その男、目指すは最強の剛剣。   作:volcano

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黛道場での日常

1997 4/2 石川県

 

 

石川県某所。歴史を感じさせる道場が小さく揺れる。それは地震によるものではなく、中にいる人の動きによるもの。見ようと思えば学校の武道部の道場に行けばよく見れる現象であり、さして珍しいものじゃあない。だが、誰が想像するだろう。今この道場内でその現象を起こしているのが、”たった二人”の人間だということに。

 

 

「あぁぁぁあぁああああッ!」

「..! うん、いい太刀筋だ。」

 

 

道場内には壮年の男と少年がいた。二人とも竹刀を手に持ち、少年の方は容赦なく竹刀を振るう。対して男は、自分から攻めることはせず子供のくりだす打撃を受け止めている。

 

 

「だぁぁぁああああッ!」

「けれど、大雑把すぎるよ。そらッ!」

 

「ぅわ!?」

 

 

少年がおお振りしながら突っ込んだ瞬間、男は素早い足さばきで死角に回り込み、隙だらけの胴体に竹刀をうつ。体制が崩れた反動もあってか、少年はそのまま倒れこんだ。

 

 

「ッ..てぇ、いっぱつもいれられねぇ..」

「多くの弟子をかかえている身、そうやすやすと一太刀いれられるようでは顔が立たないからね。」

 

 

ぜぇぜぇと息を切らす少年に対し、男は笑顔を崩さず平然としていた。その様子から少年と男には明確な力の差があると分かる。

 

 

「...ちぇ、はん年もとっくんしたからいっぱつは入るかもって思ったのにな。」

「そんな簡単に追いつけるほど、私の剣は容易くはないよ。」

 

 

そう言って男『黛大成』は微笑をうかべ、少年『雪代烈』は頬をふくらませすねていた。

親子ほどの年の差のこの二人は師匠と弟子の関係であり、今日は烈が弟子入りして丸半年の日だった。

 

 

「おおよその基礎は、すでに体に馴染んできた。臨機応変に対応する柔軟さを身につければ、もっと効果的に体を使えるだろう。」

「りんきおうへん?」

 

「ようは慣れだよ。君は剣を初めてまだ半年だ。これから先も稽古に手抜きせずとり組めば、きちんと結果はついてくるよ。」

 

 

この半年。烈は師・黛大成のもとで剣の基礎を学んできた。剣の持ち方、構え方、狙うべき箇所、体の動かし方。流派に関係なく、どんな剣術でも必要とされる技をだ。

半年前、無理な特訓でボロボロだった烈の体も、今では年相応に筋力がついた体となり、剣の腕もメキメキ上達していた。

 

 

「さて、今日はここまでにしよう。」

「えぇ!? まだうごけるよ! もうちょっとだけやろうよ!」

 

「前にも言ったろう? 「休むこともまた修行なり」、はまだ五歳だからこれぐらいにしておかないとね。」

「....ちぇ~..ッつ!」

 

「ほら、頭痛(・・・)もし始めたし、今日はお終いだ。お風呂が沸いているから、ゆっくり汗をながしてきなさい。」

「...は~い。」

 

 

頬をふくらませながらは竹刀を片付け、道場を後にした。その後ろ姿を見ながら、黛は先ほどの稽古の動きを思い出していた。

 

 

「......本当に強くなった。正直、ここまで成長が早いとは.....驚くべき才能、いや、執念と言った方がいいのかな..」

 

 

黛大成は断言できる。末弟子・雪代烈は「天才」だと。驚くべきは烈の飲み込みの早さであった。僅か五歳にして、剣術の基礎をすっかり習得したのだ。これには『剣聖』黛も驚きを隠せなかった。当初黛は、数年単位で烈を鍛えるつもりだった。しかし烈の成長速度は予想外のもので、わずか半年たらずで基礎をほぼ習得してしまったのだ。今はまだ実戦経験が少ないため臨機応変に体を動かせないが、がそれを身につけた時、おそらく黛流の古株の弟子と同等の実力になると大成はふんでいた。

