1話目
約3200字
「──ま、まだ形だけだが」
「作ったんですよね?」
「はいッ」
「なるほど……」
ビシッと背筋を伸ばしているカストロさんを前に、僕は考え込むフリをしながら思った。
──そこまでは責任を負えないから、むしろ僕が教えなくていいのは好都合かも。原作で色々な念能力を知ってはいるけど、僕は誰かを弟子に持ったことなんてない。基礎は原作通りに教えられるけど、個々人の特色が色濃く出る『発』に関しては何も言えない。そもそも『発』は自分自身で形作るものだ。
「わかりました。では、念能力についてはカストロさんに一任します」
「その、作り直すということは出来ないんだろうか?」
恐る恐るといった調子で問われたが、僕は首を横に振った。
「残念ながら難しいと思います。念の有り様は、そう簡単に変えられるものではありませんからね。カストロさんに出来ることは、作った念能力を自分に合った形にブラッシュアップしていくことのみです」
洗脳みたいな事をすれば別だと思うから、不可能ではないとは思う。
でも現実的じゃない。そういう念能力者なんて滅多にいないと思うし、居たとしても怖すぎて普通は身を任せられない。
「そうか……」
がっくしと肩を落としているカストロさんに、少し罪悪感が刺激される。
「……少しアドバイスしましょうか?」
「ッ!! ぜひ頼む!」
「でも、あくまでもアドバイスですからね? 念能力はカストロさん自身の直感が大切なので、そこは忘れないでください」
「もちろんだ」
勢いよく頷いたカストロさんにアドバイスするため、僕たちはさっそく水見式から始めた。
その結果、カストロさんが強化系に属していることがわかった。
習得率の話をした時に愕然とした様子を見せていたから、たぶん、原作通りの念能力を作ったんじゃないかな。
そんなまだ少し凹んだ様子のカストロさんが話し続ける。
「さっそくだが、私の念能力は──」
カストロさんが念能力を教えてくれるのを、かなり身構えながら聞いていった。
能力名は『
自分自身の分身を作り出す念能力。
まだ作ったばかりということもあって、能力を具体的な形には出来ていない。
そう言いながら、カストロさんの横には、彼に瓜二つの人物が姿を見せた。
「まだ思い通りに動かすことは難しいが、こうして生み出す程度のことであれば、もう既に出来る。あとは、この私を戦闘に参加させるために──」
そう言って語り続けるカストロさんを眺めながら、僕の胸中はまったく別のことを考えていた。いや、まったく別、ではないんだけど……。
僕の勘違いでなければ、1ヶ月足らずで人間を具現化(自分自身とはいえ)するって、才能エグすぎない?
そう簡単に出来ることじゃない筈だ。具現化系能力者の修行はクラピカの例しか知らないけど、鎖を具現化するだけでも、かなりの日数を要した筈。鎖をずっと弄り回して夢にまで出てきて、幻覚すら見て、それからさらに日が経つと、ようやく具現化される。それくらい難易度が高い。
それを、強化系が、たったの1ヶ月で、具現化まで持っていくって。
話していくうちに、自分の念能力は素晴らしいと思い始めたのか当初の不安は消え去って、自慢するみたいに揚々と語っているカストロさんをみて思う。
──この人、めっちゃ自分のこと好きだな。
極端なナルシストと言っても良い。
じゃなきゃ自由度の広い念能力を作れるのに、わざわざ自分がもう一人いれば最強だ、なんて思わないか。
「──カストロさん」
「ん? なんだ? 虎口真拳のことかな? うん、残念ながらまだ見せることが出来ないが、いずれお披露目できる時が来るだろう。その時はぜひ、リオくんの意見も聞きたい」
「あ、いえ。そうではなくってですね」
アドバイス受けるって話を、忘却してそうなカストロさんに苦笑いする。
自分の考えた念能力を説明するのって楽しそうだし気持ちはわかる。
一つ咳払いして、僕はカストロさんの念能力のアドバイスを続ける。
