マガダンの英雄、先生になる 作:コルディアムに脳を焼かれた阿慈谷ヒフミ
...閃いた!
それと今回のタイトルは造語です。元ネタはProject Wingman: Flontline-59の第3ミッション“Mousetrap”からです。
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一足先に帰投した俺は、つい先程までコブが機体を止めていた屋上にVX-23を降ろす。無論、他に誰かいる訳でもなく、必然的に誰かが帰ってくるのを待つことになる。エンジンを切り、キャノピーを開いて空を見上げる。
「...綺麗な空だな」
時刻はもう1900を回っている。アビドスは、学校そのものが廃校寸前になっている以上、自治区に住む住民も少ない。生活の灯が少ない、寂しささえ感じる地上の景色とは対照的に、無限に広がる夜空は星の輝きをその全身に惜しみなく散りばめていた。吸い込まれるような
実の所、耐空証明の為に機体を出した時に、タラップ問題は解決していた。機体の中から降りれるように少々改修をしたのだ。降りようと思えばいつでも降りられる。
──いつでも降りられるからこそ、もう少しの間、満天の星空を目に焼き付けておきたいのだ。そう、あと、ちょっとの間だけ。この、誰にも邪魔されない1人だけの空間で、俺のためだけの夜空のショーを観劇したい。
ふと目が開く。気付かないうちに寝てしまっていたらしい。聞こえてくるのはディーゼルエンジンの重々しい音。どうやら誰かが戻ってきたようだ。時間を見るに、15分ほど寝ていたようだ。
星空を見ている途中で眠ってしまったことに多少の後悔を覚えつつ、タラップを降ろす。そして俺は、先に対策委員会の部室に戻って出迎えることにしたのだった。
「遅れた、ドライバー」
「言うほどだろ、ヴィータ。お疲れさん。それと、アビドスもな」
ブリック達より先に戻ってきたのはヴィータとアビドスの面々だった。全員、顔が疲れ切っている。それに、崩落する工場を逃げてきたせいか、顔が黒く汚れている。
「ここって風呂は?」
「シャワー室があります」
「先に行ってこいよ。せっかくのいい顔が台無しだ」
「全く、お前はそういうことをすぐに言う。だからストーカーなぞに付きまとわれたりするんだ」
「もう4年も前の話だぞ...。いらん事掘り起こしてないでさっさと行ってこい」
よりにもよってヴィータにあの事を掘り起こされるとは。 嫌なことを思い出して最悪な気分になりつつ、シャワーに向かった6人を見送った。
ヴィータが部屋の扉を閉めたのを見届け、パイプ椅子に体を投げ出す。蛍光灯の白い光が俺の目を焼く。先程まで見ていた、夜空の明かりと比べて全く風情のないその光に、思わずため息を漏らした。手持ち無沙汰となった俺の脳は、その空白を埋めるかのごとく、別のことを考え始めた。
「カイザーグループ、か。アビドスは一体何を腹に抱えてる?」
机に置かれた、悪趣味なタコが描かれた弾薬箱を見やる。あれが、アビドスを襲った奴らのアジトから出てきた事実。アビドス、お前達は、俺達に何を隠しているんだ──彼女たちが出ていった、対策委員会部室のその扉から、俺の視線が離れることはなかった。
「帰ってきたぞ...ってありゃ?ドライバーしかいねぇじゃねぇか。他の奴らは?」
何分か遅れてアビドスに戻ってきたブッキー達が、部室の引き戸を開く。しばらく視線を扉に固定していた俺は、ようやく意識を自分の制御下に取り戻したのだった。
「んあ、あいつらなら今シャワー室だぞ」
「お前も行けばよかったじゃねぇか」
「ちょっとばかし、考え事を、な...」
ブッキーにとっては、俺の考え事はさして興味を引く事柄ではなかったらしい。「ふーん」とだけ言い残してから、窓際の机に座り込んで外を眺め始めた。...やっぱこうして見ると結構な色男だ、こいつ。前にガールフレンドが出来ねぇ、みたいなことを言ってたが、このシーンだけ切り取れば、それを信じる者は誰もいないだろう。
「ま、あの子達が戻ってきたらあたし達もシャワーを浴びようじゃないか。...そういえば、ヴィータは?」
