その男、目指すは最強の剛剣。   作:volcano

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後編です。
今回、主人公の”特殊能力”の片鱗が開花します。





試練 その2

1997 8/26 中国 とある山奥

 

 

中国の奥深く、草木も生えぬ乾いた荒野で雪代烈と梁山泊が一人・林冲の二人は拮抗状態にあった。互いに睨みあい、相手の出方を窺う。

やがて、遠いどこかから風に乗ってやってきた一枚の木の葉が二人の間に落ちてきた。それが、合図となった。

 

 

「やぁあああああああッ!」

「破亜亜亜亜亜亜亜亜ッ!」

 

 

しかけたタイミングはどちらも同じ。ぶつかり合う互いの得物。片や剣、片や槍。両者とも相手の息がかかるくらい距離を縮める。

通常、槍は剣よりリーチがあるため、剣よりは小回りがきかない。烈もそれを熟知している。今自分が有利だと判断した烈は迷わず攻撃に出る。しかし、

 

 

「也ッ!」

 

 

林冲は近接状態から、手首と指を巧みに動かし、持っていた槍を素早く回転させる。その勢いと、攻撃に出ようと前進していた烈は、不覚にも構えを崩される。林冲は迷わず急所に槍を突き出す。

だが烈もこの程度で負けはしない。天性の”状況判断能力”でこの瞬間最善の態勢をとる。林冲の急所を狙った一撃は紙一重でかわされる。だが林冲はそのまま続く連撃をくり出す。無事態勢を整えた烈はその攻撃に応じる。

二打、三打、四打。互いに一歩も譲らない剣と槍の打ち合いが始まった。

 

 

「(ほぉ...凡夫というわけではなさそうだ....鍛錬もされている。才もある。)」

 

 

二人から離れた距離より、雲雕は烈の動きを見て、少し感嘆する。”剣聖”のもとで修行してきたとはいえ、外部から来たまだ幼い子供。そんな子供が梁山泊最弱とはいえ、梁山泊での厳しい猛錬を積んできた林冲に敵うはずはないと思っていたが、実際には互角レベルの打ち合いをやっているではないか。たかが余所者、と侮っていた雲蔦は烈の評価を見直した。

 

 

 

「(しかし...)」

 

 

 

 

 

 

「汰阿ッ!」

「くッ..!」

 

「林冲とやり合うには、 もう五年は鍛錬が必要だったな...」

 

 

打ち合いが始まってから三分経過。徐々にだが、烈が押され始めた。力量に大きな差はないだろう。しかし、”体力”の面では、烈は林冲に大きく負けていた。烈も体力は同年代に比べるとかなりある。が、林冲はさらに上にいた。そのスタミナを活用し、休む隙をあたえぬ連撃をくり出してくる。

 

 

「(...この娘、強い...!)」

「也ッ!」

 

 

林冲の槍をギリギリで受け止める烈。先程からの打ち合いで、彼女の攻撃は一撃で自分を沈めるほどの威力があることを感じとっていた。かすりでもしただけで、こちらの動きは鈍り、そこを一気に攻められる。決して、気は抜けない。師・大成を除いて、今まで戦った相手の中でも最高レベルの戦闘能力をもつ林冲に、内心冷や汗をかく。

 

 

「(...でも..ッ!) ...はぁああああ!」

「ッ!」

 

 

体をうまくひねって林冲に追撃する。

 

 

「負けてたまるか..! ぜったいに勝つッ!」

「....」

 

 

闘志を再燃させ、烈は木刀を握り直し、林冲も構え直す。そう、烈は負けられない。ここで負けてしまえば、日本に送還され、”祖父の剣”を学べなくなる。ようやく掴んだ一筋の光明。絶対に手放すわけにはいかなかった。

 

 

「うぉおおおおおおおおッ!」

 

 

雄叫びをあげ、烈と林冲は再び打ち合いに突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が戦い初めて十五分が経った。戦闘している二人に体力差が出始める。片方は開始と変わらず汗一つかいておらず、一方片方は汗を滝のように流し、微弱ではあるが、息が乱れてきていた。

 

 

「はぁ..はぁ..」

 

「...息が乱れてきたな。あの小僧もそれなりの鍛錬をしてきたのだろうが...」

 

 

息を乱したのは烈。対して林冲は、

 

 

「......」

 

 

ケロッとしていた。

 

 

「梁山泊での修業を物心ついた時より積んできた林冲とでは、持久力が違う。この勝負、結果は見えたな。」

 

 

勝負の結果を予想し、林冲の勝利を確信する雲雕。一方で、戦っている烈は、諦める選択などなく、残りの体力でどう戦おうか思考を巡らせていた。

 

 

「(さっきからぜんぜん当てられていない..! )」

 

 

体力を失った烈は本来の技の威力が出せず、時間が経つにつれ劣勢になっていった。烈の戦闘スタイルは素早い身のこなしで相手に反撃をさせないスタイルだ。だが今、自慢の速さも体力の消耗により、いつも通りのポテンシャルを発揮できないでいた。烈は木刀を正眼に構え、息を整える。

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

ズキィイッ!

