配信者が贈る青春のアーカイブ   作:配信者

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思いつきで書いてみました。
ちなみに1話目などと宣っておきながらまだ配信は出てきません(ネタバレ)


配信者と幼馴染

 

 

 

 

 

 ここは数千の数の学園が連なることで構成された超巨大学園都市【キヴォトス】。

 

 ここでは日夜問わず銃撃戦が起こることもしばしば、ちょっとした小競り合いでも戦車が持ち出されるなど、凶器の引き金が羽毛より軽いイカれた世界だ。

 

 さて、そんな治安が終わっている世界にて欠伸しながら窓から外を眺める黒髪黒眼の男児が1人。

 彼の名は夜月ヨル。ここ【キヴォトス】において“男”という特異性を持つこと以外、至って普通の男子学生である。

 

 ……いや、実はもうひとつ他では類を見ない特異性がある。それは───

 

 「相変わらずこの世界はイカれてるねぇ〜。()()()()とは大違いだ」

 

 ───彼は転生者であるということだ。

 

 彼は気付けばこの世界に赤ん坊として生まれ変わっており、今年で御歳17歳を迎える。

 最初の頃は以前と変わらぬ世界に安堵感を抱いていたが、それも束の間の安息であったことは語るまでもない。

 

 以前の世界ではそんな気軽に銃を人に向けない。

 以前の世界ではちょっとした小競り合いで大砲は使わないし、手榴弾を投げ込んだりしない。

 以前の世界では移動だけで戦車を使用しない。

 

 ……等々、まだまだ挙げればキリがないが、最初の頃は前世の記憶を持っているが故に苦しんだことも多々あったそうだ。

 しかし、10年以上その地に根ざせば自然と“慣れ”というものが発生してしまうのが人間という生き物である。彼も例に漏れず順応し、今や街のとある一画から立ち昇る煙と銃声音を聞いても苦笑いで流せる程に成長することが出来た。流石は順応の生物、可能性の獣である。

 

 そんな成長を喜べばいいのか嘆くべきなのか分からぬ心情を抱いている最中、教室の奥側の扉が横開きに開かれる。

 

 そこには麗しき少女が1人。

 残雪のような銀の長髪、アメジスト色の潤んだ瞳、しっかりとしたボディーラインのある身体つきとその美貌とも呼べる童顔は世の異性の視線を独り占めすること間違いなしだろう。

 

 彼女の名は生塩ノア。実は怒らせたら1番怖いランキングぶっちぎりトップの女傑である。

 

 さて、そんな少女がこの教室に入ってきた理由は、あそこで『大変やな〜』とのんびり呟く彼を迎えにきたからに他ならない。

 彼と彼女の関係性を言い表すならば……即ち幼馴染というやつだ。幼い頃からの知り合いであり、今もこうして関係性が続いている様子を鑑みるに、余程親しい間柄なのだろうと窺える。

 

 また、彼女はほんの少し息を荒げている。

 それもそうだろう。何故なら、今日は仕事がセミナーの職務が早めに終わることを見越して事前に彼と久方ぶりに一緒に帰る約束をし、かつ事務処理最速レコードを叩き出してなお駆け足でここにやって来たのだから。

 

 そして、この現状。彼は入ってきた彼女に目を配るどころか存在すら気づいていない。無論、釈然としない。するわけがない。

 故に彼女は心に潜む小悪魔に突き動かされながら、そっと彼の背後に立ち───

 

 

 「だ〜〜れだ♪」

 

 「ひゃわ!?」

 

 

 彼の視界を占めるのは真っ白で冷たい手のひら。それと同時に耳元に吹きかけるのは透き通った淡い声色。

 その声と微かに香る甘い匂いは、しかしてその少年にとってどれも馴染み深いものであった。

 

 「───ノア……いたなら声かけてくれよ。見て、君のせいで身体中に鳥肌が立ちまくって危うく鳥になりそうだったんだが?」

 「ふふっ、すみません。何やら熱心に見ていたものですから」

 

 まるで悪戯っ子のような笑みを浮かべる彼女に対して、彼は強く出れない。

 それは気付けなかった彼にも責はあると自認している故か。なるほど確かにその線もあるかもしれないが、実際のところ彼は幼馴染の笑顔に弱いだけのヘタレなだけである。

 

 「まったく、悪戯好きなのは昔からまったく変わらんね、君は」

 「あら、それはいつも可愛らしいリアクションをしてくれるヨルくんにも言えることでは?」

 「さてさてさて、ノアも来たことだし帰りますか」

 

 話をすげ替えるように立ち上がり、自然な動作で自身と()()()スクールバックを両肩にぶら下げ、彼女に対してそう告げる。

 ノアはそんな幼馴染の姿を見て苦笑いをした。

 