 

 

「.....予定よりも早くなりそうだな。あの子の”旅立ち”は...できることなら、まだ此処にいてほしいが。」

 

 

黛はどこか寂しそうに、誰にも聞こえないような声でポツリと呟いた。

 

 

 

雪代烈は、道場からすぐ近くにある大浴場の湯船にゆったりつかっていた。今浴場にいるのは烈だけで、大きな浴槽に遠慮なく体を伸ばしていた。

 

 

「....はぁ、きもちぃ。」

 

 

軽く伸びをすると、肩甲骨あたりがいい感じにほぐれていく。お湯につけて温かくなった手ぬぐいを頭にのせ、烈はふと、自分の体を見る。一年前は筋肉痛が絶えなかったが、正しい鍛錬のおかげで今では見違えるほどいい肉つきになった。

 

 

「....まっててくれよ、じいちゃん。もうすぐ、”じいちゃんの剣”をつかえるようになってやるから....!」

 

 

烈の思いはずっと変わらない。半年間、黛の道場で多くの兄弟子達と共に剣の修行をおこなってきた。兄弟子達はみな優しく烈を迎えてくれたし、師の黛大成も丁寧に基礎を教えてくれた。

でも、烈は”黛の剣”を習うつもりはない。彼が目指すのは”祖父が使っていた剣”。その決意だけは固く、変わることはない。これからもずっと....

 

 

 

 

体の疲れを癒した烈は普段着に着替えて、いつものように、処方された薬を飲んで(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)道場から離れた日本家屋に足を運ぶ。ここは黛家の生活住居であり、烈は半年前よりここの一室に寝泊まりしていた。そして烈が自分の部屋に向かおうとしていたときだった。

 

 

「きゃっ!?」

「ぅお!?」

 

 

廊下の曲がり角で向こう側から来ていた誰かと烈はぶつかってしまった。お互いそんなに早く歩いてなかったのが幸いして、両者とも倒れることはなかった。

 

 

「すすす、すみません! よそみしてました! すみません!」

「ぅおお..って、『由紀江』か。」

 

 

烈が謝るよりも早く、ぶつかった相手は全て自分が悪いかのように平謝りしてきた。相手を見て烈は少しホッとした。その人物は五歳である烈よりも小柄で、少女と呼ぶにも幼い子供だった。名を『黛由紀江』。烈の師である黛大成の娘であった。

 

 

「ああああ、あきらさんでしたか!? すみません! すみません!」

「い、いやぁ..おこってないし、いいよ..! かおあげなよ..!」

 

 

こんなところを誰かに見られたら誤解をうける。(特に大成に) 烈は由紀江に頭をあげるよう慰める。

この少女はこんな風にすぐ人に謝る。と、いうよりすぐ自虐する。『剣聖』の娘とあって、いろいろ思うところがあるのか、はたまた生来の性格なのか。どうも引っ込み思案なところがある子供だった。

自分より小さな女の子にペコペコ頭を下げられるのは、五歳である烈でも抵抗感があった。

 

 

「ほら、おちつけって...ぶつかったのは俺もわるいんだし、おたがいさまってやつだろ?」

「ぅぅぅ、は、はい...」

 

「じゃあこれでおしまい。.....由紀江、いまから道場いくのか?」

「は、はい。ゆうげのじゅんびができたので、ちちうえをおよびに...」

 

 

話を聞いて烈は心配になった。この家は由紀江の住んでいる家であって、自分の家なのだから彼女は迷わず道場に行けるだろう。しかし、年の近い自分にすらこの態度の子だ。他の年のいった兄弟子達と今みたいに出会いがしらぶつかったりしたら、最悪泣くかもしれない。そう思った烈は、

 

 

