マガダンの英雄、先生になる   作:コルディアムに脳を焼かれた阿慈谷ヒフミ

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BF6ベータにかまけてたらこんなことに...。
それはそうとBF6は皆さん買いましょうこれは脅迫です


Protocol 2-6: Average Kuromi Day

「はぁっ...はぁっ...どこだ...?」

 

ドライバーに言われ、セリカを探しに出たはいいが。あいにくここの土地勘は全くと言っていいほどない。

 

「...にしても」

 

あのセリカの拒絶の激しさ。余程大人に痛い目に遭わされてきたようだ。助けを呼んだのは今回が初めて、という訳では無いだろうし、「気に留めたりしてこなかった」、という言葉からして、今までここの大人はろくに助けの手を差し伸べては来なかったのだろう。

 

「...無責任な奴らめ」

 

ここキヴォトスの大人のあまりの無責任ぶりに、顔も知らない奴らへの怒りが込み上げてくる。

 

前、カジノで働いていた時にいたクズ客のことを思い出す。カジノにわざわざ来る奴なんて方向性の違いこそあれど、基本的には人間のクズばかりだ。相手がクズだろうと、こちらからすれば金を落としていく客だから丁寧に対応しなければいけないのだが。

その中でも飛び抜けたクソ野郎がいた。そいつはマガダン政府の役人だかなんだかで、まぁまぁ偉い奴だったらしい。別に大してそいつの仕事に興味があった訳では無いのだが、ハイローラーラウンジの客──つまり、上客だったので否が応でも対応しないといけなかった。

 

そいつの話は──まぁ、大半はつまらんし、特に気になるものでもなかった。ここで話すことでもねぇような、そんなこと。それを適当に相槌打って話を続けた当時の俺を褒めてやりたい。

 

だが、そいつが酔い出してきてベラベラといらん事を喋りだした。問題はここだ。あいつ、なにを喋ったと思う?

そいつには、愛人が何人もいたらしい。その愛人を妊娠させて、そのまま逃げただと。しかも、政府のお偉いさんだからいろんなところに圧力かけて揉み消したとか言ってやがった。こういうことが簡単に出来るのは、政府の権力が強い連邦ならでは、とかぼさいて笑ってた。流石に絶句した。

 

──いや、正直まだそれなら耐えられた。多くは無いが、そういう話はたまにある。

だが、この話には続きがある。あるとき、辺境出身の、とある愛人の1人との子供と会うことがあったらしい。全くの偶然だったその遭遇で、自分に気づいて寄ってきた子供を、「汚いガキ」「辺境の汚い血」と振り払ったことを、悪びれもなく話してきやがった。

 

いい加減、聞くに堪えなかった。つい手が出ちまったせいで、俺は3ヶ月くらい給料を減らされ、毎日の生活を黒パン3個で凌ぐことになった。

 

まぁでも、後悔はしていない。そりゃ褒められることじゃないんだろうが、間違ったこととは思わねぇ。今でも同じことをするって自信もって言える。ちなみに野郎はその後、マガダンのコルディアム精製施設誘致事業で賄賂貰ったことがバレて普通に辞職させられたらしい。ざまあみろってんだ。

 

まぁ要するに何が言いたいかって言うと、無責任で、自分に都合のよいことしか考えないアホ野郎は大嫌いだ、という話だ。

その点ヘルハウンドはいい。隊長から最年長のおっさん、監視役のオセアニア人まできちんとした奴ばかりだ。...いや、ドライバーは別の方向でアレだが。

 

「...はぁ」

 

セリカは見つからない上に、クソ野郎のことを考えてたら気分が悪くなってきた。シガレットケースから1本取り出して、火を付けようとポケットを探ったところで気づく。ライターをシャーレに置いてきていた。急いで出てきたからライターを持ってくのを忘れていたのだ。

 

「やっちまった。クソッタレ...」

 

行き場のないイライラがもう一段積み重なる。これだからタバコなんてのは良くない。吸えないと無性に腹が立つようになる。18の時、ハイスクールの友達に誘われて吸っちまったのが全ての始まりだった。あそこでやめとけば良かった、と言っても後の祭りだが。

 