 

 

「ッだ!?」

 

间隙在(スキあり)。汰阿ッ!」

「ぐ...!」

 

 

鈍器でぶん殴られたような衝撃が烈の頭を襲う。そこを逃さず林冲が攻めてくる。上手く防御するが、痛みが烈の剣を鈍らせた。

 

 

「(うそだ、ろ...こんなときに...!)」

 

「(む、あの小僧...動くが急に劣化したぞ...)」

 

 

雲雕は烈の異変に気付く。林冲の攻撃をくらったわけでもないのに、烈の顔は苦痛で歪んでいた。

 

 

雪代烈は、五歳のころより、”ある持病”をかかえていた。

それは、一日に何度か突発的に頭痛がおこるという症状だった。痛みは凄まじく、酷いときは立っていられないほどであった。症状が最初にでたのは黛家に居候することになったころ。医者に診てもらったところ、烈は原因不明だが、寝ても神経が過敏に作用し、常に活発な状態であるとのこと。そのため、脳がストレスをかかえ、それが頭痛の症状となって出ている、ということらしい。

なので、烈は医者が処方した漢方の薬を毎日定期的に常飲していた。しかし、今日はまだ薬を飲んでおらず、こんなときに症状が表れた。

痛みを何とかおさえ、烈は林冲と攻防をくりひろげる。しかし、体力の低下と頭痛による集中力の低下は、烈の腕を鈍らせた。

そして、少しずつ、少しずつ。掠った衝撃が蓄積されていく。微々たる衝撃も、積もれば大きなダメージとなる。それは足に、腕にたまり、林冲相手には決して見せてはいけない”スキ”を生む。

 

そして...

 

 

「陀阿ッ!」

「が..ぁ!?」

 

 

鋭い柄突きが鳩尾に入る。体から空気が一気に吐き出され、視界が少し歪む。林冲は攻撃の手を止めない。

 

 

「扶ッ!」

「ぐぎぃ..!」

 

 

前のめりになり、つきだした状態になった烈の顎を思いっきり叩き上げた。逆ぞりの形になり、烈は地面に倒れる。

 

 

「(...勝負あり、か。)」

 

 

勝負を見ていた雲雕は決着がついたことを確信する。烈が最後にくらった顎への一撃。あの衝撃からみて、数時間は気絶するだろう。努力は認めるが、やはり梁山泊に入れるレベルではなかった。

 

 

很好地做,林冲。(よくやった、りんちゅう)。」

可惜的您的話(もったいなきお言葉)。」

「|先返回着道场。我送回到日本那个小和尚《先に道場に戻っておれ。儂はあの小僧を日本に送り返しにいってくる》。」

 

 

林冲は雲雕に頭を下げ、この場を去ろうとする。雲雕は車に烈を運ぼうと近づいていき、烈の体にふれようとした。その時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピク...

 

 

「ッ!」

 

 

グ..ググ..

 

 

「....く、っぅ。か...」

 

 

生まれたての小鹿のような諤々とした足で、倒れた時、どこかにぶつけたか額から血を流しながら、烈は立ち上がった。

 

 

「ま、だ...負けて..ないッ!」

 

 

烈の闘志は消えない。震える手で木刀を握りなおし、林冲に構える。

 

 

「(驚いた...先の顎の一撃は確実に効いたはず...この小僧、”気概”だけで立ち上がりおった...!)」

 

 

雲雕は烈を見縊っていた。しかし今、完全に評価しなおす。林冲にやられボロボロになりながらも、その不屈の闘志を宿した眼は、まちがいなく”武人の眼”。梁山泊の武人達がその眼の宿すものとまったく同じ。幼いながらも、この子供は梁山泊に入門するのに相応しい気質を持っている。雲雕は烈をそう評価しなおした。

 

 

「...林冲。」

了解(ラリィァォ ジェ )

 

 

だが、雲雕は情に流されはしない。その根性に感動しても、最初に言った「林冲に負けたら日本へ帰送」という条件を変える気はない。あくまで、烈が梁山泊に相応しいか否かを見定める審判として、公平に勝負を見守ることに徹する。

 

 

