ペンは剣よりも強し!   作:みかんフレーク

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カグラバチは座村さんっていうオッサンがヒーラーだから好き


第13話 異形の闇を裂け

「憎しみで刀振るうのなんて辞めとけ」

 

 記憶が蘇る。

 あれは……まだ俺やチヒロが刀を握り始めて間もない頃だ……。

 柴さん、チヒロと一緒に刀や妖術の鍛錬をしていた時、一度だけ会ったことのある人との記憶だ。

 

 かつてこの国で起きた斉廷戦争……その際に敵国の侵略者を退けた英雄。

 名を座村清市──チヒロと同じ妖刀の契約者でもある。

 そんな人と過ごした一日……いや、正確には数時間か。

 その僅かな時間で、俺とチヒロの実力は一段階上のステージへ上がった。

 

 チヒロには刀の振り方を、俺には玄力操作のコツを。

 柴さんや薊さんとは違いビックリするくらい丁寧なその教えは、吸い込まれるように俺達の体に馴染んでいったのを覚えている。

 

 何で刀を握ったのか?その質問に俺は、さも当たり前のことのように答えた。

 姉を売った人間が憎いからだと。

 それを聞いた座村さんは、暫く口を開きっぱなしにしていた。

 開いた口が塞がらないとはこのことだと思った。

 

 原動力は人それぞれ。

 チヒロだって父親を殺した毘灼に復讐をする為に刀を振るうし、ベクトルは俺も同じ。

 だが、それを聞いた座村さんからはどこか悲しげな雰囲気が伝わってきた。

 

「じゃあ座村さんは何の為に敵を斬ったの?」

 

「んなもん聞かれるまでもねぇさ……。国の為よ……」

 

「……」

 

「刺さってへんぞ座村」

 

 座村さんが柴さんに飛びついて行ったのをよく覚えている。

 座村さんの本当の気持ちは分からない。

 だけど、未来の為に力を尽くしたことは紛れもない事実。

 

 何もかもが俺の先を行っている人が言うんだ、それならその言葉も間違いじゃないのかもしれない。

 

 だけど、俺は刀を振るうのを辞めなかった。

 理由は二つ。

 他人の言葉で消え失せる程度の憎悪じゃないことと。

 こんなことで揺れ動くようじゃ、この先姉さんを助けることなんて出来ないと思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漣京羅の顔面をぶん殴ってやりたい気持ちはありつつ、今は目の前の濤に集中する。

 この場にいる三人のうち一人は、片腕を斬り飛ばしておいた。

 痛みとバランス感覚の乱れで戦線復帰は厳しいハズ。

 天理……とか言ったな。あいつはひとまず放っておこう。

 

「錦」

 

 チヒロが呟くと彼の内なる力──玄力が増幅するのを感じた。

 錦は玄力を身に纏うことで膂力、速度、防御力のステータスを底上げすることができる。

 妖刀特有の全力反応、小さな金魚が宙を漂う。

 

 呼応させるように俺も玄力を引き出し、身体強化に力を注ぐ。

 柴さん曰く、俺は桁違いの玄力量を持つらしいのでその才能を遺憾無く発揮させる。

 

「とてつもないな……まさに玄力タンクか……」

 

「赤い椿……アイツも妖刀使いなの?」

 

 残念だかそれは不正解だ。

 妖刀は特徴として、それぞれが特別な玄力反応を持つ。

 チヒロは金魚を出すし、刳雲を使用していた双城は雲を顕現させていた。

 

 そんな妖刀使い達と見間違える程、俺は自らの玄力を可視化出来るまでに練り上げていた。

 

『妖術師は才能が八割とよく言うけどな。ミナトくんみたいなタイプは初めて見たわ。そんな膨大な玄力を纏って何で平気な顔してんねん』

 

『僕の弟子だからね』

 

 薊さんの言う弟子だから……というのは恐らく関係ないだろうが。

 本来なら四肢が爆散してもおかしくない程の玄力を体に浸透させることが出来るのは、それはもはや天賦の才だと柴さんが言っていた。

 

 麒麟児──薊さんには将来が楽しみだと常日頃から言われていた。

 

「地力の差を見せてやる」

 

 白く輝く椿姫を構えて地を蹴る。

 狙いは残った二人の濤、まずは女の方からだ。

 視線を向けると同時に、京羅の蔵から女の手の中に武器が転送される。

 特別特徴の無い普通の太刀……そんな物で勝負する気か……。

 

 椿姫を握る力が強まる。

 時間をかける必要は無い、1秒でも早くコイツらの所業を止める。

 漣家の血が流れていることは、俺に斬られる立派な理由になる。

 

 振り払った椿姫と相手の刃がぶつかる。

 キィン!と甲高く刀同士が接触する音が響いた。

 見たところ若い女だ、膂力は男の俺の方が上のハズ。

 それでも力が拮抗しているのは、並々ならぬ玄力操作のおかげか。

 