「流石にコンビニくらいあるだろ...探すか」

 

コンビニ探す途中でセリカも見つかるかもしれねぇし、と自分を無理やり納得させる。そうして俺は、砂に埋もれた街からコンビニを探し出す、無謀な挑戦へと向かったのだった。

 

 

 

「おっ...あるじゃねぇか」

 

周囲をさまようこと約10分。無謀な挑戦かと思われたコンビニ探しの旅は、アビドス高校周辺散歩という形に終始した。

 

自動ドアとエアコンの冷風の出迎えを受ける。ここアビドスは、砂漠という性質上、昼間は暑く、夜間は寒い。現在時刻は9時半、そろそろ本格的に暑さがまずくなってくる頃である。そういうわけで、このコンビニは砂漠の中のオアシスと称するに相応しかった。

 

お目当てのライターと、水分補給用のミネラルウォーターを1本、レジに持っていく。

 

「お会計は247円になります」

「カードで」

 

俺は現金よりクレジットカード派である。現ナマを持ち歩くのはあまり好きじゃあない。トラブったら厄介だからな。いつも財布の定位置にある、連邦ではシェア率No.1のブランドのカードを取り出して──ん?連邦?

 

「...やべっ」

 

そうだ。ここはキヴォトス。連邦のカードが使えるわけが無い。現金はもちろん持ち歩いてない。そもそもこっちで使える金は、競馬で勝って得たのを全部新設した口座にぶち込んだ分しかない。そりゃ連邦の通貨がここで使えるわけもないしな...。

 

「お客様?」

 

ヤバい、気まずい。煙欲を我慢するしかないか──そう思い、購入をやめようかと思った時だった。

 

財布の中、カードポケットの3番目に、見慣れない黒色のカードがあるのが見えた。

 

...おかしいな。俺は空軍予備役の特権で、結構利用限度額は多かった。おかげで2枚しかカードは持ってなかったんだが。見慣れない、3枚目の黒いカードはブランドも記されていなかった。

 

なんだこりゃ。こんな訳の分からんカード、使ったらどうなるか...。いや、どっちにしろ、他に払う手はねぇ。安全策と煙欲の天秤は、果たして煙の方に傾いた。店員に黒いカードを差し出す。

 

「ありがとうございましたー!」

 

...買えちまった。どこの馬の骨だか分からんカードで、ミネラルウォーターとライターを。あとで身に覚えのない変な請求が来たりとか...ないよな?

 

「ま、請求来たらその時だな...」

 

ビニール袋からライターを、シガレットケースからタバコを1本、それぞれ取り出す。

咥えたタバコに火を付けてやると、なんのことはない、いつもの味が口の中を満たす。今やVX-23VTLを除けば、このタバコのみが、俺達の故郷たるあの世界を思い出す唯一の存在になっていた。連邦は今頃どうなってるやら。

 

「残り10本...計画的に吸わねぇと無くなるな」

 

この故郷の味も、あと10本吸えばもう2度と味わうことが出来ない。そう考えると、この数百円の1箱が、途端に価値をつけられないほどのものに思えてきた。

 

今の時代、歩きタバコなんてものは褒められたものではないだろうが、この砂に埋もれた街にそれを咎める者などいない。咎める者がいない以上、それを辞める理由はないわけで。とりあえずの1本を、ほっつき歩きまわりながらちまちまと吸う。

 

「...ちょっと!歩きタバコは止めなさいよ!」

 

...ああ、咎める者がいなければ、って言ったよな。どうやらいたらしい。それも───

 

「...って、あんた...!」

 

よりによって、探してた相手だなんてな。

 

 

 

俺達がいかに憎い相手であろうと、流石に歩きタバコしている奴をそのまま放っておく訳にはいかないらしい。俺は近くの公園まで案内され、そこの灰皿で泣く泣く貴重な1本を潰すことになった。探している人間を見つけられた、という意味では、その犠牲は無駄ではなかろうが。

 

「じゃあ私はこれで」

「なぁ、ちょっと待ってくれ」

 

俺の声を聞いたセリカが振り返る。彼女の赤い双眸が、俺を貫く。ほとんど睨んでいる、と言った方がいい顔つきだった。...だが、俺としてもここで引く訳にはいかねぇ。

 

