ペンは剣よりも強し!   作:みかんフレーク

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第31話 風呂上がり

 Side : 漆羽

 

 六平さんに妖刀を託されてから、俺の人生はバラ色に染まった。

 だってあの六平さんだからな?あの目、あの顔、あの出で立ち。全てが完璧な男に──。

 

「漆羽……お前にふさわしい……」

 

 って言われながら妖刀を渡された日には、一晩中喜びの舞を踊ったっけ。忘れもしない、あの高揚感。

 

 人は俺や座村さんたち契約者を英雄と呼ぶけど、本当の英雄は六平さんだ。妖刀を作り上げ、敵と戦うための力を授けてくれた。あの人がこの世にいなかったら、今頃俺たちは生きちゃいない。戦争に負けていたのは俺たちの方なんだ。

 

 座村さんは戦後よく言っていた。俺たちはただ刀を振るっただけだ、って。言ってることは間違ってない。本当にその通り。培った力を妖刀で更に強化し、刻まれた能力を行使しただけ。ただそれだけのことをしたまでだ。

 

 あれから何年もの年月が経った。

 

 久々の戦場は血の匂いしかしない。

 

 だけどいま俺が取るべき択はこれだ。

 

 毘灼とやらの襲撃から皆を守り、再び戦火に包まれようとするこの国を守る。

 

「背中なんて向けてる暇ないよな」

 

 懐かしさを覚える刀の音と、隣に立つサングラスの人。華々しい過去とは言わないけど、座村さんが隣にいた過去は確かにあった。そしてこの人がそばにいる安心感は半端じゃない。

 

 居合白禊流──俺と座村さんが継承した剣術流派。

 

 最速の剣術と呼ばれるこの術で、俺と座村さんは放り込まれてきた毘灼に雇われた術師と戦闘を繰り広げている。

 

「物量作戦、人海戦術。削りにしちゃデカイ投資だなありゃ」

 

 座村さんは目が見えない。その代わり耳や鼻で敵を感知する。そんな座村さんが目を向ける方向に、異様な玄力を纏う奴らが数人。

 

「目に見えるほどの玄力か……。何か持たされてるのか……?」

 

「なかなかにきな臭いな。パワーも他と比べてダンチだ」

 

 生唾を飲み込む。

 

 敵の数はかなり多い。完全に四方八方を塞がれ、俺と座村さんの命を狙いにきていることが伺える。ただの妖術師と、体から玄力を立ち上らせている妖術師。量と質、その両方で攻め立てられいる状況だ。

 

 加えて……。

 

「この鬱陶しい樹木は、あの上から見下ろしてきやがるイケすかねぇ野郎の術だな」

 

 見物人かのように、俺たちの戦いを上から見下ろす男が1人。腕には紋様。毘灼の中でも実力者の証なのか……ただならぬ雰囲気を感じる。

 

「座村さん……めちゃくちゃ今更なんだけど、俺隣で戦ってても大丈夫なの?」

 

「……あ?どういう意味だそれ」

 

「いやアンタは獣並みの超感覚で人の居場所を見知するじゃないか。俺と敵の違いとか分かるのかなって」

 

 はぁ、と大きなため息が聞こえた。なんで……?俺そんな変なこと言った……?

 

「忘れたのか漆羽。あんなに一緒に戦ってたのに」

 

 迫ってきた敵を1人、座村さんが斬り裂く。鮮血が地面に零れ落ちた。

 

「仲間の匂いを間違える訳ないだろ」

 

「……へっ、それもそうか」

 

 少し侮っていたようだ。

 

 野生の感覚で人を区別する座村さんは、彼対策で撒かれた硝煙の中でも力を発揮出来る。毘灼の奴らめ、ちゃんとこっちの弱みを熟知してきているな。けど、座村さんには関係なかったようだ。

 

「そーいや俺、アンタに剣術で勝ったこと無かったわ」

 

「そうだろ?もっと敬え後輩」

 

 皮切りに二人で駆け出す。

 

 あまり距離は離さないようにする、互いの援護が必要になる時があるから。

 

 敵に囲まれているんだ、360°対応するには他人の目が必要だ。

 

 それをお互いに補い合う。

 

 例え座村さんの目に光が灯っていなくとも、彼の戦いの技術を甘く見てはいけない。

 

 妖刀を握る前から、座村さんは強かったんだから──。

 

「少し数を増やすか」

 

 頭の上からそんな声が聞こえた。樹木を操る毘灼の声だとすぐに分かった。

 

 次の瞬間、爆発的な玄力の増幅が感じられた。可視化される玄力を身に纏う術師の数が増えたんだ。

 

 特別な力を与えられた野良の術師……だがその力は想像以上。倒せないことは無いがなかなかに苦戦する。

 

「死ねぇ!!」

 

 物騒な言葉を吐きながら突撃してきた敵を、居合白禊流で成敗。

 

