梁山泊
中国の山東省済寧市梁山県にかつて存在した沼沢であり、現在は山塞を復元した観光施設がある所。周囲は標高の高い山脈に覆われ、とてもじゃないが人の住むような場所ではない。
しかし、昔からここ梁山泊の噂は絶えない。ある者はこう言う。
険しい山脈に囲まれたあの場所には、将来を期待された武勇の原石が修業している道場があると....
1997 8/26 新潟県
「うわ、あついなぁ...」
空港を出たとたん、むあっとした熱気、日本と違い湿気がなく乾燥した空気がよけいに暑さを増徴していた。日本から約一時間弱、雪代烈は中国に到着した。
「ついに来たなぁ....ことばだいじょうぶかな..?」
烈は鞄から「初心者向け中国語講座」と書かれた本を取り出した。三ヶ月前から勉強してはいるが、いざ現地につくとやはり言語の壁は心配になるもの。
「え、えぇと...ニーハオ、チン ドゥォ ワングァン ヂャオ ?」
意味は何となく分かるが、発音や聞き取りが心配になってくる。烈は試しににと近くの売店へ行き、実践してみることにした。売店には若い太っちょの男性がレジを打っていて、烈はその店員に勇気を出して話しかけた。
「二、ニーハオ! あぁ、ゲイ ミィェン バオ イー グェ゛ァ ?」
「歡迎! 與麵包一起烏龍茶也怎樣?」
「.....え?」
「肉包子之類怎樣? 桃子包子也在! 男孩兒使用嗎? 偉大,服務嗎?」
「.......の、ノーサンキュウー..」
今何か呪文を唱えられた。烈はそう真剣に思った。どうやら言葉の壁は想像以上に堅く、高いようだ。
ちなみに結局その店員とは別の日本語が分かる店員が来て、烈は事なきを得た。
大成から空港の入り口にいれば迎えが来ると聞かされていた烈は、時間が空いたので、中国語講座本を読み直して時間をつぶしていた。もし迎えに来る人がさっきの店員みたいだったらどうしよう、と不安を抱えながら。
「你好。」
そんな一抹の不安をかかえていると、低温の野太い声が頭上からあびせられた。恐る恐る烈が顔をあげると中華服を着たくるんとした独特なヒゲをした壮年の男性がいた。怪しさ爆発な人物にビビるも返事をかえした。
「えぇと、ニーハオ。ウォ デェ゛ァディディミン ズー ..」
「日本語でよいぞ。儂は喋れる。」
男がよく知る日本語を話してくれて、烈は心の底から安堵した。
「あ、どうも。雪代烈です。」
「”剣聖”殿から話は聞いている。今からお前を梁山泊へ案内する。私は
「は、はい! よろしくお願いします!」
「うむ。ではついて来い。」
「(よかった....見た目はなんかあれだけど、悪い人じゃあなさそうだ..)」
烈は男・『雲雕』の後をついて行った。空港から少ししたところに、日本では生産中止になっているであろう古い車が止めてあった。おそらく、雲雕のものだろう。烈は車の後部座席に乗り込んだ。祖父の剣を学べるこれからに期待をつのらせて。
そんな烈を、雲雕は険しい眼で見ていたことに、烈は気づかなかった。
空港を出て二時間弱。烈は雲雕と山道を走っていた。烈は車窓から外の景色を見る。住宅は先程から一軒も目に入らず、怪しげな森林か荒地ばかり。さっきからこんな景色ばかりだ。黛家にあったような道場らしき建物はいっこうに見えてこない。車はどんどん山に入っていく。
「あ、あのぅ...まだ着かないの..んですか?」
さすがにちょっと心配になった。運転している雲雕は顔を向けず答えた。
「もうすぐだ....」
「(....し、しずかなの...きついなぁ。)」
別に意気揚々と過ごしたいわけではないが、あまり知らない人物とこうして二人っきりでいるのはさすがにこたえた。烈の周りには今までいなかった人種だけあって、烈が何か会話のネタはないかと思考をめぐらせていた。
「(......あ、そういえば...もうそろそろ”薬”の時間だけど...お茶は空港でのんじゃったし、どうしよう....)」
