ペンは剣よりも強し!   作:みかんフレーク

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第11話 再会

 てな訳で、漣家に無事潜入をカマした俺とチヒロと柴さん。ハクリから得た情報で不法侵入もお手のものってね。マジで柴さんの妖術チートだと思うわ。おまけにシンプルな殴り合いも強いときてる。伊達に歳食ってるわけじゃないね、どうも。

 

「おお……なんかすげぇ高そうなもんがいっぱいあんぞ」

 

「あまりウロチョロするなよ」

 

 そして俺達が入り込んだのはハクリの父親、漣家当主の部屋だ。見渡すと頭に超が数個付きそうなくらい高そうなソファやイス。テーブルの上に置いてある変な容器ですら、厳格な雰囲気を感じる。

 

「漣家は有名な妖術一家や。あの神奈備ですら簡単に手は出せんくらいの力を持っとる。見た感じ、金回りも良さそうやな」

 

 柴さんが一番高価そうな椅子に堂々と座った。見る限りあれは多分ハクリの父親が愛用してそうなやつだ。明らかに他の物と見栄えが違う。

 

「汚い稼ぎで得たものかもしれない」

 

 そうしてたら次は、チヒロも勝手に椅子を引いてその上にドカッと座り始めた。え、なんであなた達そんな人の家でくつろげるの?

 

「ミナトくん、君もなんかしとけ。その辺の壺とか割っとけ割っとけ」

 

「割っとけって……。嫌がらせしに来た訳じゃないでしょ……」

 

 そう、いま俺達が漣家に潜入したのは、真打の在処を聞き出すため。そのために当主を待ち伏せしているのだ。ハクリの情報によると、そろそろあいつの親父は瞑想をする為にこの部屋に戻って来るっぽい。瞑想ってなんだよって思ったが、多分そいつにとったら大事な事なんだろ。スピ系のアレか?もしかして。

 

 机に置かれた容器のフタをパカッと開けると、中から美味しそうな洋菓子が出てきた。それを数個取って柴さんとチヒロにパス。ビリッと袋を破いてマドレーヌみたいなものを口の中に放り込んだ。うん、めちゃくちゃ美味いわこれ。やっぱいいもん集めてますわ。もしかして今年の楽座市でこれ出品されるんじゃね?

 

「お、美味いやんこれ」

 

「ですね、今までにない味だ」

 

「俺お茶入れるわ」

 

 ポットと茶葉を見つけたので俺はその辺の棚からコップを3個取り出し、紅茶を作り始めた。うん、いい匂いが部屋の中に充満してくる。これどこのお茶だ?ラベルを見てもよく分からん文字が書いてある……。英語……では無いな……。どっか他所の国の物っぽい。

 

「いかんいかん、俺達はお茶をしに来たわけじゃ無い。どうやらこの部屋に真打は置いて無さそうだね」

 

 くつろいでしまいそうな自分を制し、本来の目的を思い出す。そうだ、俺達は真打や姉さんに繋がる物も探しに来たんだった。だけど見たところ、それらしきものは特に見当たらない。よくあるフツーの部屋って感じだ。

 

「そらオークションの1番の目玉商品をこんなところに置くわけないか。どっか別の倉庫とかに入れとるんかもな」

 

「倉庫……真打がカビ臭くなってたら嫌だな」

 

「いやそこは漣家の衛生管理を信じようぜ」

 

 チヒロのボヤきも一理ある……が、流石に大事な商品を不衛生な場所に保管してるなんてことは無いだろう。ましてや人身売買もしているのなら、その辺の扱いは丁重にされているハズ。ここでもし、姉さんが雑な扱いとかされてたら、殴るだけじゃ済まないだろうけど。ハクリには悪いが……。

 

『俺は才能が無かったから、あの家じゃ人間扱いされてなかったよ』

 

 そんなハクリの言葉が頭に蘇る。家族に対してそんな扱いをする時点で、善人とは言えないな。聞けばハクリには兄がいるようで、愛情表現とか言いながらぶん殴ってくるらしい。どいつもこいつもなかなかに狂ってる。潰しがいがあるということだ。

 

「ハクリの親父は、いつも決まった時間にここで瞑想をしてるんだっけ?」

 

