私とホワイトルームを罰する方法   作:花音ゆず

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第12話

 龍園翔という名前の表示がされた携帯端末。

 椅子の座席裏から剥がしとったそれを私同様に覗き込んだ葛城くんは、険しい表情で小さく言葉を漏らす。

 

「まさか……」

「盗聴していた、なんて言わないわよね」

「……いや、残念ながらその可能性が高いだろう。だが焦る必要はない。仮に先ほどの話を盗聴していても、龍園に伝わったのは優待者に法則性がある点と俺たちが協力しようとしているという2点のみだ」

「実際にどんな法則があるか、までは伝えなかったのが幸いしたということね。それなら龍園くんに妨害される前に葛城くんの答えを聞かせてちょうだい」

 

 葛城くんは私に向き直り、口を開く。

 同時に龍園くんからの電話が切れた。

 

「そうだな、俺は―――」

 

 その矢先、ガチャリと捻られるドアノブ。

 私と葛城くんの視線は思わずそちらに吸い寄せられる。

 そして現れた生徒を見て、私は小さく唇を噛んだ。

 

「よぉ、随分とおもしれぇ話をしてたじゃねぇか」

「……龍園」

「クク、こんな子供騙しみてぇな手が簡単に通じるとはな。てめぇも堀北も警戒心が薄いんじゃねぇか?」

 

 龍園くんは私の手に握られた携帯を見遣る。

 私はそれで、完全に嵌められたことを悟った。

 

 到着時には既に仕掛けられていた携帯端末。

 それはつまり―――今日この場で私たちが大事な話し合いをすることを龍園くんは知っていたということ。

 

「……誰かがこの場で行われる話し合いをあなたにリークしたのね?」

「裏切り者ってのは厄介だよなぁ」

「…………橋本が貴様に情報を横流しにしたのか」

「さてな。正直に答えてやってもいいが―――それより葛城。てめぇは今回で本当に腑抜けちまったらしい」

 

 私から端末を奪い取り、龍園くんは嘲りを浮かべる。

 

「リスクを回避して安全に結果を出す。らしいっちゃらしいが、お前には後がねぇことは理解してるはずだぜ。そんな中途半端な結果ではこれまでてめぇをリーダーとして支持してきた奴らは納得しねぇ」

「……何が言いたい?」

「分かってんだろ。BDクラスに協力し安全に結果を出したつもりでいるか、それとも俺と協力し十分なリターンを得るか。これはそういう選択の話だぜ」

 

 強引な二択の提示に葛城くんは押し黙る。

 

「葛城くん、外した際のペナルティはかなり大きいわ。もし法則性が外れていれば、ドミノ倒しのようにクラスポイントを失う可能性だってあるのよ?」

「その通りだ。だからこそてめぇが堀北の提案を断れば、こいつらもそう簡単に優待者当てに踏み切ることはできねぇ。その間に優待者の法則に辿り着いてやれば坂柳の奴も黙らざるを得ないだろうぜ」

「その選択をするのは葛城くんらしくないと思うわ。リーダーとしての立場がそんなに大切なのかしら? そのためにリスクを負うなんてナンセンスよ」

 

 ここで葛城くんを逃すわけにはいかない。

 龍園くんに呼応するように私も早口で捲し立てるも、龍園くんもまた、間を置かずに葛城くんをいざなう。

 

「リーダーには影響力がある。それがなきゃクラスメイトを守ることなんざ到底できねぇだろうが。てめぇが坂柳と対立している理由をよく思い出せよ」

 

 ギリと、奥歯を噛み締める葛城くん。

 徐々に彼の気持ちが傾き始めている―――そんな、不吉な感覚に、私の心には徐々に焦りが蓄積していく。

 

 けれど今にも、答えが出ようとしたその瞬間。

 ガチャリ。

 今日だけで何度目になるのか分からないドアノブの開閉音が、この張り詰めた空気を確かに切り裂いた。

 

