ポケモンサービスの業務日誌   作:まがみん

4 / 52
第1話 ポケモンサービスにお任せ!・4

 事務所で、せんべいを齧っていたツキホの耳がぴくりと動いた。

 ツキホはスタスタと歩いていき、サクヤから電話をひったくった。

 

「あ、おい、ちょっと!」

 

 サクヤが言う。

 

「ねぇミナト。今の声、ハッキリと聞こえたわよ。悪い人を退治する……のね」

 

 *

 

「う、うん、そうだけど……」

 

 とミナトは答える。

 

「うんうん、いいことだわ。それでこそ正義を追求するべき市民の鑑よ」

「正義を追求するのはそれこそジュンサーさんたち警察の仕事じゃ……」

「いいえ! 『市民なくして警察なし』よ! まずは私たち市民が正義のために戦って、この世から犯罪を一掃しなくちゃならないの、わかった?」

「わ、わかったようなわからないような……」

「はぁ……で、その悪い人っていうのはどんな悪いことをする人なの?」

「怪盗だよ。エックスって名前で……」

「ふんふん、怪盗ね! で、何を盗むつもりだっていうの?」

「えーっと、『王の石』っていうカロス地方に伝わってた宝石らしいんだけど……」

「王の石……。とりあえず私は、ジュンサー様に連絡してみるわ」

「えっ、ジュンサーさんに。それはまずいよ……」

「まずいって、どうして?」

「お屋敷の人たち、大騒ぎにしたくないんだってさ。なるべく世間の人に知れ渡らないように事件を解決したいって……」

「でも、そんなの……」

「とにかく、僕たちだけで事件を解決するから……」

 

 そこまで言って、ミナトは口を噤む。

 

「どうかしたの?」

 

 声からその様子を察し、ツキホが尋ねる。

 

「え? う、うん……。ちょっとね」

 

 ミナトは言う。

 

「でも、全然、些細なことだし、僕が勝手に気にしてるだけかもしれないから……」

「言ってみなさい」

 

 ツキホは言う。

 

「え?」

「『些細なこと』くらい重要なものはないわ。何を気にしてるっていうの?」

「うん。なんか……僕、わからなくなってきちゃって」

「わからない?」

「お金持ちの人たちがしていることと、怪盗さんのしていることが、どう違うのか……。うん、もちろん怪盗が悪い犯罪者だってことはわかってるよ。でも、さ。なんて言えばいいのかな……」

「ちょっと違和感を覚えるってこと?」

「うん」

「わかったわ。こっちのことは任せてちょうだい。ミナトはただ、その宝玉を守ってなさい」

「ありがとう、でも……任せてって?」

「いいからいいから」

 

 ツキホはそう言うと電話を切った。

 

「ほんとにわかってくれたのかなぁ」

 

 ミナトは言う。

 

「クチ〜」

 

 クチートも言った。

 

「さっクチート、お屋敷の方に戻ろっか」

 

 ミナトは立ち上がった。

 

 夜になった。ミナトは宝玉のある展示室の壁に背を預け、床に座っていた。かれの傍には、クチートも座っていた。部屋の照明は落とされていた。

 

「本当に怪盗さん……来るのかな」

 

 ミナトは言った。

 

「クチ……」

 

 クチートは窓の外に目を向ける。月の光が煌々と輝いていた。その時、月の前にサッと影が差したように見えた。

 

「えっ、何か……」

 

 すると、部屋の窓がゆっくりと開き始めた。外壁にロープをかけ、それをよじのぼり、誰かが窓を開けたようだ。

 

「クチート、誰か来る」

 

 ミナトは身構えた。

 クチートも立ち上がった。

 黒い影がサッと窓から床に飛び降りた。

 

「クチート、電気を!」

「クチー!」

 

 クチートは天井から下がっている紐に飛びついた。

 部屋の電気が次々とついていく。

 

