「あっ、いらっしゃい。あなたが一日警察官体験に応募してくれたツキホさんね」
警察署の前でジュンサーさんは言った。
「ふんふん、出身はジョウト地方のワカバタウン……と。そういえば『ポケモンサービス』の子よね。この前、チラシ、貰っちゃって……」
「はい」
ツキホはにこりと笑った。
「何かありましたら、いつでも私たちをご愛顧ください」
「じゃ、さっそく警察署内を案内するわね」
ジュンサーさんはツキホを先導して警察署へと入っていく。
「はい、お願いします」
ツキホはジュンサーさんについて歩く。
「まず、ここは受付よ。熱心なツキホちゃんならわざわざ説明しなくてもわかると思うけど……」
それからジュンサーさんは受付のカウンターを抜けて、その奥の扉に向かった。
「ここはちょうど事務所にあたる場所よ。ツキホちゃん用のスペースは……」
ジュンサーさんはツキホを部屋の隅にあるソファーを指し示す。
「このソファーを好きなように使ってもらって構わないわ」
「それからトイレはこの先の廊下を曲がった奥に……。給湯室はそのトイレの向かい側にあるわ」
「ありがとうございます」
ツキホは言う。
「それと……ツキホちゃんにはさっそく、私と一緒にパトロールに出てもらうんだけど……」
ジュンサーさんは事務所の出入口に目を向ける。
「その前に私、ちょっとだけ雑事が残ってるから、片付けてくるわね」
「はい、ジュンサー様」
ツキホはジュンサーさんが部屋を出ていくのをキラキラとした瞳で見つめた。
「あぁ、ジュンサー様。いつ見ても凛々しいお姿」
ジュンサーさんの姿が見えなくなるとツキホは両手を合わせて言った。
その時、ジュンサーさんと入れ違いに事務所へ入ってきたふたりの警官の話が耳に入る。
「街外れの森でポケモンハンターが活動してるかもしれないんだってさ」
「えぇー、本当かよ。取り締まりは強化されたはずなのに、性懲りもなく……」
「ポケモンハンター……?」
ツキホの耳がぴくりと動いた。許せない、正義の味方として、ポケモンに非道なことをする輩は、絶対に!
「あの、すみません! その話、詳しく聞かせてください!」
「き、君は……?」
警官は驚いて言う。
「あぁほら、一日警察官体験の子が来るって言ってただろ? その子だよ」
「あぁ……」
「街外れの森って……具体的にはどの方角ですか!? 被害の規模は……!?」
警官たちは顔を見合わせる。
「どうしてそんなことを……」
「『一日』とはいえ、私は『警察官』ですから。正義のために知っておきたいんです」
「そうだなぁ、方角としてはハナダシティ方面に四キロメートルといったところかな。通報によると、むしタイプのポケモンを大量に載せたトラックが目撃されたとか」
「それと……餌を利用した罠も発見されたって話だったな」
「そんな……許せないわっ! 自分たちの欲望のままに、ポケモンを利用しようとするなんてっ!」
ツキホは拳を握りしめた。その瞳に炎が燃え上がる。
「ツキホちゃん、お待たせ」
ジュンサーさんが部屋に戻ってきた。
「ジュンサー様!」
ツキホはジュンサーさんの方に顔を向けた。
ふたりは警察署の駐車場へと移動した。そこにはサイドカー付きの白バイが停めてあった。
「はい、ヘルメット」
ジュンサーさんはツキホにヘルメットを渡す。
「ありがとうございます」
ツキホはヘルメットを被った。
「じゃ、サイドカーに乗って」
ジュンサーさんは白バイにまたがりながら言った。
「はい、ジュンサー様」
ツキホはサイドカーに乗り込む。
白バイは発進した。
しばらくヤマブキシティの市街地を走っていると、ジュンサーさんは言った。
「右手に見える一際大きなビルはシルフカンパニー本社よ。……って、ツキホちゃんはヤマブキに住んでるんだから、知っているはずよね」
「えぇ、でも案内、ありがとうございます」
「ところでツキホちゃん、どこか行ってみたい場所はある? 白バイだから、結構遠い場所でも行けるわよ」
「じゃあ……」
とツキホは答える。
「ヤマブキシティの北端からハナダシティ方面に四キロほど進んだ森へ行きたいです」
「えっ……」
ジュンサーさんは驚いた顔をした。
「ポケモンハンターが暗躍しているんですよね」
「誰かから聞いたのね」
ジュンサーさんは言った。
「はい」
「でも危険よ。相手はポケモンハンター、何をしてくるかわからないわ」
「でも……せっかく一日警察官体験に来たんですから、私だって正義のために戦いたいんです! だって……憧れのジュンサー様に……近づけるチャンスですから」
「困った子ねぇ」
ジュンサーさんは肩をすくめた。
「わかったわ。ただし、森の中では私から片時も離れないこと。いいわね」
「了解です! ジュンサー様!」
ジュンサーさんの白バイは進む方向を変えた。
しばらくの後、ジュンサーさんの白バイは森の中を抜ける未舗装の道を走っていた。
「この辺りね……。ポケモンハンターたちが使ってる輸送車が目撃されたのは……」
ジュンサーさんは白バイを停めた。
「降りるわよ」
ジュンサーさんは白バイから降りた。ツキホもヘルメットを脱いで、ジュンサーさんに続く。
ふたりは森の中に入っていった。
森の中は静まり返っていた。
「気味が悪いほど静かな森ですね。まるでポケモンが一匹もいないみたいに……」
「みんな、ポケモンハンターを警戒して息を潜めているのよ」
ふたりは森の中を進んでいった。
その時だった。
「シャアァーッ!」
森の中でそんな叫び声が聞こえた。
「鳴き声……! しかも助けを求めている声だわ!」
ジュンサーさんは言う。
「ツキホちゃん! ちょっとここで待ってて! 私、見てくるわ!」
ジュンサーさんは駆け出す。
「は、はい!」
ツキホは頷いた。
ジュンサーさんの姿が見えなくなると、森の中にふたたび静けさが戻った。
「あぁ、ジュンサー様……なんて凛々しい対応なのかしら……!」
ツキホは両手を合わせる。
その時、草むらから一匹のポケモンが飛び出してきた。
「ミュ〜ン」
「ビードルね!」
ツキホはそのポケモンを見て言った。
「ミュ〜ン」
ビードルはツキホの前を通り過ぎ、草むらの中に入っていく。かと思ったら、ツキホの方を見て目を潤ませていた。
「どうしたのかしら……?」
ツキホは首を傾げる。
「ミュ〜ン、ミュ〜ン!」
ビードルはまるで、こっちれついてくるように言っているようだった。
「ついて来いって言ってるの……? でも、私、ジュンサー様に待ってるようにって言われたし……」
そこまで言ってからツキホは首を横に振る。
「ううん! 目の前に泣きそうになって助けを求めているポケモンがいるのに、見捨てたらそれこそ正義の名折れだわ! わかったわよ、ビードル、すぐに行くわ!」
ツキホはビードルについていく。