「シャワーズ! スピードスターよ!」
ツキホが叫んだ。
「シャアァァァァズッ!」
シャワーズは口を開き、そこから星型の光を無数に放つ。星型の光は空中に浮かんだコクーンにぶつかる。しかしコクーンはビクともしなかった。
「わぁ……本当にカッチカチね」
ツキホは言った。
「え? どれどれ?」
ミナトが右手にハンマーを持ってコクーンの傍に立つ。そしてハンマーを叩きつけた。金属のような音が鳴ったものの、コクーン自体はビクともしない。
「ほんとだ。すっごいや、このコクーン」
「クチ!」
クチートも大顎でコクーンに噛み付いた。しかし大顎の牙が折れそうになり、目を細める。
「クチ……」
「でしょでしょ! おまけにほら!」
ツキホはコクーンを抱きしめる。
「抱っこするのにもちょうどいいサイズなのよ!」
「へぇ……すごくいいポケモンをゲットしたね、ツキホ」
その時、ふたりがいる中庭を見下ろす窓からサクヤが顔を覗かせた。
「おい、お前ら、依頼人だぜ!」
「ブイッ!」
イーブイ所長もサクヤの頭の上に乗る。
「依頼人……か。じゃ、事務所に戻ろっか、ツキホ」
ミナトはクチートを抱き上げた。
「えぇ、そうね」
ツキホはモンスターボールとジュンサーさんのサイン入りプレミアボールを取り出すと、コクーンとシャワーズをしまった。
ミナトとツキホが事務所に戻ると、応接室には、サクヤと向かい合ってひとりの男が座っていた。
「エリキッ!」
エリキテルがミナトの目の前を駆け抜けていく。
依頼人は黒いスーツに身を包んだ背の高い男だった。年齢は三十代か四十代くらいだろうと思われる。
ツキホとミナトはサクヤの隣に座った。
「実は……私は、メイド喫茶を経営しているのです」
「えっ、おじさん、メイドさんだったんですか?」
ミナトが素っ頓狂な声を上げる。
「クチ……」
クチートがため息をついた。
「いえ、私ではなく、従業員が……」
「続けてください、馬鹿のことは気にしないで」
サクヤが言う。
「ブイ」
「えぇ、そうね。馬鹿のことは無視してください」
ツキホも言う。
「あぁーっ、みんなが僕のことを馬鹿って言う……」
ミナトは少ししゅんとした。
「わかりました。では……」
とメイド喫茶店主は話し始めた。
「ことの起こりは今から四日ほど前のことです。私の経営しているメイド喫茶に、ある客がやって来たのです」
「ある客……ですか?」
サクヤの言葉にメイド喫茶店主は頷く。
「えぇ、彼は……そう『メイド喫茶評論家』を名乗っておりました」
*
メイド喫茶のドアベルが鳴った。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
メイドたちがその客を出迎える。
その客は、ウェーブのかかった前髪をしていた。そして無駄にキラキラとした瞳、口には赤い薔薇を咥えている。
「あ、えーとご主人様?」
メイドはタキシード姿のその男に戸惑って言う。
「やぁ、僕の名前はルミエール・ド・ローズ。しがない『メイド喫茶評論家』さ」
ルミエールはそう言ってウインクをした。彼の目からいくつものハートが弾ける。
*
「うわぁ、変人の匂い……」
ツキホが言う。
「席に案内されると、その男は言いました……」
*
「ご主人様、メニューの説明ですが……」
「おぉっ! 哀しいかな! メイドとはなんたるか! メイドとは萌えである! 萌えの象徴が『メニューの説明ですが』などという言葉を発していいものなのか! 答えは否である! 萌えとはすなわち、細かな所作、そして言葉の節々に宿るもの! メイドという世界に身を投じている以上、身体の髄から指先まで、全てを萌えに浸していなければならないの〜さっ!」
*
「そしてそのルミエールという男は、私の店で働くメイドたちに難癖を付け始めたのです。ある者はドリンクの運び方がなっていない。ある者は声に萌えを感じない。そしてまたある者には歩き方を直せ……等々」
「酷い、身勝手すぎます!」
ミナトは拳を握りしめて怒った。
「うん、身勝手なんだろうけどクレームの内容が異次元すぎてついていけないっつーか……」
サクヤは呟く。
「一日だけなら良かったのです。しかし彼は次の日も、また次の日も店に現れ……そして、メイドたちは彼に嫌気がさして……店に来なくなってしまったのです。昨日はとうとう、出勤者がゼロとなってしまいました。このままではうちの店は……」
「それで……依頼の内容は……」
「私のメイド喫茶の立て直しを手伝って欲しいのです。このままでは……私の店は潰れてしまいます。ですから……」
ツキホの言葉に店長は言う。
「ブイ」
イーブイ所長は鳴いた。
「所長は……依頼を受けたいと言ってます」
サクヤが言った。
「あぁ……ありがたい。ありがとうございます」
店長はまるで救世主を見上げるようにイーブイ所長を見上げた。
「ではさっそく……私の店に来ていただきたい」
店長は立ち上がった。
そのメイド喫茶はヤマブキシティの繁華街にあった。メイド喫茶の周りにはパン屋やレストランなどが並んでおり、賑わっている一角だ。
店長はそんなメイド喫茶に、ミナト、クチート、ツキホ、そしてサクヤを通した。イーブイ所長はポケモンサービスの事務所で留守番をしている。
「こちらです」
店長は店の扉を開けた。店内はがらんとしていた。
「昨日に引き続き、従業員は誰も出勤してきませんでした」
「メイド喫茶なのにメイドさんがひとりもいないのは痛手ですね……」
ツキホは顎に手を当てて考え込む。
「えぇ、そうです。ですのでまずはそこをなんとかしてからでないと……」
「メイドさんは美少女であるべき……。うん、で、美少女といえば……」
「初手から詰んでるな」
サクヤが言う。
「そうだね、僕たちの中に美少女なんて……」
ツキホの頭に怒りマークが浮かんだ。
「あのねぇ……」
「ん? どうしたの? ツキホ」
「美少女といえば、ここにひとりいるじゃないの! 銀河の美少女がっ!」
「だから銀河は言い過ぎだって……」
サクヤが言う。
「おぉ、あなたがメイドさんになってくださるのですか。それはありがたい」
店長は手を合わせた。
「それでは早速……。着替えなら、カウンターの奥の更衣室に用意してありますので」
しばらくして、ツキホが更衣室から着替え終えて外へと出てきた。
「おぉ……結構似合ってるじゃないか」
サクヤが言う。
「うん、すごく様になってるというか……」
「でしょ? さぁ、どこからでもかかってきなさい!」
ツキホは言った。
店の扉が開いた。そしてオタク風のふたり組の男が入ってくる。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
ツキホはにこりと笑って接待をする。
「お、おぉ……」
隣でサクヤとミナトが見惚れる。