 「大丈夫ですよ、自分の荷物ぐらい自分で持てますから」

 「いいって。疲れてるんだろ?顔見りゃ分かる。せめて幼馴染を労わるぐらいさせてくれ」

 「……そうですか。ならお言葉に甘えておきましょうか♪いつもありがとうございます、ヨルくん」

 「ほいほいさー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……こうして一緒に帰るのも久しぶりですね」

 「いうて1週間ぶりとかじゃない?」

 「いいえ、正確には30日と1時間46分40秒以来です。ちゃんと覚えておいて下さい」

 「おーおー随分無茶を言いなさる」

 

 夕焼けが帰路を照らす中、影を並べて歩く2人。

 肩が触れるか触れないかの瀬戸際であるその距離感は外野から見ればカップルに見えるであろうが、彼らはそんな関係ではないことをここに明言しておこう。

 

 「そういえば、ヨルくんは配信者ノクスさんのことをご存知ですか?」

 

 ふと、突拍子もなくとある固有名詞を口にするノア。

 まるで不意打ちを喰らったかの如くピシリと固まった彼であったが、それも一瞬。

 

 彼はほんの少しの沈黙の後、頭のこめかみあたりに人差し指を当てながら濛々と話し出す。

 

 「もちろん。確かチャンネル登録者数が数百万人以上の、何処にでもいるような平凡で普通のロボット配信者だよな」

 「少なくとも数百万人以上の登録者数を獲得しているロボットさんが果たして平凡かつ普通であるのかという議論は置いておくとして……確かに、ヨルくんが一通り仰った通りですね」

 

 配信者・ノクス。

 数年前から活動を開始し、そのトークスキルやコメント、ゲーム実況、何故か高い撮れ高、また何処か人を惹きつけてやまない魅力を用いて瞬く間に若者を中心に人気を博し、現在最も破竹の勢いを持つ人気配信者となったロボットである。

 

 「それで、そのノクスがどうしたん?」

 「いえ、ただセミナーの役員の間で話題になっていたんです。この前の動画が面白かった、あの動画が良かった等々、聞いている限りでは至って普通の会話でした。まぁ、私はノクスさんだけでなく、あまりそういった動画等のコンテンツは見ないので会話には入れなかったわけですが……」

 「あらら」

 

 ヨルは動画見てるくらいなら本読んでそうだよな、なんて呑気に考えていれば、彼の脳内にふと疑問が湧いた。

 

 「ノアは見ないの?」

 「それはノクスさんの配信を、という意味でしょうか?」

 「そうそう!興味あるのかなって」

 

 まるで我が事のように目が輝かせながら話す幼馴染の提案に軽く相槌を打ちながら、その細い人差し指を顎に添えて考え込むポーズを取る。

 

 「……事務的な観点から見れば興味はあります───というよりも、知っておいて損はないという感じでしょうか。セミナーからも今度のミレニアムプライスにかの配信者を招待するのはどうかという声も多いですし、招待される可能性を見越して事前にリサーチをしておくのもありかもしれませんね。ただ、個人的な観点からですとあまり────」

 「ん?ちょっと待って、ミレニアムプライスに呼ばれんの?ノクスが?」

 

 横からクエスチョンマークを顔面に塗りたくったような表情で尋ねるヨル。

 そんな彼を不思議に思いながらも、何かしら気になることがあるのだろうと納得して話を進める。

 

 「そうですね……まだ仮の話ですが、近年の影響力の拡大を鑑みれば十分にあり得る話かと。かの配信者を介してのミレニアムの新技術のお披露目はこれ以上のない宣伝効果となるでしょうし。しかし、ヨルくんは何か思うところがあるんですか?」

 「……いや?ちょっと驚いただけで特にこれといったことは。うん、ほんとほんと」

 「────ふーん」

 

 ノアの目が怪しく光る。その瞬間、長年共にいることで身につけられた勘故か、それとも生物的本能か、脳内から危険信号を垂れ流されるかの如く悪寒がヨルを支配する。

 取り敢えず後退り───なんてものはさせてもらえず、手首をがっしり掴まれたヨルはほぼ首根っこを掴まれた子兎のようだ。

 

 「………ヨルくん、何か私に隠し事をしているんじゃないんですか?」

 「え?いやいやいや、そんなまさか。ねぇ?だってノアさんの前で隠し事をした暁にはどうなるかなんて()()()()()がいたく痛感しておりますとも、えぇ*1

 「…………そうですか。なら証拠を見せてもらいます」

 「しょ、証拠って───」

 

 ───ノアはヨルの胸に顔を埋める。

 

