ペンは剣よりも強し!   作:みかんフレーク

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第4話 雲は抉る

 "椿姫(つばきひめ)"に刻まれた異能を解放し、目の先の双城を捉える。増幅させた玄力を全身に滞りなく回し、攻撃の為の準備に入る。

 

 "(りん)"…それは超速の斬撃。抜刀の構えをとり、標的を視野に入れ、体内ならびに刀に宿した玄力を一気に爆発させる。

 

 踏みしめた脚力により砕ける地面。常人の速度を超越した速さで双城の懐に飛び込み、すれ違いざまに一閃。…手応えあり。斬りつけた感覚と刃に付いた血液が何よりの証拠だ。

 

「あ──?」

 

 双城から声が漏れたのは、俺が椿姫を鞘にしまった後のことだった。脳が斬られたと判断をした時には既に、体に一太刀入れられている状況。自身の体から流れ出る血液を見て、初めて理解したんだろう。自分が斬られたということを。

 

 "構えたと思ったら既に斬られている"…それが"凛"だ。

 

「んだ…こりゃ…俺ァ斬られたのか…?」

 

「速すぎて見えなかった?」

 

 ──動いている。コイツ動いているぞ。太刀筋は完璧だった。手応えもある。けどなんで、双城は倒れていない…?

 

「"玄力"…人体で生成されるソレを刀の中で増幅させ、より高密度に練り上げる。本来であれば人間には耐えられない量の玄力が、刳雲(コイツ)の中には宿っているんだ。無論、俺達やあそこのガキみてぇな妖刀契約者にはその恩恵が与えられる」

 

「そういうことか、とんでもないな…」

 

 玄力のもたらす恩恵の1つとして身体強化がある。単純な膂力もそうだが、増大させた玄力を身体の耐久度向上に回すことも可能。

 

「咄嗟の判断にはなったが、間に合って良かった」

 

 ニタリと双城が笑みを浮かべる。コイツ…やけに妖刀を使い慣れているな。所持してからどれくらいの期間が経っているかは分からないが、一朝一夕で身に付けられる技術じゃ無いぞ。刳雲との親和性…いや、理解度…解釈と言うべきか。そいつが図抜けている。

 

 スっと双城が俺を指差す。なんだ?まさか指からビームでも打つのか?そうなったらもう人間扱いしてやらないぞ。今でも半分バケモノみたいなもんだけど。

 

「お前のその刀は"妖刀"なのか?」

 

「え…?」

 

 思いもよらない質問に首を傾げる。

 

「六平国重が世に送り出した妖刀は全部で6本だ。だが、さっきの黒髪のガキが持ってる刀も妖刀だという。加えてだ…さっきからのお前の異常な玄力量…。可視化できるほどに膨れ上がる玄力なんてのは見たことがねぇ。だからよ、お前の持ってるソイツも妖刀かと聞いてるんだ」

 

「…違うけど。"椿姫(つばきひめ)は至って普通の刀だよ。強いて言うならチヒロ…六平親子が手がけてくれた物にはなるね」

 

「六平親子…?」

 

 双城の眉がピクつく。どうしたんだろう…チヒロたち親子に反応したような…?

 

「はぁ…どいつもこいつも…。俺の知らない情報でマウントを取ったつもりか?」

 

「ま、マウント…?どゆこと…?」

 

「俺は六平国重を愛している」

 

「!?」

 

 なんだコイツ!?チヒロのお父さんを…愛してる…!?このおっさんが?六平家のおっさんを?

 

 確認するようにチヒロの方へ顔を向けると、チヒロもチヒロで口をあんぐりと開けていた。うん、多分俺と同じ感情を抱いてるね。

 

「俺は六平国重を愛している!!」

 

 2回言った!!しかもさっきより大きい声で!!

 

「無視は酷いじゃねぇか」

 

 あ、ちょっと傷ついてたっぽい。いまいちキャラの掴めない人だな。

 

「六平国重に関する文献は全て目を通した。彼が携わってきた全ての物事にも。だから、六平国重について知らないことなど何一つ無いと思っていた。んだけどよぉ、7本目の妖刀の噂とお前のその刀…。1日に脳が処理できる情報量を超えてやがる…!」

 

 頭を抱える双城。どうやらチヒロのお父さんに並々ならぬ想いがあるみたいだ。にしても愛してる、か。おっさんずラブだな。あまり考えたくないけど。

 

「刀もそうだが、気になるのはお前の玄力量もだ。妖刀も持たずに玄力を具現化してやがる。それが刀の影響じゃねぇとなると、なかなかの逸材だな」

 

「そりゃどうも!」

 

 言いながら双城に斬りかかるが、それは刳雲によって簡単に防がれる。しかも片手で。いくら大人と子どもの膂力の差があるとしても、片手は無いだろう。こっちも身体能力を強化しているのに。

 