 最速の剣技を見切れる奴はそうはいない。

 

 だがこいつら……やけにしぶとい……。

 

 体の耐久力も上がっているのか、はたまた俺の腕が思ってたより鈍っているのか。その両方か。

 

 時間をかけるほど不利になるのは間違いなくこちら側。

 

「あのボウズ、どんくらいで戻ってくる?」

 

 後退してきた座村さんがそう投げかけてきた。

 

「いや……ちゃんと聞いてなかった……すんません……」

 

「そうか……いつまでもつか……」

 

 言いながら再び座村さんは地を蹴り剣を振るう。

 

 見ていて思う、なんであの人の腕は鈍っていないのかと。

 

 あの頃の──斉廷戦争で共に戦場を駆け抜けたあの時と変わらない……いや、あの時以上に研ぎ澄まされている。

 

 根が真面目な人だからなぁ、座村さんは。多分剣はずっと振るってたんだろう。もちろん、人を斬るんじゃなく、腕前を落とさないために。

 

 それに比べて俺はどうだ……?

 

 息は少し切れてきてる、足が重くなってきた、手に持つ刀に重力を感じる。情けないことこの上ない。しまったな、温泉に入りすぎてのぼせちまったかもしれない。

 

 ──思い出せ。

 

 ──戦いの記憶を。

 

 ──全盛期とまではいかないが、いま俺の体で出せる最高のパフォーマンスを。

 

 ──全部、全部引き出すんだ。

 

 ──そして並び立て、あの人の横へ。

 

 玄力を解放し、全身へ淀みなく回す。

 

 高度な玄力操作が、妖術師との戦いの時には勝敗の分かれ目となる。要求される技量はとてつもなく高い。それを超えてこその英雄だ。

 

 地が抉れる程の踏み込みが俺に速度を齎す。敵がどんな力を持っていても関係無い。俺は、俺達はただ護るだけ。平和を掴んだこの国の安寧を継続させるだけだ。

 

 俺達が先陣を切らないと。

 

 刃を翻し目の前の敵の右腕を斬り飛ばす。

 

 続けて飛来して来た奴は宙で回転し、胴体をかっ捌いてやる。

 

 動かなくなった体に刃を突き立て、そのままこちらを見上げていた別の術師の体も巻き込んで貫通させた。

 

「速い……!」

 

「それがウリなもんで」

 

 刀を鞘にしまい込み、玄力を込める。

 居合白禊流……その作法を初めて見た時は正直鼻で笑った。

 通常の抜刀とは異なり、居合白禊流は刀を抜く時に半回転させなければ敵を斬る事が出来ない。

 それでは折角溜めた力や玄力を適切に発露出来ないと、誰もが嗤った。

 だがその御業を完璧に体現させる男がこの世に2人。

 彼らは浪漫を手にし、実力で夢を示してみせた。

 

 ああそうさ、憧れたんだ。

 俺だって男の子だった時期があったんだ。

 作法からだけでは読み取れない浪漫がそこにはあったから。

 

 だから俺も、周りに笑われながら必死こいてその技術を体得した。

 その選択は間違っていなかったんだ。

 

 白刃の閃光が軌跡となり、敵を穿つ。

 

 俺と座村さんの2人なら、居合白禊流の免許皆伝である俺達なら、これくらいの山場を乗り切れる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 力の爆発。

 

 俺と座村さんの周りを囲む、夥しく可視化された玄力。

 

 野良の術師はほぼ倒した。

 残るは力を与えられた奴らのみ。

 見誤っていたのか、奴らのしぶとさは予想以上……。

 

「……こりゃあ時間の問題かもな。このままじゃジリ貧だ」

 

 流石の座村さんも息が上がっていた。

 頬に付いた返り血を拭いながら、刀を握り直す。

 いくら英雄だと持て囃されたところで、所詮は1人の人間。

 削られ続ければ、いつかは限界が来る。

 

 妖刀さえ有れば……。

 いや……あと1人こちらに加勢してくれる実力者が居てくれたら……。

 形成は覆せる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"鳴"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷鳴が轟く。

 同時に込み上げてきた懐かしさ。

 この音……この空気……。

 肌に刺さるピリつくような感覚は……。

 

「巳坂……?」

 

 かつての仲間の名前が自然と漏れる。

 降ってきた雷は見事なまでに敵だけを貫き、その動きを完全に停止させた。

 プスプスと焼け焦げたような音と匂いがしてくる。

 

「すみません、遅くなって……。当たってない……よね?」

 

 声の方へ顔を向ける。

 そこには、まだ幼い色を残した学生服の男の子が立っていた。

 

「チヒロ達から話は聞いてたよ。漆羽さんと……久しぶりだね座村さん」

 

「……鼻が潰されたんでな、うっすらとしか分かんねぇが……。ミナトだな?」

 

「そ、元気そうでなにより」

 

 雷を身に纏った少年は、笑顔でそう答えた。

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