ポケモンサービスの業務日誌   作:まがみん

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第7話 ポケモン学校のミヤビ・2

 その時、目の前の檻に入っていたハッサムがガチガチと檻にそのハサミをぶつけた。

 

「このバンギラス、ハッサム、ニューラの三匹は、私たちが保護しているポケモンたちの中でもなかなかの難題で……」

 

 ミヤビは言った。

 

「難題……というと?」

 

 サクヤが訊く。

 

「この三匹が保護されたのは、ジョウト地方でも最果てにあたる森の中でした。彼らを使役していたのは『ロケット団』と呼ばれる組織の幹部のひとりで……その森で起こった事件に関与したとして逮捕され、現在も収監中なのですが、問題は彼がポケモンを使役していた方法でした」

「使役していた……方法?」

 

 サクヤが聞き返した。

 

「えぇ、彼はモンスターボールの技術を悪用し『ダークボール』という独自のボールを造り出していました。そのダークボールは、ポケモンの精神に影響を与え、凶暴化、あるいはその能力を無理やりに高めるという効果をなす代物でした。私たちは……何度もこの三匹に治療を施し、ダークボールの作用から解放することに成功したのですが……三匹の心に宿った、人間への不信感は未だ克服できずに……」

「ガアァァァァァッ!」

 

 バンギラスが咆哮した。

 

 ミナト、クチート、サクヤたち三人はミヤビに連れられて、ポケモン学校を後にすると、保護局のメインとなっている建物に移動した。

 廊下を歩きながら、ミヤビは言った。

 

「もうすぐ……お昼の時間ですね」

 

 それから廊下の先を指さす。

 

「食堂はこの先にあります。先に食事をしていていいですよ。私は少し……雑仕事を終えてきたいので……」

 

 ミナトとサクヤは芝生の庭が見渡せる窓際に席を取り、食堂で食べ物を買うと、テーブルの上に置いた。

 サクヤはマメミートを使ったカツカレー、ミナトは醤油ラーメンを頼んだ。

 クチートはポケモンフーズを食べている。

 

「なんか……嬉しそうだね、サクヤ」

 

 ミナトは言った。

 

「ばっ、な、何言ってんだよっ!」

 

 サクヤは顔を赤らめた。

 

「サクヤってわかりやすいからさ」

 

 ミナトはからかうように言う。

 

「お、俺は別に仕事として来てるだけで……」

「もうちょっと素直になってもいいと思うけどなぁ」

 

 ミナトは言った。

 その時、食堂にミヤビが戻ってくるのが見えた。

 ミヤビはチャーハン定食の乗ったトレイを持ってこっちに向かってくる。

 

「じゃ、僕は席を移動するよ」

 

 ミナトはトレイを持って立ち上がった。

 

「あっ、おい、移動って……」

「行こうか、クチート」

「クチ!」

 

 ミナトはクチートとともに席を離れていく。

 

「どうして……ミナトさんは席を離れて?」

 

 ミナトの姿が遠ざかっていくのを見ると、ミヤビは首を傾げた。

 

「し、知るかよ、そんなこ……じゃなかった、知りませんよ、そんなこと」

 

 サクヤは慌てて口調を改める。

 

「久しぶりですね、こうしてふたりきりで……話ができるのって」

 

 ミヤビは言った。

 

「そう……ですね」

 

 サクヤは少し緊張している面持ちだった。

 

「えぇ、まぁ……はい」

 

 サクヤは言う。

 

「最初に会った時を……思い出しますね」

 

 そしてサクヤの思考は、過去に飛んでいた。

 

 *

 

 その日、サクヤはポケモンサービスでの業務を終えて、事務所への帰路についていた。

 その時だった、どこからともなく、女の人の悲鳴が聞こえてきた。

 サクヤは駆け出していた。

 そして、道路に座り込んでいるミヤビの姿を見つけた。

 

「大丈夫ですか!」

 

 サクヤはミヤビを助け起こした。

 

「わ、わた……しは……大丈夫……です。でも、ポケモンが……」

 

 見ると、近くに停まっていたタクシーの後部座席扉が開けっ放しになっている。

 

「何があったんですか?」

 

 サクヤは聞いた。そして相手の顔をじっと見つめ、ハッとした。綺麗だ……とサクヤは思った。女の人の顔に対して、そんな感想を抱いたのは、これが初めての経験だった。

 

「あの子……本当は大人しい子なんです。でも多分……初めての都会でびっくりしてしまって……」

「落ち着いて……話してください、何があったのか……」

 

 そしてサクヤ自身も自分を落ち着かせようと深呼吸をした。

 

 ミヤビとサクヤは近くの街路樹の下に設置されたベンチに隣合って座った。

 

「私はミヤビ、ポケモン保護局で働いています。今日は、新しい持ち主が決まったポケモンをここ、ヤマブキシティにいるその持ち主のもとへ運んでいたのですが……」

 

 ミヤビの話によると、そのポケモン、ニドラン♂は、タクシーの扉を開けた瞬間、逃げ出してしまったということだった。

 

「探しましょう、一緒に」

 

 サクヤは言った。

 

「いいんですか?」

「俺は……『ポケモンサービス』という仕事をしています。ポケモンの力を借りて依頼人たちの頼みを聞いたり、問題を解決したりする仕事です。だから……あなたが困っていれば、いくらでも力になって差し上げますよ」

「ありがとうございますっ!」

 

 ミヤビはにこりと笑った。かわいい……。サクヤはそう思った。

 

 ふたりはニドラン♂を探した。彼が姿を消したという場所から、さほど離れていない大通りから裏通り、建物内の駐車場から公園まで、至る所を探して歩く。

 やがてふたりは、先が行き止まりになっている路地で、ニドラン♂を見つけた。

 

「あっ」

 

 ミヤビは前に進み出た。

 

「ニ……」

 

 ニドラン♂は警戒した様子でふたりを見ていた。

 

「怖がらなくていいんですよ。私と一緒に、新しいご主人様のところへ行きましょう」

 

 ミヤビはその場にしゃがみ、両手を広げた。

 その時だった。

 

「ニドッ!」

 

 ニドラン♂は地面を蹴ってこちらへと向かってきた。その角を銀色に発光させている。

 

「あ、危ないっ!」

 

 サクヤは咄嗟にミヤビを突き飛ばしていた。

 サクヤの身体にニドラン♂のつのでつく攻撃がサクヤの身体に炸裂した。

 

「サクヤさんっ!」

 

 ミヤビが叫ぶ。

 サクヤは痛みに顔をしかめながらもニドラン♂を抱きしめた。

 

「もう大丈夫だ……。怖くないぜ……。俺はお前のこと……離さないからな……」

 

 サクヤはニドラン♂の背中を何度も撫でた。

 

「サクヤくん、大丈夫ですか?」

 

 ミヤビは心配して尋ねた。

 

「大丈夫です。それにこのニドランも、落ち着いてきたみたいですよ」

 

 サクヤはニドラン♂を抱き上げるとミヤビに渡した。

 

 ニドラン♂を新しい持ち主に渡し終えると、時刻は夕方頃になっていた。

 

「今日は……ありがとうございました」

 

 サクヤと隣合って歩きながら、ミヤビは言った。

 

「ニドランの攻撃を喰らったところ……もう大丈夫ですか?」

「大丈夫です。この仕事をしていると、あんなことがあるのは日常茶飯事ですから」

 

 サクヤは答えた。

 

「それから……俺たちの『ポケモンサービス』、何かあった時は……」

「はい、是非とも活用させてもらいますよ」

 

 ミヤビはにこりと笑った。

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