「興味深いな…ミナト…」

 

 ねっとりとした双城の声色に背筋がゾクリとする。まるで獲物として狙いを定められたかのような嫌悪感。浴びてて気持ちの良い視線じゃない。

 

 体を回しながらの回転斬りを放つが、敢え無く避けられる。後方に退避し地面に足が着いた瞬間、双城はトップギアで詰め寄ってきた。

 

「決めた、お前も被験体にする。運が良けりゃ、その莫大な玄力のカラクリが分かるかもしれねぇからな」

 

「被験体…!?」

 

 "お前も"…?俺以外にも居る…?誰だそれは…?ああ、違いない。あの子だ。まだ幼いながらも、とある実験施設から逃げ出してきた。

 

「シャルもお前が!!」

 

「シャル…?ああ、確かあのチビの名前がそんなだったな。母親がそう呼んでた気がする」

 

「母親…?シャルのお母さんのことか…。その人は今どこに居る…!?」

 

 剣撃を捌きながら問う。シャルの母親も、双城一派に捕らえられているのか…?状況からして、何とかシャルだけを逃がすことが出来たんだろう。なら、シャルの母親はまだ施設に…。

 

「あー、この前死んだぞ」

 

「…──は?」

 

 いま…なんていった…?

 

 俺の口から漏れた音に対して、双城は突きつけるかのようにかつ無感情に言葉を紡ぐ。

 

「檻から逃げ出したからよ、部下に追いかけさせたんだ。そしたら、娘だけ逃がして自分は見張りから奪ってたマッチで燃えて死んでたな」

 

 自分の爪を弄りながら興味の無さそうに双城は言い切った。まるで人の命などどうでもいいかと言うように。あくまで実験動物の1つが失われた。その程度にしか認識していないということが見て取れる。

 

 双城のそんな態度に、腹の底から何かが込み上げてくる。無意識のうちに、奥歯がギリっと鳴るほど噛み締められていた。

 

「俺の目的にあいつら親子の細胞が必要でな。いくらか肉を切って分けてもらってたんだが…。知ってるか?あいつら、どんな傷もたちまち治しちまうんだぜ?俺からしたら最高の実験材料だよ。飯さえ与えとけば無限に実験が出来る。永久機関ってやつさ」

 

 ヘラヘラとした態度だった。自分の目的の為なら他人を傷付けても構わない。どんな風に扱っても気にしない。人の気持ちを考えない人間。それが目の前にいる。

 

「…本気?」

 

「あ?」

 

「アンタそれ本気で言ってんの?」

 

「本気もなにも…。俺は俺の理想の為に、奴らを利用させてもらってただけさ。今までも、そしてこれからもな」

 

 ──元気が有り余ってるな。後で俺とサッカーでもするか?

 ──さっかぁ…?──する!!

 

 シャルとの会話が思い起こされる。明るい子だと思っていた。年相応の元気な女の子だと感じていた。だけどその裏には、とてつもなく辛い経験があったんだ。

 

 許せない。

 

「…?玄力濃度が濃くなった…?」

 

 許せない…。

 

 体の奥底から湧いてくるこの感情…これは怒りだ。

 

 目の前の悪に対して、体中が叫んでいる。

 

 細胞がこいつを絶対に許すなと言っている。

 

『ミナト、あなたは男の子なんだから。いつか大きくなったら、大事な人くらい守れるようになりなさい。──そしてね、』

 

 俺の生き様は姉さんの教え。俺の人生の指標は全て姉さんだ。生きる上で大切なことは全て姉さんから教わってきた。そんな姉さんから言われた言葉がある。

 

『「誰かを傷つけるような人は絶対に許すな!!!」』

 

 秘められた玄力が爆発する。普段から使用しているソレとは量も質も全く異なる。自分自身でも初めての感覚。無限に力が湧いてくる。そして、その力は目の前の悪に使うのだと全身が理解している。

 

 双城…こいつはクズだ。生きていちゃいけないやつなんだ。俺の目指す世界に不要な人間。今を生きる人たちにとって障害になる存在。そんな人間は──。

 

「俺が摘んでやる…!!」

 

 瞬間、足元が爆発したような感覚に襲われる。練り上げた玄力を一気に放出し、双城へと肉薄。一瞬で間近まで迫ると同時に逆袈裟に刃を振るう。だが双城の反応も良く、こちらの刃は鼻先を掠めたくらいだった。

 

「ハッ!イキがるなよ!!」

 

 俺の刃を避けつつ、双城が反撃の体勢を取る。

 気温が一瞬下がるのを感じた。

 恐らく"(ゆい)"が来る。

 ならば、凍らされる前に…。

 

 俺は屈んで姿勢を低くし足払いをかける。

 今度は外さない。

 綺麗に決まった足払いによって、双城の姿勢が崩れた。

 

 好機(チャンス)──!

