ポケモンサービスの業務日誌   作:まがみん

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第2話 友情は水晶玉の中に! ・2

「って、威勢よく言っては来たものの……」

 

 と公園の傍にある歩道をじっと見下ろしながら、ミナトは言った。

 

「クチ……」

 

 クチートも腰に手を当てる。

 

「ここがジュンサーさんが把握している限り、最後の行方不明事件のあった場所かぁ。行方不明になったのは一匹のカメール。トレーナーが公衆トイレから戻ってくるあいだ、ここで待っていて、戻ってきたら行方不明になっていた……と」

「クチ……」

 

 クチートは地面にじっと目を凝らして見た。

 

「何かわかる? 匂いとか……残ってたりしない?」

「チ〜」

 

 クチートは首を横に振った。

 

「そうだよね、わかるわけないよね。……あっ、でも僕のブラッキーなら!」

 

 ミナトはモンスターボールを取り出した。

 

「クチ!」

 

 クチートはミナトに飛びかかろうとする。

 

「ご、ごめん、クチート。でも、人を探すにはブラッキーが頼りだから……!」

「クチ……?」

 

 クチートの大顎がミナトの方に向けられた。

 

「えっと……他のポケモンを使うのは許せないけどこの場合仕方ないから許してあげるってところ……かな」

「クチィ……」

 

 クチートはミナトから顔を背けた。

 

「ごめんね、クチート。でもその分、今度はいっぱい使ってあげるからさ」

「クチー!」

 

 クチートの大顎が嬉しそうにぶんぶんと動かされた。

 

「ってことで、行け! ブラッキー!」

「ブラッ!」

 

 ミナトのモンスターボールからブラッキーが出てきた。

 

「ブラッキー。ここに最近行方不明になったカメールがいたんだけど、匂いとか……辿れるかな」

「ブラッ」

 

 ブラッキーは歩道の匂いをくんくんと嗅ぎ始める。

 やがて、一点で立ち止まった。

 

「ブラ……」

 

 ブラッキーは顔を上げた。

 

「何か分かった?」

「クチ?」

 

 ブラッキーは首を横に振った。

 

「そっか……匂いはここまででたどれなかったか……」

 

 ミナトは察する。そしてモンスターボールを取り出した。

 

「戻れ、ブラッキー」

 

 ミナトは言う。

 

「ブラッ!」

 

 しかしブラッキーは言うことを聞かず、そのまま走り出した。

 

「あっ、ちょっと! どこに行くの! ブラッキー!」

 

 ミナトは自転車に股がった。その後部にクチートも飛び乗る。

 ミナトはブラッキーを追って自転車をこぎ始めた。

 

 いくつもの道を曲がり、ミナトはブラッキーを追った。そして広い通りに出ると、彼はブラッキーの姿を見失ってしまった。

 

「あれぇ、ブラッキー、どこに行っちゃったんだろう」

 

 ミナトは自転車を降りて押し始める。

 

「クチィ?」

 

 クチートもブラッキーの姿を探して辺りをきょろきょろと見回した。

 そして歩みを進める。その時だった。

 

「危ない……! 止まって!」

 

 どこからかそんな女の人の声が聞こえてきた。

 

「え……!」

 

 ミナトは立ち止まった。周囲を見回すものの、誰の姿もない。

 

「あれ? 変だなぁ、空耳かなぁ」

 

 その瞬間だった。ミナトが立っている目の前の工事現場から何本もの鉄骨が歩道に落ちてきた。

 

「えぇっ! わっ、わぁ!」

 

 ミナトは思わず尻もちをつき、自転車が倒れる。クチートも地面に投げ出された。

 

「クチート、大丈夫!?」

 

 ミナトはクチートを抱き起こした。

 

「クチィ」

「でも……」

 

 とミナトは工事現場のビルを見上げる。

 

「もう少し……前に行ってたら死んでたかも。あの声が聞こえなかったら、きっと鉄骨の下敷きになって……」

 

 ミナトは自転車を起こした。

 

「でも誰なんだろう。さっきの声。こうやって鉄骨が落ちてきた以上、空耳とは考えにくいけど……」

 

 その時、崩れ落ちた鉄骨を挟んだ歩道の向こう側からブラッキーが走り寄ってきた。

 

「ブラッキー! どこに行って……」

「ブラッ!」

 

 ブラッキーはミナトに擦り寄る。

 

「うーん、君が何もしないでただ帰ってくるとは思えないし……もしかして、追っていたものを見失っちゃった?」

「ブラ……」

 

 ブラッキーはしゅんとした様子で鳴いた。

 

「いいんだよ。僕の調べ方が悪かっただけかもしれないし」

 