「...お前達が大人を信用しない理由は、分かるぜ。今までずっと見て見ぬふりを続けてきたような奴、急に信用しろなんて言われたって無理な話だ。俺もそうだ」

「...何?そうやって同情してる素振りで懐に入り込もうってわけ?」

「同情じゃねぇよ。同じ立場に置かれた訳でもねぇのに出来るか。理由が理解できるってだけだ」

 

俺の言葉に、彼女の顔が疑念に満ちる。目の前の男は何が言いたいんだ──ってか。だから、俺は伝える。ありったけの、本心を。

 

「...俺達は、お前達を助けたい。その気持ちに嘘はない。神に誓ってもいい。俺達にはそれが出来る」

「そう言って、私達を都合よく使い倒すんじゃないの?」

「賭けるか?もしそうなったら、俺達全員の頭を撃ち抜いて構わない。俺はベットしたぞ」

 

──ああ、やっちまった。ハイローラーみたいなことはしないことにしてるのに、勝手に仲間の命をベットしちまった。これじゃあ、例のマガダンの役人を笑えねぇな。

 

「ちょっと、本気で言ってるの?」

「マジのマジだぜ」

 

こうなりゃ大博打だ。打てるとこまで打ってやる。

 

「...だから、セリカ。お前も1つ賭けてみねぇか。アビドスの未来ってやつをさ。俺達の命とアビドスの未来、どっちも取ってみようぜ。プレイヤーはお前、ギャンブルらしく勝者総取りさ。それとも...こういう儲け話には、あまり興味が無いか?」

 

さあ、あとはお前次第だ、黒見セリカ。賭けに乗るか、乗らないか。目の前の男を、お前は信じるか?

 

「...なによ、それ。平気であんたと仲間──先生達の命を賭け事に差し出すの?」

「それでこそブッキー(賭け屋)だろ?」

 

赤い双眸が、どこか揺らいで見える。

 

「...ふふっ」

 

その顔は、くしゃりと歪んで。

 

「あっはっはっはっ!!」

 

少女の笑顔へと、すぐに変わった。

 

「あっはっはっ...全く、ブッキー先生って面白いじゃない!」

「あ、ああ。そいつはお褒めに与り光栄...って言った方がいいのか?」

 

急に笑い出すもんだから、俺の方も驚いちまった。思ったようなリアクションが出来ない。でも、ああ。悪くない反応が貰えた。

 

「アビドスの未来と先生達の命を賭ける...全く、本当に真面目に思ってるの?」

「だから言ってるだろ?大いに本気さ」

「ふふっ...でも、そうね」

 

一呼吸置いたセリカが、言葉を繋ぐ。

 

「悪くない...かも?」

 

「──それじゃあ」

「乗るわ。これで本当に未来が見えてくるなら...私はアビドス高校の未来を賭ける」

 

セリカの顔が、柔らかく綻ぶ。その表情と赤い瞳に、吸い込まれそうに──

 

「ん...?どうしたの?」

「...!ああ、いや、なんてこたぁねえよ。本当に、なんてこたぁねえ」

 

危ねぇ。俺は一応先公だったんだ。さすがに教え子にあたるガキにそういう感想を抱くのは良くねぇな。まぁでも、ともかくこれで、一旦はセリカとの関係改善も果たせたってことになるか。

 

「ふーん、怪しい...って、もうこんな時間!」

「んあ?」

「ごめん、ちょっと行ってくる!」

 

どこへ、という前に、セリカはどこかへと行ってしまった。...なんつー足の速さだ。100m10秒台くらいはあるんじゃねぇか。さすがにそれは言い過ぎだろうか。

 

「ひとまず、アビドスに戻るか」

 

やることは果たした。俺は、記憶の中の歩いてきた道程を辿りながら、たった今勝手に命をベットした仲間の待つアビドスへと歩を進めた。

 

 

 

「...へぇ、すごいじゃないかブッキー。思春期の女子高生を懐かせるなんてよ」

「また人聞きの悪い言い方を...」

 