 そこに目掛けて刀を直施上に構え、突きを放つ。

 椿姫の先端が双城の喉元に辿り着く直前…。

 

(ゆい)

 

 再び顕現される氷結。

 今度は氷壁のように繰り出され、俺の突きが阻まれる。

 なんて便利で厄介な能力なんだ、妖刀め。

 

「そろそろだな…」

 

 双城がボソリと呟く。

 そろそろ…?なんのことだ…?

 

 その時、バチバチと放電するような音が微かに耳に届いた。

 そこから次の双城の動きの予測が一気に脳内で行われる。

 来る…さっきここに向かう時に見たあの雷撃が…!

 

「──(めい)

 

 紡がれるその言葉。

 刳雲から放たれる電光。

 ピンチとチャンスは表裏一体。

 "刳雲"、第3の能力が牙を剥く──!

 

 

 

 

『光は電磁波という性質があるために、1秒間におよそ30万キロメートルも進むことができます。これは、音のおよそ100万倍ものスピードです』

 

 

 

 

 ああそうだ。

 学校の授業で雷について学んだ事があった。

 ちゃんと勉強してきたんだ、俺は。

 まずは光がやってきて、その後に音が鳴り響く。

 知ってた、頭に入っていたんだ。

 だけど、"音"が聞こえた時には既に遅かったのか…。

 

 静電気でバチッとなる…電気で筋肉を解すマッサージとは訳が違う。

 チヒロも味わった感覚…放電によって体が受け取るダメージ…。

 

「終わりだな」

 

 激痛なんてモンじゃない──。

 痛みを超えた痛みと熱さが全身をくまなく駆け巡る。

 ダメージを受けてない部位の発生など許さないかのように、隅から隅まで電流が走る。

 人間が感じていい痛みをゆうに超えている。

 

 あ、トぶ──。

 

 足が震え立っていられなくなる。

 気付けば地面が目の前まで迫ってきていた。

 

 双城は──逃げ遂せるのだろうか?

 それとも、俺とチヒロにトドメを刺して淵天(えんてん)椿姫(つばきひめ)を持って行くか…。

 きっとそうだ…チヒロのお父さんのファンだから…。

 

「ガキの回収も済んだようだな。なら刀だけ奪っていくとするか──!?」

 

 ガキの回収…?まさか…シャルのことか…?

 それに刀を奪う…やっぱり…。

 

 殺される…チヒロが…。

 シャルもまた実験場送りにされてしまう…。

 

「ダメだ…そんなの…」

 

 もうこれ以上…あの子に辛い思いをさせちゃ…いけない…。

 悲しみを生む種は、俺が、俺たちが摘まなきゃ。

 

 そうだよな…チヒロ…──!

 

 

 

 

(にしき)

(りん)

 

 

 

 

 削れ…命を…。

 倒れてる暇なんか無いぞ…。

 静電気喰らってフラついてる場合じゃない…。

 

 目の前にあるんだ…!

 使命を全うする為に超えなきゃいけない壁が…!

 

 体中から玄力を抽出。

 軋む体に鞭打って、地面に口づけをする前に踏みとどまる。

 

「まだ動くか…!それに黒い方も…!」

 

 淵天(えんてん)の玄力反応も見られる。

 宙を泳ぐ金魚がその証拠。

 チヒロの目はまだ死んじゃいない。

 

 俺達は地面を蹴る。

 目標はただ一つ、妖刀を振るい小さな子どもを利用する悪人。

 双城の歩みは、今日ここで終わらせてやる。

 

 刃の挟撃。

 俺とチヒロの刀が双城に届く直前。

 

 

 

 刳雲(くれぐも)は持ち主の意志を汲み取る。

 

 

 

(こう)

 

 突如、体が押し戻されるような感覚を味わう。

 刳雲によって生み出された水流が、俺達と双城の距離を無理やり離す。

 まるで双城を守るかのように。

 

 続けて現れたのは目眩しのような水飛沫。

 煙幕の要領で生成されたそれにより、視界から双城が消える。

 不味い…今ここで双城を見失う訳にはいかない…。

 椿姫で何とか…!

 

「ガハッ…!」

 

 噎せ返るような吐き気が襲い掛かり、思わず口から空気が漏れる。

 一緒に吐き出された鮮血が地面に零れ落ちた。

 膝から崩れ、刀を支えに何とか倒れるのだけは防ぐ。

 視界が霞んできた。

 

「双…城…!追わ…ない…と」

 

 視界から消え失せた双城の行方を追うが、どこにも見当たらない。

 完全に取り逃してしまったか…。

 

「ごめん…シャル…。ごめん…姉さん…」

 

 全身から力が抜けていく。

 意識と共に感覚が消えていく。

 

 最後に味わったのは硬い地面の感触。

 

 目を開けている余力すら無く、俺の視界はゆっくりと黒に染められていった。

 

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