ペンは剣よりも強し!   作:みかんフレーク

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第41話 刀は踊る

 時間はかけられない……勝負は一瞬で決める……。

 

 俺の頭の中にある思考はただそれのみ──。

 

 さっきの刺客が言っていた、イヲリを狙ってやって来たと。その首にかけられた大金を狙って、より多くの敵が押し寄せてくるのは想像しやすい。

 

「イヲリ、危ないから下がってて。怪我させないようにするから」

 

「う、うん……」

 

 時間を掛ければ掛けるほど、不利になるのは俺の方だ。彼女を戦いに巻き込む訳にはいかない。イヲリは無力な女の子……護るべき対象だ。

 

 手首のスナップを効かせて器用に刀をクルクル回す昼彦。奴は毘灼メンバー、侮れる相手ではない。一体どれ程の実力者なのか……。チヒロと会ったことあるような物言いをしていたな、あいつから何か聞いておけば良かったかも。

 

「娘を守りながら存分に戦えるかな?」

 

「言われるまでもない」

 

 昼彦の肉薄。見切れない速度じゃない。右手から振り下ろされる刀の軌道は、真っ直ぐ俺の体を狙ってきていた。それに合わせてこちらも椿姫を振るう……。

 

(……消えた!)

 

 突如として昼彦の右手から刀が消える。既に動作を開始している椿姫の軌道は変えられない。このままでは空を斬る……。

 

「甘いね」

 

 視界の端で鈍く光る鉄刀が見えた。瞬間的に刀を左手に持ち替えていた昼彦は、ガラ空きの俺の胴へ刀を下ろす。

 

「殺った」

 

「くっ……!」

 

 椿姫を振るった勢いそのままに、俺はその場で前宙。昼彦の刀のラインから無理やり体を引き離し、ついでに足裏でそれを弾く。サーカス団員のような動きを見せながら、視界の端っこで昼彦の姿は逃さず捉え続ける。

 

 そのまま体を横回転させ、左の脚で後ろ回し蹴りを放つ。鮮やかが過ぎる程に土手っ腹に突き刺さったその一撃は、昼彦との距離を物理的に取らせることに成功した。

 

「……ッ!?そういや久々李が言ってたな。体の使い方のレベルが桁違いだって」

 

「今のうちだイヲリ。エレベーターで最上階に行けば、巻墨とチヒロがいる。ひとまずそこへ逃げるんだ」

 

「は、はい……!」

 

「いいか?迷った時は自分の心を優先するんだ」

 

「……?うん……わ……分かった……よ……?」

 

 首を少しだけ斜めにしながら、イヲリはエレベーターのボタンを連打し、フロアへやってきた箱に乗り込む。そいつが無事に上の階へ移動したのを確認して、少しだけ安堵した。良かった……この狭い通路でイヲリを守りながらの戦闘は中々にハードだったから……。

 

 懸念は昼彦以外の敵襲。多分他にももっといる。そいつらが一気に屋上……最上階へ押し寄せていくとなると、巻墨とチヒロだけじゃ圧倒的に不利だ。1秒でも早くそっちに加勢したいところだけど。

 

「娘を逃がして身軽になったか。俺たちの友情には少しお邪魔だったかな」

 

「そうかもね。近くにいない方がショックな現場も見ないで済むだろうし」

 

「何事も刺激が必要だろ?」

 

「思春期かよ。もしかして青春にコンプレックス抱いてる?」

 

「それは今から作るんだ……俺とお前とチヒロの3人でさ……!」

 

 叶えたくもない現実。そんなの嫌すぎる。

 

 向かってくる昼彦と刀をぶつけ合わせ、辺りに金属音が伝わる。

 

「良い音だ……これがアオハルの音か……!」

 

「な……なに言ってんだこいつ……」

 

 左手で昼彦の肩を掴み、力任せに引っ張る。体勢を崩せるかと思いきや昼彦は両の足裏をしかと地面に叩きつけ、逆に俺の体を投げ飛ばしにかかる。

 

「案外軽いな」

 

「ロクにご飯食べてないんだよ」

 

 投げ飛ばされながらも体勢を整え、昼彦の方へ目を向け──。

 

「そっちじゃないよ」

 

 刹那のうちに背後へ回っていた昼彦。振り下ろされた一撃を背を向けたまま辛うじて受け止める。

 

「玄力量が凄まじいんだってな。それ故の圧倒的な膂力。才能の塊」

 

「嫉妬?」

 

「シンパシーさ。俺も感覚派で、大概の事は直ぐに覚える。敢えて能力に胡座をかいてるのさ」

 

 刀を弾いてお互い向き直る。相変わらずのニタリ顔に腹が立つ。

 

「心外だね、一緒にされるなんて。俺は別に感覚派でもないし、自分を才能あるヤツだなんて思ったことは無いよ」

 

「才能が9割の妖術師界隈で何言ってんのさ。その恵まれた玄力量は天性のモノ……それだけのモン持っといて自分に才能が無い?周りをバカにしてると捉えられてもおかしくないよ」

