ポケモンサービスの業務日誌   作:まがみん

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第5話 メイド喫茶でゲットだぜ! ・1

「シャワーズ! スピードスターよ!」

 

 ツキホが叫んだ。

 

「シャアァァァァズッ!」

 

 シャワーズは口を開き、そこから星型の光を無数に放つ。星型の光は空中に浮かんだコクーンにぶつかる。しかしコクーンはビクともしなかった。

 

「わぁ……本当にカッチカチね」

 

 ツキホは言った。

 

「え? どれどれ?」

 

 ミナトが右手にハンマーを持ってコクーンの傍に立つ。そしてハンマーを叩きつけた。金属のような音が鳴ったものの、コクーン自体はビクともしない。

 

「ほんとだ。すっごいや、このコクーン」

「クチ!」

 

 クチートも大顎でコクーンに噛み付いた。しかし大顎の牙が折れそうになり、目を細める。

 

「クチ……」

「でしょでしょ! おまけにほら!」

 

 ツキホはコクーンを抱きしめる。

 

「抱っこするのにもちょうどいいサイズなのよ!」

「へぇ……すごくいいポケモンをゲットしたね、ツキホ」

 

 その時、ふたりがいる中庭を見下ろす窓からサクヤが顔を覗かせた。

 

「おい、お前ら、依頼人だぜ!」

「ブイッ!」

 

 イーブイ所長もサクヤの頭の上に乗る。

 

「依頼人……か。じゃ、事務所に戻ろっか、ツキホ」

 

 ミナトはクチートを抱き上げた。

 

「えぇ、そうね」

 

 ツキホはモンスターボールとジュンサーさんのサイン入りプレミアボールを取り出すと、コクーンとシャワーズをしまった。

 

 ミナトとツキホが事務所に戻ると、応接室には、サクヤと向かい合ってひとりの男が座っていた。

 

「エリキッ!」

 

 エリキテルがミナトの目の前を駆け抜けていく。

 依頼人は黒いスーツに身を包んだ背の高い男だった。年齢は三十代か四十代くらいだろうと思われる。

 ツキホとミナトはサクヤの隣に座った。

 

「実は……私は、メイド喫茶を経営しているのです」

「えっ、おじさん、メイドさんだったんですか?」

 

 ミナトが素っ頓狂な声を上げる。

 

「クチ……」

 

 クチートがため息をついた。

 

「いえ、私ではなく、従業員が……」

「続けてください、馬鹿のことは気にしないで」

 

 サクヤが言う。

 

「ブイ」

「えぇ、そうね。馬鹿のことは無視してください」

 

 ツキホも言う。

 

「あぁーっ、みんなが僕のことを馬鹿って言う……」

 

 ミナトは少ししゅんとした。

 

「わかりました。では……」

 

 とメイド喫茶店主は話し始めた。

 

「ことの起こりは今から四日ほど前のことです。私の経営しているメイド喫茶に、ある客がやって来たのです」

「ある客……ですか?」

 

 サクヤの言葉にメイド喫茶店主は頷く。

 

「えぇ、彼は……そう『メイド喫茶評論家』を名乗っておりました」

 

 *

 

 メイド喫茶のドアベルが鳴った。

 

「おかえりなさいませ、ご主人様」

 

 メイドたちがその客を出迎える。

 その客は、ウェーブのかかった前髪をしていた。そして無駄にキラキラとした瞳、口には赤い薔薇を咥えている。

 

「あ、えーとご主人様?」

 

 メイドはタキシード姿のその男に戸惑って言う。

 

「やぁ、僕の名前はルミエール・ド・ローズ。しがない『メイド喫茶評論家』さ」

 

 ルミエールはそう言ってウインクをした。彼の目からいくつものハートが弾ける。

 

 *

 

「うわぁ、変人の匂い……」

 

 ツキホが言う。

 

「席に案内されると、その男は言いました……」

 

 *

 

「ご主人様、メニューの説明ですが……」

「おぉっ! 哀しいかな! メイドとはなんたるか! メイドとは萌えである! 萌えの象徴が『メニューの説明ですが』などという言葉を発していいものなのか! 答えは否である! 萌えとはすなわち、細かな所作、そして言葉の節々に宿るもの! メイドという世界に身を投じている以上、身体の髄から指先まで、全てを萌えに浸していなければならないの〜さっ!」

 

 *

 

「そしてそのルミエールという男は、私の店で働くメイドたちに難癖を付け始めたのです。ある者はドリンクの運び方がなっていない。ある者は声に萌えを感じない。そしてまたある者には歩き方を直せ……等々」

「酷い、身勝手すぎます!」

 

 ミナトは拳を握りしめて怒った。

 

「うん、身勝手なんだろうけどクレームの内容が異次元すぎてついていけないっつーか……」

 

 サクヤは呟く。

 

「一日だけなら良かったのです。しかし彼は次の日も、また次の日も店に現れ……そして、メイドたちは彼に嫌気がさして……店に来なくなってしまったのです。昨日はとうとう、出勤者がゼロとなってしまいました。このままではうちの店は……」

「それで……依頼の内容は……」

「私のメイド喫茶の立て直しを手伝って欲しいのです。このままでは……私の店は潰れてしまいます。ですから……」

 

 ツキホの言葉に店長は言う。

 

「ブイ」

 

 イーブイ所長は鳴いた。

 

「所長は……依頼を受けたいと言ってます」

 

 サクヤが言った。

 

「あぁ……ありがたい。ありがとうございます」

 

 店長はまるで救世主を見上げるようにイーブイ所長を見上げた。

 

「ではさっそく……私の店に来ていただきたい」

 

 店長は立ち上がった。

 

 そのメイド喫茶はヤマブキシティの繁華街にあった。メイド喫茶の周りにはパン屋やレストランなどが並んでおり、賑わっている一角だ。

 店長はそんなメイド喫茶に、ミナト、クチート、ツキホ、そしてサクヤを通した。イーブイ所長はポケモンサービスの事務所で留守番をしている。

 

「こちらです」

 

 店長は店の扉を開けた。店内はがらんとしていた。

 

「昨日に引き続き、従業員は誰も出勤してきませんでした」

「メイド喫茶なのにメイドさんがひとりもいないのは痛手ですね……」

 

 ツキホは顎に手を当てて考え込む。

 

「えぇ、そうです。ですのでまずはそこをなんとかしてからでないと……」

「メイドさんは美少女であるべき……。うん、で、美少女といえば……」

「初手から詰んでるな」

 

 サクヤが言う。

 

「そうだね、僕たちの中に美少女なんて……」

 

 ツキホの頭に怒りマークが浮かんだ。

 

「あのねぇ……」

「ん? どうしたの? ツキホ」

「美少女といえば、ここにひとりいるじゃないの! 銀河の美少女がっ!」

「だから銀河は言い過ぎだって……」

 

 サクヤが言う。

 

「おぉ、あなたがメイドさんになってくださるのですか。それはありがたい」

 

 店長は手を合わせた。

 

「それでは早速……。着替えなら、カウンターの奥の更衣室に用意してありますので」

 

 しばらくして、ツキホが更衣室から着替え終えて外へと出てきた。

 

「おぉ……結構似合ってるじゃないか」

 

 サクヤが言う。

 

「うん、すごく様になってるというか……」

「でしょ? さぁ、どこからでもかかってきなさい!」

 

 ツキホは言った。

 店の扉が開いた。そしてオタク風のふたり組の男が入ってくる。

 

「おかえりなさいませ、ご主人様」

 

 ツキホはにこりと笑って接待をする。

 

「お、おぉ……」

 

 隣でサクヤとミナトが見惚れる。 

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