「ちっ……見つかったか!」

 

 姿を現したのは、黒い衣服に身を包んだ男だった。帽子をかぶり、目元は黒い覆面に覆われている。

 

「なっ……見つかったのか!」

 

 男は言った。

 

「あなたが……怪盗エックスですね」

 

 ミナトは男の前に進み出て言う。

 

「そうだ。私こそが怪盗エックス」

 

 男は言う。

 

「しかし……お前ひとりか?」

「ひとりです。でも僕にはクチートがいます」

「クチー!」

 

 クチートは前へと進み出た。

 

「しかし貰えるものは貰っておこう。そこをどかないというのなら……」

 

 エックスはモンスターボールを取り出した。

 

「行け! ゴルバット!」

 

 エックスはモンスターボールを放り投げる。銀色の光とともにゴルバットが現れた。

 

「クチート! アイアンヘッドだ!」

「クチ!」

 

 クチートは走り出す。その大顎が銀色に光り輝いた。そしてゴルバットに向かって飛び上がる。

 

「ゴルバット! かぜおこしを使え!」

 

 エックスは言った。ゴルバットは翼を羽ばたかせる。

 クチートは風にあおられ、地面に落下した。

 

「クチート!」

 

 ミナトは風に向かって腕をかざし、目を細める。

 

「チ〜……」

 

 クチートは立ち上がる。

 

「ゴルバット! 続けていやなおとだ!」

 

 ゴルバットは口からリング状に見える音波を吐き出した。

 

「う、うわぁぁぁぁぁっ!」

 

 ミナトは耳を塞ぐ、クチートも同様だった。

 

「フン……口ほどにもないな」

 

 怪盗エックスは王の石が入っているガラスケースへと向かって歩き始めた。

 

「駄目……だ」

 

 ミナトは耳を抑えながら言った。

 

「ものを盗むのはよくな……い」

「ほう? この私に説教を垂れるというのかね、少年。悪いがそんな言葉、露ほども心に響かな……」

 

 エックスはガラスケースに右手を伸ばした。

 その時だった。窓にサッと影が降りる。

 

「えっ」

 

 ミナトは窓の外を見上げた。一台の自転車だった。そこにふたりの人間がまたがっていた。自転車をこいでいるのはツキホ、そしてツキホの身体にしがみつき、後部に座っているのはサクヤだった。サクヤの背中にはイーブイ所長もしがみついていた。

 自転車は窓を突き破り、部屋の中へと着地をした。

 

「ツキホ! サクヤ! それに所長まで!」

 

 ゴルバットが「いやなおと」攻撃をやめてふたりの方に目を向ける。

 

「なんだ? 加勢か?」

 

 エックスは言った。

 

「えぇそうよ。私は銀河の美少女、名はツキホ。なーんちゃって」

 

 ツキホは自転車をおりると右手を突き出し、逆向きのピースをする。

 

「おいおい、銀河は言い過ぎだろ」

 

 サクヤが自転車のスタンドを立てて言った。イーブイ所長は彼の背中へと移動する。

 

「あーっ! って、その自転車、よく見たら僕の自転車!」

「借りてきちゃった」

 

 ツキホはウインクをする。

 

「な、なんだかわからないが、ガキが何人増えようと同じこと、やれ! ゴルバット!」

 

 ゴルバットはふたりの方へと向かっていく。

 

「させないわ! シャワーズ!」

 

 ツキホはモンスターボールを投げる。

 

「あっ、勝手に先越して見せ場奪うなよ! えぇい、俺もだ。行け! ジグザグマ!」

 

 シャワーズとジグザグマが床の上に並び立つ。

 

「ンキュッ!」

 

 ゴルバットが二匹のポケモンに向かっていく。

 

「シャワーズ! ハイドロポンプよ!」

 

 シャワーズが口から水流を放った。

 

「負けるな! ジグザグマ、たいあたりだ!」

 

