ポケモンサービスの業務日誌   作:まがみん

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第10話 オカルトマニアと幽霊屋敷・1

 夜、丘の上に古びた洋館がそびえていた。そんな洋館を、茂みの陰からじっと観察する若者ふたり組の姿があった。

 

「あれが噂の……」

「幽霊屋敷!」

 

 ふたり組は茂みから出ると、荒れ果てた前庭を横切り、屋敷に向かっていく。

 だがその時だった。

 庭の朽ち果てたアーチの陰から赤色に輝く両目がギロリと現れた。

 

「ム〜マ」

「で、出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 ふたりは先を急ぐように逃げていった。

 

 *

 

「ねぇねぇ、また出たって」

 

 ポケモンサービスの事務所で、パソコンを見ながらミナトは言った。

 

「クチ?」

 

 クチートが首を傾げる。

 

「またって何が?」

 

 ツキホはミナトのパソコンを覗き込みながら言った。

 

「街外れの幽霊屋敷だよ! 肝試しにやって来た若者ふたり組が幽霊を見たって書いてあるよ!」

「あぁ……」

「あるよなー、そういう話」

「あれ、みんな反応薄いね……」

「クチ……」

 

 クチートも鳴いた。

 

「だってお化けだか幽霊だか知らないけど、そういうものいるわけないでしょ? どうせ何かの見間違いか、どっかのゴーストポケモンよ」

「そうだぞ、そんなこと言ってる暇があったら、新しい依頼人でも見つけてきたらどうだ? ほら、チラシならいっぱいあるぜ」

 

 サクヤはイーブイ所長のデスクの上に乗ったチラシの束に手を乗せた。

 

「イ〜ブイ」

 

 イーブイ所長も鳴く。

 

「チラシ配り……か」

 

 ミナトはチラシに向かって手を伸ばした。

 

「いいよ、行ってくるよ」

 

 ミナトの瞳がきらりと輝く。

 

「お? やけにやる気出したな」

 

 サクヤが言う。

 

「ってわけで行ってくるね。行こうか、クチート」

 

 ミナトはクチートを伴って事務所を出ていった。

 

「なーんか変なミナトだな」

「エリキ?」

 

 エリキテルも首を傾げた。

 

 ミナトとクチートの姿はヤマブキシティの繁華街、ではなくそこからはずれた閑静な住宅街にあった。

 

「チラシ配りという大義名分を得て、出かけてきちゃったけど……この辺のはずだよなぁ、例の幽霊屋敷は」

「クチ!?」

 

 クチートがミナトの服の裾を掴んだ。

 

「え、どうしたの? クチート」

「クチ! クチクチ!」

 

 クチートは立ち止まり、ミナトの服を引っ張る。

 

「クチート……もしかして、お化け……怖いの?」

「ク……チ……」

 

 クチートは微かに頷いた。

 

「それは困ったなぁ……。でもちょっとくらい、気になったりしない? 好奇心っていうの?」

 

 クチートは首を横に振った。

 

「そっかぁ……」

 

 ミナトは悩んだ末にモンスターボールを取り出した。

 

「じゃあ、モンスターボールに入ってなよ。そうすれば……」

「クチー!」

 

 クチートはミナトに抱きついてきた。

 

「それも嫌なの……かぁ。僕は個人的に、幽霊話とかUFOとか、それに未確認ポケモンとか、好きだったんだけどなぁ。ほら、ポケスポのオカルト記事とかエクスレッグ・ヒロシ探検隊とか……」

「わかったよ。じゃあ遠くから見るだけにしておいてあげるよ」

「クチ……」

 

 クチートは少し安心したように鳴いた。

 やがてミナトたちは打ち捨てられた洋館が見える位置までたどり着いた。

 

「やっぱり雰囲気あるねぇ」

 

 屋敷の敷地をぐるりと囲む黒い鉄柵、その向こうにある荒れ果てた庭、そしてそびえ立つ廃墟と化した洋館を見てミナトは言った。

 

