ペンは剣よりも強し!   作:みかんフレーク

3 / 34
第3話 異能

 交えた刃を丁寧に受け流しつつ、足を地面に着地させると同時に再度跳躍。双城の顔面目掛けて空中でボレーキックを放つ。

 

 しっかりガードされたが、玄力が込められているので威力は充分。双城を軽く吹っ飛ばすくらいは出来た。

 

 その間にチヒロを回収して双城から更に距離をとる。コイツ…かなりの大怪我してるじゃないか。それに何だか少し焦げ臭い。…そういや、少し前に雷が発生してたな。…──いやまさかな。

 

「もしかしてチヒロ、どっかで雷にでも打たれた?」

 

「ああ…刀を避雷針代わりにした…」

 

 そのまさかでした。刀を避雷針代わりって、お兄さん…。そんなの思い付いてもやらないでしょ…。それにさっきの雷の発生源、それは恐らく刳雲によるものだろう。前にチヒロが妖刀について話してくれた事がある。その時に、刳雲の能力の1つに雷を発生させる力があると教わった。

 

「全く無茶するね。ほれ、そこで少し休んどけ。動くんじゃねぇぞ?」

 

「…悪い」

 

 チヒロを楽な姿勢にしてあげる。休んどけって言っても、チヒロは動くんだろうな。何せ相手は妖刀使い…チヒロが追ってる毘灼と直接的な繋がりがある可能性が高い。是が非でも情報を抜き出したいところだろう。

 

 けど、今のチヒロを見る限りおよそ動けるような…動いていいような状態じゃない。むしろ何で意識を保っていられるかが不思議なレベルだ。

 

「お前…ただの高校生じゃねぇな…?」

 

 吹っ飛ばした双城が俺達を視野に捉える。首を鳴らしながらゆっくりと歩み寄って来ていた。チヒロと一戦交えているだろうに、まだまだ元気そうに見える。

 

 そして、その手には刳雲。チヒロの親父さんが作った傑作。人智を超えた力を持つ妖しき刀。

 

 …──勝てるのか?妖刀を持たない俺で?妖刀は使用者に莫大な力を与える。それはもう、一般的な妖術師とは一線を画す程に。そんなヤツ相手に俺が渡り合えるのか?

 

 不安ばかりが頭の中を駆け巡る。そんなこと考えている余裕は無いと分かってはいても、頭が最悪な未来を想像してしまう。俺もチヒロも殺され、恐らくヤツの狙いであるシャルも連れて行かれる未来。

 

「…ミナト、心配…するな…。俺も…まだ動ける…」

 

 背後のチヒロが消え入りそうな声で言う。やっぱりだ。コイツはこんな状態でもまだ戦おうとする。既に致命傷…これ以上戦えば命に危険が及ぶ。

 

「そこのガキと同じだ。邪魔をするならお前も同じ目に遭わせてやる」

 

 徐々にこちらへと迫って来る双城。野蛮なヤツめ。やっぱりヤバい奴だったなコイツ。銭湯で会った時の俺の目に狂いは無かった。

 

「お前らを仕留めた後はこの辺の一般人共だ。妖刀は殺戮兵器…さっきは黒いヤツのせいで未遂に終わったがな。今度はちゃんと皆殺しにしてやる」

 

「あんだって…?」

 

 殺戮兵器…?皆殺し…?まさかコイツ、関係の無い人たちまで巻き込もうとしているのか…?もしかして、チヒロがボロボロなのも近くの人たちを守ったから…?

 

『ミナト、もしあなたの友達を傷付けるような人がいたら。自分勝手な考えで周りに迷惑をかけるような人がいたら。そんなヤツ、思いっきりぶん殴ってやりなさい。自分じゃない誰かを守れる強さをあなたは持つのよ』

 

 思い起こされるのは姉さんの言葉。俺の人生の道標。人として大事なコトは全て、姉さんから教わった。昔と比べて生きる世界は変わったけど、その代わりに与えられた力がある。姉さんの教えを全うするだけの力が、今の俺にはある。

 

「椿姫」

 

 呼ぶは愛刀の名。陽光を浴びて白く光るソレは、周囲に赤い椿を降らせる。刀身解放の証、椿姫は俺の気持ちに寄り添ってくれる。

 

『君の武器はそのバカみたいな量の玄力や。俺やチヒロ君とは比べ物にならん。しかも底が見えないときてる。有効活用する他ないで』

 

『凄い奴だったんだな、ミナトは』

 

 チヒロや柴さんと研鑽を重ねた日々を思い出せ。そして信じろ、俺と俺の中に眠る力を。

 

 

 

 ──解き放つ。

 

 

 

 瞬間、周りの景色が一気に後ろへ引き下がる。玄力を込めた両足が超速を生み、双城との距離を一瞬にして埋める。

 

 目を丸くする双城が見えた。余りの速度に度肝でも抜かれてんのか。けど、体の方はしっかり反応してやがる。俺の動きに合わせて刳雲が迫って来ていた。

 

 再び激突する刃。それを皮切りに連続して斬撃を浴びせていく。俺と双城にフィジカルの差があるのは見たら分かる。戦いにおいてその差は、命に直接関わってくる。まともにぶつかれば十中八九、双城に勝利の女神は微笑むだろう。

 

 だけど、俺たち妖術師はフィジカルだけで戦っている訳では無い。体に秘めた玄力、そして携えた太刀の威力。それらを総合的に踏まえた上で、勝ちか負けかを決定している。

 

 如何ともし難い体躯の差。それを玄力の増幅でカバーする。上昇させた身体能力を駆使することで、俺の刃は双城に──。

 

「──届く」

 

