ペンは剣よりも強し!   作:みかんフレーク

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更新が遅くなりすみません。
本誌では絶賛"真打"が暴れてますが、こっちでは未だに"楽座市"開催中です。
お気軽にコメントしていってください。


第19話 落ちこぼれの意地

 Side : ミナト

 

「……がはっ!」

 

 漏れた吐息と一緒に、久々李の口元から鮮血が流れ出る。

 腸を引きずり出す勢いで斬り込んだ一振は、寸でのところで致命傷を避けられた。

 それでも、久々李の腹部からは決して無視出来ない量の血が出ている。

 深めに斬れているな……これで思うようには動けないだろう……。

 

「クソ……これは……なかなかに……」

 

「ハァ……ハァ……!まだやる……?」

 

 久々李は腹部からの出血を手で抑えようとするも、指の隙間から絶えず血液は流れ続けている。

 自分で斬っておいてなんだけど、あれはキツイだろうな……。

 痛みを想像してしまって思わず生唾を飲み込む。

 

 かと言ってこちらも余裕綽々という訳じゃない。

 炎骨との連戦だったうえ妖刀の……特に"鳴"は体に負担のかかる技だ。

 体の節々が痛むのはまだ使いこなせていない証拠。

 

「久々李、アンタは毘灼の一員だ。訳あって俺の友達が、アンタらを死ぬ程憎んでる。暫くは家に帰れないと思ってた方がいいよ」

 

 毘灼を捕らえることが出来れば、奴らの目的を知ることが出来る。

 チヒロの父親が殺された理由を、ようやく明らかにすることが出来るんだ。

 

 理由無く人を殺すなんて、そんなことは有り得ない。

 必ず何か理由があるハズ。

 それに、六平家で保管していた他の妖刀の在り処。

 こっちも聞き出さないといけない。

 知りたいことは山程あるんだ。

 

「フン……!流石は妖刀といったところか……。天候を操る刳雲……より深く繋がっていれば、命を落としていたかもしれないな……」

 

「フィードバックは後でいい。大人しくお縄に──」

 

「──つく訳ないよね」

 

 背後から聞こえてきたその声にハッとなる。

 振り返るとそこには、小柄な女性が1人立っていた。

 

斗斗(とと)……」

 

「しっかりやられたね久々李。やっぱり妖刀って凄いの?」

 

 斗斗と呼ばれたショートヘアの女性が、俺の横を通り久々李の方へ歩いて行く。

 

 誰だ、この女の人は……?

 久々李の関係者……?

 それならこの女の人も毘灼の一員……?

 

 思わず刀を握る手に力が入る。

 

「ああ、想像以上だった……。荒削りだが、将来が楽しみな奴が出てきた……」

 

「へぇ〜、そんなに凄い子なんだ」

 

「唾はつけておいた」

 

「えっ?ばっちぃ……」

 

 それは俺も同感だ、いや比喩ということは分かってるけど。

 

「良い感じに斬欲を刺激してくる奴でな。こちらも思わずテンションが上がってしまった訳よ」

 

「出たよ斬欲……。負かされてちゃ世話ないけどね」

 

「耳が痛い」

 

 ……どこか気の抜けた空気だな。

 俺もう刀しまってもいいかなコレ。

 ……いやいや、久々李を捕えないといけないんだった。

 せっかく毘灼の構成員を追い詰めることが出来たんだ、それに毘灼はもう1人追加で現れた。

 この機を逃す手は無い。

 

「──……っ!!」

 

 脚部に玄力を込め1歩踏み出そうとした時、不意に視界がぐらつく。

 平衡感覚が乱れ、景色が斜めになって見えた。

 思わず地面に倒れ込む。

 なんだコレ……。

 体に上手く力が入らない……。

 

「ガス欠か……」

 

「玄力の使い過ぎかな?退くなら今がチャンスじゃない?」

 

「……待て!」

 

 久々李が斗斗という名前の女性に引っ張り上げられる。

 上手く立てない久々李に肩を貸しながら、斗斗は手印を結んだ。

 

 駄目だ……このままじゃ……逃げられる……!

 何で体が動かない……?

 言われた通り玄力の使い過ぎなのか……?

 初めての妖刀を用いた実戦に、体が追いついていない……?

