ペンは剣よりも強し!   作:みかんフレーク

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第16話 青天の霹靂

 そして迎えた楽座市の朝。

 

 嫌になるくらい晴れ渡っていた。

 

 ヒナオさんの運転で会場まで赴いた俺達は、改めてその会場の規模感に驚く。

 

 毎年行われる楽座市。

 固定の会場には、ヤクザや雇われ妖術師がうじゃうじゃと虫のように集まる。

 そんな迷惑甚だしい人間が何故いるのかというと、単純に会場の警備だ。

 

 街中で行われる楽座市だが、万全を期して会場の周辺を金持ちに雇われた妖術師達が所狭しと警備にあたる。

 しかし、そんな警備も実はあまり意味を成していないのが事実。

 

 理由は簡単、誰もこんな場所に寄り付かないのだ。

 一体どこの誰が好き好んで、ヤクザや妖術師達の巣窟に足を踏み入れるのだろうか?

 結局のところ、みんな我が身の可愛さに見て見ぬふりをしてしまっているのが現状だ。

 別にそれを責めるつもりは無いし、仕方の無いことだと思っている。

 

 まずは自分の命を優先して欲しいから。

 

 だから──。

 

「ほいじゃあ後は作戦通りに……ってオイ!ミナトくん!?」

 

 普通の人は寄り付かない危なげな場所に突入して、そこにいる奴らを蹴散らす魂胆の頭のイカれた奴は──。

 

「あいつ話し聞いてたのか?」

 

「冷静に言ってる場合か!?おいミナト!!結構な数の警備がいるから!!1人じゃ──」

 

「──俺1人で充分だ」

 

 正面突破……こんなに分かりやすい響きの言葉はこの世に2つと無い。

 目の前には数十の敵さん。

 こいつらを1人残らず倒していく。

 

 名前も知らない奴らだけど、正直何も思わない。

 何の感情も湧いてこない。

 楽座市に加担しているという時点で、全員等しく俺の敵だ。

 

 入口にいる門番みたいな2人を斬殺。

 異変に気付いてノコノコやって来た5人を瞬殺。

 気付けば取り囲まれていて、数の利で余裕こいてるアホ共を滅殺。

 

「こいつ手配書にあった奴だ!」

 

「本当に学ラン着てやがる、学生か!?」

 

「手配書?」

 

 どんどん増えてくる黒服の言葉に首を傾げる。

 手配書……犯罪者の情報が載っている書類。

 ……もしかして俺、この場では犯罪者扱いされてる?

 

 主催は漣家……ハクリの父親である京羅の画策か。

 大方、俺を殺してきた奴に大金を払うとでも言ってあるんだろう。

 

「舐めた真似してくるねどうも」

 

 手配書と顔と俺が一致したのを確認した妖術師軍団は、目の色変えて襲いかかって来た。

 俺の首にいくらの金額がかけられているかは分からないが、意気揚々と地を駆けるこいつらを見てある程度の予想はつく。

 

 結局、人の価値をお金でしか判断出来ない人種なんだ。

 

 もう沢山だ、そんな考えの奴らを見ているだけで吐き気がしてくる。

 同じ人間とは思えないんだ。

 楽座市に組みしている奴らも、今日この日を楽しみにしてきた連中も。

 

 こんなイカれた祭典を長年に渡って続けてきた歪んだ一族も。

 

「全員地獄に送ってやる」

 

 体内の玄力を全解放。

 底上げさせた膂力で地面を蹴り、目に映る全てを斬り伏せていく。

 特に気を付けるべき敵はいない、こんな所に配置されている奴は有象無象。

 真の実力者は中に、そして肝心の(とう)の連中は地下の方にいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハクリは全てを知っていた──。

 

『宗也から聞いたことがある。"蔵"の中には大事な商品が入っているから、慎重に扱えって。通常なら父さんしかアクセス出来ないけど、唯一こっち側から干渉出来るシステムもあるみたいだ』

 

 "蔵"は漣京羅の所有物、故に基本的には彼しか扱えない。

 ただ、万が一京羅に何かあった時、"蔵"の中にある物を外に出せるようにするための"扉"がある。

 

『それが会場の地下にある……凪浄苑(なぎのじょうえん)とかって言ってたな……』

 

『じゃ、そこ目指せばいいって訳ね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「服、あんまり汚してくれるなよ。姉さんに見せないといけないんだから」

 

 当初の予定ではその地下にハクリ、柴さん、俺の3人で突っ込む。

 チヒロは玄関から入って敵を混乱させる役割を、という話だった。

 けどダメだった、俺は抑えられなかった。

 実際に楽座市の会場を目の前にしたら、色んな感情が止めどなく溢れてきて。

 気付いたら敵を斬っていた。

 