 喉元にまで迫らせた白刃は、双城が体を逸らすことで致命傷を避ける。その代わり、奴の胴体を斬りつけることに成功した。

 

「やるじゃねぇか、勉強だけが取り柄だと思ってたぜ」

 

「俺が目指すのは文武両道だ」

 

「そいつァご立派だ」

 

 その時、空気が凍り付いた。バックステップで距離を取った双城が刳雲を振るうと、そこから氷の刃が飛び出して来る。刳雲の2つ目の能力か。

 

(ゆい)

 

 氷塊が俺の体を貫こうと放たれた。まともに喰らえば大きなダメージになる。これらは全て叩き伏せる。

 

 見極め、斬撃を放つ。玄力を込めた複数の斬撃により、氷の弾丸を全て斬り伏せることに成功。雷、氷、あとは水だっけか?ただの刀にこんな特殊能力を付与させるなんて、チヒロの親父さんはとんでもない人だ。

 

(こう)

 

「──ッ!?」

 

 しかし、氷塊の影に隠れるように迫って来ていたのは放水の一撃。氷の刃を凌いで一瞬油断をしていたその隙に付け入るように、水流が俺の体に激突する。

 

 近くの建物の壁に流され叩き付けられる。肺の中の酸素が体外に吐き出され、一瞬呼吸が出来なくなった。大丈夫、焦るな、玄力で体の耐久度も底上げしている。無傷とまではいかないがダメージは少ない。体はまだ動く。

 

「避けろよ!」

 

「チッ…!」

 

 急接近してきた双城が、続け様に刀を振り下ろす。その一撃は横に回転しながら回避し、直ぐに体勢を立て直す。再び脚部の玄力を爆発させて肉薄し、刳雲と椿姫が火花を散らせる。

 

「ハッハァ!イイじゃねぇか小僧ッ!!妖刀でもねぇのに楽しませてくれるなぁ!!」

 

「気狂いめ…誰が楽しくて戦いをやるんだよ…!」

 

 上部からの唐竹割りの動作に入る。人間、斬り上げるよりも斬り下げる時の方が力は込めやすい。俺が刀を振り上げると、双城はそれに反応して刳雲を盾にして構える。正面から受け切るということだ。

 

 双城の脳天をかち割る一撃…もちろん俺もそのつもりで刀を振るった。途中までは。

 

 椿姫が刳雲にぶつかる寸前、俺は刀から手を離す。フワリと宙を泳ぐ椿姫。突飛な対応に双城の思考が一瞬停止する。刳雲は以前、主を守る為に上段で構えられている。

 

 故に、胴体がガラ空き──。

 

 刀の方に流し入れていた玄力を、右の拳に全て注ぎ込む。そのまま狙ってくださいと言わんばかりの双城の鳩尾に、腕をぶち込んだ。それを思いっきり振り抜き、建物の壁まで吹っ飛ばす。

 

 玄力による身体強化(バフ)…それは刀を持つことでも恩恵は充分に得られる。ただ、元になるのは俺たち自身の体なんだ。侍だからと言って刀だけ振るってたらいいってもんじゃない。虚を突き、自由に攻めることこそ俺の本領だ。

 

「痛ぇじゃねぇか…!ちゃんと急所狙いやがって…人体の構造を理解してやがる…」

 

「学校で教えてもらったんだよ。痛いとこ突いてけってな」

 

「ケッ、いい気になりやがって…。だがそろそろこっちも(めい)のインターバルが──ッ!?」

 

 鳴…?インターバル…?ああ、チヒロに放った雷攻撃のことか。遠くからでも確認が出来るほどの高出力、広範囲だったもんな。再使用に少し時間がかかっていたのか。道理でビリビリさせてこないハズだ。

 

 けど、そんなのもう関係ない。刳雲は3つの属性を操る異能が厄介だ。通常の剣戟では考えも付かない現象が、いつ起こるか分からない。それにシャルやヒナオさんのことも心配だ。さっきから姿が見えない。

 

 どちらにせよ時間をかけてる暇はない。能力を使いこなされる前に、関係の無い人たちが巻き込まれる前に、双城を討つ。

 

「肌がヒリつく。ミナト…とか言ってたな。とんでもない奴がいたもんだ」

 

 体内に眠る玄力を引き出す。通常であれば練り上げた玄力は体や武器に纏わせるものだが、俺の場合は少し異なる。纏わせるところまでは同じだが、練り上げられた膨大な量の玄力が体や刀を通して溢れ出てくる。

 

 チヒロが傷つけられた。他にも双城のせいで巻き込まれた人がいるかもしれない。その事実が、どうしようもなく俺の感情を揺さぶってくる。コイツは野放しにしておいたら危険な存在だ。今ここで倒し切ってみせる。

 

 椿姫との一体感を感じる。纏わせた玄力が俺と椿姫を繋げてくれる。一心同体というやつか、もはや刀も体の一部と化している。

 

 椿姫は淵天や刳雲のような妖刀では無い。だが、出力はその2本にも引けを取らない。秘められた潜在能力(ポテンシャル)を引き出すことさえ出来れば、妖刀に肩を並べることもできる。全ては使い手次第だ。

 

 チヒロの親父さんが鍛造し、完成間際で逝去。最終調整をチヒロが行ってくれた椿姫は、六平親子の魂と執念が込められた一品。2人の合作。2人の意志を汲み取り、使い手の願いを実現させる。

 

 大切な人たちを守る為に、悲しみを増やさない為に。目の前を悪を討つ。それが俺の使命…椿姫を託された意味だ。

 

 

 

 

(りん)

 

 

 

 

 刻まれた異能。

 

 この力は悪を討ち滅ぼす為に。

 

 椿姫は白く輝く。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。