コブの問いに、アビドスとシャワーを浴びに行った、と答えると、一瞬コブの顔が歪んだのが見えた。尤も、それはすぐにいつものものに戻った。
「ヴィータなら、間違っても一緒に入ったり、ましてや手を出したりはしないか。...そこの小僧と違って」
うんうん、コブの言うことはもっともだ。確かに、ブッキーならやりかねな──
「目腐ってんのか兄弟、俺じゃなくてお前のこと言ってんだぞ」
「おい冗談だろ、そういうのはブッキー、お前の専売特許じゃないのか?」
「今日の昼の出来事を思い出してみて、同じことが言えるんなら褒めてやるよ」
「?」
「こいつダメそうだな」
そのブッキーの一言の後、俺以外の3人全員が一斉にため息をつく。...なんだか、今日は俺にとっては厄日じゃないか?マジで。ヘルハウンド隊の信頼・結束の危機に、隊長としてついたため息は、嘆かわしいことに、僚機からの冷たい視線を頂くという結果に終わった。
その後、戻ってきたヴィータ達と入れ替わりでシャワーに入った俺達は、もう遅いからと、空き部屋の1つを借りて夜を過ごすことになった。今日1日駆けずりまわった俺達は、布団に入りこんで数秒もしないうちに意識を手放した。
そして、翌日。
最初に目を覚ましたのは俺だった。腕時計を付けたまま寝ちまったらしい。壊れていないことに安堵しつつ、文字盤を見る。既に9時を回っていた。さすがに起きなきゃな。
「...ありゃりゃ」
どうやら俺が1番寝ちまっていたらしい。空き部屋には俺以外、誰もいなかった。流石に示しがつかんな、と頭を掻きつつ、着替えをしようとした時に気づいた。
俺達は着替えらしい着替えを持ってこなかったが、流石にあの汗まみれの服を着たままで寝るのは何かの拷問に等しい。そういう訳で、昨夜俺達はアビドスの予備のジャージを着て寝たのだった。...コブはともかく、他の野郎4人が女子生徒用の奴を着るのは...その、ムショに放り込まれてもおかしくはなかったが。緊急避難って言うだろ、多分それ。だから俺達は悪くない。
まぁ、何が言いたいかっていうと、今の俺には着替えるようなもんがないので、この犯罪的格好のまま部室に向かわざるを得ない、ということである。
日課のランニングを忘れたこともあり、若干憂鬱な気分になりつつ、部室へ向かう。
「悪ぃ、遅れた」
「ドライバーか。起こそうと思ったが、流石に昨日は色々あって大変だったからな。もっと寝てても良かったんだぞ」
「感謝するぜ...」
部室の中には、見知った顔が4つと、昨日知り合った顔が5つ。俺を寝かしておいてくれたブリックの心遣いに感謝しつつ、畳まれた椅子を展開して座り込む。
「おはようございます、ドライバー先生。昨日はありがとうございました」
「どうってこたぁねぇよ。やることやったまでだ」
「これでもう、あいつらはしばらく手を出さないはず」
「だといいがな...さて」
視線をカイザーの弾薬箱に移す。
「単刀直入に聞く。お前達とカイザーの繋がりは?友好的ではないんだろうが」
俺の質問を聞いた瞬間、何人かがたじろぐ。...ろくでもねぇことを抱えてるな。あんまり隠すようなら、少しばかり圧力をかけてやってもいいが──
「やめろ、ドライバー」
そう言って立ち上がったのはブッキー。戦闘機乗りとは思えないくらいにすらりとした手が、俺の肩を掴む。
「お前が何を考えてるかは分かる。だが...その上であえて言わせてもらうぜ。
そう言ったブッキーが、俺を座らせる。それ以降の言葉を紡ぐ役割はあいつに移った。
「悪ぃな、ドライバーの奴が怖がらせちまって。どうか分かって欲しいんだが...俺達はアビドスを助けに来た。それは嘘じゃない、断言する。だが、何を抱えてるか分かんなかったらよ、俺達も助けようがねぇんだ」
「空戦と同じだ。正確な状況把握こそが、勝敗を決する」
「このおっさんの言う通りだ。だから、教えてくれ。何があった?」
ブッキーとヴィータの言葉を受けたアビドスの面々が、口を開く。...ブッキーに任せてよかったな。相手が何でも熱くなっちまうのは俺の悪い癖だ。
