「悪いけど、何も言わずついてきてくれ」
「え…!?あの…!」
返事を貰っている暇は無い。強引にイヲリの手を引き上げ廊下へ飛び出す。
「担任の先生、イヲリは早退にしといてよ!」
それだけ言い残し、廊下を駆ける。階段で下に降りようと思ったが、イヲリもいることだしなかなかに面倒くさい。それならーー。
「しっかり掴まってて」
「え、ちょ、何する気!?」
イヲリの背中と膝裏に手を回し、人生初のお姫様抱っこ。こいつ軽いな…ちゃんと食べてんのか。
「スカートはごめん」
「は…!?」
言うやいなや、開けておいた窓から俺たちは飛び立つ。眼下に広がる校庭との距離がちょっとずつ縮まっていく。イヲリは白目を向いて気絶をしていた。絶叫系苦手なのかな。郎さんと杢さんが久々李と剣を交わしている。斗斗とかいう女は見当たらない。
「ミナト!!無事か!!」
「何とかね!!アンタの作戦さえなければ!!」
「言っとくけどまだ作戦は終わってないからな。炭ちゃんはこの先だ」
「OK!」
作戦的にはこのままイヲリを炭さんにパスし、バイクで彼女を匿える場所まで運ぶ。ひとまずの目標はそれだ。
「ミナトくん」
「炭さん!おいイヲリ、寝てる場合じゃねーぞ、起きろ!」
「へぁ…っ!?ここはどこ!?私はだれ!?」
「よーし元気そうだな。じゃあ投げるね」
「な、投げる?どこに…?ってきゃああああ!!!」
有無を言わさず投合。野球ボールのように飛んで行ったイヲリを、炭さんが体を張ってキャッチする。さすが学生時代はキャッチャーをやっていただけのことはある。
「酷いことするわね」
「あ、アナタは…?綺麗な人…」
「躾がなってて良いわね、親御さんの育て方が良かったのかしら。…意外とね」
「…?えーと…」
「少し待ってて。あなたを逃がす為の道具がある」
「炭さーん、俺のもある?」
杢さん達を尻目に、投げ飛ばしたイヲリと炭さんの方へ駆け寄る。
「私とイヲリちゃんが乗るのがこのバイクで…残念、ミナトくんのは家に置いてきたわ」
「えぇ!?今から京都なんとかホテルってとこまで行くんでしょ?走っていける距離なの?おれ丸腰よ!?」
「可哀想ね」
「先代の巻墨ィ!!後継者選びミスってんぞ!!」
それだけ言って炭さんはイヲリとバイクで走り去っていく。俺はその背を見つめることしか出来なかった。
「刳雲ォ!!」
悪寒が走る。
咄嗟に飛び上がると刀を振るう久々李が、さっきまで俺がいた場所に飛んできていた。
「刀を抜け!!」
「ごめん、無い!!」
「じゃあ俺のをやる」
首を傾げたのも束の間、久々李から刀が飛んできた。キャッチし鞘から刀身を抜く。
「斬り合うぞ、少年!!」
「一瞬で永久に大人しくさせてやるよ!!」
刀に玄力を込め、勢いよく久々李に振りかぶる。甲高い鉄の音が響いた後、俺の握っていた刀が一瞬にして砕けてしまった。
「おま、不良品渡したな!!」
「違う、一気に玄力を流し過ぎだ。それでは刀が耐えられないのも当然だ」
「急にそれらしいことを言う!!」
「勉強不足だぞ。お前も感覚派とは言わんだろうな」
「バーカ。俺の座右の銘を教えてやろうか」
刀が壊れても武器はある。学ランの胸ポケに常備しているこいつが。
「"ペンは剣よりも強し"だ」
「シャープペンシル…!?馬鹿にして…!」
「だからそう言ってるだろ」
シャーペンの芯を伸ばすためにカチカチ連打。これで刃渡り2億センチだ。おまけにこいつに玄力を流し込んで、と。
「2度同じ轍は踏まないよ」
「剣術を舐めるなァ!!」
抜刀モーションでシャーペンを横薙ぎに払う。久々李も対抗して刀を振るってきた。
「見誤ったね」
次の瞬間、刀とシャーペンがぶつかり合い、刀身が折れて宙に舞ったのはーー。
「ば、馬鹿な…」
久々李の刀の方だった。
「それ作った職人に確認しといた方がいいよ。まだ返品対応してくれますか?ってね」
刀がシャーペンに負けて呆然とする久々李の顔面にミドルキック。地面をバウンドしながら飛んで行ったのを確認し、手に付いた埃を払う。
「いっちょうあがり」
「おーい、ミナト。自転車が沢山落ちてたから拾ってきたぞ。これで炭ちゃん達を追うぜ」
「レンタサイクルって言うのか?便利な世の中になったな。まさかこの学校でそんなビジネスをしてたとは」
「これ怒られるのは神奈備でいんだよね?」
3人で自転車をコキコキして学校から逃げた。
途中でチヒロを乗っけて、炭さんとイヲリが向かった場所へ行くことにした。