「──そこまで形が決まっているのであれば、こういうのはどうですか?」
具現化、操作の系統はすぐに習熟することは難しい。
でも、この方向性なら。
ある程度の制約をつければ、強化系能力者であるカストロさんの強み。そしてナルシストである強みを活かすことも出来る筈だ。
そこから僕の語ったアドバイスに、カストロさんは真剣な様子で聞き入って頷いた。
「……なるほど。確かにそれならば、私自身の系統を活かすことが出来る。──いや、それどころか、俄然やる気が出てくるアドバイスだな!」
「後は、そうですね。追々は、例えば『位置交換』できるようにするとか、『自立行動』させるとか、『身代わり』として使うとか。具現化系、操作系の部分も強化していくことで自由度は増していくと思います。もちろん、これは一例に過ぎませんし、
先ほどのアドバイスの件はさておき。
僕の頭に浮かんでいるのは、とある念獣使いの姿だった。
どの程度の制約で生み出したか不明だが、実例がある以上は『位置交換』も『自立行動』も『身代わり』も不可能ではない筈。もちろん強化系能力者であるカストロさんが、どこまで実現できるのか、については考慮しないといけないが、修行すれば出来なくもないとは思う。強化系能力者なのに、観音様を具現化させて最強となった実例も僕は知っているし。
……とはいえ、念を教えてくれと正面突破してきたカストロさんに、某ゴリラ使いのような頭を使った小細工が向いているとは到底思えないけど。
そんな僕の心配を汲み取ったのか、カストロさんは微笑んでいる。
「安心してくれ。そのような小細工が私に向いていない事は、重々承知しているとも。リオくんのアドバイスを形にするために──つまり、『
そう言って、カストロさんはキラリと歯を輝かせて笑った。
なんか重い、重いよカストロさん……。僕はそこまで責任を負いたくないよ!?
とも言えずに、僕は引き攣った顔で笑顔を浮かべるにとどめた。
「では次に、六性図についてと、系統図に応じた習得率の詳しい話を──」
カストロさんにはめげずに頑張ってもらいたい。
ちょっと背中を押し過ぎた気もするけど、もしかしたら未来が変わってしまったかもしれないけど、僕は彼を応援する気持ちで話し続けた。
そうして、この日は夜遅くまで話し合った。
その甲斐もあって僕の知っている念能力に関する基礎はほとんどを話し終えたと思う。
一部の能力や応用技については説明を制限した。知っている情報が多いと錯綜することがあるからね。……カストロさん、そんな捨てられた子犬みたいな目で見ないでください。
それでも手探りで念についての理解を深めていたカストロさんからすれば十分すぎる情報量だったようで、深々と頭を下げられて感謝の言葉を貰い、この恩には必ず報いるという言葉まで貰った。
でも大人の彼に、そこまで敬意を示されると困惑の方が大きかった。
加えて、僕の知識は所詮原作から得たものだ。
実例を知っている分にはアドバイス出来るけど、カストロさんに合わせた細やかな指導は難しい。
なのに、師とお呼びしてもいいだろうか、と言い始めたカストロさんを慌てて宥めたり、少ないかもしれないがと言いながら通帳を丸ごと渡してこようとするカストロさんからの提案を固辞してからようやく解散して、自室に帰った時にはもう時刻は24時を回っていた。
クタクタになりながらベッドに腰掛けて、ほっと一息を吐く。
でも、これで今日の僕の、カストロさんを見かけてから定めた目標は全て達成できたことになる。特にカストロさんと知り合いになれた、というのはすごく大きい。気疲れもあったけど、今日の成果を確かめずにはいられない。ベッドに座ったまま、さっそく念能力を発動させる。
「──『
期待しながらUIを開いた僕の目に、予想通りというべき結果が入って来て、拳を大きく握りしめた。
『達成項目』の欄に、燦然と輝く新しい赤い点があった。
続きは本日19時に更新です。