 

「妖刀を持つことによって体は変化する。妖刀の意志で体がそれ専用に作り変えられるんだ。刳雲を手に取ったお前の体が正にそうだ。定着するのに少しだけかかるぞ」

 

「体の変化……?」

 

 何だそれ……そんなの初耳だ……。

 チヒロはそんなこと言ってなかった……。

 いや、アイツは最初から淵天を持っていたか……。

 

「妖刀がより己の力を発揮できるように、契約者の身体をデザインしていく。呑み込まれないようにな」

 

「親戚のオジサンみたいだね。そんなに気に入ったんだ」

 

 言いながら、2人の体が足元からメラメラと揺らめき出す。

 まるで揺らめく炎のように見えるそれが、彼ら毘灼の移動手段だとすぐに理解出来た。

 

 不味い……このままじゃ本当に……。

 折角の好機が無駄になってしまう……!

 何としてでも捕えないと……毘灼だぞ……。

 チヒロの仇が……目の前にいるんだぞ……!

 

 早る気持ちとは反対に、俺の体は依然として重い。

 

 

 

 ──俺の夢?父さんと同じ刀匠になることだよ。

 

 

 

 ふと遠い日の記憶が蘇る。

 チヒロとの会話、彼の夢の話をした日のことだ。

 曰く、父親のような立派な刀匠になりたいとのこと。

 ずっと傍で見てきた父親の背中を超えるのが目標。

 その為の努力を、俺はずっと近くで見てきた。

 

 もうチヒロはしばらく刀を打っていない。

 それこそ、椿姫を最後にチヒロは鍛造に関わらなくなった。

 理由はそう、自分の夢よりも復讐を優先することになったから。

 

「待て……待てよ……!」

 

 憧れていた父親の命と、大切にしてきた妖刀を奪った毘灼。

 彼らがいる限り、チヒロの夢は叶わない。

 やりたいことも後回しにしている。

 

「お前らがいるから……!お前らの存在が、俺の友達の夢を阻んでる……!」

 

 そんな悲しいこと、あっていいはずがないんだよ……。

 

「覚えとけ……!お前ら毘灼を斬るのは俺だっていうことを……!」

 

「そうか……良い瞳をしている」

 

 久々李はそう言い残し、俺の前から消えていった。

 最後に薄く吊り上げた口角が腹立たしい。

 あと1歩が足りなかった。

 何が良い瞳だ……カッコつけやがって……。

 

(くそ……視界がボヤける……)

 

 意識が朦朧としてくる……。

 不味い……トぶやつだこれ……。

 

 闇に吸い込まれるように、俺の視界が黒に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side : (さざなみ) 伯理(ハクリ)

 

 楽座市会場の地下には、父親である京羅の蔵に繋がる"緊急搬出用扉"がある。

 

 外界からのアクセスが基本不可能な父さんの蔵だけど、唯一こちら側から中への侵入が可能な経路。

 それが俺達が目指している緊急搬出用扉だ。

 

 父さんの蔵の中には、今まさに行われている"楽座市"に出品される商品が保管されている。

 商品といっても刀や珍しい物だけに留まらず、不思議な体質を持った生きた人間もその内に含まれている。

 

 その中に、ミナトのお姉さん──氷の肌を持ち周りのモノを凍てつかせるあの人がいる。

 

 人を物扱いする異常性を理解しつつも、俺にはそれを打開する力が無かった。

 妖術師として役に立てなかった俺に出来ることはほんの僅かなことだけ。

 その薄く歪な家族との繋がりを保つ為に、本心とは真逆のことをしてきた。

 異常だと気付いていながら自分も"楽座市"に加担した。

 到底許されることじゃない。

 

 そんな愚かで救いようの無い自分とサヨナラをする為に、いま俺は緊急搬出用扉を守る部屋に来ていた。

 

「やっぱりいるな……」

 

 そして物陰から、"濤"の面々が勢揃いしているその場を覗き見ている。

 中には兄弟である宗也と天理の姿も。

 

 例年の"楽座市"において、"濤"は当主である父さんの護衛の為に会場に配置がされていた。

 なのに今年は、指示されたのか一番大事な"扉"の前にしっかり陣取っている。

 

(俺が顔を出したら、恐らく兄さんが飛び付いてくる……!)

 

 安易な予想だが、多分間違いない。

 俺に対して異常な執着を見せている兄だ、俺を見つけたら餌を見つけた犬のように喜んで走ってくる……はず。

 

 戦力の分担が狙いなんだ、俺が濤の1人でも引き付けることが出来れば、それだけで一緒に突入する柴さんの負担が減ることになる。

 

(やるんだ……例え囮でも立派な役割……!)

 

 与えられた役目を果たす、その為に俺は来たんだから。

 

 壁からひょっこりと半身だけ顕にする。

 "扉"からそんなに距離は無い、アイツらの目なら十分に視認できる。

 

 ……ハズだった!

