ポケモンサービスの業務日誌   作:まがみん

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第3話 ミナトとクチート! 雪の日の出会い・4

 ミナトが傷の手当を終え、新しい服に着替えてポケモンセンターのロビーにあるソファに座っていると、ジョーイさんがお茶を運んできた。

 

「でも、何があったんですか? 自分のポケモンじゃないクチートを、あんな風に必死になってここまで運んできて、あなた自身もボロボロになってて……」

「それは……色々あって……。あのクチート、前のご主人が亡くなってから、ずっとひとりぼっちで……それで、僕自身もひとりぼっちだったから、自然と仲良くなって……。あぁ、でも向こうはそんなこと、思ってなかったのかな。今日だって、クチートには無理をさせちゃったみたいだし……」

「ひとりぼっちって……そういえば君、他のポケモンは? この街の子なの? でも今どき、君くらいの年齢になると……」

「変ですよね、みんな、ポケモントレーナーの修行の旅に出てるのに、僕だけ……。でも、僕はいいんです。だって僕……」

 

 ジョーイさんはミナトの隣に座った。

 

「僕……ポケモンのこと、嫌いなんです。前に……怖い思いをしたばっかりで……」

「本当に、そうですか?」

「え?」

「本当にポケモンのこと、嫌いな人間は、自分のものでもないポケモンに、あそこまで一生懸命になれないと思いますけど……」

「あの……しばらく、ここにいてもいいですか? あのクチートが元気になる姿を……この目で見ておきたいんです」

「もちろん、いいですよ」

 

 ジョーイさんはにこりと笑った。

 

 やがて夜になり、そして朝が来た。ミナトはいつの間にかソファの肘掛に身体を預けて眠ってしまっていたようだった。

 何か柔らかいものが触れて目を覚ます。

 

「ん……ん……」

 

 目を開けると、それはクチートが大顎でミナトの頬を優しく突いているところだった。

 

「ク、クチートっ!」

 

 ミナトは慌てて姿勢を正す。

 

「治療をして、栄養を与えて、ひと晩ぐっすり寝かせてあげたら、すっかり元気になりましたよ」

 

 ジョーイさんは言った。隣にはアシスタントのラッキーも立っている。

 

「よかった……。本当によかったよ!」

 

 ミナトはクチートをぎゅっと抱きしめた。

 

「クチ……!」

「そのクチート、前の持ち主が亡くなった……って言ってましたね」

「そうですけど……」

「じゃあ、どうですか? ミナトくんが引き取るというのは」

「えっ、僕が?」

 

 ミナトはクチートから身体を離し、その赤い瞳をまじまじと見つめた。

 

「クチートも、嫌がってないみたいですよ?」

「そ、そうなのかな……。じゃあ、よろしくね、クチート」

「クト〜」

 

 クチートは頭の大顎をぶんぶんと振り回した。

 

「それじゃあ私、モンスターボールを持ってきますね」

 

 ジョーイさんはロビーを出ていった。

 しばらくしてジョーイさんは、モンスターボールが六個入った箱を持ってやってきた。

 

「はい、モンスターボールですよ。真ん中のスイッチを押すと大きくなるんです」

 

 ミナトは言われた通り、モンスターボールのうちの一個を手に取って、真ん中のスイッチを押した。そのボールは手のひらサイズに大きくなる。

 

「そしたら、それを投げてください」

 

 ミナトはモンスターボールを投げる。ボールがぱかりと開いた。しかし次の瞬間、クチートはモンスターボールを大顎で弾いた。

 

「えっ、あれっ」

 

 ミナトはモンスターボールをふたたび投げる。しかしクチートはまたしてもそのボールを大顎で弾いた。

 

「やっぱり……僕と一緒にはいたくないの?」

 

 ミナトは言う。

 

「変ですねぇ、さっき『ミナトくんと一緒に行きたいか』って訊いた時には頷いていたはずなんですけど……」

「クチ〜!」

 

 すると、クチートはミナトに飛びついてきた。そしてその胸元に抱きつく。

 

「えっ、ジョーイさん、これは……」

「あ、あぁ、そういうことでしたか」

 

 ジョーイさんはくすくすと笑った。

 

「どうやらそのクチート、ボールになんか入らずに、ミナトくんとずっとに一緒にいたいみたいですよ」

「えっ、そうなの? クチート!」

「クト〜」

「なんだぁ、そうならそうと言ってくれたって……」

 

 ミナトはクチートを抱きしめ頭を撫でる。

 

「良かったですねぇ、ミナトくんも、クチートも」

「ラッキ〜」

 

 クチートはしばらくミナトに抱きしめられていたが、やがてジョーイさんとラッキーの視線を感じて顔を赤らめた。そして大顎を開く。

 

「クチ〜!」

 

 クチートの大顎がミナトの頭にかぶりついた。

 

「痛い痛い痛い、なんでぇ!?」

「クチ……」

 

 クチートは床に着地をした。クチートはミナトから顔を背ける。

 

 それからしばらくして、気を取り直したミナトはクチートを抱き上げるとポケモンセンターの出入口へと向かった。

 

「それじゃあ、えっと……ありがとうございました!」

 

 ミナトは頭を下げる。

 

「えぇ、また何かポケモンの育てかたでわからないところがあったら、寄っていってくださいね」

「ラッキ〜」

「クチ〜」

 

 ミナトはジョーイさんに背を向けるとポケモンセンターを出た。

 降り積もった雪が、朝日に照らされてきらきらと輝いていた。

 

「じゃあクチート、帰ろっか。これから、よろしくね!」

「クチクチ〜!」

 

 *

 

「っていうのが、僕とクチートとの出会いなんだ」

 

 話し終えたミナトはそう言ってから缶ジュースを飲んだ。

 

「へぇ、そうだったのね。じゃあミナトとクチートは、ほかの手持ちよりも長い付き合いってわけ」

「うん、そういうことになるかな」

「クチ!」

「なるほどねぇ、道理でお似合いってところかしら」

「お、お似合いって……」

「クチ……? クチ!」

 

 クチートの大顎がミナトに襲いかかった。

 

「痛い痛い痛い、もう、どうして急に怒り出すのさ!」

「クチ!」

 

 クチートはミナトから顔を背けた。

 

「まったく、昔からわかんないところあるよね、クチートってさ」

 

 事務所の扉が開く音がした。

 サクヤがイーブイ所長を肩に乗せて戻ってきたところだった。

 

「ん? お前ら、なんの話してたんだ?」

「え? いや、ちょっとね」

 

 クチートの大顎から解放されたミナトは言う。

 

「あ、そうだ」

 

 それからミナトは隣の部屋に向かった。

 

「エリキテル」

 

 ミナトはテーブルの上に座っていたエリキテルに話しかける。

 

「君も……新しいご主人が見つかるといいね。でも、それまではここが君の家みたいなものだからさ。好きに過ごしていて、いいよ」

「エリキ〜」

 

 エリキテルは答えた。

 

「なんだよ。気になるじゃねーか、何の話をしてたのかさ」

「サクヤにもまた今度話すよ」

 

 ミナトはエリキテルの頭を撫でながらにこりと笑った。

 

「ブイッ」

 

 イーブイ所長が床に飛び降りた。




【次回予告】

ミナト「ツキホが参加することになったのは、ジュンサーさんが主催する一日警察官体験! 妙に張り切ってるけど……地域のパトロールを手伝ったりする安全な仕事でしょ? ……って、なんでそんなボロボロになって森の中を走り回ってるわけ!? しかも怪しいポケモンハンターまで現れて……。次回『走れツキホ! ポケモンハンターK登場!』をお楽しみに!」
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