ペンは剣よりも強し!   作:みかんフレーク

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カグラバチは出てくるおっさんが軒並み変人だから好き


第20話 負け犬の咆哮

 Side : 漣 伯理

 

「2人で強くなって、父さんを喜ばせるんだ」

 

 幼い頃、天理と俺はそんな約束を交わした。

 漣家というエリート家系に生まれた俺達にとって、父親は偉大であり目標とするべき人物だった。

 連綿と受け継がれてきた血筋や様式を絶やさぬよう、常に知恵を振り絞り続ける。

 父親として、漣家の当主として、父さんは俺達を守ってきてくれた。

 

 そんな人に憧れを持つのは当然のことであり、必然だった。

 尊敬している父親の力になりたい、褒められたい、それ一心で俺と天理は妖術の鍛錬に励んでいた。

 

 それがいつからだろうか……。

 天理との実力差が顕著になり、俺に妖術の才能が無いと発覚し、父さんにも見限られていったのは……。

 

 才能が無い俺に家の中の居場所なんてあるハズはなく、厄介者扱いされるようになった。

 殴る蹴るの暴力は当たり前で、時には兄である宗也にも拷問じみた虐待を受けることもあった。

 

 俺の人生こんなもんなんだと、そう思わざるを得ない状況にいたんだ。

 

 だけど、そんな俺の人生がガラッと変わる予感がしたんだ。

 

「うちのやり方は間違ってる。人を商品にして競りにかけるなんて、そんなの許される訳ない」

 

「は?」

 

 瞬間、視界から天理が消える。

 

「間違ってるのはお前の方だろ」

 

 背後からそう聞こえた時には、背中に痛みが走っていた。

 いつの間に後ろに……全く見えなかった……。

 

 衝撃の勢いに押され地面に掌をつく。

 ただの打撃でも相当な威力だ、そう何度も食らっていられるものじゃない。

 

 すぐに体勢を立て直し、天理を正面に捉える。

 

「優秀な漣の血が流れているのに、お前には力が無い。居心地が悪くなって、だから逃げ出したんだろ?そんなお前が、楽座市についてとやかく言えるのか?」

 

 天理が手印を作る。

 今まで何度も見てきた、一族に代々伝わる妖術の発動動作(モーション)

 

「ッ……!!」

 

「お前さえいなければ……!」

 

 対抗策として俺も同じ手印を作る。

 "威葬"──漣家を代表する衝撃波を司る技。

 それをぶつけ合わせた時に勝つのは……。

 

 タイミングはほぼ同じ。

 しかし単純な妖術出力に天と地ほどの差がある。

 見えない何かに押され、俺は再び壁に激突した。

 辛うじて後頭部は守ったが、さっきの打撃とは比べ物にならない程の威力……。

 

「逃げ出した腰抜けが……。許せない?間違ってる?お前の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったよ。何でお前が漣家の歴史を否定できる?」

 

 天理がこちらへ近付いてくる。

 どうする……相手は一族の中でも"逸材"と呼ばれた天才児……。

 そんな奴に、落ちこぼれの俺が出来ることは……。

 

「優しかったか?アイツらは」

 

「……どういう意味だ」

 

「分かれよ。六平千鉱やミナトのいる所は、お前にとって心地良かったんだろ?否定もされない、出来損ないのお前にも温かく接してくれる、だからそっち側につく」

 

「……」

 

「結局お前は、自分にとって都合のいい環境に居たいだけなんだよ」

 

 都合のいい……環境……。

 俺にとって……都合のいい……。

 

 ミナトやチヒロがいる環境……。

 誰も俺を虐めたりしない、居心地の良い場所……。

 俺には実の家に居場所が無かったから……誰も俺を必要としてくれなかったから……。

 

 無意識のうちに……天理の言う通り俺は自分にとって都合のいい所に逃げ込んだだけなのか……?

 

 ──俺はハクリを信じるよ。一筋縄じゃいかないと思うけど、俺達を助けて欲しい。お前の力が必要だ。

 

 ──何も考えずに椿姫を明け渡した訳じゃ無いんだ!他でもないお前だから出来た決断なんだ!