 漣家は妖術界でも有数の名門、その界隈では名を馳せている一族だ。

 従って優秀な人材が多く、京羅が今まで無事に楽座市やその他の所業を行うことが出来たのは、その力量がゆえ。

 やってることがやってることなんだ、京羅の命を狙う人間も少なくないと思う。

 今まで当主を守り抜いてきた実力か、その辺によくいる雇われ妖術師とはレベルが違う。

 

「かかったね」

 

「は?」

 

 目の前の女が得意げに微笑む。

 次の瞬間、急激な脱力感が訪れた。

 まるで背後から膝裏を突かれたように、足元がぐらつき膝が折れる。

 その異様な状況に困惑する。

 

「何かしたね……?」

 

「教えてあげないっ!」

 

 瞬間、迫り来る太刀筋。

 目の前まで迫って来た斬撃を椿姫で弾く。

 しかし、足に力が入っていなかったせいか俺の身体はいとも簡単に飛ばされて行く。

 

 何だ……何かがおかしい……。

 急に力が抜けた……?感覚的にはそうだが本質はそこじゃない気がする……。

 地面を転がりながら思考を巡らす。

 考えろ、奴が俺に何をしてきたのかを。

 

 今しがた行ったのは刃と刃の激突、その後に俺の体から力が抜けた。

 となると、カラクリがあるのはその時だ。

 刀……武器……あの女の持ってる武器か……蔵から転送したアレに何かタネがありそうだな……。

 

 体に異常はない、まだピンピンしている。

 膨大な玄力でカバーしている身体能力……にも関わらず力負けをしてしまった。

 

 ん……?待てよ……?つまりそういう事か……!

 

 ピンと来た俺は、学ランに付いた泥を払いながら立ち上がる。

 

「その刀、俺の玄力を吸い取ったな」

 

「へぇ、案外早かったね。気付くのが」

 

 答えは的中したようだ。

 力が抜けたように感じたのは、玄力が敵の刀に吸われてしまったからだ。

 恐らくあの刀、触れた物体の玄力を吸収出来る能力が備わっている。

 

「ま、それだけじゃないけどね」

 

 女がニコリと笑うと同時に感じる圧力。

 目を疑ったが間違いない、女の玄力がみるみる増していく。

 

「還元機能まで付いてるんだ。お利口な武器だな」

 

 俺から得た玄力を自身のモノとする。

 それがあの刀の本質のようだ。

 

「キミ……若いのに凄いね……この玄力量……。体がパンクしそうだよ……」

 

「俺の玄力サイコーでしょ。もっとあげるからこっち来なよ」

 

「積極的だね、じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」

 

 濤の女が腰を折る。

 それに対してこちらは椿姫を構える。

 カウンター狙いだ。あくまで予想だが、奴はいま膨れ上がった玄力に胡座をかいて単調な攻撃を仕掛けて来る。

 玄力は妖術師にとって全ての源。

 あればあるだけ得だし、やれることも増える。

 俺の玄力の一部を自分のモノにしたコイツは、束の間の全能感に酔いしれていることだろう。

 そんな表情をしている。

 

 付け入る隙はそこにあ──。

 

 刹那、視界が青一色に染まる。

 いや違う、これは空だ。

 雲一つない綺麗なブルースカイの日だ今日は。

 

(そこじゃないだろ……!)

 

 セルフツッコミを入れて状況を把握する。

 下顎に衝撃と痛みを感じたことから、俺は顎を打ち上げられて無理やり上を向かされたんだ。

 

「ぐっ……!」

 

「遅い……!」

 

 敵を視界に捉えておかなければ、戦いにならない。

 すぐさま青空から視線を外し、正面へ向き直る。

 俺の目の前真正面……独特な手印を向けられていた。

 

 

 

威葬(いそう)

 

 

 

 腹部に突き刺さる見えない一撃。

 玄力の宿る衝撃波が体を吹っ飛ばし、漣家の外壁に激突する。

 じんわりとした痛みが、腹を中心に全身に広がっていった。

 

「やば、家壊したらパパに怒られちゃう」

 

「怒られちゃう……じゃないだろ。ちゃんと直してくれるんだろうな、珠紀(たまき)

 

「げっ……降りてきたのパパ……」

 

 濤の女──珠紀と呼ばれた者がギョッとした声をあげる。

 見ると、いつの間にか漣家の庭に置いてあるベンチに京羅が腰掛けていた。

 

「派手にやりすぎだ」

 

「ゴメンなさい……」

 

「全くしょうがない子だな」

 

 やれやれ……と言った風に京羅が首を振る。

 その横で、珠紀が申し訳なさそうな顔をしていた。

 父親に叱られた娘のような、そんな顔で。

 家族の日常を垣間見せられた気分だ。

 