若干迷いつつ、無事にアビドスに戻った俺は、対策委員会の部室でからかってくるブリックを適当にいなしていた。

目下の課題だった家出娘も、こっちの味方につけることが出来たし、とりあえずはアビドスの問題に向き合う余裕が生まれたわけである。...尤も、俺達5人に限っては、他に向き合わねばならない謎があるわけだが。例の黒いカードだ。各々が財布から取りだしたそれを机に並べる。見たところ、それぞれの見た目上の違いは無さそうだ。

 

「しかし、ブランドも分からない謎のカードとはね。あたしの財布にも入ってたけど、なんでそんなものがあるんだか」

 

「そもそもこれの請求の行く先が分からん。ブッキーが言うには、無事購入出来たらしいが」

「今リンちゃんに聞いてみたけどよ、そんなカード入れてねぇだと。本当に謎のカードだな」

 

パチパチと、ドライバーがカードを指で弾く。改めてカードを眺めてみるが、このカードはさっきから同じように、プラスチックの質感と、マットブラックの色味を放っていた。

 

「考えても仕方なかろう。ブッキーの方に請求が来たら何か分かることがあるやもしれんが...こんなことにかまけている暇はアビドスにはあるまい」

「んー...まぁ、ヴィータの言う通りか。しゃあねぇ、ブッキーは請求来たら教えてくれ。とりあえずこの謎のクレジットカードについて考えるのは一旦やめだ。使うかどうかは...まぁ、本人次第ということで。とりあえずアビドスの明日を考えよう」

 

必然的と言うべきか、このカードについての議論は、一時保留──早い話が、先延ばしという形で今は決着をみた。

 

「大丈夫ですか、先生?」

「問題ねぇ。いや、あのカードのことは分からんには分からんが、考えても仕方ねぇからな。今日の廃校対策会議を始めようぜ」

 

記念すべき、シャーレを交えた初のアビドス廃校対策会議。進行はアヤネに託された。

 

「それでは今日の議題ですが...」

 

...その瞬間、部室に気の抜けた音が響く。誰かから響いた腹の虫の鳴き声によって、記念すべき初会議は10秒で終了した。

 

 

 

「アビドスは寂れちまったって聞いたが、まだやってるとこはあったんだな」

「生徒は確かにほとんど居なくなりましたが、まだ住み続ける住民の方もいます。入りましょう」

 

昼飯を食いにやってきたのは、砂にまみれた繁華街。建物の多くは窓にヒビが入るか、そもそも窓が無くなっていた。そうでなくとも、誰かが中にいる気配というのはおよそなかった...この柴関ラーメンを除いて。

マガダンにもラーメン屋というのはあったが、なかなか美味かったのを覚えてる。高かったけどな...。

 

「...待ちください!3番テーブル、替え玉追加です!」

 

扉を開けた先から、ついさっき聞いたばかりの声が聞こえる。なるほど、ここがバイト先ってのは本当か。今日は昼で早退するとか言ってたらしいが、合点がいった。

 

「いらっしゃいませー!柴関ラーメンで...」

 

そこまで言いかけて、目の前の少女の声が止まる。代わりに出力されたのは困惑と驚愕か。

 

「すまない、9人いるんだが、席はあるだろうか?」

「仕事に精が出るじゃないか、セリカ」

「ん、ブリック先生、おじさんっぽい」

「おじさんぽいっていうか実際おっさんだろ」

 

セリカはというと、俺達がバイト先を当てたことにかなーり動揺しているようだった。...いや、そりゃそうか。バ先特定されて動揺しない奴の方が少ない。ストーカー9人組である。

 

「み、みんな...どうしてここを...!?」

「セリカのバイト先ならここって、ホシノが」

「ホシノ先輩いいいーっ!」

 

セリカの絶叫に思わずみんなして笑ってしまう。名役者黒見セリカ、流石のリアクションだ。本人にしてみりゃ笑い事でもなんでもないだろうが。

 

「っていうか!ブッキー先生も止めてよ!」

「さっきお前ここがバ先って教えてくれなかったじゃねぇか」

 

無理を言わんでくれよ、セリカ。さっさと走っていっちまったのはお前の方だぜ。

 