 

 いや……そんなことはない……。

 

 アイツらは俺を想ってくれている……。

 こんな俺にも価値を与えてくれる……。

 

 だって、アイツらはいつも本気だ。

 心の底からの言葉をくれる。

 都合が良い悪いじゃないんだ。

 

 だから俺は……あの2人に証明しないといけない……。

 

「そんなんじゃない……」

 

「……なんか言ったか?声が小さくて聞こえねぇ」

 

「知った風な口を利くなよ……!アイツらは……ミナトとチヒロは……都合が良い存在なんかじゃない……!」

 

 なんだ……この感覚……。

 体の奥底から力が湧き上がって来るような……。

 今まで感じたことの無い感覚だ……。

 

 ゆっくりと立ち上がる。

 体がフラつくけどまだ大丈夫。

 痛みに耐えることには慣れている。

 誰かさんが沢山愛してくれたから。

 

 体の中の玄力を強く感じる。

 今まで掴めなかった領域に、いま俺は到達しようとしているのか。

 

「伯理、一方通行の想いだったらどうする?奴らはお前を駒程度にしか思っていなかったら──」

 

「──ただの駒に寝床なんて貸してくれないさ。それ以上適当なこと言うなよ、悪い癖だ」

 

「偉そうに……!」

 

 天理が拳を握る。

 そこに玄力が込められたことが分かった。

 今までより明確に知覚できる。

 玄力の流れと、相手の動きが。

 

 ──ほとんどの妖術師がやっとる、玄力による身体強化。それは五感を研ぎ澄ませたりすることも出来るで。ほら、チヒロくんも"錦"とかゆーて自分にえらいバフかけたりしてるやろ?あれと同じや。

 

 今なら柴さんの言うことがよくわかる。

 普通の妖術師なら普段からやっている身体強化。

 それを直に味わうことで得られるこの高揚感。

 思い上がる訳じゃ無いけど、長年思い描いてきたイメージ通りの動きが今なら出来る気がする。

 

 玄力と妖術を用いた、自由自在な動きが──。

 

 天理の攻撃を首を曲げることで回避。

 そのまま身を翻して逆にその顔に裏拳を叩き込む。

 ……決して心地良いとは言えない感触が手に伝わってきた。

 

「──ッ!?」

 

「ミナトとチヒロは、俺を信じてくれている」

 

 地面を蹴り回し蹴りの動作を。

 それを見た天理はバックステップで後方へ回避。

 その隙に再び両手を構えて、相伝の妖術を放つ体勢に入る。

 

 今度は出来るよね──。

 

「だから俺は負けられない!!」

 

 "威厳を持って葬る"。

 威葬に込められた意味を、漣家に生まれたことにより刻まれた力を。

 

 解き放つ──!!

 

 突風が巻き起こる。

 それは兄さんや天理が術を発動した時と同じ現象。

 衝撃波に押された天理は、少し前に顕現された樹木の壁に激突する。

 

 イケる……通用する……!

 

 体の底から湧き上がってくるこの力を制御するんだ。

 そうしたら天理だって……。

 

「なに調子こいてんの?」

 

 刹那、周りの温度が下がった気がした。

 実際にはそんなことなんて無いだろうけど、そう感じさせる程の凄みがあった。

 そしてそれは、目の前の天理から放たれている。

 

 空気がピリつき、俺は思わず生唾を飲み込む。

 

「腐っても兄貴だからな、死なない程度にボコしてやろうと思ってたけどやめだ」

 

 大したダメージが入っていないのか、ゆらりと天理は立ち上がると俺の方へ視線を向ける。

 激しい玄力が立ちのぼりはじめる。

 それに合わせて、俺の心臓の鼓動も高まっていくのを感じた。

 

「お前のことはずっと嫌いだったからさ……伯理……。今日ここで引導を渡してやる」

 

 天理の左目が更に黒く染まる。

 本気を出す気か……?

