「このように、ヤマブキシティのポケモン保護局では『ポケモン学校』という取り組みが行われていて……」
テレビ画面の向こうで、サクヤが話していた。彼はポケモンハンターKの襲撃から復旧したポケモン保護局をレポーターと一緒に廻っていた。
「へぇ、サクヤ、カメラの前でも緊張しないで、すごいなぁ」
ミナトはそんなテレビ画面を見ながら言った。ミナトとツキホはポケモンサービスの事務所にいた。
ミナトはクチートにポフィンをあげた。
「クチ!」
クチートはそれを美味しそうに食べる。
「エリキ……」
エリキテルが羨ましそうにそのようすを眺めていた。
「あっ、エリキテルもポフィン、欲しかった? じゃあはい、今日はいっぱい作ったからね」
ミナトはエリキテルにポフィンをあげた。
「エリキッ!」
エリキテルは嬉しそうにポフィンをむしゃむしゃと食べる。
「あんた……いったいいくつポフィン、作ったの?」
ツキホが言った。
「うーんとねぇ……」
ミナトは給湯室に行き、確認する。
「ざっと……僕たちのポケモン、全員がまかなえるくらいの量は作ったかなー……」
「まったく、計画性がないんだから……」
ツキホはため息をつく。
「いいわ、みんな、出てきなさい! おやつタイムよ!」
ツキホはモンスターボールを三つと、ジュンサーさんのサイン入りプレミアボールをひとつ、投げた。シャワーズ、ロコン、コジョンド、そしてコクーンが出てくる。
「……って、コクーンは何も食べられないんだっけ……」
「よし、僕も! みんな出てこい!」
ミナトもモンスターボールを三つ投げた。パッチール、ブラッキー、ニューラの三匹が出てくる。
ミナトはポフィンの山が乗ったお皿を事務所の方へと運んできた。
「パーッ!」
「ブラッ!」
「イ〜ブイッ!」
パッチールとブラッキー、イーブイ所長が先を争うようにしてポフィンにありつく。
「コンッ!」
「ジョンドッ!」
ロコンとコジョンドも負けじとポフィンにありついた。
それに少し遅れて、シャワーズは落ち着いた様子でポフィンを食べ始める。
ミナトは、その場に立ち尽くしたまま、ポフィンの方に向かおうとしないニューラに気が付いた。
「どうしたの? ニューラ」
ミナトが言う。
「いつもの君なら、真っ先にポフィンの方に向かうと思ったんだけど……」
「ニュ……」
ニューラは視線を落とす。
「ニューラ?」
ミナトはポフィンの山からポフィンを一個取り、ニューラに渡す。
「ニュ〜……」
ニューラはそれを受け取り、ゆっくりと口に運んだ。そしてひと口かじる。
ミナトは笑顔になった。
「うんうん、それでこそニューラだよ。遠慮しないでどんどん食べてね。あっ、でも取り合いはだめだよ。目を離すとすぐにパッチールのご飯を横取りしようとするんだからさ」
だがニューラはそのひとつのポフィン以上のものを食べようとはせず、ただ、呆然と他のポケモンたちが食事する光景を眺めるだけだった。
「ニューラ……どうしちゃったの? 一体……」
ミナトはニューラのモンスターボールを手に取った。
「今日、朝ごはんもいつもより食べてなかったように見えたけど……」
「ニュ……」
ニューラはミナトから顔を背けた。
「しょうがないなぁ、モンスターボールで休む?」
ニューラは頷いた。
ミナトはニューラをモンスターボールに戻した。
「ニューラ、元気ないの?」
ツキホが訊いてきた。
「うん……でも原因がわからなくってさ」
ミナトは言った。
「それは……いつから?」
「いつからって……」
ミナトは考え込む。
「そういえば、僕たちがポケモン学校から帰ってきてからだったかも。あの時、ニューラはマニューラと戦って……」
「クチ?」
クチートが、ポフィンを食べながら、ミナトの顔を見上げた。
「戦って……どうしたの?」
「手も足も出てなかったかもしれない。もしかして、ニューラはそのことで悩んでるのかも」
「でも、どんなポケモンでもバトルで負けることくらい……」
「ニューラは違うんだ……」
ミナトはニューラの入っているモンスターボールをじっと見つめた。
*
ニューラとミナトとの出会いは、ある雨の日だった。
その日、ミナトはポケモンサービスの仕事を終えて、森の中を帰っているところだった。突然の雨のため、ミナトは傘を持っていなかった。クチートと共に、雨の中、早足でヤマブキシティに向かっていた。
そこでふたりは、森の中の広い空き地へと出た。
ふたりは一匹のニューラを見つけた。頭にある赤い飾りが短い。メスのニューラだ。
「ニューラ……?」
ミナトはその姿を見つけて立ち止まった。ニューラはどこか寂しそうに見えた。
「クチ……?」
クチートもニューラに気がつく。
「あのニューラ……こんな雨の中、何もしないで佇んで……。野生ってわけでもなさそうだな、風邪をひいちゃうよ!」
ミナトはニューラの方に向かうと、自身のジャケットを脱いで、ニューラに被せた。
「ニュッ……!?」
しかしニューラは鉤爪を使ってそのジャケットをズタズタに引き裂いた。
「あぁっ! 僕のジャケットが……!」
「ニュ〜ラ」
ニューラは警戒したような目でこちらを見ていた。
ミナトはニューラの身体を観察した。よく見ると、擦り傷だらけになっている。
「君……怪我をしているのかい? 早くモンスターボールで休むか……ポケモンセンターで治療しないと……」
ミナトは周囲を見回す。
「ニュ……」
ニューラはミナトとクチートを睨む。
「クチ! クチクチ〜ト!」
クチートが一生懸命になってニューラに話しかけた。
「ニュ〜ラッ!」
ニューラは鳴く。
「クチ……」
クチートはミナトを見上げた。
「聞く耳持たずって感じか……困ったなぁ」
「ニュ……」
その時だった。ミナトの携帯に電話が入る。
「あっ、もしもし! ミナトです!」
ミナトは電話に出た。
「あぁ、ミナトね!」
電話の相手はツキホだった。
「ちょうど今から頼みたいことがあったんだけど……依頼の方は終わったところよね」
「うん、今は帰り道だけど、雨に降られちゃってさぁ……」
「帰る途中にポケモンセンターがあったはずよ。そこでアシスタントのラッキーが熱を出しちゃって、急遽手伝ってくれる人がいないかって連絡が入ったの。向かってもらえる?」
「う、うん!」
ミナトは電話を切った。
それからミナトはニューラの方に目を向けた。
「ごめん……ニューラ。でも僕……行かないと!」
そしてミナトは駆け出していた。