「ああ、ハクリはそう言ってたな」

 

 チヒロに念の為の確認。ハクリの親父である漣家当主は、自室で瞑想をすることがルーティンになってるようだ。瞑想ってイマイチ何してるか分かんないよね。精神や心を落ち着かせる為とかって聞くけど、それやって裏稼業してるってどんなメンタルだそれ。

 

 漣家は悪人、だから斬る。そんでもって姉さんと真打も回収する。頭の中の情報はそれくらいシンプルな方が動きやすい。よーし、後は当主が来るまで適当に茶菓子でも食って過ごしてよう。お、なんか高そうなボールペンがあるな。書きやすそうだから勉強もこれでもっと捗るかも。おし、1本拝借するとすっか。

 

 ──その時だった。

 

「結界が仕事をしてないな。漣家の人間しか知らないこの場所に、お前らどうやって入った?」

 

 静かに扉を開けながら中に入ってくる男が1人。白髪に鼻下から横方向に伸びたヒゲが特徴の人物が俺達の前に現れた。その髪色はハクリそっくりだった。

 

「こんにちは当主さん。絶賛不法侵入しております」

 

「見たら分かる。質問に答える気は無いか」

 

 まぁ答える意味は無いからね。普通に柴さんの妖術で入ってきただけだし。

 

「そこの洋菓子美味かったで。なかなかいい趣味してんな」

 

「紅茶も美味しかった」

 

「やりたい放題か。くつろげてるのなら結構」

 

 チヒロと柴さんのお褒めの言葉に当主はびっくりしているようだった。そりゃそうだよな。不法侵入してきた奴らが室内を物色して、おまけに椅子とかでくつろいでんだから。多分こんな経験今までに無いんじゃないか?

 

「……で?用件は?」

 

 当主からの質問。その質問には俺から回答する。

 

「真打の場所を吐け。それと姉さん……氷の肌の女はどこにいる?」

 

 当主は自身の特徴的な髭を撫でる。こいつ……3対1という状況の中で焦る素振りを一切見せない……。なんでそんなに余裕ぶれるんだ……?

 

『漣家の精鋭妖術師約50名のうち、上澄みに位置する4人がいる。(とう)と呼ばれるそいつらは、父さんのボディガードとしての任も与えられている』

 

 ハクリの言葉が正しければ、当主の余裕の意味も納得出来る。今この時ですら、濤のメンバーが俺達の隙を伺っている可能性だってある。当主の──漣京羅の様子も裏が取れる。

 

「真打……妖刀だな。そこの黒髪の少年が持っているのも妖刀の一種だろう?名は確か……六平千鉱だったな……。親の遺産を取り返しに来た訳か」

 

 ……チヒロの情報が漏れている。一体どこから……?考えられるとしたら神奈備だけど……。そういえばちょっと前に柴さんが「神奈備ほど胡散臭い奴らはおらんで」とか言ってたな。そっから情報が漏れたりするのか……?

 

「真打はウチの所有物だ」

 

 チヒロが強気に言った。

 

「何を……これは私が正規の手順を踏んで手に入れた商品なんだよ。無論──」

 

 くるりと京羅が首を俺の方へ向ける。

 

「君のお姉さんとやらもね」

 

 ブチッと頭の中の何かが千切れる音がした。

 

 椿姫を抜き、その刀身を京羅の喉元へ近付ける。あと数センチ……数ミリ動かせばこ コイツの首を斬り落とすが出来るほど僅かな隙間。今日も椿姫は白く輝く。

 

「もう一度聞くぞ。姉さんはどこにいる?」

 

「躾がなってないな。君、その格好を見る限りまだ学生……若い身空だろう?そんな若いうちから刀を振るって人を傷付けて……お姉さんが悲しまないかね」

 

 京羅の物言いに奥歯がギリっと鳴る。

 

「俺は人に迷惑をかける悪人しか斬らない……!」

 

「善悪の判断はどこでする?何故自分の尺度でしか物事を計っていない?」

 

「はぁ?」

 

「正義か悪かを決められるのは個人の見解では無いということだよ。勘違いしてもらっては困る」

 

 ふぅ、と京羅が息をつく。まるで物事を理解していない子どもにうんざりするような仕草だ。その様子にむかっ腹が立ってくる。

 

