ペンは剣よりも強し!   作:みかんフレーク

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カグラバチ!

アニメ化!!

来年の4月!!!


第32話 黒羽と雷雲

 鳴の一撃で毘灼が動かなくなったのを確認してから、再度2人の方へ顔を向ける。

 

 座村さん……昔の記憶とほとんど変わっていない。トレードマークのサングラスに、顎の無精髭。

 

 そして漆羽さん。初対面だが、驚くほど若々しい。確か保護されてたのはは温泉だったはずだ。美肌効果のある湯に毎日浸かっているせいか、肌には張りがあり、なにより顔立ちが整っている。正直、少し羨ましい。

 

「背ぇ伸びたか?」

 

「170くらいかな。まだ成長痛来てるけどね」

 

「そうか。相変わらず勉強は忙しいのか?」

 

「まぁね、ぼちぼち」

 

 座村さんと過ごしたのは、わずか数時間だった。だが、その短い時間で多くを語り合い、玄力操作の基礎を叩き込まれた。戦争を終結へ導いた英雄。強くなるにはこの人の背中を追えばいい──あの日刻まれた憧憬は、今も色褪せていない。

 

「さっきの"鳴"だよな?"刳雲"の技の1つの。なら君が今の……」

 

 漆羽さんが目を丸くし、品定めするように俺を凝視する。かつての戦友の力を振るう若者が現れたんだ。穏やかではいられないのも無理はないだろう。

 

「話はチヒロ達から聞いてたけど、正直疑ってたさ。けどさっきの雷……間違いなく刳雲で起こした現象だった。いやぁ驚いたな」

 

「どうも……。やっぱ鳴は便利だからね、汎用性高いし」

 

「ん……?でも君のその刀、刳雲じゃないな……」

 

 漆羽さんの視線が、俺の腰の鞘に止まる。目は見えないはずの座村さんも、微かな気配を辿るようにじっと鞘を見つめた。

 

「あぁ……これには色々と訳があるっぽくて……俺もよく分かってないんだ」

 

「なんだそりゃ。オカルトの類か?」

 

「でもミナト、お前さんから巳坂の匂いがするぞ。うっすらとな」

 

 座村さんのその言葉に目を丸くする。巳坂……刳雲の初代契約者……。刳雲によって数々の伝承を作り上げた男だ。

 

 楽座市での死闘の最中、精神世界で出会ったあの後ろ姿が脳裏をよぎる。刳雲の力を取り込んだ際、彼の残滓も俺の中に溶け込んだのかもしれない。座村さんの鋭い感覚は、それを「匂い」として捉えたのだ。

 

「探知犬みたいで面白いね」

 

「悪い事してたらガブッといくからな。背中には気を付けろ」

 

 軽口を叩き合いながら、ハクリが治療を受けている部屋へと足を向ける。チヒロの姿はまだない。どこかで敵と交戦しているのか。"淵天"を持っているとはいえ、心配は尽きなかった。

 

「ちょっと俺トイレに……」

 

「おう、そこ真っ直ぐ行って右だ」

 

 不意の生理現象に襲われ、俺は二人と別れて廊下を急いだ。

 

「座村さん、あんまり変わってなかったな。ま、そりゃそうだよな。大人がそんな急に見た目が変わったりはしないよな。あの歳でイメチェンなんてのもやりづらいだろうし」

 

 また剣術や玄力操作について教わりたい。漆羽さんも含め、経験豊富な先代契約者たちの指導を受けられるのは、俺にとって何よりの財産になるはずだ。

 

 

 

 その時だった。再び脳内にノイズが走り、見知らぬ情景がフラッシュバックする。

 

 小さな道場。竹刀のぶつかり合う音。

 稽古に励む大人たちの中に、二人の子供が混じっている。俺と、見覚えのあるローツインテールの女の子。

 

 ──これは、俺の記憶か?

 

 幼すぎて欠落していた断片だろうか。あまりに不鮮明で、チグハグな映像。

 

「──ッ!?座村……さん……?」

 

 映像の中に、今と変わらぬサングラス姿の座村さんが現れた。彼は優しく少女の頭に手を置いている。

 

 何で座村さんが……?

 

 あの少女と座村さんの関係は──もしかして娘……?