 ジグザグマはゴルバットの方へ向かっていき、空中に飛び上がった。二匹の攻撃が同時にゴルバットにぶつかり、ゴルバットは空中をくるくると回転する。

 

「クチート、君もだ! はかいこうせん!」

「クチィ!」

 

 クチートは大顎をゴルバットに向ける。そしてその口からオレンジ色に光り輝く光線を発射する。しかしゴルバットはそれをかわした。はかいこうせんは自転車の方へと向かう。

 

「あぁっ、僕の自転車が……!」

 

 自転車は一瞬にして無惨にも鉄くずへと変わる。

 

「自転車……自転車……」

 

 ミナトは床に崩れ落ちた。

 

「うーん、私たち……正義のために戦ってるのに……いまいち派手さが足りないわね……。よし、シャワーズ、天井に向かってハイドロポンプよ!」

「て、天井に向かってだと……?」

 

 エックスは天井を見上げる。

 天井には大きなシャンデリアが下がっていた。ハイドロポンプはそのシャンデリアの直上に命中する。

 

「なっ……!」

 

 シャンデリアは怪盗エックスの頭上に向かって落下し、彼を下敷きにした。

 エックスの目は渦巻き模様と化す。

 騒ぎを聞きつけて現れたであろう夫妻がそっと展示室の扉を開けた。

 そして部屋の惨状に目を丸くする。

 

「よし」

 

 ツキホはモンスターボールを取り出しながら言った。

 

「気持ちいいわね、正義を執行した後っていうのは」

「シャアズッ!」

 

 シャワーズはひと声鳴き、ツキホのモンスターボールへと戻っていった。

 

「あー、これ……修繕費は……」

 

 サクヤは計算機を取り出し、計算を始める。

 

「ブイ」

 

 イーブイ所長がそんなサクヤを覗き込んだ。

 

「ザグザグ」

 

 ジグザグマがサクヤの足元に擦り寄る。

 その時、廊下を駆けてくる音が聞こえ、部屋に警官たちを率いたジュンサーさんが飛び込んできた。

 

「怪盗エックスは……どこ?」

 

 ツキホはシャンデリアの下を指さした。シャンデリアの周りを、ゴルバットは旋回している。

 

「ジュンサーさん、どうして……?」

 

 ミナトは目を丸くした。

 

「だって……怪盗もこのお金持ち夫妻も、根っこは同じって……ミナトは思ったんでしょ?」

 

 ツキホがミナトの方へと歩いて来ながら言った。

 

「確かに夫妻は何も法的に悪いことをしたわけじゃないかもしれない。だから裁くことはできない。でもね、公共によって自分たちのことをじっくりと考えさせることもできるんじゃないかって思って」

「うん……そっか、ありがとう、ツキホ」

 

 ミナトは言った。

 

「僕、また変なことで悩んじゃってたかな」

「クチ!」

 

 クチートも鳴いた。

 それからミナトは「ポケモンサービス」のチラシを取り出した。

 

「あっ、僕そういえば、チラシ配りの最中だったんだ」

 

 そして、夫婦にチラシを渡す。

 

「ポケモンサービス。ポケモンたちの力を借りた便利屋です。また、よかったら利用してください」

 

 それから警官たちの方にも歩いていき、チラシを渡す。そして最後に、気を失っているエックスの傍にもチラシを置いた。

 

「ポケモン……サービス?」

 

 ジュンサーさんはチラシを見て首を傾げる。

 

「はい、困りごと、悩みごと……なんでもありましたら、相談してください。僕たちと、ポケモンたちが、解決してあげますよ!」




【次回予告】

ミナト「ヤマブキシティで、人やポケモンが次々と消える事件が発生し始めた。捜査を始めた僕の前に現れたのは、謎の超能力者の女の人……。あなたは敵? それとも味方なの? 次回『友情は水晶玉の中に!』をお楽しみに!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。