私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第11話

 他の生徒も話し合いに集まりつつある時間。

 辰グループに配属された私が集合場所へ向かうと、その場にはすでに葛城くんと龍園くんの姿があった。

 

 真面目な葛城くんは昨日も早くに来て瞑目している姿を見ていたけれど、龍園くんは、少なくとも昨日の2回は時間ギリギリまでこの場に現れなかった。

 

 ちらりと壁にかけられた時計を見遣る。

 集合時間まではまだ10分弱。

 彼にしては殊勝な態度に私は意外感を覚える。

 

 何か心変わりしたのか、あるいは今回の話し合いで仕掛けてくるか。今も油断しているつもりはないけれど、より一層、気を引き締める必要がありそうね。

 

 それからおよそ5分が経ち、やっとのことで平田くんが姿を見せて、私たち辰グループは一堂に会する。

 

「遅いわよ、平田くん」

「待たせてごめん。ちょっと用事があって……」

「クク、用事があったなら仕方ねぇな。どうせ直前まで軽井沢と仲良しこよししていたんだろうさ」

「軽井沢さん? どういうことかしら?」

 

 私の疑問を龍園くんは鼻で笑う。

 

「ハッ、見りゃ分かんだろ。クラスメイトのことも把握できてねぇんじゃお先真っ暗だぜ。なあ葛城」

「くだらん会話に付き合うつもりはない。そもそも世間話に花を咲かせるような間柄ではないだろう、俺たちは。集まったからには話し合いを始めよう」

「そう焦るなよ。残念だが所詮は数分、話し合いを伸ばしたところでてめぇの望む結果にはならねぇぜ」

「だが今回に限り新たな議題があるはずだろう。俺だけでなく貴様も、嬉野からの言伝を受けたはずだ」

 

 当然そのことの共有を嬉野さんから受けている私は、話を前に進めるべく葛城くんの主張を後押しする。

 

「私からもお願いするわ。今後を考えると、全グループが結果1で終わらせることには全クラスに利があると思うの。葛城くんなら理解してくれるはずよ」

「ちょ、ちょっと待って堀北さん。全グループが結果1で終わらせる? 僕は初耳だよそんな話は。少なくとも僕たちDクラスは、各グループの子に方針を委ねるという話で合意したんじゃなかったかい?」

「なに? 仲間と話の共有もしていなかったのか」

 

 ……完全に失念していたわね。

 だからといって何か不利になることはないし、どのみち葛城くんや龍園くんといった一部の生徒を除いては知らないはずの情報。私は予定通り、改めてその考えがどういうものか過半数の生徒に説明する。

 

「解説ご苦労なこった。だが堀北、嬉野は本当に結果1を目指してンのか? 俺からすりゃ結果1を目指すっつうのはあくまでポーズ。裏じゃAクラスとCクラスの寝首をかこうとしててもおかしくねぇ」

 

 ほとんど正解に近い推測を彼は口にする。

 けれど私は動揺することなく言葉を付け加えた。

 

「あなたたちの協力が得られるなら書面に残しても構わないわ。葛城くんはどう考えているかしら?」

「クラスメイトが退学することでcpへのペナルティがある場合もあると聞いている。龍園次第だが、結果1で終わらせられるなら悪い話ではないだろう」

「ハ、葛城も落ちぶれたもんだな。今回の試験でプラスの結果を残せなければてめぇは一貫の終わりだぜ?」

「必ずしもそうとは言えない。もし今後、実際に退学者が出ようとなった時、この判断は確実に活きてくる」

 

 葛城くんが龍園くんの挑発に乗る様子はない。

 さすがに冷静沈着ね。

 無人島試験では残念な結果になったけれど、改めてその内容を振り返ってみて、嬉野さんさえいなければAクラスは他クラスと大差で首位にいたはず。

 

 その牙城はそう簡単に崩せそうにない。

 けれど龍園くんもまた揺るがず薄笑いを浮かべる。

 

「Aクラスなら、てめぇお気に入りの戸塚は退学の筆頭だな。そんなにあいつが退学すんのが怖えか?」

「なに?」

「だが残念だな。てめぇが失脚すればクラスメイトの生殺与奪の権利は全て坂柳にある。もし仮に全グループ結果1で終わらせられたとしても、坂柳のことだ。戸塚ごときを救済する気は全くねぇだろうぜ」

「安い挑発だな。そこまでして何が望みだ?」

「クク、何も望んじゃいねぇよ。ただの暇つぶしだ」

 

 そう言うと、龍園くんはポケットから携帯を取り出し、私たちを気にかけずに我が物顔で寛ぎ始める。

 龍園くんの本心は未だ読めない。けれど少なくとも、この場でこれ以上議論する気はなさそうだった。

 

 腹の探り合いもしないならむしろ好都合。

 この話し合いは適当に消化しておけば十分ね。

 

 

 

 

 

 

 瞬く間に1時間は浪費され、話し合いは特に成果もなく終わった。龍園くんは一瞥もせずにこの場を去る。それに続く形でC、Aクラスの生徒が、それからBクラスの生徒も静かにこの部屋をあとにする。

 

「堀北さんと葛城くんは帰らないのかい?」

「もう少し話し合いをしたいのよ。葛城くんも同じ気持ちじゃないかしら?」

「そうだな。時間の延長を咎めるルールもない」

 