 

 閃光のような衝撃と共に意識が現実に引き戻される。目の前には静まり返った仙沓寺の廊下。最近、この現象の頻度が上がっている。何かの予兆だろうか。

 

「う……うぅ……誰……か……」

 

 消え入りそうな微かな声が耳を突いた。視線を向けると、床に這いつくばり、血溜まりの中で喘ぐ僧侶の姿があった。

 

 駆け寄り、その体を抱き起こす。

 

「動ける?」

 

「む……娘と……妻がいるんだ……帰りを……待ってる……」

 

 震える唇から溢れる言葉はあまりに弱々しい。近付いて分かった。出血が酷すぎる。助からない。

 

 ──ありがとう……私を姉にしてくれて……。

 

 死にゆく男の姿に、姉の最期が重なる。

 

 心臓が激しく脈打ち、視界が歪む。

 

「俺は……まだ……死ね……な……」

 

 男はそう言い残し、俺の腕の中で動かなくなった。見開かれた瞳が、理不尽な死を突きつけてくる

 

「何で……」

 

 疑問が渦巻く。

 

「何で……こうなる……」

 

 この人も、姉さんも、悪人では無いのに。何で命を失わないといけない?何で残された人が悲しい思いをしなければならない?

 

 誰のせいだ?

 

 いや……。

 

 考える必要は無い。答えはもう知っている。

 

 チヒロの父親を殺したのも、漣京羅に真打を渡して楽座市に出品させたのも、仙沓寺を襲撃してこの人の命を奪ったのも。

 

 全部……全部……毘灼の仕業だ。

 

 ──たった1人で復讐の道を進む必要は無いんだ。心配しないで、俺も一緒に隣を歩くから。

 

 復讐の道を歩くチヒロと同じ歩幅で歩く覚悟はあった。でも今は違うのかもしれない。同じ歩幅じゃ歩けない。

 

「俺が先を行くかもしれないよ、チヒロ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side : ハクリ

 

「えっ!?ミナト来た!?」

 

 治療室に響き渡るほどの声を上げてしまった。漆羽さんが困惑したように頷く。

 

「ああ。刳雲で俺達を助けてくれたよ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、思わず口角が緩んだ。

 

「アイツめ……良いとこ取りしに来たな……!」

 

 劣勢だった戦況を、ミナトの雷が覆したらしい。さすが妖刀の力、そしてミナトだ。

 

 玄力を司る脳の応急処置は、巻墨の尽力でどうにか終わった。ここではこれ以上の治療は難しいため、然るべき施設へ移送することになる。

 

「まだ何があるか分からねぇ。飛宗の転送だけでも出来ねぇか?」

 

 座村さんの言葉に、俺は二つ返事で頷いた。

 

「そうですね。ちゃちゃっとやっちゃいます」

 

「あ……待って……」

 

 巻墨の炭さんが制止するより早く、俺は蔵から"飛宗"を呼び出す。

 

 だが、その瞬間。鼻から熱い液体が溢れ出した。

 

「あ……」

 

「……回復させたんじゃなかったのか?」

 

「ただの応急処置だから。妖術を使うのはまだ駄目……」

 

 そういう大事なことは、先に言ってほしかった。

 

 全身の力が抜け、視界が暗転する。漆羽さんの刀も出さなきゃいけなかったのに。

 

 強烈な頭痛と出血に意識を奪われる寸前、俺の目に映ったのは、自分の妖刀を見つめる座村さんの横顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遺体の処置を終え、俺は重い足取りで走り出した。

 

 せめて安らかに。亡くなった人々の瞼を閉じ、血を拭うことしかできなかった。彼らは妖刀の契約者を守るため、ひいてはこの国を守るために命を散らしたんだ。

 

 毘灼に対抗するには妖刀の力が不可欠。現在、こちら側には四人の契約者が揃っている。戦力が整うのは時間の問題だ。

 

 座村さんと漆羽さんの実力は、技術と妖刀が合致した完成形だ。俺に足りないのは、あの域に達するための圧倒的な地力。

 

「皆の所へ戻るのに、少し時間かかっちゃったな……。待たせちゃダメだ……」

 

 遺体の処置をした後、駆け足で座村さん達の元へ戻る。まだ戦いの匂いの残る寺の中を走って行った。

 

 そうだ……さっき見た情景について座村さんにも聞いてみよう……。恐らく過去の記憶がフラッシュバックしたんだと思うけど、記憶の中に確実に座村さんがいた。もしかしたら何かを知っているかもしれない。俺の知らない過去を、あの人なら──。

 

 階段を駆け上がり開けた場所に出る。遠目だけど漆羽さんの背中が見えた。やっぱりここに皆いたようだ。その場所へ行こうと地面を蹴った時……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は──?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漆羽さんの体から、鮮血が噴き出した。

 

 糸が切れた人形のように、地面に崩れ落ちる漆羽さん。

 

 その傍らに立っていたのは。

 

「座村さん──?」

 

 刀に付着した血を静かに払う、座村さんの姿だった。

 

「ミナトか……」

 

 地を這うような低い声。

 

 頭の理解が追いつかない。喉の奥が震え、声にならない吐息が漏れる。

 

