ペンは剣よりも強し!   作:みかんフレーク

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第6話 商品

「──とは言うものの、本当に無理しちゃ駄目だからね」

 

 病室での薊さんの言葉が蘇ってくる。最後の最後まで心配してくれていたな、あの人は。それもそのはず、体の傷はまだ完全に癒えておらず、腕などに包帯は巻きっぱなしの状態。出歩いてて良いの?と人は思うだろう。実際体はまだ痛みが残っている。

 

「ベッドで寝てた方が良かったんじゃないか?」

 

「お前にだけは言われたくないね」

 

 先程別れたチヒロにそう言われた。傷に関しちゃチヒロの方が重傷なのに、あいつもやる気満々だった。聞くと左手の筋繊維がズタズタになってるらしい。その状態でよく刀握ろうと思ったな。

 

「シャルを助ける。今はそれだけ分かっていればいい」

 

 ただ、俺達の気持ち自体は同じだった。同じ目的の為に行動する。今すべきことは囚われたシャルの救出。

 

「──という事だけど、これかなり広いな」

 

 いま俺は、神奈備の人が見つけた双城の拠点に潜入していた。結局チヒロと柴さんの3人で来た俺達は、「バラけた方が効率ええやろし、あんまりチンたらしてる暇は無い」という柴さんの発想から別行動を始めている。チヒロが1人で大丈夫かと一瞬思いもしたけど、野暮な心配のようだった。あいつの目にも決意の灯火が宿っていた。

 

 今回の目的は主に2つ。シャルの救出は勿論のこと、毘灼についての情報も探ることになっている。双城、毘灼はともに裏社会の人物、団体。加えて双城の持つ刳雲は、恐らく毘灼経由で手にした物。繋がりが無いという方が無理がある。

 

 毘灼──チヒロのお父さんを殺し妖刀を奪っていった宿敵。そいつらに繋がるモノが少しでもあるなら。

 

「にしても、もう来月に迫ってきてるんだよな」

 

 アジトの通路を歩いていると、ふとそんな声が聞こえてくる。少し先に扉の無い小部屋があるのが見えた。どうやらそこから声が聞こえてきたらしい。忍び足でコソコソとその場所まで近づく。ひょっこりと目だけを覗かせて中を見ると、2人の男が机に置かれた何かを見ながら話をしていた。

 

「"楽座市"か、そういやもうそんな時期か」

 

 "楽座市"…少し前に同じ単語を聞いた覚えがあるな…。

 

 ──楽座市、そこに出品する為に俺は手続きを行った。

 

 とある人物の言葉が即座に思い出されハッとなる。そうだあいつだ。姉さんの足取りを求めて相対したあの男も確かに言っていた、楽座市と。

 

「噂によると"真打"ってのが出品されるらしいぜ。ほら見ろよ、デカデカとアピールされてある」

 

「へぇ大目玉じゃないか。さすが漣家(さざなみけ)だな」

 

 "真打"…その言葉に思わず眉を顰める。

 

 真打…それって妖刀の1つじゃなかったか?それが楽座市に出される…?

 

 ──君のお姉さんな、"商品"として売りに出されるかもしれへん。

 

 その時思い出したのは柴さんの一言。姉さんと繋がりがあった男の発言といい、いま聞いた楽座市の内容的に、点と点が線で繋がってきた感じがする。

 

 漣家、楽座市、出品──。オークションか何かだろうか…。もしかしたらそれに商品として姉さんが…──。

 

「おいっ!!怪しいやつがいるぞっ!!」

 

 突如こだました大声に飛び上がる。見ると強面の男が数人、刀を握りながらこちらに向かって走り込んで来ていた。

 

「侵入者か!見ねぇ顔だな!」

 

「あ…やっば…!」

 

 覗いていた部屋に居た2人も、その声に気付き俺と目が合う。しまった、盗み聞きに熱中し過ぎてしまった…!内容が気になりすぎてついつい…。

 

「学ランは着てねぇが白いパーカーが何よりの証拠だ。双城さんが言ってた邪魔してくるガキのうちの1人だな」

 

 どうやら身元は割れてるっぽい。

 

「制服は弁償して欲しいんだけどな。意外とするんだよ」

 

 学ランはこの前の双城戦でボロボロになってしまったから、今日はいつもその下に着ているパーカーでアジトには来ていた。しっかり情報共有はされてるのね、風通しの良い職場だ。

 

 あっという間に囲まれ袋の鼠にされる。敵は7人、子ども相手に大人気ないこった。おまけにこっちは万全の状態じゃないときてる。

 

 ──ただし!絶対に無茶はしないこと!また今みたいな大怪我でもしてみろ、椿姫は没収!キミもう勉強しかさせてやらないからな!

