「で、なんでヤマブキシティの観光をしているマサトを、僕たちが背後からこっそり監視する……なんてことになってるんですか」
ビルの物陰から、街を歩くマサトとキルリアを見ながら、ミナトは言った。
同じ物陰にはクチートとナツメも隠れている。
「相手は落とし穴を仕掛けたり、マサトくんの頭の上に大岩を落としたりするようなやつでしょ? 自らの正体を見せずに罠を張り巡らせる策略家とみたわ。つまり……私たちがマサトくんの周りにいたんじゃ、相手はなかなかしっぽを出さない……きっと、マサトくんとキルリアがふたりきりになった時に……」
ナツメがそこまで言ったところで、マサトとキルリアは一軒の店の中に入っていった。
「ミナトくん、クチート、店の前まで移動するわよ」
ナツメはふたりを先導するように、店の前へと移動する。
*
マサトとキルリアが訪れたのは、ポケモン用のコスチュームを販売してる店だった。
「キルッ!」
キルリアは色んな帽子が飾られている棚を見て鳴いた。
「キルリア、ほんとこういうの、好きだよねぇ、女の子だから?」
「キル」
キルリアは頷いた。
「でもさすがヤマブキシティ、ポケモン用のコスチュームも充実しているというか……」
「お客様」
店員の男が声をかけてきた。黒いスーツ姿の白髪の男である。
「もし宜しければ……試着などもできるようになっておりますので……」
「試着……か。どうするキルリア?」
「キル!」
キルリアは頷く。
「じゃあ、試着します!」
キルリアは次々と商品を着ていった。つばの広い帽子を被った真夏風コーデ、フリルの着いたドレス風のコーデ、そして黒を基調に銀色のチェーンがついたパンク風のコーデを試していく……。
「お客様、どのコーデもお似合いで。ポケモンコンテストを目指しておられるのですか?」
「うーん、ポケモンコンテスト『も』って言った方が正しいですかね。僕はお姉ちゃんがトップコーディネーターで……。それからいつか勝負をしたい、目標としてる人はマスターズトーナメントの優勝者だから……コーディネーターの道と、リーグ制覇の道、両方を目指したいっていうか……」
「それはまた野心的で」
と店員は言った。
「素晴らしい……な」
店の奥の柱によりかかっていた別の男が言った。男はウェーブのかかった前髪をしている。そして口には赤い薔薇を加えていた。
「若者とは……野心を抱いて然るべきものである。若者の野心ほど見ていて気持ちのいいものはない……よ」
「あなたは……?」
マサトは尋ねる。
「僕はルミエール・ド・ローズ。ポケモン評論家……さ」
それからルミエールと名乗った男はパンク風コーデを着たキルリアに顔を近づけた。
「そして君のキルリアは美しい……」
「キル……」
キルリアは警戒したように身構えた。
*
「あっ、あの人!」
ミナトはショーウインドーから店の中を覗き込んで言った。
「何? 知り合いなの?」
ミナトの脳裏にこの前のメイド喫茶で起こった出来事が思い出される。
「えぇ、ただの変態です」
*
「じゃあ、これ、買います!」
マサトはレジでキルリア用の服を紙袋に詰めてもらった。そして店の外へと出る。
ミナトとクチート、そしてナツメは街路樹の陰へと隠れた。
「キルリア、次のコンテストに出る時の衣装……考えないとね」
マサトは言った。
その時だった。道端に停まり、荷台の扉を開けていたトラックの荷物がふたり目掛けて崩れてきた。
「あっ、危な……!」
マサトが言いかけた時、キルリアは両目を発光させた。
「キル……」
サイコキネシスを使い、ダンボールの山を宙に浮かべ、トラックの中へと戻す。
「危なかった……」
マサトは胸を撫で下ろす。だがそこで、トラックの荷台から機械のアームが飛び出し、キルリアを捕まえた。
「キルッ!」
キルリアはアームから逃れようと身をよじる。
「キルリア!」
マサトはキルリアを捕まえようと手を伸ばす。しかしキルリアを掴んだアームは彼女を荷台の中へと引きずり込み、トラックの扉は閉じられた。
トラックは発進する。
「マサト!」
ミナトがクチートを抱えて飛び出してきた。
「キルリアが……!」
マサトは言った。
「こんな近くまで来てたのに……気づけなかったなんて……」
ナツメは額に手をかざす、そしてよろめいた。
「あのトラック……精神波を遮断できるようになってる……?」
「どういうことですか!?」
ミナトが尋ねる。
「私みたいな超能力者とか……エスパータイプのポケモンの能力を無効化する仕掛けが施されているってことよ!」
「追いかけなきゃ……!」
マサトは周囲を見回しながら言った。
「タクシーがあるわ!」
ナツメは近くに止まっていたタクシーに向かう。
ミナトと彼に抱えられたクチート、そしてマサトもそれに続いた。
「あのトラックを追ってください!」
ナツメはタクシーに乗り込むと運転手に言った。
「お、追いかけるって……」
「いいから……!」
ナツメはありったけの札束を運転手に握らせた。
「あいよ!」
運転手はタクシーを発進させる。
「キルリア……キルリア……」
マサトは両手を握り合わせてそう呟いていた。
「今度だって……僕が助けないと……!」
「大丈夫、すぐに追いつくわ!」
ナツメは言った。
「うん、僕はキルリアと一緒に夢を叶える。そう決めたから……!」
「夢?」
ミナトが尋ねた。
「三年前、僕がまだポケモンを持てなかった時、約束をした人がいるんだ。僕がポケモントレーナーになったら、その人と真っ先に勝負をするって。その人は世界チャンピオンになった今でも、世界中を旅し続けている。だから約束はまだ果たせていないけど……でも、いつかどこかで巡り会った時に……僕はキルリアと一緒にその人と戦いたいって……思ってるんだ」
「そんな……人の思いを踏みにじるようなことをする奴らなんて……!」
ミナトは前方を行くトラックを睨みつけた。
「お客さん! あのトラック……スピード違反してますよ。こっちは法定速度、とうてい追いつけません!」
「で、でもそれじゃあ……!」
ミナトは言う。だがそこでマサトがモンスターボールを取り出した。
「だったら、僕に任せて!」
そしてタクシーの窓を開けると、外に向かってモンスターボールを投げた。
「行けっ! ハッサム!」
銀色の光とともにハッサムが飛び出してくる。
「ハッ……サム!」
「ハッサム、あのトラックの前に回り込んで!」
「ハッサムッ!」
ハッサムは羽を動かしてスピードを上げた。そしてトラックの前へと回り込む。
「ハッサム! そのままシザークロス!」
「ハッ……サム!」
ハッサムは両手のハサミを黄緑色に発光させた。そしてそれをクロスさせるとトラックの全面にぶつける。
トラックの全面が大きくへこみ、車はそのまま近くの電柱に突っ込んで停車した。
「おぉ……!」
タクシー運転手は目を丸くした。そして車を停める。
「ありがとうございます! あとは僕たちで何とかします!」
マサトはタクシーを降りた。ミナトとクチート、そしてナツメもそれに続く。