マガダンの英雄、先生になる   作:コルディアムに脳を焼かれた阿慈谷ヒフミ

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七稜アヤメ...来なかった...。

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Protocol 2-3: Outpost Assault

校舎屋上に機体を着陸させたコブを対策委員会の部室に招き入れ、ここでようやくアビドスとヘルハウンドはその全員が顔を合わせることになった。

 

「騒がしくして悪かったね。あたしはジョアン・コルト。TACネームはコブ(靴屋)。靴直したくなったあたしに言いな。もちろん、そこの...特にギャンブル小僧あたりが変なことした時も。二度と変なこと出来ないようにしてやるからね」

「おいコブ、そんなこと言ったら逆に怖がらせちまうんじゃないか?」

「少なくともあんたほど距離は取られはしないよ、ブリック」

 

とにかく、とコブが言葉を切る。

 

「あたし達は無事物資を届けられたし、学校を守った」

「これが大人の力...。すごい量の物資に戦闘の指揮、それに航空支援まで。大人ってすごい」

「大人というか、治安維持軍がすごいというか。連邦の切り札は伊達じゃない。自分で言うことではないだろうけどな」

 

それに。

 

「1番すごいのはお前達のほうだぜ、アビドス。初対面の俺の指示にも従ってくれたし、なにより強い。それに、お前達自身がここを守るって気がなかったら、今頃この学校は無くなってただろうよ。今回の1番の功労者は紛れもない自分達だってこと、忘れないでくれ」

 

何をするにしても、まずは自分がその気でないと、いくら他人の助けがあろうと実りはしない。レース然り、母校防衛然り。

 

「...そうね!私達がナンバーワンよ!」

「...うん。ありがとう、ドライバー先生」

「うへ〜、いいこと言うね〜先生。ありがと〜」

 

皆の顔が綻ぶ。うんうん、自信がつくのはいい事だ。

 

「全く、本当にいい事言うじゃないか、相棒?だから俺はお前が好きなんだ」

「ありゃ。ブッキー、今日は他人じゃないのか?」

「もうお前はそういう奴だって思うことにした。俺の想定よりもネジが飛んでたって認識を改めた」

「複雑な気分だな...」

「いいじゃねぇか、別に。それはともかく、だ」

 

ブッキーがアビドスの5人の方を見る。

 

「連中、なんであそこまでの大戦力を投入してここを占拠しようとする?それと、対策委員会についてももう少し話を聞きたい」

 

その言葉に返答したのはアヤネだった。

 

「ご説明します。アビドス廃校対策委員会。この部活は、アビドスを甦らせるために有志の集った部活です」

「うんうん!全校生徒5人で構成される、校内唯一の部活なのです〜!」

「他の生徒は転校したり、学校を退学したりして町を出て行った。学校がこの有様だから、学園都市の住民もほとんどいなくなって、カタカタヘルメット団みたいな三流のチンピラに学校を襲われてる始末。正直言って、襲撃の理由は分からない。お恥ずかしいことだけど、私達だけじゃ学校を守りきるのは難しい」

「『シャーレ』からの支援がなかったら......今度こそ、万事休すってところでした」

 

全校生徒5人。まさに廃校寸前。驕れる盛者もなんとやらどころか、虫の息というやつである。なんならミジンコの方がまだ息しているかもしれない。

 

「物資も底をつきかけてたからねー。今度こそ覚悟したよ。本当にいいタイミングだったよ、先生」

「これならヘルメット団なんてへっちゃらですね。さすが大人です☆」

「だからって攻撃を止めるような奴らじゃないけど」

「それに、ずっと俺達の航空支援に頼る訳にもいかないだろ。ドライバー、ブッキー、コブ、そして俺。一応4機が航空支援に出れるが、ずっとアビドスの航空支援ばかりは出来んだろうし、なにより機体整備の問題がある。どこかのタイミングでD.U.には戻らんといけないぞ」

 

