マガダンの英雄、先生になる   作:コルディアムに脳を焼かれた阿慈谷ヒフミ

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アリウス追加日が誕生日なの、あまりにプレゼントでした。
評価・感想よろしくお願いします。


Protocol 2-7: Rescue

「セリカとはいつから連絡がつかない?」

「6時頃から、ずっと電源が入っていないみたいで...」

「ドライバー、セリカはラーメン屋を定時に出たらしい」

「バイトを上がってから家に帰っていない、か」

 

対策委員会の部室では、アビドスのメンバーと俺達シャーレの5人を交えて、セリカが消えたことについて話していた。

ドライバーに連れられて来た俺は、そこで交わされる会話をじっと聞いていた。何かを話そうにも、話せることもない。

 

「...ブッキー、大丈夫か」

 

ヴィータに肩を叩かれる。顔を見上げると、その場の全員の視線が全員俺に向いていた。そこで俺は、ようやく部室の扉前で立ち尽くしていたことに気づいた。

 

「あ、ああ。なんも心配いらねぇよ」

 

とりあえずのところでヴィータに当たり障りなき返答をする。実際のところどうか、はまた別の話だが。

 

「なら構わんが...そういえばお前は黒見と近かったな?」

「確かにね。ブッキー、あんたはセリカがどこに行ったか見当は付かないのかい?」

 

そんなの、俺が知りたいくらいだ──という言葉を腹の中に押し込む。

 

「...残念ながら、何も」

「...そうか」

 

ヴィータはそれ以上言いはしなかったが、その顔に僅かな落胆の表情が浮かんだことを見逃さなかった。

 

──クソ、情けねぇったらねぇ。アビドスの未来を──なんて、ふざけたセリフを吐いてその日のうちに生徒が行方不明になるなんて。

 

俺に出来ることがないか、頭を捻るが案は出てこない。職場じゃ要領が良いって言われてたのに、いざと言う時に使い物にならないのではなんの価値もねぇ。

 

(畜生...せめてあいつの最後の位置だけでも分かれば...)

 

この世界にもGPSはあるらしい。多分スマホにはGPS受信機能が付いているだろう。セリカのスマホを追うことが出来れば、あいつが連絡をロストした位置が分かるはずだ。

 

そんなこと、俺には無理だという話さえ無視すれば悪くない案だと思う。実現可能性のない案など、ケツ拭く紙にもなりやしない。

 

誰か出来る奴はいないか。ITエンジニア、天才ハッカー、スーパーAI、なんでもいい──

 

(...スーパーAI)

 

...なんだそうか。そう悩むことでもなかったじゃねぇか。

 

「...とにかくアビドスの警察に連絡をしてくれ。どんなゴミでもマガダン首都(ストラトフォン)のアホよりは使えるはず...っておい、どうしたブッキー」

 

ドライバーの傍においてあったそれをひったくり、電源を点ける。画面に、すっかり見知った顔となったスーパーAIが映し出される。もっとも、今見せている寝顔を見て、スーパーAIだと思う者はいないだろう。

 

「起きてくれ、アロナ。仕事を頼みたい」

「ふぁあ...なんですか、ブッキー先生...アロナちゃん、お昼寝に忙しいんですよ...」

「もう昼どころか夜だぞ。...セリカが消えた。位置情報を追いたい。協力してくれ」

 

俺の声に、呑気に目を擦っていたアロナの目が見開かれる。

 

「...本当ですか?セリカさんが?」

「そんなくだらん嘘はつかねぇよ。アロナなら、セリカの携帯の位置情報くらい追えるだろ?」

「もちろんです!ですが...」

 

アロナの表情が暗いものに変わる。不都合でもあるのか。

 

「...追跡するには、連邦生徒会のデータベースへの侵入が必要になります。それ自体は難しくないのですが、もし発覚したら大目玉では済みませんよ!」

 

なるほど、それは確かに。要はハッキングして個人情報にアクセスするのだ、大目玉を喰らわないほうが道理にかなわないだろう。

だが。

 