「破亜ッ!」

「づぃ..つぁあああ!」

 

 

再び始まる烈と林冲のぶつかり合い。しかし、最初のころとは違い、完全に烈が押されていた。一打、二打、三打と林冲の攻撃をさばききれずダメージはドンドン蓄積さええていった。しかし

 

 

「づ、あ....くぅぅ、うぉおおおおおお!」

「ッ!?」

 

 

烈は膝をつかない。どれだけ痛めつけられようと、どれだけ激しい頭痛が襲おうと、攻撃の手を止めない。その根性の原動力は、”祖父の剣”への渇望。目の前の光を逃してなるかと踏ん張る”飢え”。

 

 

「あぁぁぁおおおおおああああ!」

「...!」

 

「(ほぉ...正確さは無くなったが、”キレ”が増している。)」

 

 

雲雕は先ほどと同じように二人の戦闘を見ている。あきらかに雑な動きが増えたにも、烈の剣には今まで以上の”キレ”がある。烈の思いが、そのまま剣に宿っているのだ。

烈は息切れをおこしながらも戦う。だが、

 

 

「あぐ..ぅ!」

「也ッ!」

 

 

現実は非常なり、それでも林冲には届かない。”キレ”の増したその剣でも、林冲に一撃を入れることはできないでいた。それどころか、時間が経つにつれ、体力の差はどんどん広がっていき、烈の動きはどんどん鈍くなっていった。

 

 

「はぁ...(や、ばい...もう...息が...)..はぁ...」

 

 

烈はもういつ倒れてもおかしくなかった。戦闘が始まってトータル三十分は経っている。

人間が全力で動き続けられる時間は三~五分が限度とされている。”剣聖”のもとで鍛えてきたとはいえ、不屈の闘志を燃やしているとはいえ、体はもう限界だった。

 

 

「扶ッ!」

「!? あ..っく!」

 

 

林冲の振り下ろした一撃にとうとう膝をつく。続く林冲の一撃を辛うじて受け止めるが、押し切られるのも時間の問題だった。

 

 

如果相當,死心怎樣(いいかげん、あきらめたらどうだ)

「...!」

 

 

初めて、林冲から烈に向けて言葉がかけられる。烈は中国語を完全には理解できていない。だから今、林冲に話しかけられたが、何を言われたのかは分からなかった。

 

 

「|你作為武士是非常棒的氣概的持有者賞識《貴方が武人として立派な気概の持ち主だと認めよう》。|可是,沒有讓不我象能取勝一樣的人入門的那樣梁山泊甜《しかし、私に勝てないような者を入門させるほど梁山泊は甘くない》。」

 

「なに、言って...」

 

 

突如林冲が話しかけてきてとまどう烈。疲労と頭痛でまともな思考ももう難しい烈に、彼女の言葉を理解するのは無理だった。

 

 

「|连梁山泊的弟子们也,能请老师直接从师于的人只非常被限定的人《梁山泊の弟子達でも、師に直接師事してもらえる者は極限られた者だけ》。|尽管如此,从别处来的你突然...!《それなのに、余所者の貴方が何の苦労もせず...!》」

 

 

林冲は本来大人しい性格の少女だ。他人を尊重し、友人を大切にする優しい少女だ。

だが、彼女にも雲蔦と同じ梁山泊としての誇りがある。梁山泊の中でも弱いとされる彼女の誇りと憧れはさらに大きいものだ。だから、自分が苦労して手に入れた今の座席を、他所からきた者が平然と座ることに、温厚な彼女も我慢できなかった。

 

そして、彼女は、怒りからか、普段なら決して言わないであろう”言葉”を....烈にむけて放った。

 

 

 

 

 

 

「|如果听说你打算学的剑,在梁山泊已经衰退,不是说继承的人也不在吗?《聞けば貴方の習おうという剣は、梁山泊では既に衰退し、継承する者もいないというではないか?》 |扶着那样的衰微的剑,连不我能取胜《そんな廃れた剣に縋っているから、私にさえ勝てないんだ。》。」

 

 

 

 

 

林冲の言葉を烈は理解できていない。しかし、その言葉の語気から、その表情から、烈は、自分が罵倒されたのだと分かった。そして一言だけ。烈は林冲の言葉の中で理解できた単語があった。

それは”剣”という単語だ。梁山泊に入った時、自分が何のために来たかを説明するため、「自分は”祖父の扱っていた剣”を学びに来た」という文を話せるよう練習していたためだ。

それらを合わせ、烈は理解した。

 

 

今、自分は....あの憧れの”祖父”を侮辱された。と...

 

 

それを理解した瞬間、烈の中の”何か”が、はじけた。

 

 

 

ピキ....