 胸の奥から聞こえるのは規則正しい心臓の音。しかし、少しずつ早まっていく鼓動を確かに感じ取り、再び悪戯っ子のような笑みを浮かべて彼を見上げた。

 

 「ふふっ、心臓の音が速くなっていますよ?何か疾しいことでも隠しているからではないんですか?」

 「お、横暴だッ!?こ、これはどう考えたって───」

 「どう考えたって……なんですか?言ってみてください」

 「ッ〜!?……〜ッ!!」

 

 思わず押し黙ったまま赤面を晒す彼を見て満足したのか、腰に巻いていた手をゆっくり離し一歩引き下がった。

 

 「ヨルくんの心音、確かに記憶しました。すごく素敵な音でしたよ♪」

 「もしや最大の敵は最高の幼馴染だったとかそんなオチ……?」

 「そんなことありませんよ。私はずっとあなたの味方です。これまでも、そしてこれからも、ずっとです」

 

 先程の小悪魔的な微笑とは違う、慈しみを持った笑みを向けられては、常時喧しい男でも流石に黙らざるを得ないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ここまでありがとうございました、ヨルくん」

 「どーもいたしまして。それよりあんま無茶すんなよ?心配するからさ」

 「……分かりました、無理せずに無茶しますね♪」

 「うん、話聞いてた?」

 

 各校には寮が設けられている。それはミレニアムとて例外ではない。学校が生徒のために運営する寮ということもあって、周辺のアパートに住むよりも安く、かつ学校からも距離が近い。そして、技術の最先端を征くミレニアムの寮ということもあり、他校と比べても暮らしやすさが段違いだ。

 故に数多くのミレニアム生徒は寮の利用を希望するが、彼は寮生ではない。というのも、彼が寮の利用を断ったからに他ならないからだ。

 それは前世の感覚から来る『普通に周囲が異性ばかりの寮に行けるわけないだろ』というチキンハートによるものか、はたまた()()()()()の理由からか……それは彼のみぞ知る話である。

 ただ確かなことは、彼は幼馴染の数時間にわたる正座+説教にも似た説得+陰のあるにっこりスマイルすらも乗り越えてアパートから通う権利を獲得しているという事実のみだ。

 

 「じゃあまた明日」

 「はい、また明日」

 

 互いに手を振りながらも少しずつ扉が閉まっていき、やがて扉が完全に閉め切って内側から鍵が掛かる音を聞き届けたヨルは足早にその場を去る。

 

 そして、現在借りているアパートの自室に入り素早く扉に鍵を掛け、足取り軽く作業室へ向かっていく。

 

 部屋の扉を開け放つと、そこには奇しくも幼馴染と似た構図である一面真っ白な部屋が広がっていた。

 とはいっても、これは何も彼が恬淡かつ無趣味というわけでなく、ただ単にその方が何かと都合がいいからに他ならない。実際、彼の寝室には多種多様なフィギュアやコレクションが置かれている。

 

 そんな味気ない部屋の中心にはデスクとパソコン、大量の液晶モニター───そして、鉄を帯びたスーツケースがひとつ。

 

 スーツケースに手を翳せば、まるで自意識を持つ生き物であるかのように彼の頭、胴体、腕、脚に纏わりつく。

 これは彼の親友かつ相棒に頼んで作ってもらった、謂わば自身の仮の姿。自身のフィールドに上がるための戦闘服である。

 

 「うし、今日もやるか!」

 

 端末の起動音。

 表示されるは加速する無数の文字の羅列。

 倍のように跳ね上がっていく視聴者数。

 そして───そのロボット姿。

 

 さぁ、ここまで来れば理解出来たのではなかろうか。

 彼の正体、そして───彼のもうひとつの姿を。

 

 

 

 「リスナーの皆さん、今日もやって参りました!!ノクスチャンネルの始まりだッ!!」

 

 

 

 彼の名は夜月ヨル───または、配信者・ノクス。

 表では普通の一般学生、裏ではロボット姿で声と姿を届けて見る人を笑顔にする配信者である。

 

 彼はただ、自分が楽しいことを思うがままにするだけ。

 前世から憧れだった配信を、今度は第2の人生で実現すべく、今日も彼は配信をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、何処か抜けて能天気な彼だからこそ気づかない。

 

 自身の言葉にどれほどの影響力があるのかも。

 

 自身の配信に救われた者たちが数多くいることも。

 

 自身の存在が多くの人々の希望となっていることも。

 

 故に彼の視聴者には重度のファンが各地域にいることも。

 

 ───そして、現在ある意味最も身柄を狙われている人物であるということも。

 

 

 

 

 

 これは配信(アーカイブ)を贈る()の物語。

 

 そして、そんな彼から青春(ブルーアーカイブ)を贈られた(少女)たちの物語である。

*1
早口

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