 逆に言うと今までは全力じゃ無かった。

 力量を測っていたんだ、今の俺がどれだけやれるかを。

 

「俺達の道は分かたれた。もう血とか家族とかそんなの関係ない。ここにいるのは2人の妖術師……」

 

 天理の指が威葬の構えを取る。

 それに習うように、俺も再び威葬の手印を結んだ。

 

「勝った方が正義さ……自分が正しいってことを証明してやる……!」

 

「俺は勉強も出来なかったから、分かりやすくて助かる」

 

 同じ血を分けたとか、同じ人からの愛を受けたとか、今はそんなの捨て置け。

 

 在るのはただ、2つの正義だけ。

 

 威葬のぶつけ合い……正義の押し付け合い……。

 

 この戦い、自分の正義を信じることが出来た方が勝つ──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天理は努力家なんだ。

 そして本当は優しい奴。

 俺は知っている、天理の思いやりを。

 周りの皆が出来ていることがいつまで経っても出来ない俺に、時間をかけて教えてくれた。

 本当なら兄である俺が手本にならないといけないのに。

 自分の出来が良すぎる故に、俺の存在が迷惑になっていたことも知っている。

 そして、父さんにも恥をかかせていたことも。

 それでも天理は、俺と同じ目線で立ち続けようとしてくれていたんだ。

 見限るのも仕方ない……全部俺が悪い……。

 それからの態度は最悪だったけど、そりゃそうだよな。

 自分の貴重な時間を削ってやったのにも関わらず、何も結果が生まれなかったんだから。

 

 褒められるのは天理ばかり。

 最年少で"濤"に選ばれた麒麟児。

 

 お前が光なら俺は闇。

 お前という光が強ければ強いほど、かき消されていく存在。

 

 だけど、そんな闇の中に差し伸べられた手があったんだ。

 救いの手……俺にとって人生が変わる程の出会い……。

 

 大袈裟なんかじゃない、心底そう思ってるんだ。

 人と話すことが楽しいって、何気ない日常が大切なんだって。

 

 俺はここに居てもいいんだって、そう思わせてくれた人が。

 

 ミナトとチヒロの言葉が、その存在が、俺の背中を押してくれる。

 

 そんなの……負けてられる訳ないだろ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「威葬!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最大玄力出力のソレは、思わず自分の体が後ろに吹き飛びそうな程の衝撃波を生み出す。

 グッとこらえて脚に力を入れ、その場に何とか踏ん張る。

 足腰に力を込めろ、全ての力の源は下半身だ。

 土台が崩れちゃ正しい力の使い方が出来ない。

 

 頑張れ……。

 

 負けるな……。

 

「力の限り……!!!」

 

 この時、自分の限界を超えた気がした。

 

 普段の修行じゃ到底辿り着けない、命をかけた死線でこそ開花する力。

 左目が熱い……けどそこから力を感じる。

 俺の中に力……まだ残ってんな……。

 

「──ッ!?お前ッその仮面は……!?」

 

 今だ──。

 

 天理の動揺の隙をつき、一瞬で玄力の出力を上げる。

 秘めた力の解放、溢れ出てくる玄力を全て威葬に回す。

 

 最大威力の俺の威葬は天理の威葬をも呑み込み、正面から打ち崩してみせた。

 

 そのまま天理の体は樹木の壁を突き破り、隔たれていた向こう側へと吹き飛ばされていく。

 

 俺に気付いたチヒロがこちらを向く。

 彼の近くにはスーツを着た、片腕を損失している不気味な男が見えた。

 

 スーツの男も俺の顔を見ると、楽しそうに微笑んだ。

 

「京羅め、択を間違えたな」

 

 自分の足元まで転がってきた天理を見て、スーツの男が呟いた。

 ……天理はピクリともしない、気を失っているのか。

 まさか俺に力負けするなんて思ってなかっただろうな……。

 

「ハクリ……お前……」

 

「チヒロ……お前達が信じた男は、それに値する奴だったみたいだぜ」

 

 生まれてこの方敗北しか知らない俺にとって、勝利の感覚は何事にも代え難いものだった。

 自分も戦えるのだと、自分自身にも証明することが出来た。

 

 だからきっと、俺の中に感じるもう1つの力も、きっと使いこなせる。

 いや、使いこなしてみせる。

 

 この力はきっと、父さんに届きうる力なんだから。

 

 落ちこぼれからの脱却の1歩目は、こうして始まった──。




【漣 伯理】
・実は格闘術を少しミナトに教えてもらった
・やっぱり爆発力ありますね

【漣 天理】
・雫天石なんて無かった、1つもな
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