「アビドスの生徒さんたちか。セリカちゃん、おしゃべりはそのくらいにして、注文受けてくれ」

 

そう言って店の厨房から出てきたのは、額に傷の入った、いかにも職人という風体の犬型の人物だった。慣れというのは恐ろしいもので、もう犬が喋って立って飯作ってるくらいじゃ驚かなくなっている。柴犬とヘルハウンド、犬同士仲良くしましょう──なんて言ったらあのデカイ鍋に顔をぶち込まれて窒息死させられそうなので言わねぇが。あとついでにコブにボコボコにされて、ミンチにされるではすまなさそうだ。さすがに学習する。

 

「うっ、大将...はい。それでは、広い席にご案内します...こちらにどうぞ...」

 

可哀想なセリカ。いくらかの不平不満でも言いたそうだが、そこで堪えてきちんと対応するだけさすがだ。少なくとも、気に入らない客をぶん殴って数ヶ月まともな飯にありつけなくなるよりは。9人の中で1番先を行く俺に時たま向けられる赤い瞳は、少しの間見なかったことにした。

 

さすがにボックス席といえど、9人も入る訳もなく。シロコやノノミあたりは隣にどうぞと俺達に言ってきたが、結果的にアビドス4人と俺達シャーレ5人の2組に分かれることとなった。

 

「いや〜セリカちゃんはユニフォームでバイトする派かー。よく似合ってるじゃん。どう先生、セリカちゃんの写真、1枚買ってみない?」

「言い値で」

「ブッキー先生!」

「わっ、ちょっ、悪いって!ただの冗談だ!」

 

席の仕切り越しに悪い顔をして売りつけてきたホシノと、完全にキレた顔でこっちに迫ってくるセリカ。セリカはあまり冗談が通じない、と。...厳選すればセリカの写真集、売れそうだな。俺が監修してやってもいい。

 

「全く、頑張って働いてる子にそういうことをするんじゃないよ。で、いつからバイトは始めたんだい?」

「い、一週間くらい前から...です...」

 

強気なセリカも年上の女性にはあまり強く出れないと見た。コブの質問に対しては敬語になっている。

 

「へぇ、立派なもんじゃないか。そこのカジノ小僧も見習いな」

「へいへい...。ところでセリカ、写真集の件についてだが前向きに」

「ちょっと、写真集ってなによ!ああもう、ご注文は!?」

「『ご注文はお決まりですか』でしょー?」

 

俺とホシノの連携技で、セリカの顔が今にも爆発寸前になっている。おっと、さすがにマズイか。

 

「くっ...ご、ご注文は、お決まりですか...」

 

おお、耐えた。やるじゃあないか。心の中でこの哀れな少女に拍手を送る。誰のせいだ、って言われたら何も言い返せねぇけどな!

 

そうして9人分の注文を取り終えたセリカの背中を見守る。うーん、この後ろ姿だけでも絵にな──

 

「!?いってぇなヴィータ、何しやがる!」

「オセアニアの勘だ。何かよからぬことを考えていただろう」

「訳分かんねぇ!俺がドライバーの心読めるのと同じかよ!?」

「仕組みなぞ知るか」

 

すぐにそっぽを向いたヴィータを睨みつける。畜生、敵しかいやがらねぇ。

 

そして席にきたラーメンは、以前食ったものとは全く比べ物にならなかった。圧倒的な量、そして美味さ。塩分たっぷりの、あからさまに不健康であろうラーメンは、夏の砂漠を歩き回った体にはよく効いた。

 

「ふぅー、食った食った。美味かったぜーセリカ。また来る」

「二度と来ないで!みんな嫌い!死んじゃえー!」

「おっと黒見大将がお怒りだ!さっさと逃げるぞヘルハウンド!」

「特にドライバー先生は出禁!!!」

 

うがーと叫ぶセリカを尻目に9人全員で逃げ出す。うーん、あの調子なら問題なさそうだな。まぁ、でも...。

 

「なぁドライバー」

「んあ?」

「明日、セリカが来たら1回ちゃんと仲直りしてやれよ。大丈夫だとは思うけどよ、あんな事があった後だし。俺にはああやって言ってたが、ドライバー、お前個人についてどう思うか──それはまた話が変わってくるだろ」