「言いたいことは分かる。だが、それの何が問題なんだ?ここで尻込みして永遠にセリカが帰って来なくなったら?」

 

アロナだって俺の事を心配してくれているに違いない。それでも。

 

「男には腹括らないといけねぇ時がある。それが今だ。バレたら俺の首を差し出せばいい。ポーカーが、機を逃したらもうチャンスは巡ってくるとは限らんのと同じように、こうしてる間にもあいつが遠くに行っちまってるかもしれねぇ」

 

皆からの視線は不思議と気にならなかった。オッドアイのスーパーAIに頭を下げる大の大人は、果たして周りからどう映っただろうか。

 

「頼む。いざとなったら俺を生贄にすればいい。リンへの手土産はそれで十分だろ」

 

これは、どちらかと言えば祈り。目の前の切り札への。それがダメでも、ダスト・マザーでもなんでも、縋れるならものなら何だろうと縋ってやる。

 

「...少し、待ってください」

 

そうしてアロナが目を閉じた。時計が普段と何ら変わらぬ時を刻む音と、いくらか早まった、俺の心拍音が耳の中を支配しきった。

俺の耳の中の二頭政治は、やがて一人の少女によって打ち破られた。

 

「見つけました。セリカさんのスマートフォンの最後の位置は...」

 

ここです、と開かれた地図アプリのうちの一点をアロナが指し示す。

 

「...ここは」

「砂まみれの市街地の端じゃないか。なんでこんな所に」

「だからこそ、だろう。こういう所は大抵治安維持が行き届いてない。そして、そういう所にはチンピラやギャングが居座ってる。オセアニアでも同じだ」

「...?」

 

ヴィータの言いたいことがよく分からん。だからこそ、ってなんだ。セリカがそういう連中と関わりがある、とでも言いたいのか。

 

「ヴィータ、あんたはあの子がチンピラ連中みたいなのとつるんでると思うのかい?」

「まさか。その逆だ。むしろ被害者だろう」

「被害者って...あっ」

 

ヴィータの気づいたか、と言わんばかりの顔。まさか。

 

「...連れ去られたか」

 

パイプ椅子に座り込んだブリックが天を仰ぐ。その一言が、部屋に溶け込み、消えることなく俺達の頭に響いた。

 

 

 

「誰が、連れ去った」

 

なんとか呟いた一言は、自分でも恐ろしいほど低かった。こんな声は、今までそれなりに生きてきた中でも出したことがなかった。

 

「以前、脅威分析を行った時にそのエリアを分析したことがあります。そこは、カタカタヘルメット団の活動が多く確認されました」

「連中懲りねぇな。人質でもとって、俺達が手を出しづらくする気か」

 

ドライバーが爪を噛む。ここにいる全員が同じ思いだった。

 

「ここで考えていても仕方ありません!急いでセリカちゃんを助けに行きましょう!」

 

ノノミの声に、ドライバーが顔を上げる。そうして一つ息を吐いた。

 

「...そうだな。サツを待ってる暇は無い。実力行使の時間だ。ヘルハウンド、任務開始だ」

 

隊長の命令に異を唱えるものは、ここに誰ひとりとして存在しなかった。

 

 

 

地上管制をヴィータやブッキーに引き継いで、俺は校舎屋上に向かっていた。

今回空に上がるのは、俺1人。単純にあいつらを空港に向かわせている時間がないというのもあるが、何より4機も出撃して連中にバレる危険性を高めるのはマズい。と、いうわけで隊長の俺が出てきた。

 

いくら急いでいると言えど、機体チェックは欠かせない。手順通りに進めたら、太もものホルダーにシッテムの箱をはめ込み、機体システムと接続する。連邦の戦闘システムとトラブルレスに接続できるのは、一体どういうテクノロジーなんだろうか。

 

「アロナ、聞こえるか」

『はい、先生!』

「セリカの最後の位置までナビゲートを頼む。ウェイポイントの設定とマップ表示を」

『了解しました!』

 

