1話目18時、2話目19時、3話目20時
『──さぁ次の選手の登場だぁ!! この組み合わせを、いったい誰が予想したのか!! 巨漢の男vs小さな少年の戦いだー!!』
わぁあああという歓声を浴びながら、僕は舞台の中央で相手選手と向き合っていた。
実況の人が言うように相手はかなり大きい。顔を見るためには見上げないといけない体格差がある。普通なら階級制限が掛かって試合にすらならない相手。でも、そんな相手を前にしても、今の僕には実況を聞いていられる余裕があった。
『体格差は圧倒的!! これまでも、その恵まれた体格で数々の選手を吹っ飛ばしてきたゴンザレス選手!! 重量感のある張り手にはこれまで多くの選手が苦しめられてきました!! ましてや、今回は相手が少年です!! これは勝負が簡単についてしまうのか!? ──だがしかし! 少年にも期待して頂きたい!!』
うおおおおおと盛り上がりを見せる会場に合わせて、実況の人も一段とテンションを上げていく。
『なんと格闘技経験0!! にも関わらず〜、たったの1ヶ月弱で100階にまで登ってきたのが、この天才少年リオだー!! 今回は一度の不戦敗と、その後の昇格を経ての、再びの登場!! 今までに彼が巻き起こしたチケット乱舞の大波乱は、未だ記憶に新しい!! 前回の不戦敗ではアクシデントも重なりましたが、ある意味で大きな話題となりました!! ──改めてとはなりますが! 彼の初めての100階挑戦に変わりはありません! またもやオッズの予想を裏切る大逆転を巻き起こし、生粋のギャンブラーたちのハートを掴めるのか!!?』
そして実況の人が叫び、ギャンブルスイッチが回る。
『さあ、それでは皆々様!! ギャンブルスイッチの準備はよろしいですかー!? それではスイッチオンー!』
オッズの結果が出る。
──僕の完敗だった。
体格差は普通なら勝負を決定づけてしまう要素だ。ましてや僕は100階で一度不戦敗を経て、改めての初挑戦。お金を掛けるのは生粋のギャンブラーくらいのもの。
『おっと〜〜!! 投票の結果、倍率ではゴンザレスが優勢! それも大きく引き離しています! これは、やはり体格差もさることながら、100階以上の戦闘経験がないデータが響いてしまったか〜〜!!?』
その通りだと思う。
腕組みしてるゴンザレス選手も、そんな感じにニヤニヤ笑ってる。
──でも戦いを前に油断は厳禁。『念』を覚えてからだって、僕は試合に出る時は緊張しっぱなしだ。人前が苦手というのもあるけど、何より天空闘技場でボコボコにされた経験があるから、どうしたって身構えてしまう。
軽く息を吐いて、緊張を少しだけ緩和させた。
『それでは3分3ラウンドP&KO制!! ──始め!!』
「へへっ、坊主。ひょろい身体が潰れちまう前に降参した方がいいんじゃねえか?」
「お気遣いありがとう。でも、もう僕は弱くないよ」
スッと構えをとった後、一瞬だけ相手が訝しんで体勢を整える寸前──意識が僕から外れたタイミングで、相手に近づいた。
念能力を使うまでもなく、簡単に懐に入り込む。
視界から消えた僕を探す視線が彷徨って、改めて僕を捉える。一瞬で懐に入った僕に、ゴンザレスの表情は驚愕に歪んだ。
反射的に放ってきた張り手を、僕はスルリと回避して背後に回る。
小さい僕に攻撃を当てようとしたために、ゴンザレスの姿勢はかなり前傾姿勢になってる。
その前屈みになった腰を足場に背中を登れば、首筋が丸見えだった。
(確か、こんな感じ)
念は使わずに、手刀を首筋に入れる。
背後から入った一撃は寸分違わずにクリーンヒットした。
力加減もいい感じだと思う。
その結果を示す様に、意識を喪失させたゴンザレスはそのまま倒れ伏す。
俯せになってダウンした巨体の姿に、会場がどよめいた。
「クリーンヒット!」
『な、なんということでしょう!! 目にも止まらぬ早業だー!! クリーンヒットとダウンで2P先取!! ──ま、まさかこの一撃でKO勝ちとなってしまうのかー!?』
審判の人がゴンザレスに近づいていき、意識の有無を確認する。そして首を横に振って、その後に腕で僕を示した。
「ゴンザレス選手失神KOとみなし!! 勝者リオ選手!!」
『なんとなんとなーんとぉおおお!! またしても大波乱だー!! みなさま!! お願いですから負けたチケットをばら撒かないでくださーい!!』
観客席を見れば、ようやく救われたという顔で、後方腕組みしながら頷いているカストロさんがいた。ぺこりと頭を下げて、花吹雪みたいに会場を舞っている負けチケットと阿鼻叫喚の渦に見送られながら、僕は選手控え室に戻る。
戻る間の通路の中で、僕はじっくりと思考を巡らせた。
『
とはいえ、最優先目標として、敵の動きを一瞬であれ封じられる『
まだ習得してから二日しか経っていない。それでも『贈り物』の性質もある程度は掴めてきたと思う。
ハッキリとしたことはまだ言えない。でも1ポイントの消費では、もしかしたら能力の熟練度の溜まり具合が遅いのかもしれないと感じた。あるいは本物を見ていないからだろうか。
もしこれが、念能力を増やせば増やすほどに加速度的に身に付け辛くなっていくのであれば、無闇矢鱈と習得数を増やせばいいというものではなくなってくる。その可能性を考慮に入れて、覚えるべき念能力は選別すべきかもしれない。
まだ念を覚えてから1週間と少し。
これからじっくりと取り組むべき課題は盛りだくさんだ。
何せ僕の念能力のことを考えれば、四大行を含めた基礎はどれほど大切にしても十分ということはない。
系統図の全てを100%に出来ない以上、下積みが多ければ多いほど、念能力を併用した時の安定感が増すだろうからだ。
とはいえ、それはまだ取らぬ狸の皮算用。併用可能である可能性は高いけど、まだ確定はしていない。
でも、もしかしたら、もしかするかもしれないと、今では少し希望が持てるようになって──。
──パチパチパチと、拍手の音が響いていた。
一瞬で意識が切り替わった。
冷や汗が止まらない。未完成の『電光石火』を使って逃げることすら脳裏に過ぎる。でも使うべきなのか判断が出来なかった。
せめてもと警戒心を最大にして、暗がりから現れる人物を待ち受ける。
姿を見せたのは、男だった。
特徴的なピエロに似た格好。
頬に描かれたペイントは、星と水滴。
オールバックにした髪型は赤く染まっていた。
「──やあ♦︎素晴らしい試合だったよ♥」
「っっ!」
「……くっくっく。そんな反応をされるくらい、僕って有名なのかな?」
不思議そうに、けれど、どこか面白がっているように口角をにんまりと上げて、舐めるような目で僕をみている男の名前はヒソカ。
身を引きながら、僕は信じられない気持ちでヒソカを見る。込める感情は、敵意に限りなく近いほどの警戒だった。
「そんな目で見るなよ♣︎……興奮するじゃないか……♥」
ムクムクと盛り上がる
──比類無き最強格の一人。
屈指の殺傷能力と異常な精神性を持つ怪物を前に。ゾッとするほど濃密な死の気配を漂わせるオーラを前に。
思考が、静かに冷徹に沈んでいくのを感じた。