 増え続ける死体の山、警備の数も着実に減ってきている。

 この調子でいけば、敵の数を減らしつつ地下の方へ向かうことが出来る。

 どのみち全員殺す気なんだ、余力があるうちに雑魚は消しておきたい。

 

「離せぇ!俺はイナズマだぞぉ!!」

 

 唐突に聞こえてきた声。

 高音……小さな子どもの声だ。

 

「このガキが……いてぇじゃねぇか……!」

 

「俺は正義の雷を降す者……!お前らなんかに……!」

 

 声の方を見ると、小さな男の子が首を締め上げられている。

 泣きじゃくった声で、その子は必死に抵抗をしていた。

 

 玄力を集中的に脚部に流し込み、その場へ一気に加速。

 まずは男の子を持ち上げていた黒服の腕を斬り飛ばす。

 周囲には数人のヤクザ、妖術師。

 

 拘束から解放された男の子を拾ってひとまず距離をとる。

 まずは身の安全を第一に考えよう。

 多分柴さんがヒュンっと回収に来てくれる。

 

「大丈夫だった?」

 

「あ……う、うん……」

 

 突然の出来事にまだ頭が追いついていないのか、言葉が上手く出てこないようだった。

 無理もない、こんな小さな子どもがこんなクソみたいな場所に来ているんだ。

 大人に囲まれて怖い思いもしただろうに。

 

 きっと、そうさせる程の何かがこの子にはあったんだ。

 

「Mr.イナズマ……だっけ?何でこんな所に?」

 

 流れる涙を拭ってやりながら聞く。

 

「救うんだ……悪の手から……姉ちゃんを……」

 

「……うん」

 

「怖いけどやらなきゃ……!俺はMr.イナズマ……!正義の雷を降す者だから……!」

 

「そっか……」

 

 声を荒らげた妖術師達がこちらに向かってくる。

 俺はイナズマの服に付いた砂埃を払い、その小さな頭に手を置く。

 

「Mr.イナズマ……その名前、ちょっとだけ俺に貸してくれないかな?」

 

「え……?」

 

「俺達は同志だ。君の名前も、想いも。俺が引き継ぐよ」

 

 腰に差した刀に手を置く。

 大丈夫、()()()も準備は出来ている。

 

「君のお姉さんは絶対に救い出してみせる。Mr.イナズマ、君はお姉さんの帰る場所になってあげるんだ」

 

「……──っ!う、うん!!」

 

 大きい返事に思わず頬が緩む。

 頭をポンポンと叩き、イナズマの高さに合わせていた目線を戻す。

 

「六千万の賞金首だ!ぜってー逃がすな!」

 

「やれやれ、困った奴らだな……」

 

 お金に目が眩んだ愚か者がまた来た。

 全員目が血走っている。

 こんな光景、Mr.イナズマのような小さな子に見せたくない。

 

「つ、強そう……。1人で大丈夫……?」

 

 Mr.イナズマが不安そうな声を出す。

 俺はそれに笑って応えた。

 

「大丈夫だよ。俺も君と同じ、正義の雷を降す者だからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深呼吸──。

 

 正しい呼吸で全身に酸素を回して、身体を活性化させる。

 全身を巡る酸素に玄力を乗せることで、その力は何倍にもなる。

 

『妖刀使いかそうじゃないかで刀への理解度は異なる』

 

 蘇るのは双城の言葉。

 刀への理解度、妖刀への認知を深めることで真価を発揮する。

 

 命滅契約を結んでから、俺はコイツを肌身離さず持ち続けた。

 散歩の時も、ご飯の時も、お風呂の時は流石に部屋に置いておいた。

 しかし、お陰で物理的にも精神的にも俺達は繋がっている。

 

 刀と一体化する感覚が、とてつもない力を生み出すことは知っている。

 同じことだ、椿姫を握っていた時と。

 コイツを使いこなすことが、活路を開くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雲の無い雨が降れば、これから悪党が死ぬ。

 夏に(あられ)が降れば、これから悪党が死ぬ。

 黒雲の無い雷鳴は、悪党が死んでいく音だ。

 

 これら気象に関する数々の伝承は、この妖刀と旧契約者の大暴れによる賜物。

 

 

 

 その生み出された伝説を──。

 

 

 

 目の当たりにした御業を──。

 

 

 

 今度は俺が再現する──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──轟け、刳雲(くれぐも)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 顕現されるは無数の雷。

 

 悪を滅ぼす正義の稲妻。

 

 雲ひとつない日に鳴り響く雷の音。

 まるで神の怒りが降り注いできたようだったと。

 

 (のち)に今年の楽座市はそう語られることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「刳雲の玄力反応……。いいぞ……良い感じに……斬欲が……」

 

 そして、とある男が精神を昂らせていたことに気付くのはもう少しあとの話。

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