本日3話投稿
2話目
「──さあ、好きに座ってくれ。何か飲めないものはあるかな?」
「あ、お構いなく」
「そういう訳にもいかないよ」
場所はカストロさんの自室だった。
さすが200階クラス闘士の部屋だった。調度品は一流ホテル並みに揃ってる。一流ホテルには、行ったことないからたぶんだけど……。
豪華すぎる室内に気後れしながら待っていると、カストロさんが戻ってきた。
柔和な笑みを浮かべてコーヒーカップを両手に一つずつ持っている。
「ミルクと砂糖は好きなだけ使ってくれていいよ。──リオくんは、いつから使えるようになったんだい?」
そう言われて、僕はここに来るまでに考えていたことだったので、素直に頷いた。
「念のことですね?」
「ああ。……君のように若い子が使えるなんて、少し心配になってね。私は洗礼を受けて、念を使えるようになったから」
ミルクと砂糖をガッパガッパ入れながら頷く。
ヒソカ選手の事を話題に出すか、少しだけ悩んだけど、このまま会話を続ける事にした。
「そうだったんですね。……ご心配ありがとうございます。でも、僕は自力で覚えたので、洗礼は受けてないんですよ」
そう言うと、カストロさんは驚いて目を見張った。
「自力? ……そうか。念は自力でも覚えられるのか」
「そうです。といっても、以前から念を知っていたから、出来た事なんですけどね」
才能じゃないよ、知ってたから覚えられたんだよ、と苦笑いしながら暗にそう言ってのければ、カストロさんは少しだけ身を乗り出した。
「……というと、修行方法を知っている、ということかな?」
カストロさんの目は期待にキラキラと輝いていた。
フィーッシュ! と言いたいところだけど。
でも考慮したい事があるので、ここは一旦躱したい。
「どうですかね? 僕も又聞きですし、正しい情報なのか、わかりませんよ」
「……そうだね」
僕の意図を察してか、カストロさんも静かに頷いた。
そして、お互いに一息を吐く間があった。
手元のコーヒーカップを口に運びながら、僕はほっと息を吐いた。
念の話はそう簡単には出来ない。色んな意味で危険な力だからだ。
その判断のためにも、カストロさんの事をもっと知らなきゃいけない。その一環でカストロさんの思考を予想してみようと思う。
──まず前提として、彼は念の情報をほとんど集められていないと思う。
我慢できずに、修行方法について質問してきたのが良い例だ。
カストロさんがそう予想した理由は単純なことで、僕のような子供が、念を知った上で自力習得をしたとなると、師事を仰いだ人物がいると考えたのだと思う。実際には違うけど、僕が修行方法を知っている事実は間違っていない。
だが僕は言葉を濁した。
流派の秘技であっても何も不思議じゃ無い『念』の話だ。カストロさんも簡単には聞き出せないと判断すると思う。
でも『
先ほど僕が濁したみたいに『正しくない情報』を言うかもしれないし、何よりカストロさんが、子供相手に無理やりに聞き出そうとするとは思えない。もちろん絶対じゃないから油断はできないけど、可能性は低いと思う。
だから、穏便な方法で僕から情報を聞き出そうとする。順当に行けばお金だろうか。あるいは正面突破。大穴で土下座かな……?
カストロさんがそのいずれかの結論に至るのはまず間違いない……。
……よね? うがああああ! 僕、こういうの苦手なんだよ!?
内心の百面相が表情に出ない様に頑張って制御した。
そして、お互いに一息を吐き終えて、コーヒーカップをテーブルに置いた。
カチャリと高級そうなソーサーから陶器特有の音が響く。
ついカストロさんのコーヒーカップの中身をチラ見したけど、僕と同じコーヒーだった。室内の匂いや用意されている調度品から考えるに、カストロさんは紅茶党っぽいけど、子供の僕に合わせてコーヒーにしたのかな?