 その様子を物陰からじっと見つめる姿があった。しかし「彼女」はミナトの様子しばらく見つめていると、サッと姿を消した。

 

 *

 

「これが、行方不明になったポケモンたちのリストよ。もちろん、警察に届出がなされているものに限るけど」

 

 警察署で、サクヤはジュンサーさんからリストを渡された。サクヤの肩にはイーブイ所長が乗っている。

 

「へぇ……で、どこまで調べたんですか?」

「それが……行方不明になった場所も屋外だったり、部屋の中だったり、みんなバラついてるし、種類もタイプも大きさも、様々なポケモンばっかりだから……」

「さらに、ポケモンだけではなく人間も……ってとこ、ですか」

「えぇ」

 

 ジュンサーさんは頷いた。

 

「とりあえず、このリストは貰っておきます」

「ブイッ!」

 

 サクヤはイーブイ所長の方を見てから付け加えた。

 

「それと……室内で行方不明になった人たちに、共通点はありましたか? 例えばみんな……部屋の窓が開いていたとか」

「窓……? あっ」

 

 ジュンサーさんは口を開ける。

 

「そういえば、そうだったような気もするわ! じゃあ、ポケモン誘拐犯がいたってこと? でも、真昼間に窓から部屋の中に入って持ち主が少し目を離した一瞬のすきにポケモンを盗み出すなんて……」

「ブイ……」

 

 イーブイ所長は難しい表情をする。

 

「俺は……今回の事件が人間によるものとは思えないんです。それよりもやっぱり、考えられるのは……」

「何らかのポケモンが関わってるってこと?」

 

 ジュンサーさんの言葉に、サクヤは頷いた。

 

 *

 

「ブラッ、ブラブラッ」

 

 ブラッキーは路地裏の一箇所にミナトとクチートを案内した。自転車は通りの方に置いてきている。

 

「クチ?」

「ここで……追っていた匂いは完全に消えてしまったの?」

「ブラッ」

 

 ブラッキーは頷いた。

 

「そっか……でも、こんな路地裏に行くなんて……人間だけじゃ、ちょっと考えにくいっていうか……」

「クチ?」

 

 クチートはミナトを見上げる。

 

「だってほら、この辺って野良ニャースとか街のポケモンたちの縄張りでしょ。でもニャースが他のポケモンや人間を誘拐するとは思えないし……」

「ブラ……ブラッブラッ」

 

 ブラッキーがミナトに向かって鳴いた。

 

「えっと……なんて言っているのかな」

「『僕が追ってきたのは行方不明になったカメールの匂いだった。しかし匂いは次第に薄れていき、この場所で嗅ぎ取れないくらいになってしまった』」

 

 背後からそんな声が聞こえ、ミナトは振り返った。

 緑色がかった長い黒髪の女の人が立っていた。目はつり目で、肌は色白だ。

 

「ポケモンの言葉がわかるんですか?」

 

 ミナトが訊く。

 

「えぇ、一応は」

「えっ、凄いなぁ。じゃあ今度クチートの言葉も訳してくださいよ。このクチート、上機嫌そうに見えていきなり噛み付いてきたりとか……いだだだだだだ、ほら、また噛んだ!」

 

 クチートの大顎がミナトの頭に噛みつき、ミナトはそのまま地面に倒れ込む。

 

「大丈夫?」

 

 相手は訊いてきた。

 

「えぇ、大丈夫です、いつもの事なんで。というかあなたのその声……」

 

 ミナトは思い出す。

 

「どこかで聞いたことあると思ってたんですけど、もしかして……さっき……」

「なんの事かしら?」

 

 女は言う。

 

「でも、あなたの声でし……」

「離れて」

 

 女は言った。

 

「えっ」

「いいから」

 

 女はそう言うとモンスターボールを取り出して投げた。

 

「行け! フーディン! サイコキネシス!」

 

 ミナトとクチート、そしてブラッキーの身体が空中に持ち上げられ、そして後方の地面に叩きつけられた。

 

「いったた……何するんですか!」

 

 ミナトは言う。

 

「クチート!」

「クチ!」

 

 クチートも怒ったようでフーディンに向かっていく。

 しかしフーディンはクチートの攻撃をかわすと、クチートの額に右手に持ったスプーンを軽く叩きつけた。

 

「クチィ!」

 

 クチートはふたたび後方に飛ばされる。

 

「私のこと、甘く見ない方がいいわ」

 

 次の瞬間だった。ミナトたちがさっきまで立っていたところに無数のゴムタイヤが落下してきた。

 

「え、あ、あれ……」

 

 ミナトは目を丸くする。

 

「僕たち……命拾いしたって……こと?」

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