「正義の反対は悪では無い、また別の正義なんだ。君が悪だと断定したことも、当人にとっては正義という認識でいることは多々ある」

 

「お前の……お前らのやってる楽座市も悪いことじゃないって……!正しいことをしていると思ってるのか……!?」

 

「無論」

 

 京羅は言い切った。コイツは、自分達のために他の誰かを苦しめることを正義だと宣った。

 

 ……分かっていたさ。ハクリから聞いた情報からして、漣家の連中は腐っているのだと。だから情をかけてやる必要なんて無いんだって。例えハクリの血縁であろうと、やっぱり俺は漣家の人間を斬らなきゃいけない。

 

 肌がピリつく感覚がする。それは目の前の京羅から感じ取れるものだった。見ると、京羅の左目に妖しげな仮面のようなものが浮かび上がっていた。刀を握る手に自然と力が篭もる。

 

「そしてこれが私の正義」

 

 その言葉を皮切りに、京羅の自室が別のものに生まれ変わっていく。置いてあった机や椅子は忽然と姿を消し、代わりに現れていく無骨な床や真っ暗な背景。そして徐々に形成されていく、まるで動物を収容するかのような鉄製の檻。その中には暗い顔をした人が閉じ込められていた。

 

「商品はこの"蔵"の中に入れてある。私だけが扱える神聖な倉庫。何人たりとも侵入は許さない」

 

 その態度と物言いに唖然とする。こいつは……漣京羅は悪人だ……。

 

 自分の私利私欲の為に人を売り物に……見世物にして……。なにが商品だ……なにが……。

 

「なにが正義だ……」

 

 檻に閉じ込められている人々。そこには絶望の色しか無かった。もう自分は平穏の毎日には戻れないのだと。瞳がそう語っていた。全てを諦めて、自分達をモノ扱いする汚い人間に飼われていくのだと。

 

 まだ小さな子どもも沢山いる。俺と同い年くらいの女の子や、成人した大人だって。この人たち一人一人に、帰りを待つ家族がいるだろうに……。

 

「お前のやってるこれのどこに!!正義があるってんだ!!」

 

「こう見えても私は父親でね、一家の大黒柱なんだよ。商人として商品を捌き、それで得たお金で家族を──一族を養っている。それを悪だと言うのかね君は」

 

「他の道は無かったのか……!?」

 

「有るなら教えてくれよ」

 

 あ、もうダメだ。堪忍袋の緒が切れるとはこのことだと理解する。俺の中の全細胞が叫んでいる。目の前の男を許すなと。絶対に野放しにしてはいけない、罪を償わせないといけないと。

 

「殺す気か?別に問題無いが、私を殺すと蔵も消失する。勿論、中の物も全て道連れにだ。──それに、さっきから近付けてるその刃。それをこれ以上近付けてみろ、蔵の中の人を1人ずつ絞め殺していく」

 

「なに……!」

 

「私はここの管理者だ。その程度、造作もない」

 

 ハッタリには見えない。その言葉全てに説得力がある。この状況下でも焦りひとつ見せないその胆力……今までのように超えてきた修羅場の一つだとでも言いたそうだ。

 

「あぁ後これだな。君らが求めてるモノ」

 

 ポコポコと黒い泡が宙に湧き出てくる。今度は何だと目を細めると、次第に顕現される2つのシルエット。

 

「……!これは……!」

 

 後ろからチヒロの声が聞こえる。チヒロが反応したのは一つの大きな箱。しめ縄が付けられたそれを見たチヒロは、思わずその箱に近付く。

 

「真打……!」

 

「それだけじゃないぞ」

 

 真打の納められた箱と、そのすぐ横に現れたもの。

 

 俺はそれを見て、思わず目を丸くする。

 

「あ……」

 

「お望みの品だ」

 

 白い着物に身を包んだ、髪の一部に白いメッシュが入った女性。

 

 その風貌が視界に入ると同時に思い起こされる、過去の思い出たち。

 

 幼い頃からの記憶。

 

 歩んで来た道のり。

 

 ずっと一緒だった。

 

 いつも隣にいてくれた。

 

 俺の大切な人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと追い求めていた人が、俺の目の前に現れた。

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