「そっか……そんなことがあったんだ」
ミナトのクチートとの出会いの話を聞き終わったマサトはそう言った。
「うん、でもやっぱりわからないんだよねぇ、クチートって変なところで怒り出すところがあるから……僕って、本当にクチートに好かれてるのかなーなんて途方に暮れたりして」
「クチ……」
クチートはミナトから顔を背けた。
「きっと大丈夫だよ。ミナトがクチートのために一生懸命になってるのなら、そのことはクチートにもしっかり、伝わってるはずだからさ」
「そうなの? クチート」
「クチィ?」
クチートが大顎をミナトに向けた。
「ほ、ほら……急に不機嫌になる……」
「あ、はは」
マサトはその様子を見て笑った。
「あっ、そうだ。マサトがヤマブキシティに向かってるのなら……」
とミナトはモンスターボールを三つ取り出すと、パッチール、ニューラ、ブラッキーの三匹をボールに戻した。
「僕がヤマブキシティを案内してあげるよ。これでも……もう三年は住んでる街だからさ」
「うん、ありがとう、じゃ、街の案内はお願いするね」
マサトもリーフィア、デンリュウ、ハッサムの三匹をモンスターボールに戻した。
レジャーシートとバスケットを片付け終えると、ミナトはクチートを抱えあげ、ヤマブキシティに向かって丘の斜面を下り始めた。マサトもキルリアを抱えあげ、ミナトに続く。
「あと……さ」
未舗装の道を歩きながらミナトは言った。
「マサトも……何か困ってることとかあったら、なんでもポケモンサービスに依頼していいからね。基本的に僕たち……なんでもやってるから。泥棒退治に家事手伝いに……迷子のポケモン探しに……」
「困ってること……か」
マサトは考え込む。
「別に困ってるってほどのことでもないけど……最近、気になることがあるんだ」
「気になること?」
「僕たちの行く先々で、落とし穴が仕掛けられていたり、あからさまなポケモン捕獲用の罠があったり、それに……崖の下を歩いていたら、急に僕の頭目掛けて大きな石が落ちてきたり。まぁその時は、キルリアが先に気がついて、サイコキネシスを使ってくれたおかげで事なきを得たんだけど……」
「誰かに狙われているかもしれないってこと?」
「うん……」
マサトは深刻そうに頷いた。
「ちょっと調べてみよっか。仕事柄、そういうの、得意だからさ」
ミナトは言った。
「調べるって……どうやって?」
「えっへへ、僕に任せてよ。ヤマブキジムに行くのなら……なおのこと、力を借りるべき人がいるからさ」
ミナトとマサトはヤマブキシティにたどり着いた。
列島でも有数の大都会に、マサトは目を輝かせる。
「ヤマブキシティは前にも来たことあるけど、やっぱり大都会だね」
「でしょでしょ、そしてあそこにそびえているひときわ高いビルが、ヤマブキシティ発展の象徴、シルフカンパニーの本社だよ」
「あっ、知ってる! 確かモンスターボールもシルフカンパニーが開発したんだよね」
「それだけじゃないよ。人工ポケモンなんかもシルフカンパニーが造り出したもので……」
ミナトはそれから、右斜め前方に目を向けた。
「そしてあそこにあるのがヤマブキジムだよ」
それは、何枚もの貝殻を重ね合わせたような見た目をした建物だった。
「あれが……ヤマブキジム」
マサトのメガネがキラリと輝いた。
「うん、ってわけで早速行ってみようか!」
ミナトはずんずんと歩き出した。
「えっ、ちょっと待ってよ! なんの準備もしないでジム戦に挑ませるつもり!? いくらなんでも……」
「でも、力になってくれるかもしれない人が、あそこにはいるからさ」
「力になってくれる……。それって、僕が狙われていることに対して?」
ミナトは頷いた。
ふたりはヤマブキジムの建物の目の前まで来ていた。
「で、誰なの? その僕の力になってくれるかもしれない人っていうのは」
「それは……」
「あら、ミナトくんじゃないの」
後ろから声をかけられ、ふたりは振り返った。そこにはナツメが立っていた。
「今日は女の子の格好してないのね」
「だ、だからあれは……!」
「誰?」
マサトがミナトに尋ねる。
「ナツメさんだよ。ここのジムリーダーの。それと……マサトの力になってくれるかもしれない人でもある」
「この……人……が?」
マサトは相手のことをまじまじと観察した。
ナツメも鋭い目をきゅっと細めてマサトのことをじっと観察する。
「な、なんかちょっと怖いかも……」
マサトは少し後ずさった。
「大丈夫だよ、ナツメさん、こんなんでも結構いい人だからさ」
「こんなんでもって何よ」
ナツメは口を尖らせる。
それから十数分後、ミナトとクチート、ナツメ、マサト、キルリアの姿はヤマブキジムからさほど離れていない喫茶店のテラス席にあった。
「それで……マサトくんは何者かに狙われているかもしれないっていうの?」
ナツメはカフェモカを飲んでから聞き返した。
「はい、だから……ナツメさんの能力で犯人とか、透視できないかなーって思ったんです」
「ミナトくん、超能力を何か便利な道具と勘違いしてない?」
「え? 違うんですか?」
「見たい時に見たいものがいつでも見られるのが理想ではあるけど、現実問題として、そう簡単にいく物じゃないのよ。確かに目の前にいる相手の心の中やカードの裏側なんかは簡単に透視できるけど……自分から物理的に離れている相手は、いつでも正確に『視る』ことができるわけじゃないわ」
「えぇー、ナツメさんなら透視能力を駆使して、変なところを透視してそうだなーって思ったんですけど……」
ミナトはこの前の「メイド服事件」の仕返しのつもりで言った。
「変なことって……例えば?」
ナツメはにやにや笑いながら訊いてきた。
「えっ、いや、それは……」
「ねぇ、聞きたいわ。ミナトくんがどんな『想像』をしてたのか」
「そ、そんなの透視すればいいじゃないですかっ」
ミナトは恥ずかしくなってナツメから顔を背けた。
「ミナトくんが恥ずかしそうにしてるのに。そんな相手の心の中にずかずかと入り込んでいくほど、私は失礼な女じゃないわ」
「むぅ……」
ミナトは口を尖らせた。
「仲良いんだね」
マサトは能天気に言った。
「く、腐れ縁みたいなものよ。あの時一緒にエーフィをゲット
して……」
とナツメは答えた。
「とりあえず……ミナトくんの頼みでもあるし、できることはしておくわ」
「『ミナトくんの頼みでもあるし』?」
マサトがその言葉を繰り返す。
「べっ、別にいいでしょ? 細かい言葉のあやなんて」