ペンは剣よりも強し!   作:みかんフレーク

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第30話 英雄

 Side : ミナト

 

 右嵐さんと別れて列車に飛び乗って、俺はのんびりと座席に腰をかけていた。

 

 仙沓寺行きへの電車だけど、到着までまだ時間はある。ここはゆったりプチ旅行気分とでもいこうじゃないか。

 

「へっへっへ〜、旅のお供と言えばこいつだよな〜」

 

 ガサゴソとポケットから取り出したのはそう、ポッキー。遠出する時には必ず持っていくんだなこれは。

 

 袋から数本取りだしてから口に挟み、お決まりのポキッという音を鳴らす。これだよこれこれ。俺の求めていたものはこれなんだよ。凄い……食べているだけで感じるこの高揚感……やはりポッキーの"はしゃぎ気分増幅力は舐めたらいけない……!

 

 その時、脳内に走る微かな記憶──。

 

 ポッキーを取り出して、それを誰か別の子に分け与えている記憶……。黒髪の……花のような笑顔の女の子……。姉さんじゃあ無い……別の女の子だ……。

 

 ……ま、多分どっかのタイミングでそんな事もあるだろう。昔のことをしっかり覚えている人の方が少ないだろうし。でもなんか妙に引っかかるような……。

 

「にしてもチヒロのやつ……さっきから電話が繋がんないな……なにしてんだろ……?いつもはワンコールで出てくれるのに」

 

 携帯とにらめっこしても埒があかないので、渋々学ランの内ポケットに戻す。契約者の漆羽さんと合流できたのはメッセージで来てたから安心したけど、それから繋がらないとなると少し雲行きが怪しそうだな。

 

「ハクリは……あいつ携帯持ってなかったな……。持ってないと流石に不便かもしれんから、今度薊さんに相談してみよ」

 

 電車は揺れる。

 目的地の仙沓寺まで、まだまだ距離はあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが仙沓寺かぁ……」

 

 目の前にそびえ立つ荘厳な雰囲気の建物に、俺──漣ハクリは息を飲む。

 

 いかにもといった様相のお寺は、入口の長い階段からして相応の雰囲気を醸し出している。そうだよな……これ登んないといけないんだよな……。

 

「無事で良かった」

 

 息もきれぎれになりながら階段を登り切ると、涼しい顔をした美女が立っていた。黒髪を短く切り揃えた、クール系の女性。思わず俺は目を奪われていた。

 

「漣ハクリ君ね……作戦は聞いているわ。あなたの力で妖刀を回収出来ると……」

 

「あ……はい!契約者に触れることが出来れば……!」

 

「その前にやることがあるんだろう?」

 

 隣を歩いていた漆羽さんが不意に口を開いた。やること……?一体なんだ?特に俺の方では聞いてないけど……。

 

「蔵の力を使うにはかなりの負担を強いられる。そして今のあなたの脳は限界に近い。満足に能力を使うためには、休息が必要よ」

 

「別に休む必要なんか……」

 

「駄目よ、ここで無理しちゃ。あなたの力は唯一なんだから、もっと先のことも見据えて」

 

 窘めるようにその女性は続けた。

 

「あなたは力は財産なのだから」

 

 肯定──。

 

 肉親から授けてもらえず、最近になってやっと友人から貰えたそれを、この女の人も真っ向からぶつけてくれた。どこかくすぐったい部分もあるけど、嬉しくないと言えば嘘になる。

 

「大人しく従っとけ、ハクリくん。特に女性の言うことにはな」

 

「……の方が良さそうですね」

 

 漆羽さんと苦笑いしながら通路を歩く。すると、視線の先から何やら慌ただしい人物が見えてきた。

 

「誰かが走ってくる……」

 

「あれは……」

 

 その人物は俺の前に立ちはだかると、顔をグイッと近づけてきた。生憎、男の人に近寄られて喜ぶ趣味は無いんだけど……。

 

「懐かしい匂いがすんなぁ」

 

 サングラスに無精髭を生やした男の人……加えて俺の体をクンクンと犬のように嗅ぎ回してくる。誰だ……この人……?俺の知人の中には存在しないぞ。

 

「ん……?チヒロの匂いに混じったこのチビは……誰だ……?」

 

「いやこっちのセリフ!!俺は漣ハクリ!!チヒロは俺の友達だよ!!」

 

 思わず声を荒らげると、サングラスのおっさんは少したじろいだ。

 

「漣……?あぁそういうことか……いつの間にそんな血統を引き込んだんだ?神奈備は……」

 

 ……漣家っていう色眼鏡で見てるな、この人も。俺は落ちこぼれなのに。

 

「それにお前……ミナトとも友達なのか?」

 

「え……?ミナトのことも知ってるの……?」

 

