ポケモンサービスの業務日誌   作:まがみん

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第8話 戦えニューラ! 必殺のれいとうパンチ・3

 深夜のヤマブキシティの通りには、人の姿もポケモンの姿もなく、街灯の光だけがただ寂しく道を照らしているだけだった。

 

「クチ……!」

 

 クチートはミナトを先導するように歩いていく。

 そしてビルとビルの間の路地を曲がると、その先にはニューラの姿があった。

 ニューラはこちらに背を向けて歩いている。

 

「ニューラ?」

 

 ミナトはその姿を見つけると、思わず立ち止まった。

 

「クチ!」

 

 クチートが急ぐように促す。

 

「う、うん、クチート!」

 

 ミナトはクチートに急かされ、ニューラを追いかけた。

 

「ニュ……!」

 

 ニューラはこちらに目を向けると、路地の奥へと駆け出した。

 

「あっ、待ってよニューラ!」

 

 ミナトとクチートは追いかける。

 やがてニューラは行き止まりの高い煉瓦塀へとたどり着いた。

 

「ニューラ!」

「ニュ……」

 

 ニューラはその壁を見上げる。かと思うと、壁に爪をかけ、地面を蹴り、そして壁の向こうに身を翻し、消えていった。

 

「ニューラっ!」

 

 ミナトは壁にたどり着く、しかしミナトとクチートでは壁を越えることはできそうになかった。

 

 翌日、ミナトとクチートの姿は、ヤマブキシティにある喫茶店のカフェテラスにあった。

 そしてその向かい側では、アイスカフェモカのストローに口をつける、ナツメの姿があった。

 

「で、どうして迷子のポケモン探しの相談を、私にしに来たわけ?」

「だってナツメさん、超能力で、遠隔透視みたいなことやって……そういうの見つけるの、得意そうじゃないですか。昔テレビで見ましたよ? 超能力者が行方不明になってた女の子の捜索を……」

「テレビに出てる超能力者なんてだいたいインチキなのよ」

 

 ナツメは言った。

 

「それに迷子のポケモン探しなんて、それこそ『ポケモンサービス』の仕事なんじゃないの?」

「そうですけど……僕のニューラの場合、ただの迷子というよりも家出みたいだし……」

「愛想尽かされちゃったのね、ミナトくん」

「ええぇ……そんなぁ……」

 

 ミナトはテーブルの上に崩れ落ちた。

 

「僕のどこがいけなかったのかなぁ。やっぱり、トレーナーとして……」

「嘘嘘、冗談よ」

 

 ナツメはくすりと笑った。

 

「すぐ真に受けるんだから」

「だ、だってぇ……」

「しょうがないわね。探してあげるわ。ただし」

 

 ナツメはミナトの前で人差し指を立てた。

 

「ヤマブキジムのジムリーダーをこんなことに使うなんて……高くつくわよ」

「えっ、いいんですか!? 探してくれるんですか!?」

 

 ミナトは顔を上げる。

 

「高くつくって言ってるじゃないの」

「僕、ニューラのためだったら何でもしますよ! だから、力を貸してください!」

「そう……なんでも、ね……」

 

 ナツメの目がキラリと輝いた。

 

 しばらくして、ミナトとクチート、そしてナツメの姿はヤマブキジムの一室にあった。超能力用のゼナーカードやスプーンの類が置かれた棚に囲まれたその部屋の真ん中に、デスクがあり、そこにヤマブキシティとその周辺の地図が広げられていた。

 

「ミナトくん、ダウジングって知ってるかしら?」

 

 ナツメは問う。

 

「知って……ますよ。……ロッドとかペンダントとかを使って、宝探しをするやつですよね……」

「そう、でも宝探しだけじゃないわ。捜し物ならなんでも……」

「って、それはいいんですけど、どうして僕はこんな格好をさせられているんですかっ!」

 

 ミナトは顔を赤らめながら言った。黄色いフリルのたくさんついたドレスを着せられていた。

 

「だってさっき、『なんでもする』って言ったじゃないの」

「むぅ……」

 

 ミナトは口を尖らせる。

 

「クチ」

 

 クチートは満足気に頷いた。

 

「クチートまで!?」

「で、ミナトくんのニューラを探し出すためには……」

 