 

 薊さんにも無茶はするなと再三言われている。元気な状態で帰ってくる。それが絶対条件。体は痛むが動かせないほどじゃない。

 

「来い、椿姫」

 

 腰の白鞘から愛刀を引き抜き玄力を解放。大丈夫、コイツはいつも通りだ。後は持ち主である俺自身が踏ん張ればいいだけ。

 

「かかれっ!!!」

 

 俺を取り囲む大人達が一斉に飛びかかってきた。どいつもこいつも刀を振りかざし殺意を秘めた瞳をしている。けど違う…こいつらは双城とは…。

 

 ──ハッハァ!イイじゃねぇか小僧ッ!!妖刀でもねぇのに楽しませてくれるなぁ!!

 

 生死を賭けた死闘。極限の緊張感。1つのミスが死へと直結する命のやり取り。あの感覚には程遠い。

 

 椿姫を握り締め右に旋回しながら刃を振るう。今の身体の状態的に無闇矢鱈な動きは出来ないし、したくない。あくまで最小の動きで最大の攻撃を行う。

 

 敵の胴をなぞるように円月状に斬り払う。結果として敵の刃が俺の身に届く事は無かった。その前に血飛沫を上げて地面へと倒れ込む。動かなくなったのを確認してから、椿姫に付着した鮮血をちゃんと払ってから鞘へと納めた。血なまぐさいのはいつまで経っても慣れない。

 

 さっき2人の男が居た部屋に入り、無骨な机に置かれたパンフレットを手に取る。話題にしていたのはこれについてだ。"楽座市"…そう大きく書かれたのが目に入る。

 

 見たところ商品の競り──オークションが近々行われるようだ。さっきの男は漣家とか言っていたっけ。その一族の人間が取り仕切り、様々な物を商品として競りに出すのか…。

 

 パンフレット中央、1番目立つ場所にソレはあった。先程耳にした"真打"が、今度の楽座市で出品されるようだった。これはチヒロに伝えてあげないといけない。何たってお父さんの作品なんだ。それが商品として出されるとなると、恐らくチヒロも楽座市に参加すると言い出しかねない。

 

 ペラりとページを1枚めくる。真打の他にも様々なものがオークションに出される楽座市。過去の柴さんや姉さんと関係があった男の発言が、脳裏にチラつく。無意識のうちにソレを探していた自分がいたんだと思う。

 

 そして、俺が探し求めていた人がそこにはあった。

 

「ふざけやがって…」

 

 "氷の肌の女"…その商品名でパンフレットには掲載されている。そこには女性の写真が載せられていた。

 

 見間違えるはずも無い…これは確実に姉さんだ…。

 

 今度開かれる悪質なオークションに、身内が出品されるのが確定された瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 楽座市のパンフレットをポケットにしまい、再びシャルを探して敷地内を徘徊する。そう広くは無い拠点なうえチヒロも居る。思っているよりも早くシャルを見つけ出すことが出来るかもしれない。

 

 あれから戦闘員と2回ほど斬りあったけど、体はまだ動く。素の力じゃどうしようも無かったかもしれないけど、玄力を纏うことで無理やり身体能力を底上げすることが出来る。それで何とか追手を凌いでいた。

 

「この辺りには見当たらなかったな…違う場所を探してみよう」

 

 チヒロとエリア分けをして敷地内を探していたが、見てきた感じシャルを閉じ込めていそうな場所は無かった。仕方ないので別の所を探そうとした時、耳に戦闘音が届く。方角的には東の方からだった。

 