「クチィ……」

 

 クチートはミナトの脚をぎゅっと抱きしめた。

 

「あなたも興味あるのかしら。この幽霊屋敷に……」

 

 突然、背後からそんな声が聞こえた。

 ミナトとクチートはぎょっとして振り返る。

 そこに立っていたのは、黒っぽい衣服に、ボサボサの黒髪をした女の人だった。頭には紺色のカチューシャをはめており、その瞳の内側には渦巻き模様が浮かんでいる。

 

「あなたは……」

「オカルトを愛し、オカルトに愛された女……。そう、私の名前はオカルトマニア……。オカルトマニアのヒトミよ!」

 

 ヒトミと名乗った女はミナトの目の前にビシッと指を立てた。

 

「オカルト……マニア……さん」

「ふふふ……あなたからは私と同じ匂いが感じ取れるわ……。オカルト話に吸い寄せられてきた、私の同志。その匂いが……!」

「匂い……」

 

 ミナトは自身の服の袖をくんくんと嗅いでみたりする。

 

「クチ……」

 

 クチートは相手の持つ怪しげなオーラに少し萎縮したようで、ミナトの服の裾を掴んだ。

 

「でもオカルトマニアってことは……あなたもこの幽霊屋敷を見に来たんですね」

「えぇ、そうよ。ここには『月刊アンノーン』の取材で来ているの。私の仕事はオカルト事象を研究すること……だから」

「へぇ、ロマンがあるなぁ」

 

 ミナトは目を輝かせた。

 

「そうでしょう……? あなたのような子がいてくれると私も嬉しいわ。どうやらヤマブキシティにオカルト世界も未来は安泰なようね。ところで……あなたの名前は……」

「ミナトっていいます! あっ、ポケモンサービスっていう便利屋みたいな仕事をしていて……」

 

 ミナトはポケモンサービスのチラシをヒトミに渡した。

 

「なるほど……ポケモンの力を借りて依頼人の問題を解決しているのね……。ふふふ、それならどうかしら? 幽霊屋敷の幽霊たち、その問題を解決してあげるというのは……」

「おっ、いいですね! って、クチート!?」

 

 クチートはミナトの服の裾を掴んでますます縮こまっている。

 

「そっか……クチートはお化けが怖いんだった。うーん……」

「それなら、幽霊屋敷を探索する時は、そのクチートを誰かに預けてくるというのはどうかしら? 今は昼間、幽霊は現れないだろうから。探検は夜になるわ……」

「わかりました。じゃあツキホかサクヤに頼んできます。それでいいかな、クチート」

「クチ……」

 

 クチートは少し視線を落とした。

 

「大丈夫だよ、ちょっと探検するだけだからさ。すぐに帰ってくるって」

 

 そして夜になった。

 ミナトはサクヤの部屋の前に立っていた。

 

「じゃあクチート。今夜はサクヤの部屋で大人しくしてるんだよ」

 

 ミナトは言う。

 

「クチ……」

「でもお前、肝試しがしたいからって手持ちポケモンを他人に預けるなんて……いいのかよ」

「肝試しじゃないよ。立派なポケモンサービスとしての仕事だよ。いい? 幽霊っていうのは人間の浮かばれない魂なわけ。だからその問題を解決してあげるっていうのは……」

「まぁ一銭も金にはならないけどな」

「いいんだよっ! 僕たちにとってはお客さんの笑顔がいちばん! サクヤだってそう思うでしょ?」

「幽霊が笑うのかよ」

「もういいでしょっ! とにかく、クチートは後で迎えに行くから、よろしくねっ」

 

 ミナトはサクヤの部屋の前を去っていった。

 

「クチ……」

「お前も大変だな。持ち主が変なもんに凝ってるとさ」

 

 サクヤはクチートに同情してそう言った。

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