「だ、大丈夫かね、君……」
工事責任者は言った。
「大丈夫ですよ……これくらい……」
ミナトは歯を食いしばりながら立ち上がった。
「それにしても……最近になって幽霊の噂が立ったって?」
ミナトは言った。
「あぁ、どこから立ったのかは知らないが……もしかしてあのポケモンのせいなのか?」
工事責任者は言った。
「そうか……最近になって……」
ミナトはそれからムウマに顔を向ける。
「マ?」
「ムウマ……わかったかもしれない。君がこんなにも攻撃的になった理由が……ううん、最近になって人間たちを驚かすようになった理由が」
「人間たちを驚かすって、でもそれは習性じゃ……」
サクヤの言葉に、ミナトは首を振る。
「でも、今までムウマはこの家の周囲ではなく、離れた場所を驚かす場所にしていたんだ。食事の場所、といってもいいかな。それが、この家の周囲に現れた人間たちを驚かすようになった理由……それは」
「ム〜マ」
ムウマはミナトのことをじっと見つめる。
「人間たちにこの家の取り壊しをやめて欲しかったんだ。ここはムウマの住んでいる……家だから」
「しかし……開発をやめるわけにはいかない。街が発展するためには、宅地開発は……」
「わかってます」
ミナトは言った。
「だから……ムウマに新しい居場所を用意してあげられればいいんですけど……」
ミナトは考え込む。
その時だった。
一本の薔薇が飛んできて、ミナトの足元の地面に突き刺さった。
「ば……薔薇?」
ミナトは顔を上げる。
「あぁ、すまない。肝試しに来た者たちを追い出すために『廃墟評論家』を呼んでいたのだった」
工事責任者は言う。
「廃墟評論家?」
ヒトミが首を傾げる。
「あぁ……嫌な予感が……」
ミナトは頭を抱えた。
「やぁ、また会ってしまったね」
現れたのはルミエール・ド・ローズだった。
「ミナトくん。僕と君とは、切っても切れない運命の赤い糸で結ばれているようだ……」
「そんな縁、すぐに切ってください!」
ミナトは言う。
クチートとブラッキーが前に進み出た。
「しかし依頼は依頼なのでね……。この屋敷の開発に邪魔な者たちは追い出さなくちゃいけない」
そしてルミエールはモンスターボールを取り出した。
「行けっ! マイスウィーティー! ロズレイド!」
ロズレイドが出てきた。
「ロズレイド! はなふぶき!」
ロズレイドは回転しながら、無数の花びらを放ってくる。
「クチ……!」
クチートとブラッキーははなふぶきに飛ばされないように足をふんばった。
だがそこで、ムウマが前へと進み出た。
「ムウマ……?」
ミナトは言う。
「ム〜」
ムウマは鳴いた。
「戦ってくれるのか?」
「ム〜マッ!」
ムウマはその場でくるくると回ってみせた。
「あいつを追い出せばいいんだな……よし、ロズレイド、どくばりだ!」
ロズレイドは両手の花から無数の毒針を発射した。
「ムウマ! ねんりきで身を守るんだ!」
「マッ!」
ムウマは両目を光らせた。毒針はムウマの直前で止まる。
「よし、いいぞムウマ、そのままパワージェムだ!」
「ム〜マッ!」
ムウマは首の宝石から赤い光線を放った。
ロズレイドは光線をくらい、後方に投げ飛ばされる。
「おぉっミナト! それでこそ僕の彼女となるべきお方だ!」
ルミエールは言う。
「彼女……?」
ヒトミは首を傾げた。
「いいんですよ、そんなどうでもいいこと。ムウマ、トドメのシャドーボールを!」
「マッ!」
ムウマは口に漆黒の球を生成し、ロズレイドとルミエールに向かって発射した。
ふたりはシャドーボールをくらい、空へと飛ばされていく。
「また会おう! ミナトくーん!」
「もう二度と会いたくないですけど……」
ミナトは言った。
「ム〜マ」
ムウマはミナトの方へと飛んできた。
「っと、ルミエールは追い払ったけど、君の新しい居場所だよね……」
「なぁミナト、今の戦いを見ていて思ったんだが……」
とサクヤが言う。
「お互いの息はぴったりだった。ムウマの新しい居場所は……お前でもいいんじゃないか?」
「僕が……?」
「あぁ、ムウマも異論はないんじゃないか?」
「ムウムウ!」
ムウマはにこにこと笑った。
「そうか……ムウマ、わかったよ」
ミナトはモンスターボールを取り出した。
「行け! モンスターボール!」
ミナトはモンスターボールを投げた。モンスターボールはムウマに当たり、そしてムウマをボールの中にキャッチした。ボールは地面に落ち、しばらく揺れていたが、その動きはやがて止まる。
ミナトはモンスターボールを拾った。
「ムウマ……これからよろしくね」
「それにしても……」
とヒトミは廃墟を見上げた。
「ムウマだなんて、本当に興味深い研究対象ね」
「あれっ、オカルトだけじゃなくってゴーストポケモンも研究対象なんですか?」
「何を言っているの? オカルトとポケモンは、切っても切り離すことができないものよ……」
ヒトミはそう言うと、ジュペッタとヤミラミをモンスターボールに戻した。
ミナトもそれを見て、ブラッキーをモンスターボールに戻す。
「オカルトと……ポケモンは切っても切り離せないもの……」
ミナトはその言葉を繰り返した。
「そう……。だから……私はポケモンと一緒に闇の世界を覗いているの……」
「ごくり」
ミナトは唾を飲み込む。
「ミナトくん……世界の深淵を覗く準備は……いいかしら?」
「はっ、はい! たっぷり聞かせてください! ヒトミさんのオカルト話とポケモン話!」
「ふふふ……今夜は徹夜よぉ……」
「クチ……」
クチートはため息をついた。
「なんというか……お前もマニアックなトレーナーを持って大変だな」
サクヤがクチートに同情をした。
*
ヤマブキシティから遠く離れたホウエン地方のとある街で、ひとりの少年はポストに向かって歩いていた。その少年の肩には二匹のポケモン、プラスルとマイナンが乗っている。
少年はポストの前で、手紙を取りだした。
「プラッ!」
「マイ?」
プラスルとマイナンはその動きをじっと観察する。
「プラスル、マイナン」
少年は言った。
「来てくれるかな……。ううん、きっと来てくれるよね、僕の友人たちは」
少年はポストに手紙を投函した。
「プラッ」
「マイィ」
二匹のポケモンはお互いに笑顔になった。
「えへへっ、楽しみだなぁ、久しぶりに『あの人たち』に会えるんだもん」
少年はポストに背を向けて歩き始めた。
その街、ラルースシティにはたった今できあがったばかりの高い塔がそびえ立っていた。
【次回予告】
ミナト「マサトが僕たちの所へ持ってきたのは、遠くホウエン地方、ラルースシティから届いた招待状だった。なんでもラルースシティに完成したネオ・バトルタワーの完成式典が行われるようで……。でも、そこに展示される予定だった『ガラルの剣と盾』が何者かに盗まれてしまった。一体誰がこんなことを……犯人を見つけて剣と盾を取り返さないと! 次回『ラルースシティからの招待状! ガラルの剣と盾』をお楽しみに!」