 急いで階段を駆け上がり、施設から外へと出た。段々と大きくなる戦闘音がする方向へ向かって行く。距離的には恐らくチヒロだ。柴さんも一緒に来てはいたけど、少し離れた場所で毘灼に関する情報を探っているからだ。

 

 俺よりチヒロの戦闘ダメージの方が多い。あの刳雲の雷撃をその身で受けていた。刀を握ることすらしんどいだろうに。それでもチヒロが動くのは、アイツの中にも託されたモノがあるから。それがチヒロの原動力になっている。

 

 …双城は居ない。薊さんから聞いた話によると、神奈備の精鋭が現在駆除に当たっているとのこと。どうやら対双城、対妖刀に対してのエキスパートを集めた部隊となっているらしい。その人たちのおかげで、俺達が自由に動けているという事だ。

 

 双城がいない間にシャルを見つけ出す。その後は双城と戦っている神奈備への加勢。やることは多い、体のことを気にしている場合じゃない。チヒロだって今まさに──。

 

「見つけた」

 

 突如、視界に影が落とされる。違和感の正体は敵影、それも頭上から。人間大のシルエットが俺に覆い被さるように空から降ってきていた。その方向へ顔を向けつつ同時に体を捻ってその場から退避。見ると、頭に武士の兜を被ったタンクトップの男が笑みを浮かべながらこちらへ墜落して来ていた。

 

 隕石のように飛来してきたそいつは、ついさっきまで俺が居た場所に激突する。砂煙が立って姿が見えなくなっている間に椿姫を引き抜いておく。これまでの下っ端とは違う雰囲気を一瞬だけど感じた。コイツは骨が織れる相手かもしれない。

 

「お前もだな、侵入者というのは」

 

「"も"?ああ、向こうで派手にドンパチしてる相方のことね」

 

 砂煙の中からノシノシと男が現れる。見間違いかと思ったけど、そいつはやっぱりタンクトップに短パン、頭に兜を被っていた。ガタイが良いのに加えタッパもある。そして両腕の前腕には重りのような物が複数装着されている。もしかして筋トレ中?いやいや、流石に何かギミックがあると見ておいた方がいいだろう…。要警戒だ。

 

「こんな遅い時間に子どもが出歩いちゃいかんぞ。俺が矯正してやる」

 

「矯正しなきゃいけないのは、アンタのファッションセンスの方だよ」

 

 時間はかけられない。

 一瞬で決める。

 敵が身構える前に地面を蹴り、一瞬で距離を詰める。

 狙うは明らかに防御力の低そうな、その薄手のタンクトップ部分だ。

 

「──ッ!?速いッ!!」

 

 敵の声が聞こえた時には既に、椿姫を振り下ろさんとばかりにしていた頃だった。

 後は袈裟斬りにするだけ、それでコイツはノックアウトだ。

 その未来を予測した束の間、俺の視界の端に何かが飛び込んで来る。

 

「なんちゃって」

 

 太く分厚い丸太のような物体…。

 それがタンクトップの前腕に装備された物だと気付いたのは、体が大きく吹き飛ばされた後だった。

 地面に手のひらと足裏を地面に擦らせて何とか踏みとどまる。

 何だ…?急に生えてきたような攻撃に見えたけど…。

 

「ノロマに見えたか?残念その真逆さ。腕に付けられたコイツは、俺の妖術で加速し目にも止まらぬ攻撃を生み出す。いくら反応が良い奴でも、視界に入ったと認識した時には時すでに遅しってやつだ」

 

「…ご丁寧にどーも。タネ明かししちゃって良かったの?」

 

「何も知らないまま殺されるのも可哀想だからな。俺は優男で通ってる」

 

 何言ってんだコイツ…。優男って認識してるのは多分自分だけだろうに…。

 

 それに、奴の妖術も把握することが出来た。妖術による加速された腕の大振り。あの筋骨隆々の体から放たれる一撃は、そう何度も喰らっていられるものじゃない。元々のダメージもあるが、現に体には凄まじい痛みが走っている。

 

「お前はあまり苦しませないように殺してやる。生死の狭間を彷徨うのは辛いからな。それに、人をいたぶるのはもう飽きた」

 

「あっそう。アンタみたいな大人にならないよう気をつけなきゃね」

 