 

「お前はどっちの味方なの」

 

「無論ミナト、お前の方だよ!」

 

 飛びかかってくる昼彦を椿姫で受け止める。口角を吊り上げ、昼彦は吠え続けた。

 

「お前のことを真に理解出来るのは俺だけさ!だからさ、友達になろう!それがいい!そうしよう!」

 

「却下」

 

 玄力を込めた右拳で思いっきりぶん殴る。飛ばされながら昼彦は刀を床に突き刺し、勢いを軽減させる。

 

「ネバーギブアップってやつさ」

 

「姉さんに口酸っぱく言われてるんだ。友達は選びなさいって。お前は選ばれない方の人種だよ」

 

 昼彦は目を細めながら、ほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸の中の恐怖心が再び湧き上がってくる。

 

 ミナトとはぐれたからだろうか、ホテルの最上階にはさっきまで一緒に部屋にいた人たちがいるって言ってたけど、イマイチこの感情は振り切れない。

 

「うっ……頭が……!」

 

 時折訪れる頭痛。これがなんの痛みなのかはもう予想がついていた。思い出そうとしているのだ、過去の記憶を。

 

 幼い頃の自分、ミナトと、そしてお父さんとの時間を。

 

 チンと音が鳴り、エレベーターが最上階に辿り着く。ゆっくりと音を立てながらその扉が開かれ──。

 

「来たぞ、座村の娘だ!!」

 

「──!?」

 

 それと同時に飛び込んできたのは、悪意で顔を歪ませた男たち。さっき部屋にまでやって来た人も同じだった。

 

 膝が震える……怖い……この場から逃げ出したい……何で……何でこうなる……。

 

 私が狙い……?私が座村の名を……あの人の娘だから……?だから命を……。ミナトや他の人たちに迷惑をかけている……?

 

 どうしたらいい……?どうすべき……?私はどうしたい……?

 

 皆に迷惑をかけたくない……安全な場所で今までのように……学校の友達と過ごしていきたい……私の本音はどこにある……?

 

『いいか?迷った時は自分の心を優先するんだ』

 

 思い起こされる、ミナトの言葉……。私は……。

 

「ぐぎゃあ!!」

 

「ひっ!?」

 

 断末魔をあげながら目の前の男が倒れ伏す。その男の背後から、ミナトの友達の男の子が現れた。確か……チヒロって言ったっけ……。

 

「平気か?」

 

 無表情……無愛想な雰囲気を醸し出しながらその人は聞いてきた。

 

「何とか……」

 

「そうか。考えは固めたのか?」

 

「……私は」

 

 以前と同じように、お母さんが待っている生活……学校の皆と楽しく生きていく人生……。もしくは全ての記憶を思い出し、この人たちと……ミナトと……お父さんと一緒に生きていく未来……。

 

 どちらにも苦しみはある。お父さんやミナトのことも再び忘れていく道。それは大切な何かをずっと思い出せないまま、そのことすらも忘れて生きていくことになる。

 

 もしくは、座村の娘というレッテルを貼り続けながら、時には敵と戦うことになるかもしれない道。死が隣合わせの生き方……。

 

 どっちが……どっちの道が正しい……?どっちが私の本音なんだ……。私が笑って歩いて行けるのは……一体どちらの……?

 

「俺はミナトに会えて良かった」

 

 不意に言われたその言葉に思わず顔を上げる。

 

「俺は父親を殺されている。母親の顔は知らない。学校にも行けてないし、友達もほぼいない。それでも、俺は自分の人生が恵まれていると思える」

 

 チヒロはその赤い瞳を私に注いでいる。心の底からの言葉なんだと理解出来る。

 

「それは隣を見たらミナトがいるからだ。あいつは肩を並べて一緒に歩いてくれる。それだけで俺は救われるから」

 

 刀を鞘に収めながら、彼は言葉を連ねた。そこにはミナトへの絶大な信頼を感じられる。仲が良いとかそういうレベルじゃない。それを超えたもっと大きな関係。ミナトとチヒロにはそれがある。

 

「君はどうしたい?」

 

 ……優しい人たちなんだとつくづく思う。初対面の私に対して、私のやりたい、進みたい道を照らして手助けをしてくれる。私がどんな道を選択したとしても、何不自由なく生きていけるようにしてくれる。

 

『好きな方を選ぶんだ。でもこれだけは約束する。お前がどっちの選択をしたとしても、俺がお前を守り続ける』

 

 ミナトもそう言ってくれていた。選択肢を用意して、選択権も委ねてくれている。

 

 私は──。

 

 私がどうしたいか──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 過去の記憶──。

 

 私が小学校に通っている頃──。

 

 ミナトと私が同じ教室で同じ時間を過ごしていたあの時──。

 

 私たちがまだ、お互いをただのクラスメイト程度にしか思っていなかった時のことだ──。

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