「着いたぞ。」
「え? いや、え...」
考え事をしていたら、雲雕が車を停止させ降りた。烈もつられて車を降りるが、辺りを見回して困惑した。
「ここ....ただの、ひ...広場、じゃ...」
そう、烈がどれだけ辺りを見回しても、黛家にあったような道場はなく、ましてや人の気配すらない。見渡す限り、一面草木の生えていない荒地しかなかった。
「そうだ。」
淡々と、雲雕は答えた。さすがにもう敬語とか考えている場合ではない。烈は感情まかせに雲雕につっかかる。
「ど、どういうことだよ! 梁山泊ってとこにつれてってくれるんじゃあないのかよ!」
「.......」
雲雕は表情を変えない。烈がさらに問い詰めようとしたとき、雲雕は口を開いた。
「....梁山泊は、祖先から伝えられる伝統を重んじ、誇りとする。」
「..? なにいって...」
「五世紀以上の歴史ある梁山泊の中でも、国外からの入門希望者は初なのだ。」
それは烈も大成から聞かされていた。ゆえに、節度や礼儀はしっかりするようにと耳にタコができるほど聞かされていた。
「”長”は貴様の入門を了承したが、まだ納得いっていない者も多数いる...儂もその一人だ。」
「!? どういう..」
「儂は貴様を梁山泊には入れたくない。そう言った。」
唖然と、口が開いた。目の前の男は本人を前に入門を拒否してきたのだ。
「だが、頭ごなしに否定してはあんまりというもの。そこで....儂は、”儂等”は貴様を試すことにした。」
「試すって... いったい何のこと...!?」
雲雕に掴みよろうとしたとき、烈の第六感がその場を離れろと指示をだした。”逃げろ”と。
烈はとっさに後ろにとんだ。
次の瞬間、烈のいた場所が爆ぜた。
「!? な..!?」
烈は目を開く。しかし、驚愕はまだ続く。爆ぜた地面から立ち上る土煙がおさまると、先程自分が立っていた所には別の人物が立っていた。その人物は...
「お、女の子!?」
「.......」
そこに立っていたのは、背丈は烈と大差なく、長い黒髪を後ろで一つにまとめた凛とした雰囲気の少女だった。
「紹介しよう。彼女の名前は『
雲雕が紹介を終えると、林冲と呼ばれた少女は手に持つ槍を烈に向け構えた。
「雪代烈。彼女と戦い、勝利してみせよ。それをもって貴様の梁山泊入門を認めよう。」
「はぁ!?」
「出来なければ、空港に送り返す。彼女にすら勝てないような弱者は梁山泊にはいらん。では....やれぃ、林冲。」
「
烈の意見も聞かず、話はどんどん進行していく。齢六歳の少年にとって、今の状況はチンプンカンプンだった。
「ちょ、待って...!」
「破阿阿阿阿阿阿阿阿阿阿阿阿阿阿ッ!」
烈の訴えも聞かず、少女は槍を突き出してきた。烈はおそろしく早い突きをギリギリでさけ、少女と距離をとる。
「待ってって! 俺はじいちゃんの剣を習いにきただけなんだ! なんでそんなにきらわれなきゃいけないんだよ!」
「林冲。遠慮はするな...骨の一つや二つ、折ってもかまわん。」
「
「だぁ! もう!」
烈は荷物の中から木刀を取り出す。日本で黛道場にいるとき、愛用していたものだ。
「くそ...かってにいろいろ決めやがって...! もういい、やるってんなら、やってやる! 俺がその子に勝ったら、もんくないんだろ!?」
「.....勝てばな。」
「....
烈は木刀を正眼に構え、少女は槍を強く握りなおす。雲雕が鋭い目つきで二人を凝視する。
「(負けてたまるもんか...! ぜったいに、じいちゃんの剣を習うってきめて、ここまで来たんだ..!)」
唐突ではあるが、烈の梁山泊入門を賭けた”試験”が開始された。
VS林冲パート1でした。
林冲の強さとか設定とかは完全に作者のオリジナルですので、元ネタのゲームの林冲とキャラクターが多少違うものになるやもしれません。
そして、次回かその次ぐらいに、主人公の”秘密”の片りんが出るかも...?