そうだ。ブリックの言う通り、今回はコブが支援に来てくれたからいいものの、ずっとは出来ない。機体の部品供給の目処は──まぁ、連邦生徒会長の置き土産のおかげで一応はついたが、にしても整備士がいないことにはどうにもならん。

 

「...それなら、アヤネがやれるんじゃない?」

 

そう言ったのはシロコだった。俺達5人はアヤネの方を見る。

 

「...アヤネ、できるのか?」

「え!?えーと...車とか、あとは校舎の設備とか...そういうのは直せますけど...」

「おいドライバー、確か俺達のVX-23VTLは整備記録とマニュアルが機内にあったよな」

「ああ。最前線運用のために乗せてはあるが...」

「マニュアルがあるなら、多分できますけど...」

「アビドスにいる間はアヤネに俺達の機体を任せよう」

 

まさか機体整備問題が解決するとは。奥空アヤネ、なんという女。恐ろしい。

 

「だとしても、こんな消耗戦をいつまでも続けられるわけはなかろう」

「ヴィータ先生の言う通りです。他にもたくさん問題を抱えてるのに...」

 

うーん、と皆が唸る中、1人だけ様子の異なる者がいた。ホシノだ。

 

「ホシノ?何か策でも?」

「にっひっひ。実はちょっ〜と策を練っててね〜」

「ホシノ先輩が...!?」

「ちょっとひどくないかなぁ〜?傷ついちゃうぞー。たまにはおじさんもちゃーんとやるのさー」

「それで?一体どういう作戦なんだ?」

 

どうも見る限り、ホシノは普段だらけているらしい。果たしてその作戦とやらが本当に使えるかは分からんが、聞いてみる価値はあるだろう。

 

「また数日もすればヘルメット団は攻撃してくるはず。最近はずっとそのサイクルが続いているからねー。さっき先生が大勢倒したからって、攻撃を止めるとは思えない」

 

だから、とホシノは続ける。

 

「このタイミングでこっちから仕掛けて、奴らの前哨基地を襲撃しちゃおうかなって。今こそ奴らが一番消耗してるだろうしさー」

 

...なるほど、聞いた限りでは理にかなっている。それではここで専門家のご意見を伺うとしよう。

 

「で、ミスター・パトリック。この作戦をどう評価する?」

 

思考に浸っていたヴィータは、俺の声を聞いてゆっくり目を開ける。

 

「悪くない考えではある、と思う。今の状況では奴らの正面戦力は相当減っているだろう。それによる混乱は間違いなく生じている。奴らの回復を待たずして叩くことができれば、しばらくのところは攻撃を思いとどまらせるか、そうでなくとも有効打になることは間違いなかろう」

 

その言葉につい口笛を吹く。そうと決まれば早速だ。

 

「よし、ならさっさと出るぞ。奴らの前哨基地の場所は?」

「この地図にあります」

「パーフェクト。コブはそのまま離陸しろ。俺達は空港に戻って機体を上げる」

「ドライバー、俺はどうすればいい?」

「ヴィータは...そうだな、地上でアヤネに付いてやってくれ。それと、地上と空の連絡もお前に任せる」

「了解した」

「アビドスの車は何台ある?」

「2台です!」

「OK、1台は俺が運転して空港まで戻る。もう1台でアビドスは基地に向かっておいてくれ」

「さあ仕事の時間だ。治安維持軍、任務を開始する」

 

 

「オェッ...」

「うぷっ...くそったれ...」

 

死屍累々、とはこういうことを言うらしい。例の空港に戻ってきたはいいんだが、車から降りた途端ブッキーとブリックが車から崩れ落ちた。...うーん、なぜだ。

 

「ド、ドライバー...お前、本気で理由が分からないのか...?」

「お前が俺の心を読めることについては何とも思わんくなってきたが、それはそうとしてなんでか想像もつかねぇな」

「あんな街中で死ぬほど車を振り回す奴がいるか馬鹿野郎!」

 

...あー、確かに早く行かないと、って思って多少車を振り回しはしたが。

 

「つってもかなり抑えてたぞ?」

「どこが抑えてたんだ...うぷっ」

「そりゃラリー基準でいけば抑えてたんだろうが...おえっ」

 