 

(おかしい……俺が体を出してから5分は経過したけど、未だに気付かれてないぞ……?)

 

 ……あれ?

 何かがおかしいぞ……?

 予想なら俺が"濤"の皆に発見されて、兄さん辺りが飛び出してくるはずなのに……。

 何だ……もしかしてそういう作戦……?

 俺の顔を見ても反応をするなという父さんからの命令か……?

 

 見た感じ口が動いてるから何か話してるっぽいけど。

 

「──今日の夕飯なにかな?」

 

 ──え?

 

 ……聞き間違いか?

 いま天理の奴、なんて……?

 

「例年通りならすき焼きだけどな」

 

 すき……焼き……?

 いま兄さん、すき焼きって言ったか?

 

「去年とんでもないのが出てきたからな……。今年はそれを越えられんのか……?」

 

「父さんを甘く見るなよ、天理。今年はあの妖刀──真打が出品されるんだ。後の祭りもド派手に開かれるに決まっている」

 

「確かに……父さんああ見えて意外とどんちゃん騒ぎが好きだからな」

 

 そうなの?

 初耳なんだけどその情報。

 まぁ確かに俺は使い物にならないから、途中から楽座市の後の宴会に呼ばれなくなったけど。

 

「どうせ今年も伯理は居ないから、気にせずバクバク食えるぞ」

 

「へっ、そう意味ではアイツも役に立つじゃん」

 

 鼻を鳴らしながら天理が嘲る。

 

 む……ムカつくなあの野郎……。

 俺より年下のクセに……。

 

 そりゃ確かに妖術師としての才能はピカイチさ。

 だけどそれだけで人より偉いっていうのかよ。

 力量に差がつき始めた時から、天理のことは苦手だ。

 俺より色々出来るからって、言いたい放題になってる。

 性格だけ見たら底辺だぜアイツは。

 終いにはあることないこと言いふらされたこともあったな。

 

 ……いかん、なんかだんだんイライラしてきた。

 

「しかもアイツ、10歳の時におねしょしたことあるんだぜ」

 

「まじで?」

 

「いやそんなことしてねぇわ!!!」

 

 天理の言葉に思わず飛び出す。

 それが悪手だったことに気が付いたのは、"濤"の皆の注目を浴びてすぐのことだった。

 

「すぐさま退散ッ!!」

 

 考えるより身体が動いていた──!!

 この時の俺の足の速さは競走馬を超えていたであろう。

 ああ、間違いない。

 幼い頃、父さんに連れられた牧場で見たあのお馬さんよりも速く駆けることが出来ている。

 しかも玄力ナシで。

 

「──ッ伯理!?」

 

「俺が追う!!」

 

 背後から兄さんと天理の声がする。

 "追う"と言ったのは天理の方だ。

 意外だ……俺はてっきり兄さんが追ってくると思ってたのに。

 まぁこの際どちらでもいい、あの中の誰かを俺の方に引き付けることが出来るのなら。

 

 チラリと一瞬だけ背後を見やる。

 俺を追いかける天理と、扉の前にいる"濤"……そしてそんな彼らの更に後ろに柴さんの姿が見えた。

 凄い……あっという間に敵陣の懐に潜り込んでいる。

 チヒロやミナトが言っていたけど、柴さんは妖術師の中でもかなり上澄みらしい。

 そんな凄い人なら、"濤"の3人を同時に相手取ることも出来るんだろうきっと。

 

「待て!!伯理!!」

 

「待てと言われて待つ馬鹿がどこの世界にいるんだよ!」

 

 俺は天理と追いかけっこ。

 来た道を必死に戻り、通路を駆け抜けていく。

 

 ──ホンマにヤバなったら戻っといで、4人全員相手したるから。

 

 万が一の時のことを考えて、柴さんはそう言ってくれた。

 俺を安心させる為だ。

 俺がタイマン張っても無理そうなら、"濤"の全員を柴さんが対応するという。

 

(そんな情けないことするかよ……!)

 

 役に立て……!

 どんな些細な仕事でもいい……!

 俺がいて良かったと皆に思わせるんだ……!