「そっか....なら、いっしょにいこうか?」

「え!? わわ、わるいですよ! それに道場までのみちくらわかりますから!」

 

「でも、さっきみたいにだれかとぶつかったらあぶないだろ? 由紀江、まだ四さいなんだし。ほら、手つないでやるから。」

 

 

烈は当たり前のように手を出した。何の悪気もなければ下心もない、純真に由紀江を心配しての行為だった。

由紀江は頬を紅く染め、もじもじと身をくねらせてから、

 

 

「ぅぅ、は、はい..」

 

 

小刻みに震えながら、その手を握った。烈は由紀江の小さな手をとって、行きなれた道場に向かう。その様子は仲のいい兄妹のようだった。

 

 

 

黛由紀江にとって雪代烈は『兄』のような存在であり、憧れだった。半年前、初めて烈にあったときは見知らぬ年の近い異性とあってか、敬遠しがちだった。そんな由紀江が烈との距離を縮めたきっかけになったのは今からおよそ三ヶ月前。

黛家の伝統として、由紀江は五歳より黛流を習うことになっている。穏やかな性格の由紀江は最初、剣を習うのをためらっていた。父・大成も、無理矢理やらせては本人のためにもならないと由紀江の意見を尊重しようとしたが、代々守ってきた伝統を崩すのもご先祖に申し訳なく、どうしたものかと苦難していた。

 

そんなときだった。烈がまだ決断決めかねていた由紀江を「練習だけでも見てろ」と強引に道場に連れ込んだのだった。初めはわけがわからずおどおどしていた由紀江だったが、稽古が始まると態度を変えた。

烈をはじめ、多くの弟子達が魅せる剣の美しさ、迫力。由紀江はまるで黒人少年がトランペットを見るような目で稽古を見ていた。稽古が終わり、烈は由紀江に

 

 

「どうだ。剣術ってかっこいいだろ?」

 

 

と言った。それが由紀江の心を押した。それからというもの、由紀江は頻繁に道場に見学にきた。あの引っ込み思案な由紀江が、剣に興味をしめしてくれてみな嬉しく思った。これで黛の伝統も守れると。

しかし、その中で黛大成だけは見抜いていた。

 

由紀江が見に来ているのは、稽古ではなく.....自分の心をおしてくれた一人の少年であることを....

 

そして由紀江本人も、その胸のうちに宿る感情が何なのか。まだ幼い彼女は分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうですか。まさか日本に我が国の、”我等の剣術”を使おうとする子供がいようとは....驚きでした。』

「私も驚きましたよ。あの子が目指す剣が、まさか”そういうもの”だとは...」

 

 

黛大成はあまり使いなれない電話機で誰かと会話していた。

 

 

「....それで、例の話ですが.....何とかこちらにいらしてはくれませんか?」

『無理ですな。我等にも我等の都合がある。他国の縁もゆかりもない子供のために、師範クラスの人材をそちらに派遣する訳にはいきませぬ。』

 

「....では、”貴方がた”以外に、あの剣を扱える者は...」

「それも皆無でしょうな。もとより門外不出の我らの技術が、他国に流れていただけでも異例の出来事。それにあの剣は我等の間でも廃れてきている技術。他に使い手はいないでしょう。』

 

「.......」

『”剣聖”殿。我等も、我等の技術であるあの剣が失われるのは惜しい考えている。そちらに気があるのなら、我等は異例ではあるが、その子供を引き取ろうではありませんか。』

 

「しかし、あの子は.....あの子には....」

『決めるのは貴方ではないでしょう。我等はいつでも返事を待ちましょう。どのような答えでも、構いませぬ。』

 

「.......」

『その件の子供....『雪代烈』という少年に...その気があるのなら....』

 

 

 

『我等...『梁山泊』は、その少年を歓迎いたしますぞ...?』

 

 

 




梁山泊について、当作品では独自の解釈が多々あります。何卒、ご理解のほどをよろしくお願い申し上げます。



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