ペンは剣よりも強し!   作:みかんフレーク

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第39話 チャリ走

「ここは京都殺戮ホテル。お客様方には最高級の休息をご提供しております。皆様お疲れでしょう?本日は何で起こしになられたので?」

 

「「「「チャリで来た」」」」

 

「元気があって良いですね」

 

 とんでもなくゴツイ肩幅とどんな剃り方してんの?とツッコミたくなる髭をした受付のオッサンに、部屋へと案内してもらう。総支配人・戦国与次郎と言うらしい。名前だけ聞いたら超強そうだ。

 

「アメニティとか持ってっていい?あとUNOと、トランプと、人生ゲームでもやる?」

 

「だな。親睦を深める為の懇親会やろう。最近のJKって何が流行ってんの?」

 

「ス〇バだよス〇バ。学校帰りに洒落たカフェ寄って期間限定のドリンクと写真撮って捨てるんだよ、太るからって言って」

 

「……イヲリちゃんもそんなことしてんの?」

 

「分からん」

 

 そこら中にいる帯刀した人たちを眺めながら、先に炭さん達がいる部屋へエレベーターを使って行く。アメニティとかお菓子とかおもちゃで両手がいっぱいだ。チヒロに少し持たせることにする。

 

「……どうだった?久々に会ったあの子は」

 

 エレベーター内でチヒロがそう聞いてきた。

 

「ん?ん〜……そうだなぁ……」

 

「正直に言えよ。可愛くなっててドキドキしましたって」

 

「お姫様抱っこの時に興奮してましたって」

 

「いじり方オッサンかよ。確かに体は柔らかかったけど……」

 

「キッショ」

 

「なんでだよ」

 

「言っといたろ」

 

「こういう時にホントに言えるヤツって存在しないよね」

 

 チンと音がして目的の階層に到着。炭さんが部屋の扉の前で待ち構えていたから男4人でそちらに向かう。

 

「うーす」

 

「おつかれーす」

 

「悪かったわね、皆の分の乗り物が無くて」

 

「まぁ冷静に考えたら運転免許とか持ってないから、そもそもでしたわ」

 

「あらそう。結局なにで来たの?」

 

「「「「チャリで来た」」」」

 

 本日二度目の決めポーズ。炭さんは華麗にスルーして部屋の扉を開けた。

 

「あ……」

 

「や、イヲリ。元気?」

 

 中にはチーズ蒸しパンを頬張るイヲリが椅子に腰掛けていた。お腹でも空いていたのか、ホテルのお菓子の袋も破かれていた。

 

「元気……なのかな……。よく分かんない……自分の感情も、この状況も……」

 

「無理もないさ、一度に色々と起きすぎた。ゆっくり整理していけばいいさ。でもこれだけは言わせて」

 

「うん……」

 

 片膝を折ってイヲリと視線を合わせる。

 

「また会えて嬉しいよ」

 

「……まだちょっと記憶が曖昧だけど、あなたのことは割とハッキリしてる。ミナト……なんだよね?」

 

 ベッドに腰掛け、俺たちは話を続けた。

 

「そうだよ。暫く会ってなかったからね、無理もないさ。昔の記憶もまだあやふやなら尚更だ」

 

 同じ部屋にいる郎さんが、掛けているサングラスをクイッと直した。

 

「2人にしてやろうか?」

 

「気が利くね。頼むよ」

 

「変なことするなよ。ほらチヒロもボケっとしてないで」

 

「人生ゲームの準備をしておく。終わったら来てくれ」

 

 何でこいつは遊ぶ気満々なの?ロビーから貰ってきた貸し出し用のトランプ等を、チヒロは両手に大事そうに抱えて部屋を出ていった。

 

「賑やかそうな人達だね」

 

「そう見える?イカれたパーティメンバーだよ」

 

「ふふ……何かあんまり変わってなくて安心するな……ミナト……」

 

「おいおい、そりゃ成長してないってことか?冗談キツイな、これでもちゃんと大人への階段登ってんだよ?」

 

「不潔……」

 

「ああいや違くて……。これはそういうアダルト的な意味では無く……」

 

 イヲリのジト目が俺の胸を貫く。やめてくれイヲリ。その目は俺に効く。

 

「冗談だよ。身長も伸びたし、何か男らしくなったね」

 

「セ〇ビック飲みまくったからね、牛乳も摂れて一石二鳥さ。でもイヲリは変わったなって思うよ」

 

 イヲリが目を丸くする。

 

