別の場所で、避難誘導をしていたのはスイートだった。だがそんなスイート目掛けて街に燃え広がった炎が襲いかかってくる。
スイートはモンスターボールを取り出して、投げた。
「クスクス、頼んだわよ!」
クスクスという名前のカメックスが飛び出し、甲羅のハイドロキャノンから水流を放つ。クスクスは周囲の炎を消火していった。
「スイートさん!」
向こうから走ってきたのはマサトとキルリア、そしてツキホだった。
「あなたたちは……」
「避難誘導、私たちも手伝います!」
ツキホは言う。
「でも一体何が……」
「わからないわ。あれはポケモン……なの?」
スイートが見上げた先、ビルの屋上に立っていたのは、その身体を漆黒に染めたザシアンだった。
「ザシアン……でもどうしてあんなことに……」
マサトは言った。
*
「マサト! ツキホ!」
炎に包まれたラルースシティの中で、トオイはプラスル、マイナンを肩に乗せて叫んでいた。傍にはミナトとクチートの姿もある。
「ツキホ! マサト!」
ミナトも叫んだ。
「クチーッ!」
クチートも鳴く。
その時だった。炎の中をかき分けて、漆黒に染まったザマゼンタが現れた。
「ザマゼンタ……? じゃあ、これはザシアンとザマゼンタの……」
そこまで言ったところで、ミナトの脳裏にかつての記憶が蘇ってきた。アラモスタウンに突如現れた伝説のポケモン、ディアルガとパルキア。その戦いに巻き込まれた街、そして行方不明となった両親の姿……。
「あ……あぁっ!」
ミナトは額を抑えた。
「クチ……」
クチートが心配そうに鳴く。
その時、ザマゼンタの額からはかいこうせんが放たれた。
「危ない!」
トオイがミナトを突き飛ばし、庇う。
はかいこうせんはトオイの背中のすぐ上を通過し、アスファルトを破壊した。
ザマゼンタはふたりの上を飛び越え、炎の中を駆け抜けていく。
*
ザンナーとリオンは、燃え残っているビルの屋上から街の惨状を見ていた。
「どうしてこうなったのかはわからないけど……」
とザンナーは言う。
「お宝は諦めた方が良さそうね」
「でも……この力、上手く利用すれば……」
とリオンは反発する。
「無理よ、人間に扱える力じゃないわ。こんな街からは……とっとと退散するわよ」
ザンナーはビルの上から飛び降りた。
「姉さん……」
リオンはまだ迷っているという表情を浮かべていたが、姉に続き、ビルを飛び降りた。
*
「ミナト……さっきは」
とミナトの身体を支えながら歩いていたトオイは言った。トオイはミナトを、まだ火が燃え移っていないビルの入口にある階段に座らせた。
「思い出したんだ……」
ミナトは言う。
「クチ……」
クチートが鳴いた。
「昔のこと……。クチートや、ポケモンサービスの仲間たちと出会って、忘れようとしていたのに、やっぱり……駄目だった。僕自身が……僕自身の過去に、ちゃんと向き合ってこれなかったから……。僕の生まれ故郷は、アラモスタウン。昔、そこで伝説のポケモンたちが戦ったことがあって……僕はそれに巻き込まれて……」
「それでも……好きでしょ、ポケモンのこと」
トオイは言った。
「え……?」
「見てればわかるよ、君とクチートのこと、昼間のバトルの仕方」
それからトオイは続けた。
「好きな気持ちがあれば、どんなに時間がかかっても、トラウマは克服できるものなんだ」
「好きな……気持ち……」
ミナトはトオイに支えられ、立ち上がった。
「うん、わかったよ……やってみる。僕は……止めてみせるよ。ザシアンとザマゼンタを」
*
炎の中、黒化したザシアンとザマゼンタは歩いていた。
そんな二匹の前に、ミナトが現れた。ミナトの隣について歩いているのは、クチートだ。
トオイはプラスル、マイナンと共にそんなミナトの姿を見守っている。
ミナトはザシアンとザマゼンタの前で両腕を広げた。
「もうやめようよ、こんなこと」
ミナトは言った。
「グルルルル……」
ザシアンとザマゼンタは唸り声をあげる。
「君たちは確かに力だけの存在かもしれない。でも……ガラルの人々を守った伝説のポケモンであることに間違いはない。そうでしょ? だから、僕みたいな思いをする人を……作らないで欲しいんだ。だって……本当は好きなものを、好きと言えなくなることは……とっても悲しいことだから」
「ガルルッ!」
ザシアンが地面を蹴った。そしてミナトに飛びかかってくる。
「クチ!」
クチートがミナトを庇って、前に進み出ようとする。だが、ミナトは言った。
「クチート、いいんだ。僕は……」
そしてミナトは飛びかかってくるザシアンを見据え、それから抱きしめた。
「君がどうしてこんなに黒くなったのかはわからない……でも、本当の姿は違うはずだ。だって君たちは……勇者だから」
そしてザシアンを強く、ぎゅっと抱いた。
「グル……グルルル……」
その瞬間、ザシアンの色はゆっくりと元に戻っていった。ザマゼンタも同様だった。
本来のけんのおう、たてのおうの姿へと戻り、やがて金色の粒子となり、天へと昇っていく。
「やった……ミナト!」
トオイはうんと頷いた。
焼け残ったビルの陰から、その様子をじっと見つめる何者かがいた。
*
翌日、ミナトたちの姿はラルースシティのヘリポートにあった。
ミナト、クチート、マサト、キルリア、ツキホ、サクヤ、エリキテル、イーブイ所長はラルースシティのロンド博士、ユウコ、トオイ、プラスル、マイナン、カズキ、ドガース、そしてレイ博士らと向かい合っていた。
「それじゃあ、僕たちはもう行くよ」
マサトは言った。
「うん、久しぶりに会えて……楽しかったよ。今回もいろいろあったけどね」
トオイは言う。
「しかしガラルの剣と盾……取り戻すことはできたが、興味深い研究対象だ。先人たちは何を思い、伝説のポケモンの力をあそこに閉じ込めたのか……」
とロンド博士は言った。
「ヤマブキシティに帰るのか」
レイ博士は言う。
「はい」
ミナトは頷いた。
「私も普段はかの街のシルフカンパニーで研究者として働いている。もしかしたら……また会う機会があるかもしれないな」
「ミナト」
トオイはミナトの方を見て言った。
「今回は……初めましてだったけど……でも、一緒にちょっとした冒険ができて……その……こう言うのも変かもしれないけど、楽しかったよ。だから今度は、僕がヤマブキシティに遊びに行くね。機会があったらさ」
そしてトオイはミナトに右手を差し出した。
「うん、待ってるよ」
ミナトはその手を握り返す。
やがて、ミナトたちを乗せたヘリコプターはヘリポートを発った。
トオイたちはそんなヘリコプターに向かい、手を振り続けていた。
【次回予告】
ミナト「僕たち、ポケモンサービスに新聞社からの取材がやって来た! これまでの活動内容を、語り始めた僕たちだけど……うーん、でもなんだか怪しいんだよなぁ、この新聞記者さんたち。次回『進め! ポケモンサービス』をお楽しみに!」