アロナが画面から引っ込むと、シッテムの箱と機体レーダーに、作戦空域マップと、セリカの最終確認地点が表示された。

 

「よし、いいぞ。ヘルハウンド1、離陸」

 

双発の大出力エンジンが奏でる爆音は、周辺住民の安眠を妨害することになるだろう。だが今回に限っては仕方ない。高度をある程度上げ、そのまま水平飛行に移行する。

 

「ヘルハウンドリーダーよりヴィータへ、こちらは離陸した。そちらの位置をレーダーで確認...現在、方位230へ、6000フィート(6エンジェル)で飛行中。目標への到達予定時刻は1955、そちらの5分前に到達する」

『了解。到着後は予測されたルートに沿い偵察し、ターゲットを捜索せよ。ヴィータ、アウト』

 

通信を切り、スロットルを叩き込む。高度を上げ、目指すは10000フィート。この機体のターゲティングシステムなら、この高度でも地上はよく見える。雲は出ていない、地上監視にはもってこいの条件だ。

 

しかし見つかるかは...どうだろうか。位置をロストしてから2時間は経った。最終地点からかなり離れていてもおかしくは無い。アヤネはそこがカタカタヘルメット団の活動が多い場所だとは言ってたが...。

 

『先生、そろそろセリカさんの最終確認地点です』

「了解。レーダーをMTI(移動目標識別)モードに変更する」

 

レーダーモード変更。そして、赤外線監視装置を起動。レーダースクリーンにターゲットデータを統合表示する。

 

「目標地点に到達。やはり何かがいる様子は無い」

『はぁ...。まぁ、そうだろうな。砂漠では動ける範囲やルートは限定される。生きている道を辿って、それらしいターゲットがいないか確認しろ』

「了解」

 

こういう時に複座機なら操縦と索敵を分担できるんだがな。いないWSO(兵装システム士官)のことを考えても仕方がない。自動操縦に身を任せ、地上の様子を確認する。

 

ここで向こう──元いた世界でのIFF(敵味方識別装置)について話しておこう。あちらの世界では、基本的に軍や傭兵部隊に所属するユニット、つまり戦車だとか航空機だとかは、その所属を明示するコードを持っている。例えば、何かしらのユニットが、別のユニットに敵味方のどちらかを問う質問信号を送信した場合、たとえ戦時であろうと、受信したユニットはその所属を返信する。こうすることで、どこの軍所属かを識別するのだ。

で、この所属コードを保有していない民間のターゲットは、連邦軍のシステム上は黄色でハイライトされる。こいつらは中立目標であり、交戦規定上は基本攻撃してはいけない。仮に敵性行動を起こした場合、すぐに脅威として取り扱われる。

 

...で、なんでこんなこと思い出してたのかっていうと。

当たり前だが、キヴォトスに蹂躙跋扈している戦車や攻撃ヘリ共はこのIFFコードを保有していない。民間車両は言うまでもない。

セリカが最終発信地点にいない以上、どこかに移動──恐らくは何かしらの乗り物に乗っているだろう──しているのは間違いない。ただ、識別した目標がどいつもこいつも黄色で表示されやがるせいで、どれにセリカが乗ってるか分からん。高度を上げているからかなりの範囲を見渡せるが、それが逆にある意味仇になる。

 

「移動している目標から識別してくか...」

 

とりあえずのところ、移動しているターゲットから確認していく。砂漠の中、数少ない道をたどって行く。

 

(こいつはただのエコカーだな...。これも...違う、明らかに民間人の車だ。あの戦車は...単独行動してるな。戦車1両じゃ誘拐に使えはしない)

 

荒廃したアビドスといえど、車はまばらながら走行している。その一つ一つを識別していくのはそれなりに手間がかかる。

 

いい加減、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)に表示される黄色のアイコンとのにらめっこに徒労感を感じ出した頃だった。

 

「こいつもダメか...こいつは...うん?」

 