「何これ……どういう、こと……?」

 

 ゆっくりと辺りを見渡すと、地面に倒れているハクリと、近くに3人の体が転がっていた。まさかハクリも……周りの3人の人たちも既に……。

 

「漣のガキと巻墨の奴らは気絶してるだけだ……。けど漆羽は……」

 

 震える足で漆羽さんに駆け寄る。床には急速に巨大な血溜まりが広がっていた。

 

「漆羽さん……!漆羽さん……!しっかり……!」

 

 返事はない。その瞳からは、すでに生命の光が失われていた。

 

 姉さんの最期が、再び目の前の光景に重なり、激しい動悸が襲う。

 

「ミナト……お前には色々と聞きたかったんだ……。刳雲との関係について」

 

「聞きたいって……それはこっちのセリフだろ!!」

 

 刹那。

 

 視界を断ち切るような鋭い刃が迫る。

 

 標的は俺の首。

 

 容赦のない一撃だった。

 

「……それだよ。お前のその能力が気がかりなんだ」

 

 咄嗟に展開した"結"の盾が、座村さんの刃を弾く。

 

「お前は刳雲と命滅契約を結んだのか?」

 

「──ああ、結んだよ。でも刀自体はもう無い。振り絞って、消え失せたんだ」

 

「なら何で刳雲の能力を使える?」

 

「そんなの俺が聞きたいよ……!」

 

「とんだノイズだな……」

 

 愛刀・椿姫で刀を押し返し、距離を取る。座村さんが手にしているのは、先ほどまで持っていた刀ではない。漆黒の羽を思わせる禍々しい気配。あれが"飛宗"か。

 

「だったらどうする……?俺も斬るのか……!?」

 

「ああ……そのつもりだ……」

 

 一歩、また一歩と座村さんが距離を詰める。

 

 彼から立ち昇る玄力の圧力に、本能的な恐怖が背筋を走る。

 

「何か理由があるんだよね……?じゃなきゃこんなことしないハズだ……!」

 

 かつての仲間を、俺の友達を理由なく傷つけるような人じゃないのは知っている。何か理由があるハズなんだ、こんなことをする理由が。絶対に。

 

「ミナト……お前はまだ憎しみに囚われているのか?」

 

「……?なんのこと……?」

 

「昔言ってたじゃねぇか。姉貴を奪った奴らが憎いから……だから刀を握るって」

 

 数年前……チヒロと一緒に座村さんに技術を教えてもらった日のことか。

 

「姉さんは死んだ……もういない……!」

 

「じゃあお前は何の為に戦う?どんな大義があってその手を血に染める?」

 

 何の為に……?戦う理由……?そんなの……そんなの言われるまでもない……。

 

 ──ミナト……あなたは優しくて強い子だから……誰かを想って生きなさい。自分じゃない誰かの為に……。

 

 姉さんの言葉が脳内に溢れる。俺の行動指針は、あの日あの時定まったんだ。それがブレるなんてことは無い……。

 

「大切な人とずっと一緒に生きていくんだ……!失わない為に……だから俺は悪を斬る……!今日だって……座村さんと漆羽さんの助けになる為に──」

 

「──そうか、お前にも悪いことをしたな」

 

 座村さんが"飛宗"を鞘に収めた。

 

 彼の真骨頂は、最速の抜刀術。逃げ場のない死の結界。

 

「もういいんだ、ミナト。お前はもう戦わなくても……」

 

 理解不能な言葉が耳を通り過ぎる。説明が足りない。なぜこんな状況になっているのか、なぜ座村さんと殺し合わなければならないのか。

 

 空から漆黒の羽が舞い落ちる。"飛宗"の能力が解放され、空気が重く沈み込んだ。座村さんは本気だ。俺を排除しようとしている。

 

 玄力の増幅が対話を区切らせる合図だった。やる気だ……座村さんは俺も斬るつもりなんだ……。理由は分からない……何でこうなるのか……。

 

 ──ちゃんと話し合わなきゃ。

 

 理由無く刃を振るうことはしない人だから。きっと心の奥底に何かを秘めているハズだから。全部1人で背負うつもりなら、それは多分俺自身のせいだ。

 

「やるしかない……」

 

 椿姫に玄力を注ぎ込む。

 

 かつて紅かった椿の花は、今は凍てつくような白銀に染まっている。

 

 同時に、体内の"刳雲"を呼び覚ます。

 

 周囲に渦巻く雲が、雷鳴を孕んで荒れ狂う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"飛宗"」

 

 

 

 

「"刳雲"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二振りの妖刀が、静寂を切り裂いてその牙を剥いた。










次回 刳雲 VS 飛宗





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