「クク、ようやくお出ましか」

 

 龍園くんはニヤリと笑い、視線を飛ばす。

 その先に現れたのは嬉野ひまりさん―――だけじゃない。彼女の背後にはBクラスの一之瀬さんと神崎くん、更にAクラスの橋本くんの姿も見える。

 

(彼女たちと合流するのは葛城くんが協力を承諾した後、私が嬉野さんに連絡してからの予定のはず……)

 

 疑問を感じた私に構わず、嬉野さんは朗らかに笑う。

 

「こんにちは、龍園くん。無人島試験以来だね。ここで会えるなんて嬉しいよ」

「俺がこの場にいることに驚いた様子がねぇな。どこまでが嬉野、てめぇの台本通りの出来事なんだ?」

「あはは、どうだと思う?」

 

 お互いが笑いながら向き合う嬉野さんと龍園くん。

 私は状況が飲み込めず、口を挟むことができない。

 そんな私を他所に一之瀬さんたちも龍園くんと挨拶を交わすと、嬉野さんはその横を通り、声をあげる機会を失っていた葛城くんに携帯端末を差し出す。

 

「葛城くんと話したいって人がいるんだけど」

「……誰だ?」

「秘密。自分で出て確かめてみて欲しいな」

 

 葛城くんは渋々受け取ると、画面を耳に押し当てる。

 みるみる内に険しくなっていく彼の表情。

 それを見た龍園くんは心底愉しそうに獰猛な笑みを浮かべながら、再度嬉野さんに向き直り、口を開く。

 

「ようやく合点がいったぜ。橋本が俺に告げ口したことも、俺がこの場に現れ、葛城が二者択一に悩むことも全ててめぇの手のひらの上ってわけだ」

「そうだね。正確には、私が橋本くんに告げ口させたんだけど。だからその後の展開が読みやすかったよ」

 

 その言葉が鼓膜を叩き、私は更に混乱する。

 

「ど、どういうこと? ……嬉野さん。私にも分かるように説明してもらえないかしら?」

「簡単な話だ。てめぇは踊らされたんだよ堀北」

「人聞き悪いこと言わないでよ龍園くん。でもごめんね、私は確かに堀北さんを騙した。それは事実かな」

「……情報を小出しにしないでもらえるかしら」

 

 一之瀬さんや神崎くんは困った様子もなく後ろから嬉野さんを見ているだけで、橋本くんは不敵な笑みを浮かべている。まるで私だけが状況を飲み込めていないかのようで、私の心には必然、苛立ちが募る。

 

「じゃあ順を追ってこれまでの出来事を振り返るけど、私や一之瀬さんたちは結果1を狙いたかった。でも全グループ結果1なんて無理があるよねっていう話の流れから、堀北さんには、葛城くんを今日この場で協力関係に持ち込むようにお願いしたんだよね」

「……ええ、そうよ。それのどこが嘘なの?」

「それはじきに分かるからそう焦らないで。話を戻すけど、結果的には堀北さんの交渉は成功しなかった。理由は橋本くんが龍園くんにリークしたせいで、龍園くんがこの場の話を盗聴したため。BDクラスとCクラスが結託したら困るんだから当然動くよね」

 

 そりゃそうだなと、龍園くんは相槌をうつ。

 

「そして後がない葛城くんにも迷いが生じる。情報を横流しにするように私が橋本くんにお願いすることで、ここまでが既定路線になる。そしてその上で、葛城くんには龍園くんと共闘する道が存在しない」

「ちょうど葛城の通話が終わったようだな」

 

 どういうこと?と私が聞き返す前に、神崎くんが会話に割り込む。見ると部屋の隅に移動して通話していた葛城くんが、諦めの表情で戻ってきていた。

 

「話し中すまん。最初に断っておくが龍園、……残念ながら貴様と協力することは俺にはできないらしい」

 

