ポケモンサービスの業務日誌   作:まがみん

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第1話 ポケモンサービスにお任せ!・1

 ヤマブキシティ。その街は列島において最大級の街のひとつだった。無数のビルが立ち並ぶ大都会、それが街の様相である。近年はコガネシティとのリニアモーターカーも繋がり、街はますます発展の道をたどっていた。

 そんなヤマブキシティのオフィス街、その一室で、ガタイのいい男が腕を組み、いらいらとしながら部屋の中を行ったり来たりしてきた。

 

「まだか……」

 

 男は言った。

 

「編集長がイライラしてる……」

 

 雑多な部屋の中で、デスクに向かって仕事をしていた社員たちはそう口にした。

 

「無理もないよ。あとひとり。あとひとり分だけ、原稿が届かなかったら、今月号は発行できないんだから」

「でも間に合うのかねぇ、だってあの先生、先月も、その前も、休載してただろ? で、復帰後いちばんの原稿なんて……」

 

 *

 

 それとほぼ同時刻、ヤマブキシティのオフィス街を一台の自転車が疾駆していた。自転車をこぐのは水色の髪をした十三歳の少年である。少年は黒い鞄を大切そうに抱え、全速力で街を走り抜けていた。

 そして自転車の後部には一匹のポケモンがしがみついていた。薄黄色の身体をしたポニーテールの少女のような姿のポケモン、クチートだ。その巨大なポニーテールは、よく見ると恐ろしげな牙を持った大顎状になっている。クチートは少年の背中に両手を使って必死にしがみついていた。

 

「間に合ってくれ……」

 

 少年は独り言を呟いた。

 そして一棟のビルの前で自転車の前輪を持ち上げた。

 

「えぇい、こうなったら!」

 

 少年は言う。

 

「クチート、アイアンヘッドだ!」

「クチー!」

 

 クチートはそう言うと大顎を銀色に発光させ、地面に向かって叩きつけた。アスファルトに大きなヒビが入る。そして自転車はクチートの技の反動で、空中へと跳躍した。

 

「届けぇ!」

 

 少年は叫ぶ。

 

 *

 

「遅い、遅すぎる!」

 

 編集長は歯ぎしりをした。

 その時だった。部屋の窓の外にサッと影が降りる。

 

「なんだ……?」

 

 突然のことに、編集長が窓の外に目を向けると、自転車に股がったひとりの少年の姿がそこにあった。自転車の後部には一匹のポケモン、クチートがしがみついている。

 自転車は窓ガラスを粉砕し、部屋の中に飛び込んでくる。

 

「ぬぁ!?」

 

 編集長はその口をあんぐりと開けた。しかし次の瞬間、自転車の前輪が編集長の顔面にめり込む。

 自転車は編集長を押し潰しながら、床に着地をした。

 

「お待たせしました!」

 

 少年は鞄の中から漫画原稿の束を取り出した。

 

「って、編集長は?」

 

 少年は首を傾げる。部屋にいた他の者たちは自転車の下敷きになっている男を指さした。

 

「えっ、あわわっ、ごめんなさい!」

 

 少年は自転車の前輪を編集長の顔面からどかした。

 

「クチ……」

 

 クチートはため息をついた。

 

「いやぁ、助かったよ、ミナトくん」

 

 十数分後、自転車を引いた少年の姿は建物の外にあった。

 少年の前にはメガネをかけた男の姿がある。

 

「今月分の原稿を落としてたら、間違いなく僕の漫画家生命に関わってたからなぁ」

 

 と男は言った。

 

「いえ、またいつでもご利用ください!」

 

 ミナトと呼ばれた少年は笑顔で言う。

 

「チ〜ト?」

 

 クチートは自転車の後部に座り、オレンジ味の棒アイスを食べていた。後頭部の大顎ではなく、顔の正面にある少し尖った小さな口で、である。

 

「じゃ、クチート。帰ろっか」

 

 ミナトは漫画家の前をあとにすると、自転車を押し始めた。

 

「クチ!」

 

 クチートは目を細めた。今日のご褒美にアイス、買ってあげたら喜んでくれたみたいだなとミナトは思った。

 

 漫画家の男と離れて自転車を押しながらしばらく歩いていた時だった。

 

「泥棒! 待ちなさい!」

 

 道の向こうからそんな声が聞こえてくる。

 

「えっ、泥ぼ……」

 

 ミナトが言い終わらないうちに、目の前にひとりの男が走ってくる。

 男を追いかけているのはガーディを連れたジュンサーさんだった。

 

「ちょっとそこの君、その男を捕まえて!」

 

 ジュンサーさんは叫んだ。

 

「え、あ、はい!」

 

 ミナトは自転車のストッパーを立てると前へと進み出た。

 

「くっ、くそっ!」

 

 男は悪態をついて立ち止まる。髭面の、いかにも悪人という面相をした男である。

 

「こうなったら……!」

 

 男はモンスターボールを取り出した。

 

「行け! ヘルガー! 時間を稼げ!」

「ヘ……ルルルルルル」

 

 ヘルガーは唸り声を上げながら、地面に降り立った。

 

「ポ、ケモン……!」

 

 ミナトは身構えた。

 ちょうどアイスを食べ終わったクチートが地面に降りる。そして前へと進み出た。

 

「クチート……?」

「クチ……」

 

 クチートは頷いた。

 

「待って、クチート。ヘルガーはほのおタイプとあくタイプ。はがねタイプとフェアリータイプのクチート相手だと……」

 

 ミナトは考える。でも、僕の手持ちの中だと、ブラッキーはあくタイプで相殺しちゃうし、ニューラはあくタイプとこおりタイプだから……。よし、消去法だけど……。とミナトもモンスターボールを取り出し、真ん中のスイッチを押した。数センチ大だったモンスターボールが手のひらサイズに大きくなる。

 

「パッチール、君に決め……うがががががが」

「クチ!」

 

 クチートが大顎でミナトの頭に噛み付いていた。

 

「ど、どうして君はいつも他のポケモンを使おうとすると怒り出して……」

「クチ」

 

 クチートは大顎をミナトから離すとそっぽを向いた。

 

「わ、わかったよ……行くんだね」

「クチ」

 

 クチートは頷く。

 

「うん、じゃあクチート、君に決めた!」

「馬鹿め! はがねタイプか! ヘルガー、溶かしてしまえ、かえんほうしゃ!」

「ルガー!」

「クチート、ノーマル技で行こう! はかいこうせん!」

「クチー!」

 

 クチートは大顎を開いた。そこからオレンジ色に光り輝くビームが発射される。

 ビームはヘルガーが口から放った火炎とぶつかりあった。そして炎を巻き込み、ヘルガーと泥棒に命中する。

 

「ぐあぁぁぁっ!」

「ルガーッ!」

 

 泥棒とヘルガーは後方に飛ばされていった。そして向かい側のビルの窓を破り、その内側へと落下する。

 

「ク、クチート……やりすぎだって、ちゃんと威力は調整しないと……」

「クチ?」

 

 クチートは首を傾げた。

 

「君、大丈夫! 怪我はない!?」

 

 ジュンサーさんが駆けつけてきた。

 

「いや、大丈夫じゃないのは泥棒さんのような……」

 

 ミナトは言った。

 

「そ、それもそうね……」

 

 ジュンサーさんは苦笑した。

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