「ま...そうだな。あいつも思うところはあったのは分かる」

「黒見の考えることは分からんでもないが、だからといって我々が引く訳にもいかんぞ、ヘルハウンド」

「ああ分かってるさヴィータ。だからこそ、俺達10人は協力していかなきゃなんねぇ。そのためにも、改めてセリカときちんとナシ付けねぇとな」

 

いくらセリカが俺達に賭けたからって、俺はともかく、それ以外のヘルハウンドについてどう思うか...少なくとも、今日の朝よりは印象は良くなってるだろうが、それでも不安要素は可能な限り取り除きたい。

 

照りつける日差しが、ダーツのように俺に突き刺さる。腕時計の時間は、1300を指していた。やれる仕事はいくらでもある。アビドスに着いたら、まずは()()を探さないとな。ここからは、大学の知識の活かしどころだ。

 

 

 

そうしてアビドス中を漁った末に見つけたお目当てのモノ──貸借対照表とのにらめっこを始めた。

 

───セリカが行方不明になった、と言ってドライバーが部屋に駆け込んで来たのは、にらめっこを始めて何時間も経った頃の話だった。




用語解説: コルディアム
地球が大厄災で吹き飛んだ後の世界、つまりAC(アフター・カラミティ)暦の世界(メタ的には「World On Fire(燃える世界)」)を語るには、このコルディアムという物質の存在抜きには不可能であろう。
この自然金属と絶縁体の化合物は、旧世界が焼き尽くされてから400年が経ち、新たな世界が構築された今日に至っても、その組成はよく理解されていない。分かっていることと言えば、深部マントルにおいて生成されること、それが莫大なエネルギー源となること、取り扱いを誤れば大都市がひとつ滅ぶ危険性を孕んでいることである。40年前、取り扱いミスによりカスカディア建国時に首都プレシディアに次ぐ第2の都市だったソルスティティウムにおいて数千人の死者を出す事故が起き、それ以降カスカディア国防軍によってソルスティティウムが閉鎖されたことは未だに人々の記憶に新しい。以降はカスカディア連合と太平洋連邦間で新たな採掘規制が結ばれた。

この物質は深層石油採掘のプロセスを応用して採掘されている。しかしながら、コルディアムは高い揮発性を持つこと、反応を放置するとカスケード反応によって他のコルディアムに連鎖的に反応し、最終的に壊滅的な破壊をもたらす可能性があることから、それを防止するための方法がいくつか存在する。不活性コルディアムを容器内に固定したり、中和剤を投入することがその一例である。しかし、少なくとも中和剤投入は他の地点におけるコルディアムの圧力を高める可能性がある。これは最終的にカスカディア大災害をより致命的なものにした一因とも推察される。

コルディアムをエネルギー源として活用する試みの結果、現在おもに使われているのは以下の手段である。
①まずコルディアムを安全なエンジン内に配置し、吸収させる。
②触媒を導入する。こうすることで、反応は抑えられたものになる。
③しばらくして、反応は安全かつ管理可能なレベルになる。
こうしてコルディアムは発電や、エアシップの推進源として活用されるようになる。

この莫大なエネルギーは、それ自身より遥かに大きな機械を駆動させるが故に、家庭用レベルへの小型化は失敗してきたし、人工的に生成する、あるいは兵器化するといった試みも幾度も試されてきたが、少なくともカスカディア紛争勃発前には実用化に至らなかった。

しかし、カスカディア紛争中に太平洋連邦はコルディアムの兵器化に成功してしまった。AC432年6月2日、カスカディアの大都市プロスペロに向けて発射された大量のコルディアム弾頭巡航ミサイルは、結果的に太平洋一帯に大厄災の再来をもたらし、8月23日、クリムゾン1が発射したコルディアム弾頭ミサイルがもたらしたプレシディア大災害と合わせ、この紛争の150万人の戦死者のほとんどを占めた。

また、前回記したように、コルディアムが取れる地域とそうでない地域、つまり辺境の間には、埋めがたい格差が存在する。

Project Wingmanの世界の歴史とは、それ即ちコルディアムの歴史を意味するのだ。
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