「まだアイツらが若い時に1回だけな」

 

 まだ10代だから若い時に入ると思うけど……。まぁ年取るとそういう感覚になるのか……。にしてもミナトとも知り合いってことは、もしかしてこの人が……。

 

「久しぶりだな、座村さん」

 

「おぉ漆羽か。何年ぶりだ?」

 

 やっぱりそうか、この人が妖刀の契約者の。

 

 座村さんと漆羽さんが拳をぶつける。過去の戦争で共に戦った戦友……しばらくぶりなんだろうけど確かな絆はそこに感じる。

 

「何やら敵が俺たちを狙ってるんだって?物騒だな」

 

「ああ、俺もさっき狙われた。このハクリくんに守ってもらったんだ」

 

「ほぅ流石は漣家のボウズってとこか」

 

「いや、俺なんてまだまだです」

 

 謙遜……なんてものじゃない、事実だ。俺は皆と比べたらまだよちよち歩きをし始めたばかりの赤子同然。ちょっと玄力を扱えるくらいになった程度で、一人前ヅラなんて出来ないさ。

 

「──んで、そのチヒロとミナトは?一緒に来てそうな感じだけど見当たらねぇな」

 

「後から来るよ。チヒロは敵と交戦中で、ミナトは後の電車で向かってる」

 

「そうか、デッカくなってんのかなぁアイツら」

 

 どこか懐かしむような声と顔で座村さんは呟いた。まるで、久々に会う息子達との時間を楽しみにするかのように。そういえば、座村さんにはお子さんとか居ないのかな?漆羽さんは独身だって言ってたけど。年齢は分かんないけど、パッと見父さんと同じくらいに見えるんだよな。もしかしたら、同い年くらいの子どもがいたりして。

 

 その時だった──。

 

「敵襲ーッ!!敵襲ーッ!!」

 

 堂内に響いてきたのはけたたましい鐘の音と大声。見張りの門番が放った言葉を受け、俺たちに緊張が走る。

 

「思ったより早いな……!」

 

「毘灼ですよね……?狙いはやっぱり契約者……!」

 

 ぐいっと袖を引っ張られる。そばに居た黒髪の女性だった。彼女はそのまま俺を無理やり引っ張るようにして、その場から連れ出す。

 

「この子の神経を回復させる。そうしたら契約者たちの妖刀を手元に呼び出すことが出来るから。だからそれまで──」

 

「──時間を稼げってことか?」

 

 座村さんの黒いサングラスが鈍く光った。……どうする気だ?まさか正面切って戦う気じゃ……。

 

「俺もやるよ、座村さん」

 

「おう漆羽、心強いな」

 

 何やら漆羽さんもやる気になってる。でもそれって本末転倒なんじゃ……。

 

「2人を守る為の戦いなんじゃ……?そんな2人が最前線に立つってこと……?」

 

「何言ってやがる?当たり前だろ」

 

「えぇ!?そんなわざわざ敵の前に顔を出す必要なんて!!」

 

「安く見積もられたもんだな……これくらい安い御用さ」

 

 座村さんが俺の頭に手をポンと置く。なぜだか懐かしい気持ちになった。

 

「いいかボウズ。お前の力が頼りなんだろ?お前の力が回復するまで、俺たち大人が戦う。ガキは大人しく後ろにいろ」

 

 続けて頭をポンポンされる。力強く、温かい……。妙な安心感がある。座村さんの発言には、どこか重みを感じる。

 

「腐っても戦争経験者だ。有象無象に負けてやる訳にはいかない。そしてハクリくん、君の力で妖刀さえ手に戻れば形成は逆転。だから君は君のやるべき事をやってくれ」

 

「漆羽さん……」

 

 ……彼の言うとおりかもしれない。現状での最高戦力を使わずにどうやって敵を退ける……?それに、俺が心配する必要なんてないのかもしれない。だって彼らは……。

 

「腕鈍っちゃいねぇだろうな?漆羽」

 

「それを言うならアンタもな、座村さん」

 

 かつて日本を救った英雄なのだから──。

 

 2人の背中がやけに大きく見える。人に安心感を与えるって、こういうことなのだろうか。

 

「ハクリくん、急いで。1秒でも早く蔵を復活させるから」

 

「……ッ!はい!お願いします!」

 

 連れられ仙沓寺の奥の方へ。英雄たちの背中が少しづつ遠くなっていく。

 

 きっと彼らなら大丈夫……それにミナトとチヒロだってもう少ししたら駆けつけてくれるんだ……。この4人が揃えば毘灼なんて目じゃないはずだ。そうだよ、蔵が復活したら妖刀が4本こちら側に渡ることになるんだ。戦力としては十分さ。

 

 頼れる仲間たちを信じて、俺は目的の場所まで向かっていった。

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