぐらいなら、ポイント差を詰められずに済む結果1を狙うことだって十分にクラスに貢献していると思うぜ」

 

 橋本くんは薄ら笑いを浮かべながら捲し立てる。

 きっとこれは、その場しのぎの口八丁だ。

 彼は坂柳さん派の1人として葛城くんに貢献する気がない。だから結果3を狙う気がないだけ。仮に失敗のペナルティがなくてもそうだったはずだ。

 

 ただその場しのぎの口八丁と言えど、その中身は一理ある発言に、戸塚くんは反論の言葉を一時的に失う。

 結果1を目指して最も得するのはAクラスだからだ。

 負けない立ち回りさえしていればそのままAクラスで卒業できる。これが無人島試験のように全クラスのcpがプラスに転じるなら別だけど、今回のように外した際のリスクが高くcpがマイナスになるなら、そのリスクを取らないのだって一種の貢献と言える。

 

「……それでも結果3を目指したいなら、今ここで改めて宣言して欲しいな。その上でまた話し合おう? 戸塚くんにも引けない事情があるのは分かってるつもりだから、私はいくらでも付き合うつもり」

「っ、俺は……。俺、は―――」

 

 戸塚くんは自身の髪を手でぐしゃぐしゃにする。

 それだけ苦悩しているのだろう。自身が支持している葛城さんのために頑張りたい。だけどどうしたら結果3で終わらせることができるか分からない。

 その立場に同情しつつもグループのため、ポイントのため、話を前に進めようとした私を戸塚くんは遮る。

 

「―――俺は、結果1を狙うつもりはない。お前らが結果1を諦めない限り話し合いするつもりもないからな」

「……本当にそれでいいの?」

 

 私の確認に、戸塚くんは返事を返さない。

 そろそろ呆れた顔がグループの大半を占めていた。

 

 戸塚くんのとった選択は悪手だと私は思う。

 確かに、結果1には賛同しないし話し合いにも参加しないことで、結果1で終わらせたい私たちに嫌がらせすることはできている。だけど話し合いをしないということは、法則性にたどり着けない限り、彼自身が狙いたい結果3すらも導くことができない。

 

「まったく……、本末転倒とはこのことだな」

 

 全員が思ったことを、橋本くんが静かに代弁した。

 こうなった以上、私たちは結果1を導くのも苦労することになる。だけど私や神崎くんと同様に、橋本くんもまた焦らない。彼はこの話し合いが、もはや茶番でしかないことを知っている生徒の1人だった。

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