ペンは剣よりも強し!   作:みかんフレーク

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第18話 血と少年

 一流の剣士なら、刀を交わしただけで相手の実力が分かる──。

 

 いつかどこかで柴さんか誰かがそんなことを言っていたような気がする。

 あくまで気がするだけ、話半分で当時は聞いていたからちゃんと記憶に残っていない。

 でもさっき、目の前の毘灼と斬り結んだ時に実感した。

 ああ、この人は強い人なんだと。

 

 教科書に載せても恥ずかしくないレベルの、お手本のような剣術。

 淀みなく循環する体内の玄力。

 この2つ……たった2つだけで、この毘灼の人のレベルが高みにあることを理解する。

 

「俺の名は久々李(くぐり)!ミナト、お前は俺の欲を満たすことが出来るか!?」

 

 振り下ろされようとする刀身。

 その影が俺の視界を薄暗くする。

 

「この俺の斬欲を!!」

 

 凄まじい速度で落ちてくる刀。

 それを間一髪の所で回避するが、久々李の刀が地面に当たった衝撃で軽く吹き飛ばされる。

 なんて威力だ、あんなのマトモに喰らったらひとたまりもない。

 

 ──刳雲の余生はあまり残されていない。

 

 術を使う度にすり減っていくのを感じるんだ。

 ましてや折れた刀身、相手の万全な状態の刀に直接ぶつけ合わせるなんてことしたら、寿命を縮めるようなものだ。

 今は自分の玄力で耐久度を高めているだけ、けどそれも長くは続かないだろう。

 

「斬欲ってなんだよ!!」

 

 地面に両足が触れたことを実感する。

 同時に"鳴"を展開し地を蹴った。

 一瞬で久々李の背後に回り込み、その背中を目掛けて太刀を振るう。

 

「見えてるぞ!」

 

 言いながら久々李は、上半身を横に逸らして刀の軌道から免れる。

 何だこの反射速度……それに体のコントロールがケタ違いに上手い。

 

 視界の外から何かが伸びてくる。

 思わず腕でガード、それが久々李の長い脚だと当たってから気付いた。

 

「斬欲とはッ!」

 

 勢いのままに振り抜かれる健脚が、俺の体を壁際まで吹き飛ばす。

 空中で身を回転させ、激突しそうになっていた壁を足場に再跳躍。

 稲妻を纏いながら刳雲を握る手に力を込める。

 

「魂の叫びのことだっ!!」

 

 重なる刃が衝撃波と雷を引き起こす。

 ビリビリとした感覚を手に味わいながら、次の手を行使する。

 

(こう)!」

 

 唱えると同時に生まれ出る水流。

 久々李との距離を無理やり取りつつ、降で生み出した水を体の周りで浮遊させる。

 

「全く話が見えてこないっ!!」

 

 周囲に浮かせた水を弾丸にして、久々李に向けて撃ち出す。

 初めてやる技だがモノは試しだ。

 速度と威力を秘めた水鉄砲を次々と発射させていく。

 

「それはまだ貴様が未熟だからだ……こんな小細工に頼るとはな……」

 

 水弾の雨を掻い潜りながら、着実に久々李は距離を詰めてくる。

 強化された膂力が成せる技なのか、1歩1歩が大きい。

 

「妖刀はビックリドッキリメカじゃあ無いんだぞ」

 

 あっという間に眼前にまで接近される。

 久々李の刀身が光った。

 俺の腹部を目掛けて下から斬り上げる気だ。

 

「男なら……腕前ひとつで唸らせてみろ!」

 

(ゆい)……!」

 

 眼下から繰り出される斬撃に対し結を発動。

 防御用の盾として氷を発現させ、久々李の刀を弾く。

 

「使えるモノは全部使う」

 

 胴体……ガラ空き……生まれた隙……。

 久々李の実力は本物……俺以上の力を持っているのは間違いない……。

 ここを逃すと、今後好機は訪れない……。

 

 こいつを倒すなら今ここしかない──!!

 

 剣術の始動は下半身からだ。

 特に脚部、もっと言うと足裏。

 踏み込む1歩が繰り出す剣技の威力に直結する。

 

 込めろ、渾身の一撃を叩き込む為に。

 爆発させるんだ、体内を巡る莫大な量の玄力を。

 

『君の武器はそのバカみたいな量の玄力や。俺やチヒロ君とは比べ物にならん。しかも底が見えないときてる。有効活用する他ないで』

 

 俺の武器。

 経験や技術の乏しさを埋める為の力。

 

 その力は──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『チヒロ、たった1人で復讐の道を進む必要は無いんだ。心配しないで、俺も一緒に隣を歩くから』

 

 復讐は何も生まない。

 殺られたから殺り返す、永遠に終わらない憎しみの連鎖が始まるだけ。

 そんなことを誰かが言っていた、それがこの世の真理だと。

 

 俺はそうは思わない。

 ああしたい、こうなりたいという希望に溢れた光り輝く目標が善だと言うのなら、復讐の道を歩む人が悪なのか?

 

 もしそうなのだとしたら……。

 

『そう言ってくれると心強いよ、ミナト。ありがとう、こんな俺と一緒にいてくれて』

 

 あの日あの時のチヒロの笑顔も悪だと言うのか?

 

 そんなことは絶対に無い。

 確かにチヒロの原動力は毘灼への復讐心だ。

 奴らを屠ることがチヒロの夢。

 

 でもその先に……血塗れな景色の先に心の底から笑える世界があるのなら……。

 

『暗く厳しい道かもしれないけど、2人なら乗り越えられるよ。きっと』

 

 この手を赤く染める覚悟はある──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分じゃない、他の誰かの為に──。

 

「それが俺の戦いだ!!」

 

 足裏に込めた玄力を全解放。

 鳴を重ねた雷の如き速度で、久々李の胴体を斬り抜ける。

 

 大丈夫。

 

 血の雨を降らすのには、もう慣れた。




チヒロくんはあんまり笑わないから、ミナトくんがいることで少しでもその顔から笑顔が増やせたらと思います。
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