「まぁ、簡単に説明すると...この学校、借金があるんだー。よくある話だけどさ」
「学校が借金か。確かに明るい話じゃあないな。いくらだ?」
「問題はそこでさ。聞いて驚かないでよ...9億円ぐらいあるんだよねー」
「......9億6235万円です」
「全く嬉しくない補足説明どうもありがとよ、アヤネ...」
最初に聞きだしたブッキーが、天を仰いで目を覆う。それはこの場にいるヘルハウンド隊の総意だろう。
「...奥空、一応聞いておくが、それが払えなかったらどうなる?」
「返済できなかった場合、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります」
次に目を覆ったのはヴィータだった。まぁ、予想はついちゃいたが。学園都市にとって、廃校が意味すること...それは恐らく、俺達がいた世界でいえば、“国家滅亡”に等しいだろう。地熱エネルギーに乏しい辺境ではよくある話だ。あるいは、連邦に目を付けられるような、地熱エネルギーが豊富な地域でも同じことが言える。
「そんな馬鹿げた金額、子供どころか大人でも払えやしないだろ」
「実際、返済できる可能性はほとんど0%に近く.....ほとんどの生徒は諦めて、この学校と街を捨てて、去ってしまいました......」
「あんたら対策委員会のみんなには悪いけど、あたしの子供がここに入ってたら間違いなく同じことをするね。そもそも子供が返済しないといけない時点でどうかしてるけど」
子持ちの親からすれば、そりゃあこんな所に子供を入れておきたくはないだろう。コブの気持ちはよく分かる。俺親じゃないけど。
「で、残ったのがお前達というわけか」
「学校が廃校の危機にあるのも、生徒がいなくなったのも、街がゴーストタウンになりつつあるのも、実は全てこの借金のせいなんです」
「行く途中でサビしか出てこない蛇口を見た。土木工事が本業の人間として言わせてもらうが、インフラが死んでる以上、はっきりいってこのままではそう長くは持たんだろうな」
ブリックの言葉は厳しいものだったが、年長者の的確な言葉に反論出来る者は誰もいない。
しかし、なんだってこんなこの世の終わりみたいな状況になっちまったんだ。
「アビドス、こうなった理由は?まともに学校やってたら特段借金するようなこともないだろ」
俺の問いに答えたのは、またしてもアヤネだった。
曰く、数十年前、とんでもない規模の砂嵐が起きたらしい。以前に起きていたものを凌駕するそれは、過ぎ去った後も学区の至る所に砂塵を残した。その対処をするにも多額の資金がいるが、田舎のアビドスにそんな金を貸してくれるようなところはそうない。...闇金みたいな、悪徳金融を除けば。
「...で、借りた先がカイザーの手下だったって訳か」
「最初はすぐに返せる算段だったと思います。しかし、砂嵐はその後も毎年、規模を増して発生し......学校の努力虚しく、学区内は悪化の一途を辿っていきました」
「それで行き着く先がこれか。アビドスの半分はもう砂に埋まって砂漠になってる。借金も膨らんで、まるで前を向けるニュースはないな」
ヴィータの言葉は、その場に沈黙をもたらした。
「......私たちの力では、毎月の利息を返済するので精一杯で......。弾薬、補給品も底をついてしまっていました」
「それも、昨日までの話だ。昨日渡した分でもしばらく持ちはするだろうが...継続支援を受けられるように、連邦生徒会に改めて言っておく」
「重ね重ね、ありがとうございます...!」
さて、と全員の視線を俺に集中させる。
「これで分かったな?ヘルメット団の連中を押し返した今、アビドスに立ちはだかっているのは借金返済だ。俺達はこれを何とかしなきゃならん。すぐに返せるようにとは言わずとも、安定した返済の道筋を立てる必要がある。ヘルハウンド、仕事を「ちょっと待って!」
俺の演説を遮ったのはセリカだった。彼女の顔は...感情的だな。大方、何を考えてるかは分かるが...聞いてやろう。
「はい、セリカ。どうした」
