人間たちのいる空き地の様子を、クチート、シャワーズ、そしてバンギラスの三匹は茂みの中からうかがった。そこには、ヘリコプターで運ばれてきた巨大な機械が据えられていた。
その機械は、キャタピラ式の台座に、巨大なアームが二本ある運転台という様相をしていた。そのアームの先端には、さながらマジックハンドのようなハサミがついている。
「クチ……(ただの建築機械……ってわけじゃなさそうね)」
「ガァッ(何が来ようと捻り潰してやるまでだ!)」
「シャワ(人間たちが何か話している)」
シャワーズは聞き耳を立てた。
「この機械を使えばこの森にいるバンギラスを一掃できる。そうすればこの島は俺たちのものだ!」
「あぁ……ちょっと高かったが、非合法な手段で『ロケット団』からこいつを買って正解だったな!」
「ガアァッ! (小癪な! どこからでもかかってこい!)」
バンギラスは吠えた。
「クチ(人間たちと戦うつもり?)」
クチートは言う。
「ガオッ(元からそのつもりだ。止めるってのなら、俺様はお前たちにも容赦しないぞ)」
「クチ〜ト(あんな機械を持ち込むような人間、私だって信用できないわ。でも、ここで機械を壊しても、第二第三の同じような機械が運ばれてきて、戦いは永遠に終わらないだけよ)」
「グオッ(じゃあどうすればいい?)」
「クチ(私に……考えがあるわ。人間たちにこの島の開発は無意味だと思わせればいいのよ)」
「ガァ? (どうやってだ?)」
「クチ〜ト(ねぇバンギラス、あなたは今までどんな風に戦ってきたのかしら?)」
「ガオッ(それは……奴らの建設機械を徹底的に破壊して……)」
「クチ〜(島にはバンギラスしかいないと思われているわね、きっと)」
「シャワ(クチート、何が言いたいんだ?)」
「クチ〜ト(島にはバンギラス以外にも恐ろしいポケモンがたくさん生息している。そう思わせればいいんじゃないかしら。そうすればきっと、人間たちもポケモンたちに太刀打ちできないと踏んで開発をやめるかもしれないわ)」
「シャワッ(そうか。確かにそれはいい手かもしれないな)」
「ガオッ(待て、どうしてお前たちがこの俺様にそこまで協力してくれる?)」
「クチ(嫌なの?)」
「ガオォッ! (嫌ではない、しかしお前たちは人間と暮らすポケモン、どちらかというと人間の……)」
「クチ(ポケモンサービス)」
「グオ? (なんだ?)」
「クチ〜ト(私たちのトレーナーの仕事よ。その内容はポケモンたちを使って困ってる人を助けたりすること。だから私たちポケモンが、困っている他のポケモンを助けたっていいでしょ?)」
「ガアッ(よくわからんやつらだな。だが勝手にしろ)」
クチートとシャワーズは顔を見合せた。
*
開発業者のふたりは、バンギラス用の捕獲装置を見上げていた。
「さっそくこいつを使ってバンギラスとその子分のヨーギラスを捕まえるとするか」
「もしかしたらこの島から奴らを追い出せるだけじゃない。捕まえたバンギラスを売れば、俺たちにもガッポガッポとお金が入るかも」
「うへへへ……」
ふたりはにやりと笑った。
その時、木立の間から咆哮が聞こえ、バンギラスと二匹のヨーギラスが姿を現した。
「噂をしていれば……やって来たぜ!」
「よし、捕獲装置に乗り込むんだ!」
ふたりは捕獲装置の運転席に乗り込んだ。
「バンギラス捕獲装置、発進!」
そしてレバーを引こうとする。だがそこで、ふたりの足元になにか茶色い毛の塊が飛び込んできた。
「うわっ、こいつ……いつの間に乗り込んで……」
「ザグ」
それは一匹のジグザグマだった。
「で、でも可愛いなぁ、このつぶらな瞳」
「ザグザグ!」
しかしジグザグマは飛び上がると男ふたりに向かってたいあたりをしてきた。
「うわっ、たいあたりだ!」
ふたりは思わず運転席から転がり落ちる。
「くそっ、バンギラス以外にもポケモンがいたのかよ! 捕まえろ!」
男たちはジグザグマを捕まえようと腕を伸ばすが、ジグザグマは素早く、ジグザグに動き、男たちを翻弄した。そして茂みの中に飛び込んでいく。
「くそっ、逃げられた。捕獲装置に戻……」
「ガオォォォォォッ!」
しかし捕獲装置に戻ろうとした瞬間、バンギラスのはかいこうせんが捕獲装置を破壊する。
「し、しまった。捕獲装置が」
「ヨギ〜」
「ヨギ〜」