 玄力を足に集中。

 さっきの速度じゃ追いつかれる…ならより多くの玄力を溜めて放つだけだ。

 溜めに溜めた玄力を爆発させ、直線上に居るタンクトップに肉薄。

 俺の動きに合わせてカウンターを仕掛けてきているのが見えた。

 見えているのなら対処はしやすい…。

 

 速度はそのままに力と体のベクトルを変更、一瞬にして背後に回る。

 ガラ空きの背中…コイツは反応出来ていない…。

 

()った」

 

 勝利を確信、後は椿姫を振り下ろすだけ。

 しかし、次の瞬間には再び手甲が俺めがけて飛んで来ていた。

 

 ぶつかる刀と手甲。

 キィン!と甲高い音が鳴り響き、お互いの力がぶつかり合う。

 その余波は辺りに小さな衝撃波を生み、振動が手にまで伝わってきていた。

 ビリビリとした衝撃が両手を走る。

 勢いそのままに刀を斬り下ろし、地面に着地すると同時に再度飛び上がる。

 体を捻らせ後ろ回し蹴りでタンクトップとの距離を取った。

 

 一息つかせる隙を与えぬよう、地面を蹴って接近。

 今度はその首めがけて刃を振るった。

 が、それも手甲によって阻まれる。

 コイツ…なかなか良い反応してくるな…。

 

 妖術によって加速された右の大振りが迫って来ていたので、バック宙で距離をとる。

 身を翻しながら、タンクトップの攻略法について考えていた。

 図体の割に素早い挙動、1発が重い拳、兜のせいで頭部の防御力だけは高そう…。

 

 よし、あのヘンテコな兜を奪って脳天を叩き割ろう、そうしよう。

 作戦は決まった、後はイメージ通りに動くだけ。

 

「あのガキを助けに来たのか?」

 

 ここからが勝負だと気合を入れた時、タンクトップが気安く話しかけてきた。

 

「シャルのことか?そうだよ」

 

 

 

 

 

「あいつの母親を殺したのは俺だ」

 

 

 

 

 

 ドクンと心臓が跳ねる音が聞こえた。

 きっと今の俺は、鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔をしているに違いない。

 それ程までに、今タンクトップから発せられた言葉に全身が衝撃を受けていた。

 

「親子揃って脱獄をしたんでな。皆で追いかけてたんだ。で、自分の娘だけ先に逃がして自分は追っ手の時間稼ぎ。大事な一人娘だ、何とかして研究所から逃がしたかったんだろ。凄く抵抗されたさ」

 

 ニヤニヤしながらタンクトップは言葉を連ねた。

 

「仲間も何人か殺られたからな、俺も怒っていた。娘は完全に取り逃しちまったから、残った母親を散々痛めつけてやったさ。そんで最後はマッチの日で火葬。双城さんには少し怒られたが、娘が生き延びていることを伝えたらこの状況になっていた訳だ」

 

 まるで思い出話に浸るかのように、自分の行いに何の罪悪感も感じていないような、今の発言からそれが透けて見えた。

 

 ──俺の目的にあいつら親子の細胞が必要でな。いくらか肉を切って分けてもらってたんだが…。

 

 ああ、ようやく今わかった。

 ずっと抱いていた、こいつらに対しての違和感。

 

「有効活用さ。あの母娘は、こうなるべくして生まれてきた」

 

 

 

 こいつらは人の形をしたクズなんだ…。

 

 なら、俺がこいつらにしてやれることはたった一つだ。

 

 

 

 椿姫を強く握り締めて地を駆ける。

 もう何度も俺の動きを見たからだろう、タンクトップはこちらの攻撃に合わせて腕を振るってきた。

 それを間一髪のところで避け、そのまま椿姫を斬り上げる。

 まるで豆腐のようにタンクトップの左腕が切断出来た。

 

「ぐぎゃ!!」

 

 不細工な悲鳴をあげたので、もう片方の腕も斬っておく。

 そうしたら余計に不協和音を口から出してきたので、抑止の意味を込めて両足も削いでおいた。

 

「あ…ああ足が…!」

 