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

「ッ!?」

 

 

 

怒声を上げて、烈は今までにない力で林冲を押し離した。劣勢状態だった烈が突如見せた力に林冲、雲雕は驚きを隠せないでいた。

しかし、驚愕はまだ終わらない。いや、真の驚愕はこれから始まる。

 

 

「那ッ!?」

 

 

思わず、林冲は自分の目を疑った。膝をついていた状態から立て直し、顔を上げた烈の”顔”は....

 

 

 

「....いま、いま...! 馬鹿にしたな...じいちゃんを...俺の、じいちゃんのことを....!」

 

ピキピキピキ...

 

まるで漫画に出てくるキャラクターが怒りの表現で顔に出す筋のように、烈の顔には、いや、よく見ると腕にも足にも、蚯蚓腫れのような”筋”がはっていた。

 

 

「馬鹿にしたなぁぁあああああああああああああああああああッ!!」

 

「ッ!? 阿...ッ!?」

 

 

烈がイノシシのように林冲に突進してきた。技術も何もない、猪突猛進。しかし、林冲は対応できなかった。なぜなら...

 

 

「(こ、この人....”速さ”が上がってる...!?)」

 

 

林冲が烈の動きに対処できなかったのは、単純明快。烈の動きが”速すぎて見えなかった”のだ。それだけじゃあない。今、突進の勢いで振るってきた一撃を受け止めた林冲だが、自分が押されているのに気がつく。速さだけじゃあない。”力”もあがっているのだ。

 

 

「(どうして...!? この人は満身創痍だったはず..! どこにこんな力が...!)」

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 

烈の反撃が始まる。動きに正確さはもうない。むしろ技術はいっさいない。がむしゃらにただ林冲にむけて剣をふるっていた。それがあまりに速く、重く、林冲はまさかの展開に驚愕を隠せなかった。

 

雲雕もそうだ。この勝負は確実に林冲の勝ちで終わっていたはずだったのだ。林冲に立ち向かった雄姿を見た雲雕は、烈を日本に送り返すが、時期がきたら再度入門を考えてもいいと思っていたところだった。

ところがどうだ。烈は突如”謎の筋”を全身にはり巡らせ、満身創痍だった肉体を爆発的に向上させた。

 

 

「(『氣』か...! 『氣』を使っているのか...!? い、いや、おの少年から『氣』を使っている様子は感じられない....では”アレ”は何だッ!?)」

 

 

長年、梁山泊で武芸を習得した雲雕でも、烈の今の現象が皆目見当つかなかった。

 

烈の猛反撃は止まることを知らない。林冲は今度は逆に自分が劣勢に追い込まれる。

 

 

「(ま、負けてしまう...! そんなわけには...) 」

 

 

負けるわけにはいかない。もしこの少年が梁山泊に入門すれば、自分の居場所がなくなるかもしれない。それだけは、絶対にいやだ。林冲は残る力をふり絞る。

 

 

「阿阿阿阿阿阿阿阿阿阿ッ!」

 

「おぉぉぉぁぁぁぁあおおおおおおおぁぁおあおあああああああおおおおおっ!!」

 

 

これで決めてやる、と、林冲は烈から思いっきり後退し距離をとる。そして自分が一番得意な攻撃態勢に入り、残った活力を全てこめる。その一撃に呼応するように、烈もまた加速し、高くふり上げた剣を強引にふり下す。

 

 

ガァアアンッ!!!

 

ぶつかり合い、激しく鳴る両者の武器。互いに持てる力全てを注いだ渾身の一撃。勝ったのは....

 

 

 

 

 

 

 

「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおあああああああああああッらぁあああああああッ!!」

 

 

烈の剣が、林冲の槍を折り砕いた。それが決着の合図となった。

武器を砕かれ、己の自信の一撃を破られた林冲は茫然とその場にへたり込んだ。一方烈は、今の一撃で本当に残った体力全てを絞り切ったのか、その場に倒れこんだ。

気絶した烈の体には、”筋”は一つもなかった....

