シャワーズは森の中を進んでいった。そしておそらく島の中心部と思しき場所にたどり着き、目を見張った。
そこには何台ものヘリコプターがあった。そしてヘリコプターの傍には無数の建築用資材が山と積まれていた。
「シャワ……(確かに無人島であることに間違いはなかったみたいだ……。だがこの島、開発されようとしているのか?)」
シャワーズの目に、資材倉庫が破壊され、炎を上げている光景が飛び込んできた。
「シャワ〜ズ(さっきの爆発音はあれが原因だな)」
「クチ(でも変よね。これだけ人間の持ち込んだものがあるのに、人の姿は全然ないわ)」
「シャワッ!? (クチート!?)」
シャワーズは驚いて振り返った。
「クチ……(危険な目に遭うのは自分だけでいいって心づもりだったのかもしれないけど、単独行動はよくないわ。特にこういう場合は……)」
「シャワ……(すまない……)」
「チ〜ト(なんで謝るのよ)」
その時、上空から新たなヘリコプターのプロペラ音が聞こえ始めた。そしてヘリコプターはゆっくりと空き地に降りてくる。
ヘリコプターから降りてきた人間ふたり組は、周囲の光景を見回した。
「資材倉庫が破壊されている」
「安心しろ、もうすぐこんな被害もなくなるんだ。『あれ』が届きさえすればな」
「シャワ……(なにかただならぬことが起きている。それだけは確かなようだな)」
シャワーズとクチートは砂浜に引き返そうと、空き地に背を向けて森の中を歩き始めた。
その時、茂みの中から二匹のヨーギラスが出てきて、鉢合わせをした。
「クチ? (ヨーギラス?)」
そのヨーギラスはオスとメスの二匹だった。ヨーギラスたちもクチートとシャワーズを見て少し驚いたような顔をしていた。
「ヨギ〜? (おいらたち以外にもこの島にポケモンが?)」
「ヨ〜ギ(島の外から連れ込まれたポケモンかもしれないわ。ほら、あの人間たちが)」
「ヨギ! (なんだって……それは許せない!)」
「シャワ! (待て、お前たちに何があったのかは知らない。しかし俺たちはお前たちと敵対するつもりはない。この島にはただ……トレーナーとはぐれて流れ着いただけだ)」
「クチ! (は、はぐれたのは私たちじゃなくって、トレーナーの方よ!)」
「ヨ〜ギ(本当か?)」
その時、どしんどしんと音がして、木立をかき分けながら大柄なバンギラスが現れた。
「ガアァァァ……(なんだ)」
バンギラスはクチートたちを見下ろして問う。
「シャワッ! シャワシャワッ!(俺たちはこの島に漂着したポケモンだ。この島で何が起こっているのか教えて欲しい。あの人間たちは? さっきの爆発はあなたも目撃したのか?)」
「ガアァ……(誰かの手持ちポケモンか? お前たち)」
「シャワ(そうだ)」
「ガオッ! (悪いが俺様は人間を信用しちゃいねぇ。人間と一緒にいるポケモンもだ。だが……)」
バンギラスはクチートとシャワーズを交互に見た。
「ガッ! (この島に流れ着いて、簡単に抜け出すことができないというのもよくわかっている。お前たちは……二匹だけか?)」
「クチ(ううん、海岸に仲間がまだ二匹いるわ)」
「グオォッ! (だったら連れてこい! お前たちのことを信用しないわけじゃないが……この島にいるポケモンは俺様とこのヨーギラスたちだけだ。ここは俺様の島だ。島にいる間は俺様の言うことに従ってもらう)」
「クチ……(随分と偉そうなバンギラスだこと)」
クチートはシャワーズの方を見て言った。
「シャワ(言うな、クチート。郷に入っては郷に従え。ここは彼らに素直に従うのが賢い選択だろう)」
それからシャワーズはバンギラスを見上げて鳴いた。
「シャワッシャワッ! (仲間を呼んできてもいいか?)」
「グオォォ……(構わない。だがグズグズはするな)」
しばらくして、ジグザグマ、パッチールも加えた一行はバンギラスに続いて森の中を歩いていた。
「ザグ! (大丈夫なんですか? あのバンギラスについて行って……)」
「シャワ……(わからない。でも争いは避けたいだろ?)」
「パ〜ッ(あのぅ、ヨーギラスのふたり、木の実、食べるぅ?)」
パッチールは両腕に抱えた木の実を二匹のヨーギラスに渡した。
「ヨーギ! (ありがとう!)」
ヨーギラスたちはそれを受け取るとむしゃむしゃと食べ始める。
やがてバンギラスは森の中の空き地へと出た。
「ガアァッ! (俺様たちは普段、ここで生活をしている)」
「シャワ(あなたたちは野生のポケモンなのか? カントーで、野生のバンギラスはかなり珍しいと思うが……)」
「ガァッ! (野生? 笑わせるな。俺様はまだサナギラスだった頃、トレーナーに捨てられてここにいるんだ。だから野生でも、ましてや人間の持ち物でもない。俺様は俺様だ。それはこのヨーギラスたちも同じだ。ヨーギラスたちは俺様が卵を見つけ、ここまで育てたのだからな)」
「クチ……(だから、人間を信用していないって言ったのね)」
「ガオォッ! (そういうことだ)」
「シャワッ(でもこの島には人間がいた。いや、やって来たという方が正しいかな)」
「ガオオォッ! (そうだ。奴らは俺様たちの縄張りを犯そうとしている。勝手に入ってきて……この島をリゾート地にするつもりだ。そうしたら俺様たちの居場所はどうなる。今更人間の持ち物になるつもりはねぇ。この島を出ていく? しかし滅多に人のやって来なかったこの島を出ていけば、俺様たちをゲットしようと人間が来るかもしれない。俺様は人間が嫌いだ。だからこの島に死ぬまで居座るつもりだ)」
「チート(でも、この島に居座るためにはヘリコプターでやって来た人間たちを追い出さなくちゃいけないわ)」
「ガアァッ! (だから俺様は戦っている。お前たちもあの爆発を見たからここへ来たのだろう。あれは俺様が、人間たちが留守の間にやってやった破壊活動よ)」
「チト〜(でも、なにか引っかかるのよねぇ……)」
「ザグ! (引っかかるって……何がですか?)」
「クト〜(『もうすぐ、被害がなくなる』って、人間たちが言ってたことよ)」
「グオォッ(フン)」
バンギラスは鼻で笑った。
「ガアァァァッ(何が来ようが、この俺様が追い返してやる!)」
その時だった。ヘリコプターのプロペラ音が聞こえ、クチートたちの頭上を大きな影がよぎって行った。
クチートは空を見上げるものの、影の本体はすでに姿を消していた。
「クト……(今の影……)」
「パ〜ッチ……(ただのヘリコプター……にしては相当大きかったね……)」
「シャワッ(嫌な予感がする。バンギラス、人間たちの様子を見てきてもいいか?)」
「クチ! (私も行くわ!)」