 

 少し走って目の先に上りの階段が見えてくる。

 俺がさっき下ってきた階段だ。

 その前には黒いスーツを来た、恐らく雇われの妖術師達が武器を構えている。

 視線は階段の上の方へと注がれていた。

 

「ハクリ、そのまま来い!」

 

「チヒロ!」

 

 "淵天"を引っ提げたチヒロの姿が視界に入る。

 ミナトと正面突破で突っ込んできたチヒロが、もう地下の付近にまで辿り着いている。

 相変わらずとんでもない奴だ。

 ミナトの姿が見えないけど、アイツもどこかで誰かと戦っているんだろう。

 

 俺も皆みたいに……。

 

「行かせねぇよ」

 

 ゾワッと背筋に悪寒が走る。

 耳に吸い込まれてくる馴染みのある声質。

 目玉だけを動かすと、左目を黒く染め上げた天理が俺に追い付いていた。

 

「はや──」

 

「お前が遅いんだ」

 

 言うや否や飛んできたのは硬い拳だった。

 鈍い衝撃がこめかみ辺りに撃ち込まれ、体勢を崩しながら壁に激突する。

 

「侵入者……六平千鉱とミナトが攻めてきたのは知っていた。でもまさか伯理、お前もいたとはな」

 

「くっ……!」

 

「アイツらに楽座市の情報を流したんだろ?なに考えてる?父さんの邪魔をする気か?」

 

 こちらを見下ろす天理と視線が交差する。

 いつもの目だ……俺を格下に見ている冷たい目……。

 血の繋がった家族に向けているとは思えないほどの……。

 

「ハクリッ!!」

 

「六平か……」

 

 チヒロの呼ぶ声がする。

 アイツは俺を助けに来るだろう、きっとそうする。

 でもそれじゃあチヒロの負担が増えるだけだ。

 俺は一度ヘマをしている、俺のせいでミナトの"椿姫"が父さんに奪われた。

 これ以上……皆の足を引っ張るような真似は出来ない……!

 

 その時だった。

 

 ちょうど俺とチヒロを分断するように、地面と両脇の壁から樹木が生えてきた。

 それを見た天理が猫のように俺から距離を取る。

 

「何だこれ……」

 

(天理も想定していないギミック……?俺もこんなの見たことないけど……)

 

 天理の表情から察するに、この分厚そうな樹木の壁は漣家側で用意したものではないらしい。

 となると別の勢力の仕業か……どちらにせよ俺とチヒロの合流は叶わなくなった。

 この壁を壊さない限りは。

 

「丁度いい……!」

 

 脚に力を入れ立ち上がる。

 そんな俺を天理はじっと見つめていた。

 

「ぶっ飛ばされに来た……ってことで良いんだよな?」

 

「いいや間違いだ」

 

「何が違うんだ?落ちこぼれのお前と能力のある俺、戦うまでも無く結果は見えてる」

 

「決めつけるのは早いんじゃないのか?」

 

 天理に睨みを利かせる。

 相変わらず俺のことを舐めている。

 絶対に自分の方が強いんだと自覚している。

 間違っては無い、俺を下に見ているし事実そうだ。

 けどそれは俺にとって好都合。

 

 ──俺は別にハクリを足手まといだなんて思わないよ。言うなればそう……可能性の塊!

 

 "楽座市"が始まる前にミナトに言われた言葉を思い出す。

 漣家に恨みを持っているハズのミナトは、その血が流れる俺に良くしてくれた。

 普通なら有り得ないだろう……姉をモノ扱いして誰かに売り捌こうと企んでいる人間にそうするのは……。

 それでもアイツは笑って、俺と同じ時間を過ごしてくれた。

 どこにも居場所の無かった俺に……。

 

 それにどれだけ救われたか……。

 

 だから──!!

 

 腹の底から玄力を振り絞る。

 ある程度の扱いは柴さんに教え込まれた。

 微細なコントロールは苦手だが、そんなものは実戦で克服する。

 窮地でこそ人の才能は開花するんだ、そう思うことにする。

 

 天理の眉がピクついた。

 気に入らないんだろう、俺が生意気な口をきいたから。

 

 お互い臨戦態勢に入る。

 大気の震えを感じていた。

 

「昔からずっとお前のことが嫌いだったよ、伯理。一族の汚点が……お前のせいで父さんが馬鹿にされるのが許せないんだよ……!!」

 

「出来が悪くてゴメン。けど、それを戦わない理由にはしない……!!」

 

 戦うんだ、俺も。

 皆のように。

 

 俺を信じてくれている人達に、報いてみせる──!!

 




【ミナト】
・思ったより刳雲の玄力消費がパない
・てゆーかこの子の苗字どうしよう

【ハクリ】
・ミナトとチヒロに死ぬほど感謝してます
・宗也じゃなくて天理とマッチアップ

【天理】
・かっこいい
・ミナトに斬られた腕は縫合済み
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