2話目20時、3話目21時
「──えっ」
ふと漏らした言葉は雑踏の中に溶けていった。
疎な人並みが通り過ぎるのは普通の、変哲もないアスファルトの道路の上だ。
それだけならごく普通の光景。だけど、ついさっきまで僕はコンビニに居た。しかも夜だったのに、周囲は瞬きの間に真昼間に変わっていた。
呆然とする僕を置いて、活気のある人混みは続いている。足音や多くの言葉が混ざり合って意味のない音として響いてくる。
慌てて耳を澄ませた僕の顔に目掛けて何かが飛んでくる。
「うっ! ぺっ、紙?」
顔から引き剥がした紙は新聞紙だった。
日付は1997年4月13日になっている。内容は──。
「は?」
目を擦って、もう一度見てみる。
一度周囲を見渡してから、自分の正気を確かめて、もう一度穴が空くほど文字を見つめる。
「天空闘技場で、カストロ選手が、ヒソカ選手に敗北……? のインタビュー記事……」
見覚えのある優男の写真は戦闘後に治療を施したであろう包帯で巻かれながらも、その顔立ちはくっきりと映ってる。
ヒソカに敗北しながらも、インタビューの内容はしっかりとしたもので、記者からの反応も好意的だった。
「──ここ、どこなの?」
恐れの滲んだその問いに答えるように、ふいに差した大きな影を見上げれば、そこには遥か天空にまで伸びているタワーがあった。
まっすぐに伸びる、天まで届きそうな大きな塔。
「……天空闘技場」
圧倒的なリアル感を持って聳える、天高い塔を見上げて、いま自分がどこにいるのか唖然と理解させられた。
そういえばと思い、もう一度新聞を眺める。無意識に読めていた文字は、ハンター文字だった。
写真のカストロ選手がにこやかに笑っている。
──もしかして、転移した?
「──いらっしゃいませ、リオ様ですね。チケットをお願いします。はい、確認できました。先程のファイトマネーです」
「ありがとうございますッ」
「いえいえ〜、この調子で頑張ってくださいね〜」
ニコニコと愛想よく笑ってくれる受付のお姉さんに、達成感の興奮も相まって何度も会釈を返して、少し離れたらさっそく封筒の中身を見てみる。
「ようやく5万円の壁を超えた……!!」
封筒の中身は6万ジェニー入っていた。
50階の勝利賞金の基本金5万ジェニー+掛け金のレートの1万ジェニーで、合計6万ジェニーだ。
「ここまで長かった……」
語るも涙、聞くも涙の苦労を経て、ようやくここまで来た。
なんと言っても、50階まで来るのに1ヶ月もの時間が掛かった。格闘技経験0の僕が、よくここまで登れたものだと思う。
しばらくはご飯と寝床の心配もしなくて済むと思うと、涙が出そうだった。
「っダメダメ。あくまで50階は通過点なんだから」
首を振って雑念を払いつつ、さっそく貰ったお金で安いホテルを取る。
あまり綺麗じゃないけど我儘は言えない。その代わり一泊五千ジェニーという格安なのだ。それでも試合で勝ったり負けたりを繰り返していると、宿に安定して泊まるのも大変だった。
でも、それも、もう過去に出来るかもしれない。
ベッドの上で胡座をかいて、瞑想の姿勢を取る。
そして、僕の念能力を発動させた。
「──『
目を開ければ、半透明の板が浮かんでいる。
ゲームのUIをモチーフに作られたような操作板だった。
項目は幾つかに分かれていて、『達成報酬』の項目に未読の赤い点がついている。初めて見る赤い点がそこにあることに、僕は拳を握りしめた。
「よしよしっ! やっぱりあった! さすが僕の念!」
喜び勇んで『達成報酬』を押すと、『天空闘技場50階突破』として1ポイントの報酬が貰えた。
「1ポイント……、いやいや、貰えるだけありがたいと思うべきだ。この1ヶ月、このために頑張ってきたんだから」
がっくしと肩を落としながら、それでも首を横に振った。
ようやく得られた、この1ポイントは貴重だ。なにせ僕が初めて得られたポイントでもある。
幾つも検討を経た使い道はもう決まってる。
軽やかに指を動かして『贈り物』の項目を選ぶ。
貴重なポイントを消費する一覧の中から、選ぶのは『念能力』に関する内容の一番最初。
『念を覚える』
──消費ポイントは、1ポイント。