「例えばどんな所が?」

 

「綺麗になった」

 

 イヲリの肩が跳ね上がった。頬を少しだけ桃色に染めながら、再びのジト目を展開。

 

「……そういうことサラッと言う男になったんだ……」

 

「え?どういう意味?」

 

「別に……」

 

 イヲリが手に持っていたチーズ蒸しパンの残りを一気に口に放り込んだ。相当お腹空いてたんだな。

 

「それで、いま私の周りで何が起こってるの?」

 

 まぁそれがいちばん気になるよね。

 

 切り込まれた本題に対して、俺は今の状況を細かにイヲリに説明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 

 

 

「サムラ……それにお父さんが……」

 

 どこまで話して良くて、どこから話しちゃダメなのか。イマイチ分からなかったので、とりあえず今の状況は包み隠さず伝えておいた。これは俺の役目だと思ったし、認識のある相手から落ち着いて話を聞いた方が落とし込めるだろう。

 

 ショッキングな出来事もあっただろうし、いきなりの状況で混乱しているはず。ひとつずつ噛み砕いていくのがイヲリの為だ。

 

「座村さんの弱点になり得るイヲリだから、悪い奴らの手に渡る前に俺達の方で保護が出来て良かったよ」

 

「……保護、か」

 

「イヲリには2つの選択肢がある」

 

「選択肢……?」

 

「そ。さっきの変な3人組──巻墨の人らの術でもっかい記憶を封印する。そんで何事も無かったかのように、いつもの日常に戻る。もう一個は、全てを知った上で俺達と一緒にいるか。この2つだ」

 

「記憶を封印するか……全てを思い出して生きていくか……」

 

 イヲリの価値は高い。あの座村さんの実の娘で、今の戦いの最重要人物。イヲリがこの抗争に巻き込まれるのかどうかで、各々の動きが大きく変わってくる。

 

「好きな方を選ぶんだ。でもこれだけは約束する。お前がどっちの選択をしたとしても、俺がお前を守り続ける」

 

「守るって……さっきみたいに私を狙う人と戦い続けるの?」

 

「まぁそうなるね。日常に戻るならたぶん皆の記憶からまたイヲリのことは消えてなくなるけど、そうじゃない場合は」

 

「……そっか」

 

 イヲリは少しだけ俯いていた。無理もない。

 

「別に回答はいつでもいいさ。どっちに転がってもいいように準備はしてあるらしいから」

 

「そうなんだ……私なんかのために……」

 

 イヲリの表情が暗く沈んでいくような気がした。

 

「少し休もう。考えを整理するのも大事だから。ひと眠りする?」

 

「うん、そうする。ありがと」

 

「何かあったら呼んで。近くにいるようにするから」

 

 そう言い残し、部屋を後にする。積もる話もしたかったけど仕方ない。日常に戻るか、全てを受け入れて生きていくか。これを決めるべきはイヲリ自身だ。

 

 巻墨やチヒロが滞在している部屋に顔を出すと、そこには郎さんとチヒロの2人が刀を持って何やら話し込んでいた。

 

「杢さんと炭さんは?」

 

「屋上──イヲリちゃんの記憶を封印する術式を書いてる」

 

「ふーん。で、チヒロはなに遊んでんの?」

 

「遊びじゃない、立派な修行だ」

 

 修行?その言葉に首を傾げる。

 

「淵天が使えない今、剣戟で生死を分けるのは単純な剣術。居合白禊流を習得して、剣士として上の段階に行かないと」

 

「行かないと?」

 

「俺はこの先の戦いについていけない」

 

「ふーん、そんなもんかね」

 

「チヒロはまだ玄力の扱いに慣れていない。まだ自分の体と玄力を別枠で捉えている。コツはそうだな……玄力引いては刀との一体化だ」

 

 郎さんの講義が再開。そうか、今にして思えばチヒロはずっと淵天を使ってきている。その尋常じゃないスペックに頼り切っていた部分もあったんだろう。妖刀が使えない状況で、その皺寄せが来ているのか。

 

 俺には"凛"があるからなぁ。刳雲の力が使えなくても、それと玄力で底上げした身体能力で鎬を削っていくことになるだろう。後は薊さん直伝の体術か。

 

「やることないなら休んでてもいいぞ」

 

「うん。シャワー浴びて軽く休むよ」

 

 郎さんにはそう言って部屋を出て行き、ホテルに備え付けられているスパ施設を堪能した。良い岩盤浴でした。

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