コーヒー牛乳は子供の飲み物っていうイメージがあるし、コーヒーなら子供の僕も飲みやすいだろう、とカストロさんが考えたとしても不思議じゃない。
……やっぱり良い人だ。
「リオくん」
少し気を張り詰めた様子の彼に、僕も視線を合わせた。
「厚かましいお願いだということは、私も重々承知している。その上でお願いしたい。私に、念能力について教えてもらえないだろうか?」
物凄く真っ直ぐで、真摯な瞳だった。報酬に関する話がないのは、きっと、僕がお金なんかじゃ口を割らないと理解しているからだと思う。
だから誠意を見せるために、ジッと僕の返答を待って、静かに座っていた。
長い沈黙が続いて、それでもカストロさんの瞳は揺らがない。──先に揺らいだのは僕の方だった。
「……その聞き方は、いえ。カストロさんの現在の
少し困惑を表情に浮かべているカストロさんに、僕は微笑んでみせる。
「今回は僕が念能力者である、と確信できる状況です。この状況下であれば、まず僕の念能力を警戒し、どのような手段で攻撃可能であるのか、想定せねばなりません」
ここまで続ければ、カストロさんも僕が
打って変わって真剣な表情になって話に聞き入った。
「まず警戒すべきであるのは、操作系能力です。これは非常に条件が限られますが、その条件さえ満たしてしまえば必殺の念能力です。今回のケースであれば、僕から教えを受ける行為自体が、僕の操作系能力の条件を満たしてしまう懸念を考慮する必要があります。少なくとも、事前にその懸念を解消してから願い出るべきでした」
「……だがリオくんは、私に害意を持っていないだろう?」
その発言は人を見る目に自信がある、というニュアンスではなく、人を初手から疑うことに抵抗がある、と言っているように僕には見えた。なので、回答もそうする。
──相手の善意に、命を預けられますか? と。
「そうですね。ですが、カストロさんは、果たしてそこまで想定した上で、僕に操作されるリスクを許容した上で、教えを請いましたか? もしそうでないのなら、迂闊という他ありません」
相手の善意に期待する、という思考は、僕は嫌いじゃない。僕には怖くて出来ないから、出来る人を尊敬する。
でも対念能力者を想定するなら後手に回ってる。
操作系能力という一撃必殺がある以上は、見知らぬ念能力者は仮想敵として考えなければいけない。少しの油断が致命傷となる可能性が無視できないからだ。
──念能力者のコミュニティが小さく纏まる訳だよ。だって怖いもん。
「ですが、これはあくまで僕が念能力者である、と判明しているからこそですよ。普段からここまで人を疑うなんて、現実的じゃありませんから」
苦笑いしながら言えば、少し安心したようにカストロさんは気を抜いた。
うん、気持ちはわかる。普段から人を疑い続けるなんて、普通は猜疑心で頭がおかしくなるよ。
でも笑顔の裏にナイフを忍ばせてくる相手がいることは、頭の片隅に置いておかなければならない。いざというときに、瞬時に対応できるように。
「そうだな。言われてみれば、確かに私は、そこまで考えていなかった。……ありがとう」
「少しずつ学んでいきましょう。覚えることはたくさんありますから」
「はは、そうか」
僕が念能力について、教える気があるということを確信したんだと思う。
安心したようにカストロさんは笑って、そして何かに気づき表情を曇らせた。
「……私は、本当に念を覚えただけだったんだな。──愚か者だ。得た力に溺れてしまっていたらしい」
「そのことに気付けたことが大切です。まだまだ挽回できますよ」
「ふふ、その通りだな」
「はい! さっそくですが、念の基本から行きましょう」
「本当に、恩に着る」
深々と頭を下げるカストロさんに、僕は少し困りながらも微笑んだ。
──原作の話だけど。カストロさんが、ヒソカに再戦を誓っていた理由はわからない。でも頑張ったのは間違いない。それなのに
それだけなら、まだ僕は口を閉ざせたかもしれない。
でも、僕はもうカストロさんを知ってしまった。彼の真摯な目を見てしまった。
だから話さないと僕は後悔する。
僕が、そういうところで融通が効かない人間だってことはよく知っている。
だから、これはカストロさんのために話すんじゃない。
僕自身のために負うリスク。
未来を変える恐れを踏みしめて、カストロさんに念を教えることを、僕は選択した。
次話(本日3話目)は短いので同時更新しています。