「じゃ、早速席へと案内するわね。私についてきなさい」
「ん?」
ミナトはツキホの言葉になんとなく違和感を覚える。
ふたりの客はツキホについて歩き、奥のテーブルへと案内された。
客がテーブル席につくと、ツキホは注意書きの書かれた紙を広げた。
「ここに書かれているのがこの店のルールよ。読んでおきなさい」
「は、はい……」
「サクヤ、なんか……」
ミナトはサクヤに話しかける。
「あぁ……」
「あの……」
と客のひとりが言う。
「メイドさんは説明してくださらないんですか?」
「説明? そんなのこれを読めばわかるでしょ?」
ツキホは少し不機嫌になった様子で言う。
「え、あ、でも……説明も含めてメイド喫茶というか……」
「あんたたちねぇ。言う必要のないことをなんで言わなきゃいけないのよ。それとも何? あんたたちの目は節穴なわけ? まったく……それ読み終わったらさっさとメニューを決める。そして帰る。いい? わかったわね?」
「う、うぅ……怖いよぉ……」
客ふたりはお互いに抱き合ってしまった。
するとツキホはバンとテーブルを叩いた。
「まったく、何よ! いい大人が何を怖がってるのよ。根性ないわねぇ」
「かっ、帰りますぅ!」
ふたり組の客は逃げるようにして店を出ていった。
「ツキホ……お前……」
サクヤが言う。
「接客……下手くそかよ」
「だ、だってイライラするじゃないの。どうしてしちめんどくさいことを毎回わざわざやらなくちゃならないのよ」
「あぁ……終わりです……私はどうしたら……」
店長はカウンターの上に泣き崩れた。
「あー、えーっと、泣かないでください。まだまだ他に手があるはずですから」
ミナトは言った。
「他に手ってなんだよ」
サクヤが問う。
「うーん、それは……」
「考えてなかったのかよ」
「クチ?」
「あっ、そうだ! クチート! クチートもメスだったよね!」
ミナトは言う。
「クト〜」
「こういうのはどうかな! ポケモンメイド喫茶! クチートたちポケモンがメイドさんの格好をしてお客さんをおもてなしするの」
「私のメイド技術がポケモンに劣るのはちょっと癪だけど……仕方ないわね。みんな、メスポケモンを出すわよ!」
ツキホはモンスターボールをふたつ取り出すとそれを宙に向かって投げた。
「行け! ロコン! コジョンド!」
ロコンとコジョンドが銀色の光とともに現れる。
「よし、僕も! 行け! ニューラ!」
「ニュ〜ラ」
ミナトのメスのニューラがモンスターボールから出てきた。
「うーん、それから……」
ツキホはモンスターボールを新たな取り出してじっと見つめる。
「どうしたの? ツキホ」
「私のコクーン、オスなのかメスなのかどっちなんだろうって思って……」
「物は試しだ。着せてみたらどうだ?」
サクヤが言う。
「そうね、じゃあ……出ておいで! コクーン!」
ツキホはモンスターボールを投げた。
しばらくして、店の中にはメイド服に着替え終わったポケモンたちが並んでいた。
「うわぁ、似合ってる。可愛いよ、クチート、ニューラ」
「ニュッ!」
だがニューラは次の瞬間、両手の爪でメイド服をビリビリに引き裂いてしまった。
「えぇっ、どうして!」
「恥ずかしかったみたいだな」
サクヤが言う。
「もう、しょうがないなぁ、戻って、ニューラ」
ミナトはニューラをモンスターボールに戻した。
クチートがミナトの別のモンスターボールを奪い取る。
「あっ、ちょっと! クチート、何をするのさ」
「クチ!」
クチートは言った。
「チ〜ト!」
「これは……パッチールのモンスターボール? でもパッチールはオスだよ?」
「クト〜」
「何か考えがあるみたいだな」
サクヤが言う。
「わかったよ。出てきて、パッチール」
ミナトはモンスターボールを投げた。
「パ〜ッ!」
パッチールが銀色の光とともに出てくる。赤いブチ模様のひとつが星型になっているのが特徴のパッチールだ。
「クチ!」
クチートはどこからか店の宣伝が書かれた幟を持ってきた。
「クチ、クチクチ〜ト!」
クチートはその幟をパッチールに渡す。
「パ? パ〜ッチ」
パッチールは頷いた。
「そうか、確かにお客さんを呼び込むには宣伝が大事だね。パッチール、頼んだよ」
ミナトはパッチールの頭を撫でる。
「パ〜ッ!」
パッチールはふらふらと歩きながら店を出ていった。
「よし、これで宣伝も完璧、あとはお客さんを待つだけだね」
しばらくして店の扉が開き、三人組の男たちが入ってきた。やっぱりオタク風の見た目をしていた。
「チ〜ト!」
「ジョンドォ!」
「コンッ!」
「…………」
メイド服に身を包んだ四匹のポケモンたちが出迎える。
「え、えーっと……」
と三人の客はお互いに顔を見合わせた。
「人間のお出迎えはないのか……?」
「クチ?」
「うん、君たちは可愛いよ。可愛いけどさ、人間が言う『おかえりなさいませ、ご主人様』が聞きたかったというか……」
「なーんか興醒めって感じ? 行こうぜ」
三人の客は店を出ていった。
「あぁっ、おしまいだ! この店はもうおしまいだぁぁっ!」
店長はカウンターの上で泣き崩れた。
「て、店長さん、泣かないでください! たまたまですよ! きっと次来るお客さんは……」
「でもわかるな……」
とサクヤが呟いた。
「客は可愛い人間のメイドさんを期待してやってきてるんだ。それなのに言葉を発しないポケモンのメイドに出迎えられちゃ、期待はずれだったというか……」
「うーん、でも……僕たちの中でメイドさんができそうな人間なんて……」
ミナトは言う。ツキホのメイドは失敗しちゃったし……。
「そうね……私以外には男がふたり……これは痛手だわ。あなたたちふたりにメイドさんの格好をさせても似合わ……似合……ん?」
「どうした? ツキホ。……って、あっ」
ふたりは何かに気がついたようだった。
「えっ、どうしたの? ふたりとも……」
ミナトはキョトンとする。
「メイド服を着ても女の子と素で張り合えそうなやつ、見つけたんだよ」
「そうそう、今まで盲点だったわ……でも、きっと『彼』なら似合うに決まってるわ」
「えっ、彼って……? ねぇ、誰のこ……」
「ミナト、お前だよ。お前……今からメイドさんになれ」
「えぇっ、僕が? 絶対似合わないよ、僕なんて……」
「そうかっ!」
店長が手を打った。
「確かに君なら顔も女の子っぽいし、体型だっていかにも頼りなくってメイドさんにはピッタリだ!」
「あの……それって悪口……」
「頼む! この店の命運がかかっているんだっ!」
「頼……む……頼む……頼む……」
ミナトの心の中をその言葉が何度もこだました。
「ま、任せてください!」
ミナトは胸に手を当てて言った。
「そうやって頼まれたら……僕、断れませんから!」
「さっすが優柔不断だな」
サクヤが言った。