 残酷な事をしているとは思わなかった。

 だってこいつらは人間じゃないのだから。

 因果応報…人様に酷いことをしたのだから、その報いを受ける必要はある。

 そして、その報いを受けさせるのは俺の役割だ。

 

「あふっ…!こ、このままじゃ…死んじゃう…。くぺっ…!」

 

「まだ喋る元気があるみたいだ」

 

 まだ口を動かしてきたので、不本意だが椿姫をタンクトップの口に突き刺す。

 ようやく静かになったけど、まだ息はある。

 ヒューヒューと変な音を立てながら辛うじて生にしがみついていた。

 

 人の命を奪っておいて、それなのに自分は生き永らえようとする。

 その精神が気に食わない。

 

 タンクトップの胸に足を乗せ喉元に刀を伸ばす。

 恐怖と苦痛に歪んだ顔が目に映った。

 

「いい勉強になったよ。アンタ達のおかげで、俺はまだ人でいられそうだ。そんな人間様からお前に教えておいてやる、お前はクズだ。生きていちゃいけない奴なんだ」

 

「…!…!」

 

 声にならない叫びが聞こえてくるようだった。

 

「これ以上誰かを傷付けてしまう前に、俺がお前の命を奪う」

 

「──ァァァ!!」

 

「感謝してね」

 

 刀を振るって喉をかっ切る。

 心は痛まない。

 俺は鬱陶しい羽虫を払って罪悪感を感じる人間じゃない。

 

 例えそれが人の形をしていたとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いの場を後にしてから少し後、前方からこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。

 

 そのシルエットで誰なのかの検討をつけると向こうも同じことを思っていたようで、こちらに向かって駆けてくる。

 

「ミナト、無事だったか」

 

「チヒロこそ。それに──」

 

 駆け寄って来たのはチヒロだった。まだ体に包帯は巻かれているし傷も目立つけど、割と元気そうだ。戦闘音がしていたからチヒロも敵と戦っていたんだろうけど、そいつらをくぐり抜けてきたようだ。

 

 そして、そんなチヒロに肩車をされている1人の少女が目に入る。その子と目が合うと、自然と笑みが零れてきた。

 

「シャル…遅くなっちゃったけど、オーバーヘッドキック見せられそうだね」

 

「見るーッ!!!」

 

 相変わらず快活な模様。苦しい思いをさせてしまったのに、こうも明るく振る舞えるのはこの子の強さだ。クシャクシャと頭を撫でてやると、余計に嬉しそうにしていた。

 

「お、みんな無事そうやな。何よりや」

 

 気付けば真横にいた柴さん。神出鬼没とはこのことだが、どうやら柴さんも自分の仕事を終えて戻って来てくれたようだ。

 

 

 

 

 その時、空気が張り詰めたような気がした──。

 

 

 

 明らかに空気の色が変わった。

 そして、その理由をすぐに理解する。

 チヒロの方を見ると、恐らく同じことを考えているように見えた。

 

「柴さん、シャルを頼みます」

 

「…まぁだいぶ心配やけどな。ミナト君もいてくれるんやろ?」

 

「もちろん、チヒロだけに背負わせはしないよ」

 

「そか。ほんなら気ぃつけてな」

 

 チヒロの肩から柴さんの方へシャルを移す。柴さんは俺とチヒロの方を1度じっと見ると、フッとその場から姿を消した。

 

 夜風が体を吹き抜けていく。

 

「まだ動けるの?」

 

「当たり前だ。お前こそどうなんだ?」

 

「うん、全身が痛いけど絶好調だよ」

 

「同じで逆に安心した」

 

 2人揃って苦笑。

 そしてゆっくりと刀を引き抜き、双城の拠点の出入口の方へ向かう。

 

 1つの人影が視界には映り込んでいる。

 そいつが場の空気を変えているのだと確信を得た。

 

 

 

 

「2人とも元気そうだな」

 

 忘れもしないその声色。

 今回の出来事の主犯。

 人を人とも思わない残虐非道な武器商人。

 

 

 

 

 

「どうやら俺達みんな、筋金入りの気狂いらしい」

 

 

 

 

 

 双城が刳雲と共に俺達の前に立ちはだかる──。

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