 家族……俺にとっての家族は姉さんだけだ……。

 姉さんが……姉さんだけが俺の……。

 

「本当なら罰を与えなければならないが、今回は特別だ。あの少年を倒すことが出来たら許してあげるとしよう」

 

「ホント!?」

 

「ああ。ついでに何か好きな物を買ってあげるよ」

 

「やった!じゃあもっと頑張っちゃお!」

 

 ……やめろ。

 

 俺の前で……。

 

『あなたはちゃんと勉強をして大学に行って、いい所に就職しなさい』

 

『さすが私の弟。やっぱ私の育て方が良かったからかな』

 

 次々と蘇ってくる姉さんとの記憶。

 俺の大切な……たった一人だけの家族……。

 

「俺の前で……!」

 

 瓦礫を押し退け立ち上がる。

 吹き飛ばされた衝撃で破れてしまった学ランを脱ぎ捨てる。

 

「俺の家族を奪った奴らが……!俺の前で家族を演じるな……!」

 

 全ての始まりは、姉さんが愛した男が漣家に姉さんを売りつけたこと。

 そいつはもうこの手で殺した。

 許せなかった……。人を殺したことには代わりないが、間違ったことをしたとは思っていない。

 

 記憶の中の姉さんは笑っている。

 そこで俺の中の姉さんの時は止まっていた。

 だが今日、京羅の蔵の中にいた姉さんの表情を見た時。

 

 ──あんなに悲しい()をした姉さんは見たことがない。

 

 そうさせたのは漣家だ……。

 俺の姉さんから笑顔を奪った……。

 

「今度は俺が奪う……!」

 

 体の奥底から湧き上がってくる莫大な玄力。

 俺の感情に、怒りと憎しみに呼応してくれている。

 玄力が吸われたからなんだ、あんなのほんの一部にしか過ぎない。

 

「……とんでもないな」

 

 京羅が呟く。

 それでもまだ、奴の顔に焦りは出てこない。

 別にいいさ、この場でコイツらを蹴散らして後悔させてやる。

 

 俺から姉さんを奪ったことを──。

 

「ウソ……まだ上がるの……」

 

 漣家に生まれたことを──。

 

「天理、まだ動けるな?」

 

 京羅の言葉に眉を顰める。

 天理……片腕を斬り飛ばした奴だが、まだ戦う気があるのか。

 

「大丈夫、止血はした」

 

「お薬が効いてるな。ここを超えたら腕も縫合してやろう」

 

「生きて越えられたらな」

 

 京羅を護るように、片腕を失った天理と刀を構え直した珠紀が立ちはだかる。

 チヒロはもう一人の大柄な男と対峙している。

 三対一、京羅が参戦してくるかどうかは微妙なところだがそれはいい。

 全員ここで斬り伏せる。

 

 

 

「──っと、何やら穏やかじゃあらへんな」

 

 

 

 そこに聞こえてくる関西弁。

 耳に馴染んでいる声質。

 視界に入り込む薄い金髪の男と、左目が黒ずんでいる白髪の男。

 

「何でッ!?何でただいまッ!?せっかくハクリ見つけたのにィ!」

 

 よく分からない言葉を発しているその男から柴さんは離れ、俺の隣に着地する。

 

「向こうは大丈夫?」

 

 隣にいる柴さんに聞く。

 

「ん、まぁ大丈夫やろ。ハクリ君がアイツに殴られとったくらいや」

 

「なら大丈夫だね」

 

 柴さんはヒナオさんの元へ飛んで行っていた。

 そこから戻ってきたとなると、一緒にやって来たあの男はヒナオさん……ハクリの方へいたということ。

 あの髪色からして、漣家の一員であることは間違いない。

 

「宗也、遅刻だぞ」

 

「ハクリを見つけたんだ、また悪い女に騙されそうになっていた。俺は兄として連れ戻そうとしただけさ」

 

 兄……宗也と呼ばれたアイツはハクリの兄貴なのか……。

 よく見ると鼻血が出ている、柴さんに殴られたんだろうな。

 

「気ぃつけや。多分"濤"の中であいつがいっちゃん強い。そんでなかなかに痛い人種や」

 

 やっぱり濤の最後の一人か。

 宗也……って言ったな、確かに感じる玄力は随一だ。

 

 丁度いい、京羅と濤の面子が全員この場に揃っているのなら好都合だ。

 今日この場で、漣家の頭を潰してやる。

 

「さっさとハクリの所へ行ってやらないと!あいつ多分帰り道知らないだろうから!」

 

「あ!ミナトくん学ランボロボロやん!また薊の奴に叱られるで!」

 

「……言い訳はアイツら斬ってから考えるよ」

 

 薊さんの説教は確定した。

 だけどいま俺が優先するのは。

 

「土産だけじゃない、家の修繕費も払っていってもらおうかな」

 

 漣京羅の命だ──。

 





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