 

 

 

「......看一事(みごとだ)。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........ん、ここは...」

 

 

朦朧とする意識から目覚めると、最初に烈の目に入ったのは、見たことのない天井だった。日本とは違った文化の建造。よく見ると、自分は地面ではなく布団に寝かされているようだ。ついさっきまで自分は荒野で勝負をしていたはず...朦朧とした思考で烈は状況を整理しようとした。そんな時、烈に助け船が入る。

 

 

「ここは梁山泊の医務室だ。少年。」

 

 

上からかけられる雲雕の野太い声で烈の意識は完全に覚醒する。自分は今、あの梁山泊の敷地内にいるようだ。

 

 

「...俺、たしか...」

 

「...其方は林冲との試練に勝利したのだ。」

「....勝った? 俺が...?」

 

 

烈に勝利の記憶はなかった。ただ、途中からがむしゃらに、何かに憑りつかれたかのように動いていたのを覚えていた。

視線を雲雕に向けると、その傍らに林冲が座っているのが見えた。

 

 

「! お前...っつ!」

「...動くでない。其方は文字通り死力をはたして勝利したのだ。体にかかった負担は相当なものだ。しばらくは、安静にしておけ。」

 

 

言われてみると体の節々が痛い。この痛みを烈は知っている。昔、何も考えずいたずらに体を鍛えていたあの当時の痛み。つまり、それほどの無茶をやったのだ。それはつまり...

 

 

「(.....俺、そうまでしないと、勝てなかったんだ。)」

 

 

肉体を傷つけるような無茶をして、ギリギリつかめた勝利。もしかしたら、自分が寝ていたのは、梁山泊の布団ではなく、日本国の布団だったかもしれない。烈は、自分の未熟さを痛感した。

 

 

「.....俺、弱いな...まだ、全然....」

 

「確かにな...」

 

 

烈のつぶやきに雲雕が応える。

 

 

「だが、君は勝利した。君は己の意地でつなぎとめた。未来を、進むべき道を....君は勝ち取ったのだ。」

 

「....なんか、ウンチョウさん...優しい...?」

「ふ...あれほど見事な意地を見せられたのだ。認めぬわけにもいくまい。この子も、君を認めるとのことだ。」

「..........」

 

 

雲雕に肩をたたかれ、烈を見る林冲。けれどその顔はやっぱりどこか納得がいってないようだった。

 

 

一次是在能这里入门的人认可(一応、ここに入門できる人間だと認めよう)可是...下面不输。我打倒你(しかし...次は負けない。私が貴方を倒す)。」

 

 

そう言って、彼女は烈の眠る医務室から出ていった。

 

 

「....あの娘、なんっていったんだろう?」

「...まぁ、気を抜くなと激励していたよ...」

 

 

烈の疑問に雲雕は苦笑しながら答えた。

 

 

「...そうだ、ウンチョウさん。俺、どれぐらいで起き上がれるようになりますか? あいさつに行きたい人がいるんですけど...」

「む? 誰だ?」

 

「俺がこれから、じいちゃんの剣を習う人に。これからすごくお世話になるから...」

 

 

ここのどこかにいる三人目となる師。烈はその人物を一目会っておきたかった。これから随分と世話になるはずだから。

そんな烈の言葉に、雲雕は微笑混じりに答える。

 

 

「ならば、心配いらん。それならもうすんでおる。」

「え? すんでるって...」

 

 

 

「お前を鍛えるのは儂だからだ。」

 

「.....え?」

 

 

一瞬、烈は思考がフリーズした。雲雕の言葉がさす意味はつまり...

 

 

「ウンチョウさんが...俺にじいちゃんの剣を教えてくれる人?」

「そういうことだ。」

 

 

予想外の事に烈は目を丸くした。まさか雲雕が自分の新しい師匠だったとは...

雲雕は何でもないように言ったが、烈にはかなり衝撃の事実だった。

 

 

「....えぇと、じゃあ...あらためて、よろしくお願いします..」

「うむ、儂は厳しいから、覚悟しておくようにな。」

 

「はは...はい。頑張ります。」

 

 

 

新たな師と挨拶を交わし、烈は天にいるであろう祖父を思い浮かべる。

 

 

「(じいちゃん.....俺、ここまで来たよ。じいちゃんの剣が学べる、この場所まで....!)」

 

 

天国にいる祖父は今、自分を見て笑っているだろうか。きっとそうだ。あの祖父はきっと笑っている。どうかこれからも、笑ってみていてほしい。烈はそう願う。

 

かつて、一人の老剣士が目指した”夢”。彼の生でそれは叶うことなかった。が、孫がその意思を受け継ぎ、その”夢”のスタート地点に今、到着した。

 

 

 

「(見ててよ....じいちゃん。俺、ここでじいちゃんの剣を、絶対に手に入れるから........強くなってみせるから.....!)」

 

 

天にいる祖父に、改めて、固く誓うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、十年以上の歳月が流れる。

 

雪代烈は.......

 

 

 

 

 

 




おそらく元ネタ知っている人なら烈の”能力”が分かると思います。

最後のほうの文で分かると思いますが、次回...一気に時間が飛びます。

≫キング・クリムゾン!!


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