ポケモンサービスの業務日誌   作:まがみん

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第3話 ミナトとクチート! 雪の日の出会い・2

 ミナトの友達は、ひとり、またひとりとヤマブキシティを出ていった。学校からは、みるみるうちに同学年の子供たちが減っていった。

 教室は空っぽになっていった。やがて、同じ教室で勉強をしている生徒はひとりもいなくなった。

 

「ミナトくんは、本当に旅に出なくてもいいの?」

 

 ある日、教室で勉強をしていると、担任の女性教師がそう声をかけてきた。

 

「他の子たちはみんなトレーナー修行の旅に出てるけど……」

「いいんですよ、そんなの」

 

 ミナトは答えた。

 

「だって……ポケモンバトルとか……僕、そんな柄じゃないし……」

「まぁあなたがそれで満足ならいいんだけど……。じゃあ、ポケモントレーナーにならずに……将来は何か考えている道とかあるの?」

「考えてる……道?」

「えぇ、そうよ。十歳になったらポケモンを持てるようになるけど……それっていうのはつまり、大人の世界への仲間入りをするってことなのよ。もちろんお酒やタバコは駄目だけど……でも、自分のやりたいことは、自分で見つけていかなくっちゃ」

「僕は……いいんです。何かにならなくても……別に……」

「そ、そう? あ、この問題、間違ってるよ」

「えっ、あっ、わあぁっ!」

 

 ミナトは曇り空の下、家路に着いていた。

 

「僕のやりたいこと……かぁ。でも、僕……ポケモンなんて好きじゃない。ううん、むしろ嫌いだし……」

 

 嫌でも、ミナトの心の中にかつてのアラモスタウンの光景がよぎる。

 

「それにしても、雪でも降りそうな天気だなぁ」

 

 ミナトは空を見上げる。

 気がつくと、教会の前にたどり着いていた。そして教会の前に、一匹のポケモンが佇んでいた。

 

「わっ、ポケモン……!」

 

 ミナトは思わず身を引く。

 

「クチ……?」

 

 そのポケモンは鳴いた。

 

「あのクチート、いつもあそこにいるわよねぇ」

 

 通行人たちの会話が耳に入ってきた。

 

「なんでも、前のご主人様だったおばあさんが亡くなってからずっとあの調子なんだってさ」

「他の子たちはみんな新しいご主人様に貰われていったっていうのに……」

「あのクチート、すぐに人間のこと、威嚇するから」

 

 他の子たちはみんな貰われていった……。ミナトの頭にその言葉がこだました。じゃあ、あのクチートとかいうポケモンも、ひとりぼっちで取り残されて……。ううん、でもそれはあいつが他の人を威嚇するからいけないんじゃないか。全部自分のせいだろ……!

 ミナトはクチートからなるべく目を離さないようにして、その場を歩き去っていった。

 

 ところが、次の日もまた次の日も、クチートは同じ場所に立っていた。

 

「あいつ……もしかして……一日中何も食べずにあそこにいて、夜も……。ううん、僕には関係ないんだ」

 

 ミナトはクチートのことを、なるべく見ないようにして通り過ぎていった。

 

 そんなことが続き、数日が経ったある日だった。

 ミナトはいつもは教会の前に立っていたクチートが、その日は座っていることに気がついた。顔色もあまり良くないように見えた。

 

「どこか悪いのかな……」

 

 ミナトは周囲を見回す。周りには誰の姿もなかった。

 

「こ、こういう時……どうすればいいのかな! でも、あのクチート、食べ物も何も食べていないみたいだったし……あぁ、そうだ! お腹がすいてるのかもしれないな。ポケモンって……何を食べるのかな!」

 

 ミナトは歩き出していた。

 

「どうして……僕がポケモンなんかのために……」

 

 だが、ミナトの脳裏にあのクチートが誰にも看取られずに静かにひとりぼっちで力尽きる光景が浮かんできた。

 

「でも……見捨てるなんて……そんなこと、僕にはできない……!」

 

 しばらくの後、ミナトの姿はクチートの前にあった。

 

「クチ?」

 

 クチートはミナトを見上げる。

 

「クチート……。っていうんだってね、君」

「クチ……」

 

 クチートは警戒しているようだった。

 

「僕はミナト。君に何かをしようと思ってるわけじゃないよ。ただ……ね、お腹すいてるかなと思って」

 

 ミナトはポケモン用のお菓子を取り出した。

 

「これ、ポフィンっていうんだって。近くのお店で売ってたから買ってきたんだけど……どうかな」

「クチ……」

 

 クチートは顔を背けた。

 

「お腹、すいてるんでしょ? このまま何も食べなかったら死んじゃうよ。食べて」

「クチ……」

「君の前のご主人、どんな人だったのかは知らないけど、でも、こんなところで君が死ぬなんてことは、望んでないんじゃないかな」

「チト……?」

 

 クチートは顔を上げた。

 

「別に……僕は君をうちに連れて帰ろうとか、そんなことは考えてないよ。でも、生きてほしいんだ。だって……このままひとりぼっちで死んでいくのって、凄く哀しいことだからさ」

「チ〜……」

 

 クチートはポフィンを手に取った。

 そして放り投げると、後頭部の大顎で飲み込んだ。

 

「そ、そっちから……食べるんだ」

 

 ミナトは少し気圧されて言った。

 

 それから数日、ミナトはクチートのために、食べ物を買い続けた。クチートはミナトから食べ物を貰うと、大顎の方の口で食べた。

 

「ねぇ、クチート」

 

 今日もポフィンを頭の口で食べたのを見てから、ミナトは言った。

 

「ちょっと隣……座っていいかな」

「クチ?」

 

 クチートは顔を背ける。

 

「じゃあ……座るよ」

 

 ふたりの間を冬の冷たい風が流れた。

 

「クチートはさ、これからどうするつもりなの?」

 

 ミナトは訊く。

 クチートはミナトに顔を向けた。

 

「僕はわかんないんだ。ポケモントレーナーとして修行の旅に出ることも拒否しちゃって……。でも仕方ないよね、僕、ポケモンのこと……あんまり……って、ごめん、君もポケモンだったっけ。でもなんだろうな……すごく他人とは思えないんだ」

 

 そこまで言ってからハッとしたように付け加える。

 

「あっ、ご、ごめん。僕みたいなのと一緒にされたくはないよね」

 

 それからミナトは両膝を抱えた。

 

「ただ、周りの人たちはみんな夢とか希望とか、そういうのに向かって頑張ってて、でも僕は全然、最初の一歩目すら踏み出せなくって……。怖いのかな、色んなことが。外の世界が」

「クト〜……」

「あ、そうだ。もう一個、ポフィンあるけど食べる?」

 

 ミナトはクチートにポフィンを渡した。

 

「クチ……」

 

 クチートはそれを受け取ると、まじまじと見つめ、それから初めて、本来の口で食べた。

 

「クチ〜」

 

 クチートの顔が、少しだけ笑顔になったように見えた。

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