 開口一番に、葛城くんはそう口にする。

 嬉野さんの言った通りになって驚きを覚える私だけれど、龍園くんは意外感も無さそうに、ポケットに手を突っ込んで近くの椅子にどっしり腰掛ける。

 

「続けろよ嬉野」

「ありがとう。また話を戻すけど、葛城くんには龍園くんと協力することなんて端から不可能なんだよ。この裏事情を話すと長くなっちゃうからそれは後にして、結果として今、どういう状況か分かる?」

「……葛城くんは、私たちBDクラスと協力するしかないわよね。龍園くんはどうして余裕そうなのかしら?」

「単純な話だ。嬉野は結果3を狙うつもりなんて最初からねぇのさ。このシチュエーションはあくまで俺への脅し。結果1で終わらせることを約束しねぇなら3クラスで協力して俺を追い詰めるぜ、ってな」

 

 全貌を理解した葛城くんが感嘆の声を漏らす。

 一方で私は、その発想に二の句を継げなかった。

 

「……嬉野さんはいつからこの未来を思い描いてたの?」

 

 私が思ったことを一之瀬さんが代弁する。

 

「当然、最初からかな。私は全グループ結果1だって十分実現できるって思ってた。暴力とかは当然だめだけど、正当な範囲内で龍園くんを脅すことができたなら普通に可能だよねって考えだったんだよ」

「……そこから作戦を練った、ということか。堀北を利用して俺に協力を仰がせ、更に橋本を利用して龍園をこの場に誘き出した。これで結果1を狙うための役者は揃った―――。そういうことだな?」

「考えてみればそんな難しい話じゃないでしょ?」

 

 確かに……言われてみればそうだけれど。

 とは言えこれを試験開始直後に思い描き、実行に移すことができるか聞かれたら、私にはできそうにない。

 いっそ清々しいほどのその差を私は実感する。

 

「それじゃあ龍園くん、一応聞いておくんだけど、全グループ結果1を目指してくれるんだよね?」

「ハッ、タダでその話に乗るわけにはいかねぇな」

「……おいおい、正気かよ龍園。突っぱねたらCクラスだけ大敗することが分からないお前じゃないだろ」

「てめぇこそ節穴か? 橋本。確かに一見、俺は窮地に見えるかもしれねぇ。だが嬉野―――てめぇに全グループ結果1の夢を捨てることができんのか?」

 

 その指摘に初めて、嬉野さんの笑みに罅が入る。

 優位な立場にいるはずの彼女に綻びができる。

 

「クク、まあ俺も鬼じゃねえ。今回の試験でDクラスが得られる2000万ポイントを譲渡しろとまでは言うつもりねぇさ。いくらてめぇでも、その内容でクラスの奴らを説得すんのは無理だろうからな」

「……いいよ。何が望みか言ってみて」

「この試験で得られるDクラスのrpとCクラスのppの交換。この条件をてめぇが呑むなら全グループ結果1で終わらせてやる。難しい話じゃねぇだろ?」

 

 その言葉に嬉野さんが考え込む様子を見せるのは一瞬のこと。すぐに笑顔を取り戻し、彼女は快諾する。

 そのやり取りに私は口を挟めない。

 

「……分かった。簡単に納得してもらえる話じゃないけど、私が責任を持ってクラスのみんなを説得するよ。ただその上で結果1で終わらせるのに問題になるのは、すでに試験を終えた申グループの扱いだよね。今からこれについて話し合ってもいいかな」

「うん、私も賛成だよ。それも踏まえた上で最後に書面にまとめるっていう話の流れでいいんだよね?」

「俺もそれで構わない」

 

 一之瀬さんと葛城くんが同意し、4クラスのリーダー格が腰を据えて話し始める。彼女の予定通り、結果1で試験が終わるまで秒読みの段階に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これ以上難しいからくりは思いつきませんでした。。。
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