 とナツメは地図を見ながら言う。

 

「何かこう……ニューラの大事にしていたものとか、身体の一部とか……そんな感じのものが必要になるわ」

「えっと……じゃあ……」

 

 ミナトはモンスターボールを取り出した。

 

「これ、ニューラのモンスターボールですけど、使えますか?」

「えぇ、上々よ」

 

 ナツメはモンスターボールを受け取ると、それを糸の先に括り付けた。そして地図の上に、モンスターボールを垂らした。

 ナツメは精神を統一するため、両眼を閉じ、地図上でゆっくりとモンスターボールを移動させていく。やがて地図の一点でモンスターボールはゆらゆらと動き始めた。

 

「わかったわ」

 

 ナツメは目を開いた。

 

「おぉ! さすがです!」

 

 ミナトは言う。

 

「ミナトくんのニューラがいるのは、この一点ね。それと……彼女、どうもひとりで特訓しているみたいね」

「特訓?」

 

 ミナトは言ってから、はたと気がつく。

 

「やっぱり……この前、ポケモンハンターKのマニューラに負けたのが悔しかったんだ。僕のニューラは……すごく負けず嫌いだから」

 

 *

 

「それにしてもミナトのやつ、どこに行っちゃったのかしらねぇ」

 

 ツキホは買い物袋を片手に、ヤマブキシティの通りを歩いていた。

 

「今日の買い出し当番は、あいつのはずだったのに……」

「シャワ」

 

 ツキホの傍をついて歩く、シャワーズは鳴いた。

 そこでツキホは目の前の通りで、ジュンサーさんが部下の警官たちと立ち話をしているのを見つけた。

 

「あれは……! ジュンサー様!」

 

 ツキホは足早にジュンサーさんの所へと向かう。

 

「シャワッ!」

 

 シャワーズもツキホに続いた。

 

「ジュンサー様、どうかされたんですか?」

「ん? あぁ……ツキホちゃん。またポケモンハンターが現れたのよ。今度はひこうタイプのポケモンがたくさん捕まっているっていう噂だわ」

「そんな……許せない!」

 

 ツキホは拳を握りしめた。

 

「私も捜査に協力させてください! 正義のために! そしてポケモンたちのために!」

 

 *

 

 ミナトは黄色いドレスを着せられたまま、クチートとナツメともに森の中を歩いていた。

 

「あの、ナツメさん、僕はいつまでこの格好をしてなきゃいけないんですか……」

「私が満足するまでよ」

 

 ナツメは言った。それから足を止めた。

 

「この辺りのはずよ……ミナトくんのニューラがいるのは」

「この辺り……あっ!」

 

 ミナトは森の中の空き地を見つけ、その傍にある茂みに隠れた。

 空き地の中に、ニューラが佇んでいた。と、次の瞬間、ニューラに向かって、木の上からロープで吊るされた丸太が何本も襲いかかってきた。

 

「危ないっ!」

 

 ミナトは思わず叫ぶ。

 しかしニューラはそれを身軽な動きでかわすと、右手の爪に氷をまとわせ始めた。そして氷のまとった拳を丸太に叩きつける。しかし氷は弾け飛び、ニューラの身体もまた丸太に跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 

「クチ……」

「あの技……」

 

 ミナトは言う。

 

「特訓で、新しい技を覚えようとしてるんだ」

 

 ニューラは再び立ち上がった。

 そして迫り来る丸太に向かって氷をまとった右手を叩きつける。

 ニューラはふたたび丸太に跳ね飛ばされて、地面を転がった。

 

「れいとうパンチ……。未完成だけど、こおりタイプの技ね」

 

 ナツメが言う。

 

「ニューラ! 頑張れ! その意気だよ!」

 

 ミナトは思わず、茂みの中から立ち上がっていた。

 ニューラは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに丸太を見据え、フッと笑みを浮かべた。

 

「ニュー……ラッ!」

 

 ニューラの氷をまとった右手が丸太とぶつかり合った。

 その時だった。ナツメが額を抑え、顔を顰めた。

 

「ナツメさん……? どうし……」

「聞こえたのよ。森の悲鳴が。この森で……何かが起きてるわ!」

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