そして、あの日から約1週間が経った。
「──いらっしゃいませ、リオ様ですね。チケットをお願いします。はい、確認できました。先程のファイトマネーです」
「ありがとうございますッ」
「今後のご活躍を応援しております」
丁寧に頭を下げてくれるようになった、受付のお姉さんに照れながら会釈を返して。
──僕は、エレベーターに乗って100階に移動した。
そう、僕はたったの1週間で、50階から100階にまで登ることができてしまった。
他でもない『念』のおかげだった。
「1107号室は、ここだね」
中を覗くと、内装は普通のベッドルームだった。
今まで泊まっていた一泊五千ジェニーの部屋はオンボロで汚い感じだったが、この部屋は清潔な感じがする。
無難な一室といった風情だ。
「よっと」
さっそくベッドに向かってお尻でスタンプする。
ボフッと痛くもないが跳ねるほどでもない低反発が返ってくる。久しぶりのまともなベッドに思わず頬がニヤけてしまう。
「うん、ボヨンボヨンじゃないけど、十分すぎる柔らかさ。何よりも清潔感が素晴らしい」
真っ白なシーツに包まれたマットレスを手で押したり撫でたりサラサラ具合を確かめたところで、つい堪えていたものが抑えきれなくなった。
「──んふ、んふふふふ」
思わず忍び笑いが止まらない。
やっと、やっと個室ゲットだ。
毎日減っていく所持金に怯える生活ともこれでおさらばだ。長かった、本当に長かった。
目の前に翳した右手が、目を凝らさなくても白い湯気のようなものを纏っているのが見える。
明らかな『念』だった。
目の精孔が開いたおかげでオーラを見る事ができた。『纏』も覚えたから放出のしすぎで虚脱状態になることもない。身体は今までと比較にならないくらい頑丈になったおかげで、これまでの苦労がなんだったのかと思うくらい、簡単に100階にまで登ることも出来てしまった。これからのバラ色の天空闘技場生活を思うと、思わず喜びが溢れ出てしまう。
「まさかすぐに念を自己習得できるとは。うふ、うふふふ」
想像以上だった『念を覚える』の効果と、100階の一室を手に入れた事が嬉しすぎて、しばらくベッドの上でバッタンバッタンした後に、ふと冷静になって咳払いした。
「とりあえず衣食住は心配なさそうかな? 200階まで登っていけば、お金の問題も解決しそうだし」
それも億単位で入ってくる。
もはやお金の心配は一生しなくて済む。それがどれほど有難いか。この1ヶ月の貧乏生活でお金の大切さが身に染みた。
……でも、一つだけ問題がある。
「戸籍がないから、口座を作れない」
念も覚えて順風満帆なのに、腕を組んで唸っているのには、そうした事情があった。
当たり前だが、転移してきた僕に戸籍はない。
100階に到達したのに、いまだにファイトマネーを現金で受け取っているのはそのせいだ。
溜まったお金も200万円を超えてるし、そろそろ本気で何とかしないと。これ以上の金額になるとリュックに入れて持ち運ぶのも一苦労だ。
それに、受付のお姉さんからも、早く口座を指定してくださいね、と笑顔でお願いされている。笑顔のうちに何とかせねば。
「流星街の人以外は、戸籍があるんだよね。……ってことは流星街出身って名乗った方がいいのかな?」
被差別民だった流星街の住民も、確か今ではそれなりの扱いを受けていた……気がする。
「……うん。ってなると役所に、いやいや。よく思い出そう」
頭を捻って、記憶にある描写を思い出す。
確かに昔に比べたらマシになった、という話は出てた気がする。でもそれはあくまで恐れられているだけで、社会的な地位を得た訳じゃなかった、かな。
「……困った」
ということは、公的な窓口に行ってもまともな対応は期待できない。公的に認められていない=人ではない、の理論で迫害されていた、という話をどこかで見た気がするし……。それは裏社会だけだっけ……?
でも下手にリスクを負いたくないので役所はなし。
戸籍は難しいにしても、銀行口座だけでも作れればとりあえずは構わないんだけど、何か良い方法がないだろうか。
そして翌日。
──この悩みは、思わぬ方法で解決することになった。
明日18時に続きを更新予定です。