うーん、あれでも一般人にはキツすぎたか。次はもっとフェイント抑えめで行った方がいいか。

 

「...なぁ、そもそも普通に走るって考えはねぇのか?」

「?」

「こいつ馬鹿みたいに振り回した走りを普通だと思い込んでやがる...」

「諦めろ、ブッキー。罰金滞納犯は伊達じゃない」

 

まるで人を犯罪者みたいな扱いをしおって...。そりゃ、3ヶ月かそこらくらい反則金滞納はしたけどよ。だいたい他人にぶつけてないんだから反則金なんて払う義理はないだろ。

 

「...らしいな、ブリック」

 

ブッキーのついたため息が、寂れた飛行場にこだました。

 

 

 

「こちらヘルハウンド1、2および4とともに離陸完了。これより3と合流し、敵基地への爆撃任務を開始する」

『ヴィータよりヘルハウンドへ、感度良好。現在我々は敵前哨基地まで1kmの地点まで接近し、事前偵察を実行中。そちらの爆撃とともに突入する』

「爆撃時はきちんと遮蔽物に隠れろ。爆弾の破片を喰らいたくなければな」

 

車酔いから回復したブッキー、ブリックを連れて空に上がる。前哨基地まで設定した航路の途中でコブと合流し、4機で大型爆弾を落として基地侵略の支援をする、というわけだ。

 

『ヘルハウンド3、編隊に合流する』

「ヘルハウンド3のIFFシグネチャ確認。地上のIFFパラメータを友軍に設定完了」

『爆撃目標視認。連中、工場をアジトにしてるのか?』

「動いているようには見えん、廃墟だな。攻撃許可」

『元の持ち主から解体費用を払ってもらわないとな』

「ハハッ、違ぇねぇ。是非とも頂きたいところだな。さーて、全機マスターアームオン。兵装投下準備」

 

ブリックにしては珍しい冗談に少し笑いながら、目標を捉える。

第2ハードポイント選択、爆撃照準器起動。編隊を維持しつつ、投下点に目を凝らす。

 

「攻撃地点まで10秒。爆撃用意」

 

あと5秒。

 

3、2、1。

 

「ヘルハウンド1、投下!」

『ブッキー、爆弾投下(Pickle)!』

『コブ、兵装投下(Ordnance Away)!』

『4、爆弾投下(Bombs Away)!』

 

4機がそれぞれ大型爆弾を投下する。本来1発でも十分なくらいなんだろうが、念には念、というやつだ。爆撃後は編隊を解除し、爆撃地点上空の旋回飛行に移る。

 

「地上チーム、爆撃効果判定を頼む」

『クソ、やりすぎだヘルハウンド1!工場の残骸がこちらまで飛んできたぞ!』

「効果は十分そうだな。突入しろ!」

『全く...!アビドス、突入だ!』

 

ヴィータの掛け声とともに、アビドスとヴィータの乗った車が突入する。爆炎と煙で赤外線映像はまるで捉えられない。煙の切れ目からなんとか目視で確認すると、爆撃を食らってもはや戦闘不能になったヘルメット団がちらほら見えた。

炎上する工場跡地に突入した車両から、6人の人影が降りてくる。ヴィータを中心に、ホシノを先頭、シロコを最後尾に配置したフォーメーションを組み、前進していく。

 

『色んなところに引火してる...気をつけて』

『...これはすごいねー。おじさんの仕事が減って何よりだよー』

『注意は怠らないでよね、ホシノ先輩』

 

どうやら地上は全くと言っていいほど抵抗がないらしい。銃声や交戦の報告はなく、たまにエリアクリアの報告が入ってくるくらいだった。

 

『ん、全く金目のものがない...』

『あの爆撃の後でなにか残っているほうがおかしいだろう...』

「爆弾が1個だけだったらまだ望みはあったかもしれねぇけどな」

 

無人の工場内を進む6人。しかし──

 

『ん...?』

 

突如として、無線にヴィータの怪訝げな声が入る。

 