 平田くんは深刻な表情で首を縦に振る。

 ……このままだと、善意でここに残りそうね。

 けれど私にとって都合の良いことに、突如として、平田くんの携帯端末が通話の着信音を室内に響かせる。

 

「ごめん、軽井沢さんからみたいだ」

「行ってやるといい」

「良いのかい? 僕もできる限り案を出せればと思ったんだけれど……」

「気持ちは嬉しいけれど、その必要はないわ。むしろ他グループのケアに回ってもらえる? この辰グループを除けば全10グループ。それぞれの相談を嬉野さん1人に任せきりにするわけにはいかないもの」

 

 そう説得し、私は平田くんに退いてもらう。

 ここでの話を彼が触れ回ることはないと思うけれど、内密な話に関わる人物はできる限り少ない方がいい。

 

 やがて2人きりになった部屋に沈黙が降りる。

 私はひとつ深呼吸をして、静かに口を開いた。

 

「―――これで、ようやく本題に入れるわね」

「そのようだな。橋本から話は聞かせてもらった。堀北から俺に話したいことがあるということだったな」

「ええ、単刀直入に聞くわ。優待者を見つけるために私たちに協力する気はないかしら? あなたたちAクラスと協力してCクラスを追い詰めたいのよ」

 

 真意を見極めるように、葛城くんは目を細める。

 

「つまり結果1を目指す気はないと? 龍園の憶測は当たっていたということでいいのか?」

「ええ、遠からずね」

「……なるほど。どのように協力するかは横に置いておいて、お前たちBDクラスはACクラスが結託することを防ぎたい。そんな魂胆の誘いということか」

 

 寸分置かずに話の核心に迫る発言。私はその洞察にドキリとするけれど、平常心を保ちながら返答する。

 

「少し違うわね。今回の試験、勝つためには2クラスで協力するだけでは足りないのよ。それは仮にACクラスが協力しても同じこと。けれど3クラスで協力するなら確実に利益を得られる方法があるわ」

「勝てる方法、とは言わないのだな」

「協力する以上、ABDクラスは基本的に横並びになってしまうはずだもの。けれどそれを踏まえても、Aクラスに明確なメリットがある話だと約束するわ」

 

 自信を露わに言うと、葛城くんは聞く構えを見せる。

 最低限の興味は持ってもらえたようね。

 私はここからは出し惜しみすることなく、優待者の法則のことや協力方法まで具体的に説明する。それが全て終わった時、私は確かな手応えを感じていた。

 

「……なるほど。そういう作戦か」

 

 葛城くんは納得した表情で頷きを繰り返す。

 

「気に入ってもらえたかしら?」

「それなりにな。だが全てを明かして良かったのか? この話を持ち帰った俺が龍園と組んだらどうする」

「そうはならないわ。葛城くんがこの話を断れば、私たちBDクラスは容赦なくAクラスの優待者を当てにいくわよ。そのための保険ももう打ってあるもの」

 

 これはブラフだ。

 葛城くんが共闘を断って龍園くんと協力するなら、私たちBDクラスは、ACクラスとの法則が異なるリスクを承知で優待者当てをすぐ実行するしかない。

 だけどリスクがあるのは相手も同じこと。

 3クラスで協力することが双方にとっての最善。

 

 葛城くんは腕を組み、視線を落とした。

 数十秒。

 部屋には時計の秒針だけが響く。

 

「少し、考える時間が欲しいところだ」

「それは良いけれど決断はこの場で、よ。何か不審な素振りを見せたり部屋を出たりすれば拒絶と捉えるわ」

 

 目の届かない範囲で龍園くんと合流されたら敵わない。

 私の注意に頷き、考え込む様子を見せる葛城くん。

 これでもうほとんど勝負は決したと―――私はそう確信する。葛城くんがAクラスの優待者をこの場で開示して、私たちは優待者の法則が確かなものであると確認。あとは互いに優待者を当て合うだけ。

 

 このとき特段、私には慢心はなかった。

 

 けれど突如として、耳をつんざくような不吉な着信音がこの室内に響き渡る。私は驚きのあまり肩を跳ねさせ、反射的に手元の端末へと視線を落とした。

 

 ……違う。私のものじゃない。葛城くんも同じように携帯を取り出し、画面を一瞥して首を横に振る。

 

「俺でもない」

 

 なら、この音は―――。

 

 部屋を見回す。

 机の上には何もない。

 窓際にも、棚にも、人影はない。

 けれど着信音は止まらない。むしろ室内で反響して、部屋のどこから鳴っているのか分かりづらい。

 

(……下?)

 

 それでも息を殺し、私は音を頼りにゆっくり歩く。

 

 一歩。

 また一歩。

 

 近付くにつれ、電子音は確かに大きくなっていく。

 

 そして。

 無造作に置かれたままの椅子の前で、私は足を止めた。

 

「……まさか」

 

 嫌な予感が背筋を走る。

 私は躊躇なく床へ膝をつき、椅子の裏を覗き込んだ。

 そこには黒い粘着テープで、床板ではなく椅子の裏側へと固定された一台の携帯端末。

 

「―――っ!」

 

 私は即座にそれを剥がし取る。

 

 画面には着信画面が表示されたまま。

 その発信者の欄に浮かんでいた名前は―――。

 

       

         『龍園 翔』

 

 

 

 

 

 

 

 




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