それはセリカの最終確認地点から数km離れた地点にあった。戦車を先頭に、トラックが2台の計3両の車列。この時点で異様だが...。

 

「どこに向かってやがる...そっちは廃墟地区だぞ」

 

他に車の1台も通っていない道路をたどっていった先は、もう誰もいない筈の廃墟地帯。かつては大規模な商業区画であっただろうそこは、なるほど悪いことをするにはちょうどいい。

 

「...こいつか」

 

そして確信した。これがセリカを誘拐した連中の車列だろう。ついに発見した。地上部隊に発見を知らせる。

 

「ヘルハウンド1より地上へ、目標らしき車列を確認...ターゲットをHVT(重要目標)に設定」

『確認した。戦車1台にトラック2台か』

「攻撃可能位置に付いたら報告しろ。戦車を吹き飛ばして足止めする」

『可能な限り最速で向かう。アウト』

 

地上の連中が到着するまで車列の監視を続ける。...クソ、マズいな。このまま廃墟エリアに入られたら追尾が難しくなる。最悪、アイツらが着く前にミサイルをぶち込む事も考えないといけない。

 

あるいは...廃墟街の入口の建物を倒壊させる手もあるな。だがそれは最終手段だ。

 

頼むから間に合ってくれよ──上空数千フィートから、見えぬ相手に祈った。




用語解説: 太平洋連邦
Pax Federation.(連邦による平和あれ)」──AC432年5月14日、ポイント・リフュージ防衛部隊指揮官

この小説の主人公、ドライバーらが属する国家。名実ともに世界最大の国家であり、その圧倒的国力と軍事力から世界に冠たる国家であった。国旗は逆さに組み合わされた2つの星を中心に配した紺地に、4つの大きな星と小さな1つ星が描かれている。
多くの場合、連邦と略称されるこの国家は、大厄災後に成立した多くの国家群とは異なり、その起源を大厄災以前から存在した国家や企業に求めることが出来る。

この100年の間に、世界のパワーバランスを再編する目的で誕生した太平洋連邦は、その名の通り太平洋に存在する地熱エネルギー産出国を構成主体としており、世界一の地熱エネルギーおよびコルディアム産出を誇っていた。これらの構成主体の中でも、成立時から加盟していたような特に重要な国家は一般に「連邦中核国」あるいは「連邦中核領」と呼称され、その代表的な国家はウランバートル王国やビクトリアである。

大厄災後の世界におけるエネルギーを掌握した連邦は、成立当初は各国からエネルギーの独占を批難されていた。もっとも、AC432年時点では同じことを行えば連邦による禁輸措置により国家が破綻する未来が待ち受けることになる。

この国の影響力は、先述したような古の国家および企業の古い血の繋がりと富を元にしているが、かつての時代が遠のきつつある中、連邦は領土拡大という手段をもって影響力の維持に腐心していた。多くの場合は比較的穏便にそのプロセスは行われるが、稀に武力を行使した強制的な併合もある。そのためにカスカディアのエネルギーを使用していたが、それをきっかけにカスカディアは連邦への独立戦争を挑むことになる。
このカスカディア独立戦争は、以前から連邦と冷戦を繰り広げていた超大国──ヨーロッパの統一カーンエウロパ同盟とアフリカ大陸の西アフリカ協定──と連邦との代理戦争の舞台ともなった。

この国は影響下にある国家の脱退を許さない。15年前、オセアニアの脱退騒動に端を発したオセアニア戦争では多くの犠牲者を出した後に再併合に成功したが、カスカディアの独立を許し、プロスペロとプレシディアでの戦争犯罪が明るみになった今、政治的にも軍事的にも勢力の後退の道を辿る連邦は新規加盟した国家群の脱退、および辺境国家からの激しい批難と反乱に晒されており、この100年の歴史の中で最大の危機に瀕している。

ドライバーらはそのような絶望的状況の最中、連邦の切り札としての期待がなされていたが、初任務でその姿を消すことになる。
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