「そうやって急にズカズカ私達の学校の問題に入り込んできて...!どうせ、少し経ったら放り出して逃げるんでしょ!?」
「ほう、根拠は?」
「根拠!?根拠って...そうだ、今まで大人達は、このことにほんの少しでも気に留めたりしてこなかった!そりゃ、先生達がヘルメット団を追い返してくれたのは分かってるけど...!」
「黒見、いい加減に」
「黙れ、ヴィータ。下がれ」
口を挟もうとするヴィータを止める。今は、セリカが自分の気持ちを吐き出している。そこを止めてはいけない。
「私達の学校は、私達でどうにかしてきた!今までも、そしてこれからも!ずっと目を背けてきたくせに、今更首を突っ込んでくるなんて、私は絶対認めないから!」
そう言って、セリカは部室の扉を乱暴に開け放ち、どこかへと走り去っていってしまった。
「おい、セリカ!...ああクソッタレ、こうなるはずじゃなかった」
「思春期さ。ああもなる」
「だが心配だな...あの状態ではどうなることか」
「誰かがセリカを見に行ってやらんとな」
恐らく、俺やヴィータが行っても逆効果だろう。ブリックは...何となく体力が尽きる未来が見えた。残るはコブとブッキー。そして、どっちがティーンの気持ちが分かるかと言えば...
「ブッキー、お前が行ってやれ。歳も近いだろ」
「冗談かよドライバー、10歳差だぞ」
「他の俺達よりはマシだろ。さぁ行った行った」
「クソ、この格好で外には出たくなかったんだけどな...おい、セリカ、待て!」
そして、ブッキーもセリカを追いかけて出ていく。頼むぞブッキー、セリカを頼んだ。
...それと、その格好でサツに見つかったりはしないでくれよ?
「...おかしいと思わないかい、ヴィータ?」
「なんだ、コブ」
「あの子達は『利息を返すので精一杯』って言っていた。金を儲けたいなら、カイザーからすればその状態が理想的なはず」
「だが奴らはヘルメット団に襲わせた...」
「カイザーはただ金儲けをしようなんて考えていないんじゃないか?」
「アビドス問題は、ただの
用語解説 辺境
大厄災後の世界において、覇権を制した国家が太平洋連邦であることはもはや言うまでもない事実・常識であるが、なぜ覇権を制したか?と言われれば、それは「地熱エネルギーとコルディアムの掌握」にまとめられるだろう。
このように、大厄災後の世界においては地熱エネルギーおよびコルディアムの重要性は、その国家を左右するレベルにあるといえる。
主に環太平洋地域が豊富な地熱資源を持つ一方で、地熱資源を持たない国家も無論存在する。そのような国家は基本的に悲惨である。
つまりどういうことかと言えば、ドライバーのセリフを引用して簡単に説明すると「無政府状態革命内紛ゲリラ戦の4点セット」である。さらにいえば、ここに犯罪組織と、弱い軍隊の代理を務める傭兵が加わり6点セットになる。
このような不安定な国家には、太平洋連邦治安維持軍および連邦垂直海軍エアシップ艦隊“タスクフォース1”による鎮圧と治安維持、空域封鎖が行われることもしばしばである。
オセアニア戦争の後、このような国家の三大国──つまり、西アフリカ協定、統一カーンエウロパ同盟、そして太平洋連邦との連携を深める動きが活発になったが、時間が経つにつれて、彼らは超大国による秩序以外のあり方を考えるようになっていった。その動きは、太平洋連邦のカスカディア紛争での致命的敗北の後、カスカディアによる支援を受けた辺境諸国の連邦への大反乱という形で露見することになる。
余談ではあるが、連邦が自身の勢力維持に固執して辺境への配慮を一切見せつけなかったのとは対照的に、戦前からカスカディアはそれら辺境諸国への支援の手を差し伸べてきたことから、基本的に彼らから見たカスカディアの印象はいいものとなっている。しかしながら、彼らも連邦の力を理解していないわけではいないため、カスカディア紛争時にカスカディアを支援しようとする動きはほとんどなかった。
今や彼らは、傭兵達の避難所と化したカスカディアの援助の元、連邦への復讐と、自らが築く新世界のために、かの超大国へ十字軍を進軍させている。