さらにヨーギラスたちがバンギラスのものよりも威力の弱いはかいこうせんを放って建築資材や機械を破壊していく。
「く、くそっ、一旦森の中に逃げ込むんだ!」
男ふたりは森の中へと駆け出していった。
しばらく森の中を走ると、やがて森が開け、池に出た。
「池だ……ちょっと休ませて……」
だがしげみがガサガサと動き、一匹のパッチールがふらふらふらと出てきた。
「こ、今度はなんだ?」
「で、でもこのポケモンなら、弱そうだし……」
「パパッチパパッチ、パッパッパ〜」
パッチールはふらふらと踊り始める。パッチールのフラフラダンスだ。
「なんだこの踊り……」
「パパッチパパッチ、パッパッパ〜」
「か、身体が勝手に……」
男ふたりも両目を渦巻き模様に変え、つられてフラフラダンスを踊り始めた。
次の瞬間、池の中からシャワーズが飛び出してきた。
「シャワッ!」
「えっ、あっ、うわぁぁぁっ!」
男たちは一瞬にして池の中へと引きずり込まれていく。
「あわあわあわあわあわあわ」
ふたりは溺れかけて水の中へと沈んでいった。
しばらくしてふたりからシャワーズが離れたため、ふたりは必死に岸まで泳ぎつき、陸に上がった。
「な、なんなんだよさっきから……この島にあんなポケモンたちがいたなんて……聞いてな……」
しげみがガサガサと動き、そこからクチートが姿を現した。
「クチ?」
クチートはふたりを見てキョトンと首を傾げる。
「か、可愛いっ!」
片方の男が言った。
「お前なら味方だよなっ! この島は怖いポケモンばっかりで……」
男はクチートを抱きしめようとする。だが次の瞬間、クチートの大顎が男に噛み付いた。
「ク〜チチチチチ」
クチートは笑い声をあげる。
「ひっ、ひいぃっ!」
もうひとりの男は仲間を見捨てて逃げ出す。
「も、もうこんな島の開発なんて御免だぁぁぁぁっ!」
*
グレン海峡を一隻の漁船が進んでいた。
「わしゃあコイキング一本釣り漁を続けてウン十年になるが、ここら辺を通るのは初めてだな」
船の舵輪を操る白髪の男はそう言った。
船にはミナト、サクヤ、ツキホ、イーブイ所長、そしてジュンサーさんの姿がある。
「コイキング一本釣りって……」
とミナトは言う。
「どうじゃ、お前ら、今度わしの手料理、コイキングの刺身でも食べてみるか?」
「い、いえ……結構です……」
ツキホは言う。
「なんじゃ、最近の若者はマメミートばっかりで……。そんなんだからしまらん身体をしとるんじゃ。わしらの若い頃はコイキングの刺身にケンタロスのステーキ、焼きドードーに……」
「島が見えてきたわ」
ジュンサーさんが前方を指さした。見るとこんもりとした緑の島が見えてくる。
「じゃあ、クチートたちはあの島に……」
ツキホはモンスターボールを取り出した。
「スピアー! 偵察に行くのよ!」
「スピ!」
スピアーは羽を動かして島に向かう。
*
海岸に向かうクチートたちを、森の途中までバンギラスとヨーギラスたちが見送っていた。
「ガオッ(俺様たちは人間に会いたくない、だから見送りはここまでだ)」
「ザグザグ(元気に暮らしてくださいね)」
「クチ! (またいつか……会えるといいわね)」
「シャワッ! (見ろ、スピアーだ。ツキホたちが迎えに来たんだ)」
シャワーズが見上げた空の先に、スピアーの姿があった。
*
ミナトたちは海岸に停泊した船を降り、島に上陸した。
砂浜では、クチート、パッチール、シャワーズ、ジグザグマの四匹が待っていた。
「クチート!」
「クチ!」
ミナトの声を聞き、クチートは駆け出してくる。
「パ〜ッ!」
パッチールがそれを見て鳴いた。
クチートはミナトに抱きつこうと空中に飛び上がるも、パッチールやジグザグマたちの視線を感じて顔を赤らめる。
そして気がついた時には大顎を開いていた。
「な……なんで……」
大顎に噛み付かれたミナトが砂浜の上に倒れ込んだ。
「クチ」
クチートは少し赤くなったまま、ミナトから顔を背けた。
【次回予告】
ミナト「ヤマブキシティにやって来たのはオカルトマニアのヒトミさん。彼女は、街外れにある幽霊屋敷の取材にやって来たという。僕もその取材に協力することになったんだけど……。うわぁぁっ! 扉が閉まった! 幽霊屋敷に閉じ込められた! こ、これが幽霊たちの怨念の力!? 次回『オカルトマニアと幽霊屋敷』をお楽しみに!」