『どうしたんだ、ヴィータ?何かあったのか?』

『いや、弾薬箱だ。焦げてるが、形はしっかり残ってる。中身が入ってるな。ロゴは...悪趣味なタコだ。カイザーと書かれてる』

 

ヴィータのその声に、無線越しに息を飲む音が聞こえた。

 

「アビドス、カイザーってのは?」

 

俺の質問に答えたのはノノミだった。

 

『...カイザーコーポレーション。このキヴォトス最大の企業グループです』

『ほう。連中とこの不良達の関わりは?』

『カイザーは手を選びません。おそらく、この不良を使って...』

「ヘルメット団が襲撃してきたのはそれが理由か。弾薬まで支援して。なぜだ?」

 

それは、とノノミが言った途端、無線から大きな雑音が聞こえる。

 

「クソ!地上チーム、大丈夫か!?」

『工場内のクレーンが崩落した!もうここも持たないぞ!』

『早く脱出するわよ!』

 

こちら側からは祈ることしか出来ない。頼む、無事であってくれ。

 

しばらく無線が途絶える。

 

『...おい、大丈夫なのか?』

『通信する。ヴィータ、こちらヘルハウンド3。無事なら応答してくれ』

 

通信への応答はない。

 

『頼む、全滅なんて冗談は聞きたくないんだ』

 

『...こちらヴィータ』

 

しばらくぶりの通信は、まさに聞きたかった男の声そのものだった。

 

「ヴィータ!無事か!」

『なんとかな。アビドスの5人も。工場は抜け出した...これから学校に戻る』

「全く、大変な1日だった。ヘルハウンド隊、RTB。コブ、学校に戻れ」

 

なんとか全員無事らしい。ほっと胸を撫で下ろし、コブを学校に戻して、俺達3機は空港に戻ろうとした時だった。

 

『いやいやいや、ドライバー、お前こそ学校に行くべきだぜ』

『ブッキーに全面的に同意だ。今日みたいに襲撃があった時に対応できるようにしておかないとな、ハハハ』

「...でも車を空港に」

『俺が運転していくから安心しろ、お前の手を煩わせはしない。さあさあドライバーは学校に行ってくれ1秒でも速く』

 

妙に早口になったブリックになんとなく引っ掛かりを感じつつも、俺は学校へと針路をとった。

 

 

 

 

 

 

『...本当に助かったぞ、ブッキー』

『お互い様だ。またあいつのドライブで帰ることになりでもしたら...うぷっ』

『お、おいブッキー早まるな!深呼吸しろ!コックピットをゲロまみれにする気か!?』

『2人とも行きでドライバーに何されたんだい...?!』




用語解説:カスカディア紛争
カスカディア戦争、カスカディア独立戦争とも。
アメリカ大陸の太平洋沿岸を領土に持つカスカディア連合は、その豊富な地熱・コルディアムエネルギーを背景に発展を続けていた。無論、太平洋沿岸の地熱エネルギー産出国で構成される太平洋連邦がこの国を見逃すはずがない。50年前のAC380年頃、カスカディアは太平洋連邦との協力関係を結ぶに至った。その後の時を経て、カスカディアは連邦の準加盟国ともいえる立ち位置に至った。連邦治安維持軍カスカディア方面軍の存在がその証左である。
しかし、連邦はカスカディアの産出するエネルギーを自国の拡張政策へと用いるようになった。そしてカスカディアの人々も、これを黙って見てはいなかった。
AC432年1月、ついにカスカディア自由市民政府とカスカディア独立軍は太平洋連邦への独立戦争を仕掛ける。
カスカディア国防軍の連邦派と独立派の内部分裂、さらに連邦との国力差から、多くの国は連邦の勝利を予想していたが、この戦争は傭兵戦力を活用したカスカディアの独立に終わった。
──カスカディアの国土の完全なる荒廃、という代償と引き換えに。

その後流れた陰謀論によれば、この戦争には裏の目的が存在するらしい。それはカスカディア独立軍にとって後暗いものであるようだ。
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